Business News 【業界アップデート】米国向けスイス時計の輸出が関税発動を見越して急増、オーデマ ピゲが主要サプライヤーを買収、カシオが米国新代表を任命

　フォントベルの時計業界アナリスト、ジャン・フィリップ・ベルチ（Jean-Philippe Bertschy）氏は、米国の関税状況が、かつて最大の市場であった中国における低迷や“ラグジュアリー疲れ”に苦しむスイス時計産業の月次輸出データを歪めていると指摘する。「1月から7月にかけて、主要10市場のうち9市場がマイナス成長を記録しました。米国だけがプラスであり、スイス時計メーカーが直面する逆風を際立たせています」とベルチ氏は述べた。

　HODINKEEが報じたブライトリングの最高経営責任者やほかの業界関係者の発言を裏づけるかたちで、データは各ブランドが関税発動期限を前に米国の小売パートナーに商品を出荷していたことを示している。ブライトリングは米国に約3カ月分の在庫を確保していると述べ、スイス製品に課された関税を引き下げる合意が成立しなければ、コスト増を相殺するために値上げを余儀なくされる可能性が高いとしている。ロレックス、チューダー、オメガ、ブランパン、オーデマ ピゲを含むブランドは、最初の関税発表を受けて春に米国で3〜10％の値上げを実施した。各社はスイスに有利な合意が成立し、これ以上の業界への打撃を避けられることを期待している。

　売上規模でトップ5に入る名門スイスブランドのオーデマ ピゲは、高精度加工とマイクロメカニクスを手がける重要なスイスのサプライヤー、インホテック社（Inhotec SA）の株式過半数を取得した。2011年にル・ロックルでアレクサンドル・エム（Alexandre Eme）氏が創業した同社は、オートオルロジュリーの顧客向けに部品供給や仕上げを専門としている。投資額や取得理由は明らかにされていないが、この買収は、パンデミック後の記録的な需要急増による生産ブームの反動でスイス時計産業のサプライヤーが圧力にさらされるなかで行われたものである。

　オーデマ ピゲは声明のなかで、インホテック社に財務面および戦略面での支援を行い、独立した事業運営を継続しつつほかの時計メーカーへの供給も可能にすると述べた。この投資は両社の長年にわたる関係を基盤とし、「インホテック社のスイス時計産業エコシステム内での地位を強化しつつ、共通の長期的な産業ビジョンを反映するもの」としている。

　創業者兼CEOのアレクサンドル・エム氏は“重要な”少数株式を保有し続け、引き続き同社を率いるとともに取締役会の議長を務める。「力を合わせることで、インホテック社が時計産業全体に向けて革新を続け、貢献していける環境を整えることができます」とエム氏は声明で述べた。

　オーデマ ピゲのチーフ インダストリアル オフィサーであるルーカス・ラッジ（Lucas Raggi）氏は「今回の投資は、スイス・オートオルロジュリーの卓越性に寄与する精密技術の未来を保証するものです」と語っている。

　カシオアメリカは米国市場での成長加速への取り組みを明確にする動きとして、経営幹部として豊富な経験を有する鈴木雄介氏を新たな社長兼CEOに任命した。鈴木氏は、3年間その職を務めた加藤朋生氏の後任となる。

　カシオでの30年にわたるキャリアのなかで、鈴木氏は日本や欧州で経営幹部を歴任し、直近ではG-SHOCKブランドの英国法人責任者を務めてきた。「米国はカシオのグローバル成長戦略の中核であり、その勢いをさらに加速させていく決意です。革新的な製品開発、顧客体験の向上、ブランド力の強化に積極的に投資していきます」と鈴木氏は声明のなかで述べている。