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誕生からわずか1年ほどで、アルビスホルンは私のお気に入りブランドのひとつとなった。その大きな理由のひとつが、“架空のヴィンテージ”をテーマにしたユニークで創造的なデザインだ。これは、実在しなかったがあってもおかしくなかった。そんな過去のアイデアと既存のヴィンテージモデルとの空白を埋めるかのような時計づくりに結実している。そしてもうひとつの理由が、ブランドの創業者であるセバスチャン・ショルモンテ(Sébastien Chaulmontet)氏の存在だ。彼はセリタ社のイノベーション&マーケティング部門ディレクターでもあり、驚異的な知識を持ち、量産されなかった1点ものや、個性あふれるヴィンテージクロノグラフを数多く収集している。だからこそ、彼はこうしたデザインを的確にかたちにできる数少ない存在なのである。話していてこれほど興味深い人物もなかなかいない。
HODINKEEでは日々多くの時計を扱っている。オフィスに時計が届けば皆で回しながら意見を交わし、フィードバックを出し合い、実際に手に取ることで、その時計がどのようなものかを確かめる機会を持つようにしている。もちろん意見が一致することはまれで、むしろそうでないことのほうが多い。たとえばタンタンは、この時計のエイジング加工された夜光塗料を気に入らなかった。正直、それも理解できる。しかしプロダクト全体において、ここまでていねいに考え抜かれ、かつ製品に昇華されていると感じられる時計にはなかなか出合えない。たいていは作り手が狙った方向性は見えるものの、的を射ているかどうかまでは疑問が残るものだ。しかしこのアルビスホルン タイプ 10 クラシックは、すべてのピースが見事に噛み合っている。
ヴィンテージ好きなら、その着想元についてすぐに察しがつくだろう。黒くテクスチャーのある大きなダイヤルは、コックピットでの視認性を保ちながらも光を吸収する、典型的なパイロットクロノグラフの構成だ。我々がよく知るのはブレゲが最近(またしても)復刻したタイプXX クロノグラフだが、ではそのさらに前にこうした時計が存在したとしたらどうだろう? 少なくとも現代の技術で製品化されたものとして。もしかしたら、それはこの時計のようなものだったのかもしれない。
デザインも実に興味深い。直径は39mm、厚さは11.6mm(ベゼル上に盛り上がったドーム型風防を含めると12mm)であるが、フレア状に広がり、内側にわずかに凹んだ形状のベゼルによって装着時にはより大きく感じられる。実測ではこのベゼルが41.7mm幅に達し、ラグからラグまでは47.7mmであった。これにより、ダイヤルは数値の印象よりもやや小さく、逆にケース全体はダイヤルの見た目以上に大きく感じられるという、独特のバランスが生まれている。ダイヤルは独自の質感を持ち、ベージュのスーパールミノバによるアラビア数字とインデックスが配されている。
クロノグラフが作動すると、ロリポップ型のクロノグラフ秒針が動き出し、ダイヤル上12時位置の小窓を覆っていた針が移動する。そこには赤いドットが現れ、クロノグラフが稼働中であることを示す。この仕組みは、かつてのブライトリングによるスーパーオーシャン スローモーションにも似た趣がある。クロノグラフを停止すると、このドットは白に変わる。この白は、時・分針およびクロノグラフ秒針にも塗装されている白と調和しており、それらはかつてのヴィンテージクロノグラフに見られる針を思わせる。ただし、この演出には気づきにくいかもしれない。というのも、“ビッグアイ”スタイルを彷彿とさせる30分積算計とスモールセコンドが、スネイル装飾とベージュのスーパールミノバを伴って配されているものの、そのレイアウトには少々違和感があるからだ。
ケースも興味深い。ヴィンテージの優れたクロノグラフに見られるような、急角度で落ちるラグと、ヘアラインとポリッシュを組み合わせた仕上げが施されている。ケースというのはヴィンテージ好きが特に語りたがる要素のひとつだが、このケースは非常に整っている。たとえばスピルマンケースのように角張ってはいないが、ケース上面のシルエットにはパテック フィリップのRef.3448を思わせるところもある。ただし、それよりも注目すべき明確な特徴がある。すなわち“デストロ(レフトハンド)”仕様のリューズと、無骨で存在感のある赤いモノプッシャーだ。
やや長めの形状にリブ加工が施された赤いプッシャーは、同じくリブの入ったベゼルとの相性も抜群だ。このベゼルにはクリック機構は備わっておらず、テンションによって固定される仕様で、ヴィンテージのダイバーズウォッチに通じる操作感がある。私のように左手首にこの時計を着けた場合、プッシャーは右手の親指で自然に操作できるはずだ。親指は人差し指よりも力が入りやすく安定するため、視線を時計に落とさずとも、大きなプッシャーをすぐに探し当てられる。もし実際にこれを操縦中のパイロットが着けていたとすれば、操縦桿を握りながらナビゲーションのためのタイミング操作を行う際にも、視線を計器や空から外すことなく操作できるという点で、大きな利点となったはずだ。一方でベゼルは適度なテンションで保持されており、不意に動いてしまうことはないが、操作自体は容易にできる(もっとも、いくつかの写真では私がベゼルの位置を正確に合わせ損ねているのが見て取れる。それは時計の問題ではなく、あくまで私自身の問題である)。
ケースバックの内側にはヴィンテージテイストあふれる意匠とともに、100mの防水性能を実現する構造が備わっている。そしてその内部で鼓動を刻むのが、実に興味深いムーブメントだ。アルビスホルンが独自に開発した手巻き式クロノグラフキャリバーであるALB02 MはCOSC認定を受けた高精度ムーブメントで、直径30mm、厚さ5.70mm、2万8800振動/時の振動数に加えて65時間のパワーリザーブを誇る。その構造は、大幅に改良を加えたバルジュー7750をベースとしている。これを仮に、リューズを3時位置、プッシャーをその上に配し、インダイヤルを縦方向に整列させる形に想像すれば、なじみ深い7750の面影が浮かび上がるはずだ。ムーブメントを薄型に仕上げることで、全体の厚みも抑えられ、ヴィンテージらしいバランスのいいプロポーションが実現されている。
ベゼル、針、ダイヤルにはベージュのスーパールミノバが塗布されており、UVライトを当てると緑色一色に発光する。もちろんこの点は現代的な仕様だといえ、ラジウムのように急激に暗くなることもない。この夜光性能が実用性をさらに高めており、日常使いにおいてもまったく無理がない。私はこの時計を1週間ほど手元に置いていたが、手放すのが惜しくなるほどだった。装着感も心地よく、見ていて楽しく、着けていて楽しい。それだけでなく、架空のヴィンテージウォッチという発想がほかにどんな可能性を生むのかと想像をかき立てられた。ショルモンテ氏はユーザーが求めるであろう要素を見事に盛り込み、ホイヤー、ブライトリング、アンジェラスなどに見られる意匠を取り入れながらも、しっかりと独自の個性を保った1本に仕上げている。
だが、そこにひとつの問題が生まれる。それほどまでに完成度の高いデザインが目の前にあると、もはや想像を巡らせる余地がなくなってしまうのだ。もし自分でブランドを立ち上げられるなら、どんな時計をつくるか。そう聞かれることは多いが、正直に言えば、ゼロからアイデアを生み出すのは得意ではない。確かにこの時計は完全な白紙から生まれたものではないが、それでも魅力的な要素の多くを押さえており、しかも手の届く価格に収まっている。税込3950スイスフラン(日本円で約74万円)で、これ以上のものを自分が思いつけるかどうかはわからない。
アルビスホルン タイプ 10 クラシックの詳細はブランドのウェブサイトをチェック
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