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Photos by John Cote
時計収集の魅力は、一期一会のチャンスにある。なかでも、全米時計時計収集家協会(NAWCC)が毎年開催しているナショナルコンベンションは、時計にまつわる品々や情報。物語を求める時計愛好家にとって、定期的に貴重な機会を提供してくれる場となっている。会員たちは世界各地から集まり、集まって、旧友と再会したり、新たな友人を作ったり、そして有益な講義に参加したりする。そして何よりも数百人の販売業者が出品するユーズドやヴィンテージ、アンティークの時計やクロック、工具、パーツを売買するために訪れるのだ。
時計ライター兼コンサルタントのクリス・アンツーリス(Chris Antzoulis)氏が、“マート”と呼ばれるホール(販売者たちが時計やクロック、その他のアイテムを展示販売する場所)で、自身の美しいホワイトのオメガを披露していた。
今年のナショナルコンベンションは、ペンシルベニア州南中部に位置するランカスターおよびヨーク郡地域で開催された。この地にはNAWCCの本部に加え、ショナル・ウォッチ・アンド・クロック・ミュージアムおよびスクール・オブ・オロロジーが所在している。また、ここはアメリカの時計・クロック製造の発祥地のひとつでもある。隔年でこの地がコンベンション会場として使用されることで、会員や来場者はNAWCC本部を訪れると同時に、世界最大級かつ最高峰の時計史博物館を見学できる貴重な機会にもなっている。
今年は光栄にも、本イベントの基調講演者である著名な英国人時計師兼コレクター、ロジャー・W・スミス(Roger W. Smith)氏に、会場と各イベントを案内するという貴重な機会を得た。私たちはまず、エグゼクティブディレクターのロリー・マッカヴォイ(Rory McEvoy)氏とそのスタッフの運営とキュレーションのもと最近改装されたミュージアムとスクールを訪れた。ここには、ハミルトンとの支援によって新設されたギャラリーも含まれている。ロジャー氏はアメリカの時計・クロック製造の歴史や“アメリカ式の製造システム”を物語る展示物を熱心に観察し、多くの質問を投げかけていた。さらに彼は、振り子で駆動する機械式時計として史上最高の精度を記録した“バージェスB”クロックを中心とした、新しい精密機械式時計の展示にもとても興味があるようだった。
NAWCCエグゼクティブディレクターのロリー・マッカヴォイ氏(左)が見守るなか、英国人時計師のロジャー・スミス氏がペンシルベニア州コロンビアにあるナショナル・ウォッチ・アンド・クロック・ミュージアムで“バージェスB”クロックを観察している。
ペンシルベニア州コロンビアにあるNAWCCスクール・オブ・オロロジーの前に立つマッカヴォイ氏とスミス氏。
NAWCCスクール・オブ・オロロジーでマッカヴォイ氏とスミス氏が顕微鏡投影機について話し合っている。
翌朝、私はコンベンション会場であるヨーク フェアグラウンズでロジャー氏と合流した。彼は自身のコレクションに加えるため、第二次世界大戦時代のヴィンテージ ハミルトン#22デッキウォッチを探し、購入したいと考えていた。私は500を超える販売者テーブルのどこかで、理想的な個体が見つかると確信していた。マートルーム(すべての販売者が商品を展示するエリア)に入るとすぐに、元NAWCC理事長で熱心なハミルトンコレクターであるレット・リュッケ(Rhett Lucke)氏と、NAWCCエグゼクティブディレクターのロリー・マッカヴォイ氏の姿を見かけた。レット氏はロジャー氏に、チャールズ・ファソルドの二重ガンギ車(同軸脱進機)を備える懐中時計をいくつか見てみないかと声をかけたため、私たちはマートテーブルのひとつに腰掛けてルーペを手に取った。ロジャー氏はナショナルコンベンションで、これらの時計に加え、高品質なアメリカン(もしくはA.W.Co.)グレードのウォルサムを含むアメリカの時計製造における優れた作例を数多く調査することができたようだった。
ペンシルベニア州ヨークで開催されたNAWCCナショナルコンベンションにて、500以上あるマートテーブルのひとつで商品を検分する来場者たち。
元NAWCC理事長のレット・リュッケ氏(左)がNAWCCエグゼクティブディレクターのロリー・マッカヴォイ氏(右)に時計の詳細を語るなかで、ロジャー・スミス氏がチャールズ・ファソルドの懐中時計を観察している様子。
ロジャー・スミス氏がNAWCCナショナルコンベンションにて、“iLoupe”を使ってチャールズ・ファソルドの懐中時計を調査している。
しばらくマートルームで過ごしたあと、ロジャー氏は講堂へと案内され、機械式ウォッチメイキングの未来についてのパネルディスカッションに参加した。このセッションにはほかに、シチズン・ウォッチ・アメリカでブローバブランドのマーケティング責任者を務めるパトリシア・シュモイヤー(Patricia Schmoyer)氏、アナログシフト(現在、同社はHODINKEEも傘下に持つウオッチズ・オブ・スイスが所有している)の創設者であるジェームズ・ラムディン(James Lamdin)氏、RGMウォッチの創設者であるローランド・マーフィー(Roland Murphy)氏、そしてモデレーターとして私が登壇した。ディスカッション後には聴衆との活発な質疑応答が行われ、約1時間にわたって議論が盛り上がった。
機械式ウォッチメイキングの未来をテーマとしたパネルディスカッション。登壇したのは、左からジョン・コート(著者、NAWCC)、パトリシア・シュモイヤー氏(ブローバ)、ローランド・マーフィー氏(RGMウォッチ)、ジェームズ・ラムディン氏(アナログシフト)、ロジャー・W・スミス氏。
ブローバのパトリシア・シュモイヤー氏が、NAWCC理事から感謝状を受け取っている様子。
コンベンションでの長い1日を終えた後、ロジャーと私はペンシルベニア州ヨークにある名店ルーズベルト タバーンで夕食をとり、そこではさらに数名のコレクターたちも合流した。私にとってこのディナーのハイライトは、ロジャー氏が時計師を志す16歳の若者、オーウェン・バーガー(Owen Berger、@whitewhalewatches)氏とともに彼が持参した時計を手に取り、眺めながら交流を深める姿だった。オーウェン氏は、1890年代製の英国“スミス”社製トゥールビヨン懐中時計などの素晴らしい時計を、尊敬する時計界のレジェンドのひとり、ロジャー氏と語り合えたことに大きな感動を覚えていたようだった。
将来有望な時計師志望の若者、オーウェン・バーガー(@whitewhalewatches)氏は、ペンシルベニア州ヨークのルーズベルト タバーンでの夕食の席にて、著名な英国人時計師ロジャー・スミス氏とスミス製トゥールビヨン懐中時計について語り合っていた。
ルーズベルト タバーンでの皆が持ち寄った時計を披露する時間にて、ロジャー・スミス氏の手に握られるウォルサム製アメリカングレードの“ブリッジモデル”。
2025年のナショナルコンベンションを振り返って改めて感じるのは、やはりこのイベントが無数のチャンスにあふれているということだ。ロジャー氏は素晴らしいハミルトン #22デッキウォッチを購入することができ、私自身もコレクションに新たな時計を2本加えることができた。ひとつはバルジュー72搭載のブライトリング プレRef.806 ナビタイマー、そしてもうひとつは“ラクエル・ウェルチ”としても知られるブライトリング Ref.765 AVIだ。また、ミュージアムでは新たにオープンしたブローバの展示室をはじめ、多くの新しい所蔵品を目にすることができた。講義も非常に実りあるものばかりで、特にロンダ・リッチ(Rhonda Riche)氏を含む数名で行われた“ウォッチメイキング界の知られざるヒロインたち(The Unsung Heroines of Watchmaking)”の講義は印象的だった。しかし、何よりも素晴らしかったのは、長年の友人たちと再会して物語(そして時には大げさな話も!)を語り合い、これまでメールやZoom、SNSでしか交流のなかったロジャー・スミス氏と新たに友情を築けたことだった。とりわけ喜ばしかった(印象的だった)のは、ロジャー氏がコンベンションを体験し、楽しむ様子を見られたことだ。彼はすべての人物や展示に対してに真摯な好奇心を持って接しており、それこそがこのような集まりを特別なものにしているのだと、あらためて感じさせられた。
今日のNAWCCは、祖父のような世代が古いクロックや懐中時計を探す場所であることに変わりはないが、もはや彼らだけのNAWCCではなくなっている。若い世代がその場を引き継ぎつつあり、古くからのコレクターもまた、それを楽しんでいるようだ。
NAWCCナショナルコンベンションのマートで購入し、筆者のコレクションに加わった2本の腕時計。
長年のNAWCCメンバーであるトーマス・ランプ(Thomas Rumpf)氏と、今回のショーの目玉である彼のブルーのユニバーサル・ジュネーブ トリコンパックス クロノグラフ。
スコッティ・シニョール(Scotty Signor)氏が腕時計のダイヤルを物色している。
NAWCC理事長のジャレット・ハークネス(Jarrett Harkness)氏がゴールドのハミルトン ベンチュラ(エルヴィス・プレスリー)を着用し、Cal.321搭載のオメガ スピードマスターを携えたキース・ヤーブロー(Keith Yarbrough)氏とともに登場。
ハークネス氏とヤーブロー氏。
時にはその場での修理が必要になることもある。
マートルームには見るべきものがたくさん。
ラヴィ(Ravi)氏とニック(Nik)氏がロレックスとホイヤーを誇らしげに披露している様子。
キース・ヤーブロー氏がヴィンテージのオメガ シーマスターに興味を示した来場者に見せている様子。
マートルームで懐中時計を検分するNAWCC理事のエリエル・ガルシア(Eliel Garcia)氏。
美しいウォールナット材のクロックを作りたいなら、NAWCCナショナルコンベンションでキットを購入することができる。
長年のメンバーであるビル・ゾーン(Bill Sohne)氏が、スコッティ・シニョール氏のテーブルで購入候補の時計を披露している。
ホルヘ・バルセネス(Jorge Barcenes)氏が、購入したばかりの時計に装着するラルストラ®のラリーストラップを選んでいるところを、ブランドオーナーのリチャード・フィリップス(Richard Phillips)氏が見守っている。
オーウェン氏とアレックス・バーガー(Alex Berger)氏、そして元NAWCC理事長のレット・リュッケ氏が、ヴィンテージのロレックス、ホイヤー、ブライトリングの時計を披露。
アナログシフト創設者のジェームズ・ラムダン氏が“腕時計収集のトレンド”について講演している様子。
『アンティークス・ロードショー(原題:Antiques Roadshow)で知られる長年のメンバー、ピーター・プレインズ(Peter Planes)氏がNAWCCナショナルコンベンションの金曜夜のオークションで競りを担当している。
長年のメンバーであるチェスター・ヒックス(Chester Hicks)氏は、ヴィンテージのチェルシー製シップクロックを専門としている。
“時計職人見習いとしての生活”についての講義の準備をしているクリスティン・リース博士(Dr. Kristin Leith)。
2015年創業のスコットランドブランド、アンオーダインのサラ・マードック(Sarah Murdoch)氏が、自社の時計に使用するエナメルダイヤルの製造方法について講義している。
この日ヴィンテージウォッチを探していた、NAWCCナショナルコンベンション初来訪のソム・マイ(Som-Mai)氏とアンドリュー(Andrew)氏。
ジョン・コーテ(John Cote)は、NAWCC理事会のメンバーであり、Interstatetime Company およびJohn Cote Photographyの創業者である。
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