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我々が知っていること
ウォッチメイキングの世界には、ごくたまに思わず背筋を正して見入ってしまうような芸術的作品が存在する。ヴティライネンによる28 “Kohan” ユニークピースはまさにそのひとつだ。これはカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏と芸術家である北村辰夫氏、そして依頼主との共同制作によるユニークなオーダーメイドウォッチであり、依頼主の妻への深い愛情に捧げるべく制作されたものである。北村工房が持つ彫金と七宝の熟練した技術を活かし、フィンランドの伝統を表現する特別な意匠を施したこの1本は、フィンランド南東部に位置するサイマー湖の秋の風景を描いたダイヤルが特徴だ。
この時計に施された芸術表現にはさまざまな技法が用いられており、制作には1000時間以上を要した。ヴティライネン氏は以前、こうしたプロジェクトにおける大きな課題のひとつは、部品を世界中に発送し再び戻ってくる前に、時計を可能な限り完璧に仕上げておく必要があることだと語っていた。輸送中に、あるいはさらに悪いことに組み立て中に部品や時計の破損など、何か問題が起こらないよう祈るしかないのだ。
ダイヤルには手作業で切り出した、グリーンのヤコウガイやアワビを含む数百もの貝殻片が使われており、これらは色合い、輝き、形状ごとに厳選されたものだ。北村工房はこれらの貝殻片や手作業でカットされた純金、プラチナ、そして色漆などの素材を漆を幾重にも塗り重ねた上に密に象嵌し、層ごとに手作業で研磨することで驚くほどの輝きを実現している。また、漆で描かれた空は光の加減によって表情を変え、直射日光の下では白い雲の浮かぶ鮮やかな青空に、陰影のある場所では星の瞬く深い夜空へと姿を変える。その制作方法はスタジオによって厳重に守られた秘密であり、明かされることはない。
ムーブメントに目を移すと、ここにも驚嘆すべき芸術性が存在する。ケースや裏蓋に装飾が施されることはよくあるが、これほど頻繁に、そしてこのような仕方でムーブメント自体を装飾するブランドはヴティライネンをおいてほかにない。本作のムーブメントでは、ジャーマンシルバーとチタンを組み合わせたブリッジと地板に蒔絵の技法を用い、手作業で漆の装飾をあしらっている。主ゼンマイのラチェットにはフィンランドの国樹である白樺の葉が、秋らしい黄金色で描かれており、これは金箔、貝、深い色の青漆、そして金粉を組み合わせた複雑な技法で実現されている。
ケースにはフィンランドの地図、依頼主の妻の誕生日、クマの足跡(フィンランドの国獣)、そして黒と赤の色合いを帯びた花崗岩(フィンランドの国石)がセットされたリューズがあしらわれている。最もユニークで遊び心に富んだディテールのひとつがヴィシーのウォーターボトル(おそらくご夫妻にとって何らかの意味があると思われる)を模したパワーリザーブインジケーターだ。
ムーブメント自体はヴティライネンの工房で設計・製造されたユニークな自社製キャリバーであり、ダブルダイレクトインパルス脱進機を備える。ヴティライネンらしい大型テンプ(直径13.5mm)を採用し、ひげゼンマイはフィリップスターミナルカーブとグロスマンカーブが用いられたフリースプラングテンプとなっている。振動数は1万8000振動/時で、パワーリザーブは65時間。自社で製造しているケースは、厚さは公表されていないが直径37mmで、素材にはホワイトゴールドが使用されている。
オフィサーズケースバックの内側にも芸術的な意匠は続いている。そこにはスズラン(フィンランドの国花)と、羽を広げて蜜を求めて飛ぶ2匹のルリシジミ(フィンランドの国蝶)の姿が美しく描かれているが、これらのモチーフはケースバックを開いた際に光を受けて表情を変えるように設計されている。
そして時計の裏側にはフィンランドの国樹である白樺の木にとまるナナホシテントウ(米国ではレディバグと呼ばれる)が手彫りと七宝によって描かれている。全体として、依頼主の妻と故郷に抱く愛情のすべてがひとつひとつていねいに表現されているように感じられる。これはまさに驚異的な芸術の偉業であり、ヴティライネンの依頼主がこの作品を世に見せることを許してくれたこと自体がひとつの喜びであると言えるだろう。
我々の考え
私のなかでは、ヴティライネンが卓越している“領域”は大きく3つに分けられると思っている。ひとつはマスターピースシリーズや最近ではルイ・ヴィトンとのコラボレーション(下記参照)に代表される、創造的な複雑機構の追求である。もうひとつは28Sportや28TIのように、インディペンデントウォッチメイキングを“スポーティ”に解釈したアプローチだ(これらのモデルでは、顧客はクラシックなムーブメントを主役に据えるか、それともヴティライネンらしいダイヤルを前面に押し出すか選択を迫られることになる)。しかしコンブレマインによるギヨシェ彫りには大いなる敬意を抱いているが、私がいま最も魅力的に感じているのは、北村辰夫氏および北村工房とのコラボレーションによって生まれる作品群である。
北村公房との共作とは明確に異なるものだが、ルイ・ヴィトン×カリ・ヴティライネン LVKV-02 GMR 6には、ヴティライネンがこれまでのコラボレーションを通じて築き上げてきた土台が随所に見て取れる。
このような作品を生み出すには思慮深くオープンマインドな依頼主と、コンセプトを具現化する才能のある芸術家の両方の存在が不可欠である。私がヴティライネンについて時折指摘することのひとつは、同ブランドがカスタムピースに対して非常に寛容であるというものだ。顧客から提示されたアイデアのいくつかに“ノー”と言っていれば、もっとよい結果になったかもしれないと思わせるようなユニークピースが生まれてしまうことがあるのだ。これは、すでに終了したカルティエのNSO(ニュー・スペシャル・オーダー)プログラムに対してよく言われていた批判と似ているが、北村氏による作品に関してはひとつとして失敗したと思えるものを見たことがなく、むしろどの時計も、彼らの創造性とクラフツマンシップに対する私の敬意をさらに深めてくれるものばかりなのだ。
ダイヤルをクローズアップして見てみると、その芸術性は一目瞭然である。複数の技法を組み合わせることで、ダイヤルに描かれた風景や情景に物理的な立体感と視覚的な奥行きの両方が与えられ、見惚れるような質感の重なりが実現されている。とりわけ注目すべきは、キリガイ(グリーンのヤコウガイの貝殻片)やアワビガイ(ニュージーランド産のアバロンシェル)を層状に重ねた表現によってサイマー湖の水面の反射を描き出している点だ。2022年に発表されたブランドのユニークピース、Ji-Kuで、地理的なサンバースト模様として用いられていた素材が本作ではより情感豊かなかたちで再構成されている。私であれば、配色や花崗岩のリューズといった一部の要素については異なる選択をしたかもしれないが、これは私のための時計ではない。だからこそ依頼主がこの時計に深く満足していることは間違いないであろう。
基本情報
ブランド: ヴティライネン(Voutilainen)
モデル名: 28 “Kohan” ユニークピース
型番: 218RSV
直径: 37mm
厚さ: 未公開
ケース素材: ホワイトゴールド
文字盤色: 日本の北村工房にて手作業で製作・装飾されたユニークなダイヤル
インデックス: プリント
夜光: なし
防水性能: 未公開
ストラップ/ブレスレット: ハンドステッチによるグリーンのクロコダイルストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: (ユニークキャリバーとなる)218RSV
機能: 時・分表示、パワーリザーブインジケーター
直径: 30mm
パワーリザーブ: 65時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時
石数: 30
クロノメーター認定: なし
追加情報: 13.5mmのテンワ
価格&発売時期
価格: 非公開
発売: なし
限定: あり、ユニークピース
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