時計オークションの世界では、確かなことなどほとんどない。ただひとつだけ確かなことは、パテック フィリップのRef. 2523とRef. 2523-1 ワールドタイムは稀少であり、大抵かなりの高値で取引されるということ。フィリップスはこの5月にジュネーブで開催されるオークションに、最も希少な2523を出品する予定である。ロット33として出品されるのは、これまで知られていなかったクロワゾネのユーラシアダイヤルを備えたイエローゴールド製のRef.2523だ。現在の予想落札価格は330万ドル(約3.5億円)だが、これはただ事ではない。
この時計の希少性を高めているのは、どんなものでも同じだが、細部にある。1950年代のパテックのワールドタイムは大量生産されておらず、一般的には大富豪やメガミリオネアたちが購入していた(それ以外の人はごめんなさい)。Ref. 2523は何本作られたかという議論もあるが、25本以下であることは間違いないだろう。しかしそれは、Ref. 2523とRef. 2523-1の全モデルを俯瞰した場合の話。オークションに出品されているこの時計に限って言えば、その数はかなり少なくなる。
ユーラシア大陸の地図をモチーフにしたクロワゾネ文字盤を備えたイエローゴールド製のRef. 2523ワールドタイムは、これまでに3本しか製造されていないことが知られている。そのうちの1本はパテック フィリップ・ミュージアムに、もう1本は現在個人のコレクションに、そして3本めは......そう、今ご覧になっているものだ。
こうした時計がオークションに最後に出たのは、2002年にアンティコルムで、170万スイスフラン強で落札されたときだ。その時計のケース番号は 306201で、この時計のケース番号は306193。これは、前述のとおりこれまで知られていなかったもので、もちろん所有していた個人コレクター以外には知られていなかった。オークションハウス・フィリップスによると、このモデルはRef. 2523 ユーラシアダイヤルの中でも最も早く製造されたモデルで、製造は1953年、販売記録は1954年12月7日となっている。
私たちは過去に、ダブルネームのブルーエナメル、ギヨシェ、ティファニーのダブルネームなど、さまざまなバリエーションの文字盤を備えたRef. 2523とRef. 2523-1を取り上げた。クロワゾネ文字盤は、地理が描かれている場合はほとんどが北アメリカか南アメリカをモチーフにしている。これらの時計がオークションに出品された場合、注目が集まり、ほとんどの場合、7桁の価格(日本円で億を超える)で取引されることになるのだ。そんな中でも、ユーラシア大陸の文字盤のバリエーションは、全く別次元の非常に高い希少性をもっている。
ミッドセンチュリーのパテック フィリップのワールドタイムには、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ローズゴールドのケースが存在することが知られているが、現存する3つのユーラシア・モデルは全てイエローゴールドで、全てRe. 2523モデルとして登場している。Ref. 2523とRef. 2523-1の見分け方は、ラグを見れば一目瞭然だ。この時計は、ラグがケースとドラマチックに重なっているのがわかる。一方、Ref. 2523-1のラグはケースと同じ高さになっている。
これらのパテック フィリップのワールドタイムは1953年に製造されたものである。36mmケース、二つのリューズ、41都市のリング、そしてユーラシア大陸をモチーフにしたクロワゾネの文字盤などが特徴的だ。この時計は、パテックとルイ・コティエとのパートナーシップによるもので、ルイ・コティエは1931年からパテックのためにワールドタイムの複雑機構を製作していた。1950年代初頭、ルイ・コティエは、この時計に搭載されている18石の手巻きキャリバー12-400HUの二つのリューズを備えたワールドタイム機構を開発。
フィリップスによると、これらの時計の最終組み上げは、コティエ自身が行い(本人の強い希望で)、特徴的な針も自分で手作りしたという伝説がある。この作品では、エナメルディスクにコティエの「LC」というサインが入っている。
この時計の美しさは、全てのタイムゾーンを同時に表示することができるという点にある。文字盤のデザインは確かに複雑だが、美しさと機能性を両立させるようにレイアウトされているのだ。文字盤の外側にはあらゆるの都市名が配置され、2色の24時間表示、そして中央にはマリンブルー、ゴールド、グリーン、ターコイズの4色のポリクロームクロワゾネエナメルを配置。文字盤には、イエローゴールド製のローマ数字とスティックマーカーが配されている。今回の販売では、ブラウン(写真)、イエロー、ピスタチオの3種類のカスタムパテックストラップが付属する。
言うまでもなく、この時計はかなりの大物だ。近年の大物ロットのように、350万スイスフラン(約380万ドル、約4億円)の見積額を超えても不思議ではない。レア(中でも特に珍しいパテック)な代物は売れる。この時計はそれらと同じくらい希少なものなのだ。
フィリップス・ジュネーブウォッチオークションXIIIは、5月8日から9日まで開催される。詳しくはフィリップス公式サイトへ。
Photos: Kasia Milton