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パリ・メンズファッションウィークの火曜日の夜、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)は、ルイ・ヴィトン メンズウェアのクリエイティブ・ディレクターとして、自身2度目となるコレクションを発表した。ウエスタンとワークウェアにインスパイアされた2024年秋冬コレクションを分析してみたいと思っていたのだが、ウィリアムスの手首にさりげなく巻かれた、ワイドでありながら極細(正確には1.75mm)なリシャール・ミル RM UP-01 フェラーリに気を取られてしまった。というか気を取られないわけがない。ウィリアムスはジーンズにカウボーイハットをかぶり、ウエスタンスタイルのベルトを締め、リシャール・ミルの巨大な機械を身につけていたが、それは一見すると疑似現実の制御装置のようにも見えた。
チタン製のRM UP-01は、2022年に世界最薄腕時計の記録を更新しただけでなく、188万8000ドル(日本での税込予価2億4750万円)という価格も業界に衝撃を与えた。ビクトリノックス スイスのカードに似ているという人もいれば、これを天才的な技術と言う人もいる。
この時計を腕から外すと、私たちがまだ理解できていない未来の巨大な表象を思わせる。なんとなく理解しているかもしれないが、私たちはそれをどうすればいいのかわからないような差し迫った現実(AIまたは量子コンピューティングなど)を、実際に体感させるものである。不快な感じだ。
この時計が手の届かないものであると同様に(価格と入手のしやすさから、私たちの多くは時計の未来像に向き合うのを待たなければならない)、時計デザインに関する私たちの先入観をすべて押しのけたリシャール・ミルには脱帽する。彼らはムーブメントの構造を整理して平らにし、完璧にケースに組み込んだのだ。裏蓋が地板を兼ねる代わりに、51mm×39mmという巨大なサイズが実現した。
もちろんこれは、リシャール・ミルが(オーデマ ピゲ・ルノー・エ・パピの助けを借りて)どれだけフラットな時計をつくれるかを試すものだったが、みんなの反応を引き出すことにもよろこびを感じているような気もする。RMが“ちっぽけなアイデアは忘れて欲しい。このコンセプトは、時計デザインについてすべて知っていると思っていたすべてのことに疑問を抱かせるか、あるいは単にあなたを困らせるだけだ”と言っているようなものだ。いずれにせよRMは私たちの思考を停止させたのだから、彼らの勝利だ。
ファレル・ウィリアムスがこの時計をつけているのを見たことがある。彼はブランドの友人であり、本物のRMコレクターなのだ。しかし、もし彼がルイ・ヴィトンのランウェイでお辞儀をするときにこの時計をしているのなら、RM UP-01が意見の分かれる時計デザインのための一瞬の出来事でないことを保証しよう。ウィリアムスがこの日に着用したことで、2000年初頭のコーチェラ・フェスティバルでロイヤル オーク スケルトンQPを着用したときのように、ファレルのビジュアル・キャノン/Skateboard Pのフォトアーカイブに永遠に刻まれた。この時計は(ポップカルチャーのなかで)不朽の名作になったのである。
Lead image: Getty Images