Photos by TanTan Wang
2022年にCODE 11.59 スター ホイールの初代モデルが発売されたとき、それはおそらく私が心から本気で惚れ込んだ最初のCODE 11.59だった。たしかにダイヤルのどこかにアベンチュリンが散りばめられているだけで私は興奮してしまうが、このモデルの場合はそれだけではない。オーデマ ピゲが17世紀のウォッチメイキングへのオマージュとして、1991年のコンパクトでドレッシーなワンダリングアワー機構をホワイトゴールド(WG)によるウルトラモダンでインダストリアルな外観へと完全に再解釈した点に引かれたのだ。
ワンダリングアワー機構は中央で常に回転し続ける回転盤を特徴とする。その回転盤には12時間すべての数字が施されており、さらに3枚の衛星のようなアワーディスクに取り付けられている。回転盤が回転するにつれて、現在時刻を示すアワーディスクが上部の矢印で120°のミニッツトラックを指し示し、ほかの2枚の“非稼働”ディスクは回転を続け、各ディスクの下にある星形の歯車のおかげで次の時間が次のディスクへと向きを変えていく。このメカニズムは90年代のバージョンではより理解しやすく、透明なディスクが下にあるシステム、全体を露わにし、このモデルがそう名付けられた理由もひと目で理解できた。CODE 11.59 スター ホイールでは70時間のパワーリザーブを誇る現代的な自社製ムーブメント Cal.4310がシステム全体を構成している。
1990年代半ばに登場したジョン・シェーファー スター ホイール ミニッツリピーター。Photo by Mark Kauzlarich
1990年代のクラシックなオーデマ ピゲ スター ホイール。Photo by Tony Traina
新作CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ スター ホイールのローズゴールドモデル。
ハイレベルで同じ機構を共有していることを除けば、1991年のスター ホイールと2022年のCODE 11.59 スター ホイールの外観はまったく似ていない。実際、両者を並べて見ると、過去30年間におけるブランドのデザイン言語の進化を興味深く反映している。
新しいCODE 11.59 スター ホイールのローズゴールド(RG)モデルの噂は長いあいだインターネット上で囁かれてきたが、ほんの1カ月ほど前、ブランドがヘッドラインを独占したRD#5のデビューとほぼ同時期に静かに発表された。私の考えでは、ブラックとブルー(ピッツバーグスタイル、といえばわかるだろうか?)のスター ホイールの冷たくテクニカルな外観に勝るものはない。このデザインは何よりもドレッシーさからかけ離れており、ホワイトメタルから変更することが理にかなっているのかどうか、私には確信が持てなかった。しかしRGのスター ホイールと過ごした今、これが私のなかの頂点の座を奪うかもしれない。
直径41mm×厚さ10.7mmというサイズは、決してコンパクトな時計とは言えない。RGをフルに採用したCODE 11.59のケースはその存在感に少し圧倒されるように感じるが、面取りされたブラックセラミックのミドルケースはここで驚くべき効果を発揮し、ダイヤルとよく合うきわめて美しい視覚的なコントラストを提供するとともに、ケースの印象を軽くしている。今までに何度も耳にしたことだろうが、CODE 11.59は最終的な判断を下す前に必ず実物を見るべきコレクションのひとつであり続けている。このケースには上部のみが溶接された“浮遊する”スケルトンラグから、セラミックのミドルケースの面取り、サテン仕上げ、ポリッシュ仕上げ、そしてコントラストをなすサイン入りのRG製アップリケで覆われたセラミック製リューズまで多くの要素が詰まっている。美学に関する意見はともかく、CODE 11.59のケースはきわめてよく作られているのだ。
この新しいバージョンが、単に新しいケース素材とダイヤルカラーの変更に過ぎないと言うのは技術的には正しい。しかしスター ホイールのダイヤルにはきわめて多くの要素があるため、その変更はより重要に感じられるのだ。おそらく最も明白なのは、ワンダリングアワーのメカニズムがそれまでの殺風景なホワイトとシルバーのトーンから、マッチするRGの色合いに変更されたことだ。これが純粋に視覚的なトリックなのかどうかはわからないが、本作では回転ディスク上のアワーインデックスのプリントがRGの色合いであることで、WGのものと比較して格段に立体的に感じられる。以前にはなかったこれらのアワーインデックスのざらつきのあるメタリックな質感が、その効果に貢献しているのかもしれない。これは、ほんの小さな変更でも最終的な製品にこれほど深く影響を与えるという素晴らしい好例だ。秒針もRGだが、ミニッツトラックと外側のチャプターリングは、オーデマ ピゲのロゴが(従来どおり)6時位置にあり、色はブラックとホワイトのままである。
この仕様では、ブルーのアベンチュリンではなくブラックのアベンチュリンダイヤルを採用することで視覚的な焦点をRGに戻す。それは目立ちにくいにもかかわらず、より大きなインパクトをもたらしている。アベンチュリンが背景に溶け込むことで、中央のモジュールがその中心で浮いているように感じられる点がとても気に入った。幸いなことに、アベンチュリンの星のような品質は失われていない。シルバー、ゴールド、ブルーのさまざまな色合いの小さな斑点はデザインにおいて素晴らしいタッチであり、そうでなければかなりマットな質感になるだろうダイヤルに十分な光沢を与えている。
手首に着けたスター ホイールは、CODE 11.59の最も理想的な状態にあるように感じられる。CODE 11.59のデザインについて批判があるとすれば、それは時計を着用する際のメインの視点であるにもかかわらず、上から見ただけではケースに費やされた工夫がまったく理解できないというものだ。しかしこのような機構が加わると、CODE 11.59はあらゆる角度から見て特に興味深いものに感じられる。マッチングしたラバー裏地のブラックキャンバスストラップはRGをカジュアルダウンさせ、ブラックとローズの印象的な組み合わせは、必ずしもエレガントではないこの時計にちょうどよいエレガンスを与えている。
本作はやはりインダストリアルである。私がスター ホイールのデザインに魅力を感じる部分のひとつは、それが実際の機能よりもはるかに複雑に見える点だ。ワンダリングアワーは複雑機構と見なされるかもしれないが、結局のところそれは時・分・秒を伝えるだけの時計に過ぎない。しかし回転するアワーディスクのスケルトン化されたメタリックなフレーム、数字のモダンなタイポグラフィー、そしてブラックセラミックのミドルケースとアベンチュリンの高いコントラストはすべてケースのシルエットときわめて調和し、補完し合っている。
CODE 11.59 スター ホイールの858万円(税込)という数字は意欲的な価格設定だが、この時計に対する需要はまったく不足していないようだ。過去数年間、スター ホイールはこのコレクションのほかの多くのモデルと異なり、ブティックで手に入れるのがきわめて難しいリファレンスである。そして新しいRGモデルの導入はWGモデルを置き換えるものと予想されていたが、WGモデルは引き続き生産されることが確認されている。これはよいことだ。というのも、これはロイヤル オークの枠を超えたウルトラモダンな探求の時代における、オーデマ ピゲの最高の姿だからである。このデザインがすでにヒットしていると言うのは間違いないが、このRGのバリエーションはさらに目を見張る美しさだ。私は間違いなくこの時計に夢中になっている。
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