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クラシックで即座に見分けがつく多くの現代デザインのように、オクト フィニッシモというモデルも、ファン層を見出すために長く、時に困難な道をたどってきたように見えた。しかし、実際はそうではなかった。このコレクションの魅力の一つは、あらゆる記録によって、それがあたかも現実よりもずっと長い間、この世にあったかのように感じさせる点にある。その存在感には、ミニッツリピーター(世界で最も薄い)、トゥールビヨン(世界で最も薄い)、クロノグラフ(また世界で最も薄い)など、積み上げてきた世界記録や各種の複雑機構が含まれる。オクト コレクションは発売から8年しかたっていない。最初のデビューは2012年であり、初の超薄型オクト フィニッシモは2014年の発売だ。だが、そのような短期間でこのモデルは、時計学的にもブルガリのフラッグシップコレクションになっただけではなく、なんとか21世紀における最も魅力的で新しいデザインをもつ腕時計の一つになったのだ。
オクト フィニッシモはスティールケース(ごく最近は非常に魅力的な、ポリッシュスティールのモデルが出た)に収められているが、ブルガリは、いくつかの異質でよりエキゾチックな素材を採用してきており、CPTカーボン、チタン、セラミックなどがある。これらの腕時計は通常、他の多くの一体型ブレスレットの高級腕時計がもつ、高度に研磨された表面仕上げを避けて、しばしばビーズブラスト加工を多用していた。それがポストモダンで建築学的な側面を重視したケース形状を際立たせていたわけだ。同社の時計は、スイスやその他あらゆる地での時計製造史と同じく、第一世代ステルス機の角ばった黒のファセット形状からも数多くのヒントを得たのだ。
しかしながら、今年初めにサテン仕上げスティールのオクト フィニッシモが登場したとき、私たちには、比較的変わることのなかったブルガリの表面へのさりげないこだわりが、少し揺らぎ始めているように見えた。サテン仕上げのSSオクト フィニッシモは、突然に、はるかに高価な時計も分類される、いわゆる“ラグスポ”(この用語は説明するのがますます難しくなっているが、大方の同意を得られる意味をなお十分に有しており、少なくとも腕時計が日常生活において意図されている、ある種の役割を示している)の競合製品に変貌したように見えた。その価格は129万円(税抜)であり、まさに本格的な競合製品といえるものだろう。
ブルガリは昨年、オクト フィニッシモ オートマティックのサンドブラスト仕上げのブラックセラミックモデルを発売した。それは私にとっては、オクト フィニッシモには最も自然で、かつ可能性のある素材であるかのよう感じられた。軽量で、高い技術に裏打ちされたケースであり、その素材特性や美的感覚は、コレクションの次世代腕時計としての本質に見事なまでに適合している。従って、ブルガリが今年、全く別物のサンドブラストとポリッシュのコンビを持つバージョンを発表したのは、私にとってはちょっとした驚きであった。実際にそれがどのような効果を発揮するのか、とても興味をもった。結果的には、サテン仕上げSSのオクト フィニッシモ と同様、伝統的な仕上げがこの時計の性質をより型破りなものに変えたように見える。
SSモデルもそうだが、皆さんは必ずしも、腕時計表面への追加ポリッシュのような比較的マイナーなアップデートについて、(少なくとも理論上は)あまり違いをもたらさないと考えるかもしれない。しかし、ひょっとするとデザインがミニマリズムを体現し、その効果が比較的少ない要素の調和に依拠しているという理由だけで、新しい仕上げ方法は世界的に見ても大きな違いを生むことになるのだ。
私が思うに、前回発売されたサンドブラスト仕上げのブラックセラミックのオクト フィニッシモは、いくつかの異なる視点から考えて非常に優れた腕時計である。技術的に見て興味深い腕時計であることは確かだ。このように超薄型の時計は希少であり、直径36.6mm、厚さ2.23mmのキャリバーBVL-138は相変わらず印象的だ。(世界で最も薄い自動巻き、時間表示のみの自動巻きムーブメント)。技術的に先見性のあるキャリバーと、艶消しセラミックケースは、確実にスタイリッシュな雰囲気を醸している。しかし、今回紹介するモデルは、前回のサンドブラスト仕上げのオクト フィニッシモのような、機械的な強みをもつ腕時計を求める人にとっては控えめすぎる可能性があると思う。それでもなお、ややあからさまなまでに手首での存在感を発揮しているのだ。
(こうした特徴は、少なくとも私が耳にしたフィードバックに基づけば、非常に軽量であることにより、一部の人にとっては深刻な問題になっている。とはいえ、別の人にとっては、それは単なる別の長所であり、先進的な技術特性の表現となるだろう)
確かに、この新しいオクト フィニッシモ は、手首上での華やかな表現となるし、他の時計と全く異なる存在感も発揮する。新旧のバージョンは決して置き換えることはできないが、異なるテイストにアピールすることもないと私は疑っている。オリジナルのバージョンは妥協を許さない雰囲気をもっており、非常に純粋で厳格なデザイン・ビジョンを表現している。新バージョンも妥協してはいないが、厳めしさが弱まると同時に、多くのデザイン特性をより明白に投影することに対し、もっと寛大になっている。実際、実物の腕時計は、セラミック製から想像するよりも遥かに温かみを有している。ましてや、単に黒いだけの腕時計ではないのだ。
ブレスレットはこれまでと同様、ケースによくマッチしている。言ってみれば、この時計は前バージョンの続編なのだ。ほとんどの腕時計では、モデル特有かつ明確なアイデンティティを有しており、その組み合わせの成否は、2つの明確なものの間に連なった結果であるか、またはその欠如によるのである。しかし、私たちは今、「ケースとブレスレットの一体化」が通常よりもはるかに本質的に結びついていること、また人の腕が残りの身体パーツから分離していないのと同様、ブレスレットが時計本体から切り離された部品ではないことを実感させるような時計となっているのだ。
2つのバージョンの間で変わっていない点がひとつある。それは、エンジンであるCal. BVL-138だ。本キャリバーは非常に伝統的な時計製作の価値を見事に現代的に表現している。超薄型腕時計は、冠車よりもフラットなエスケープメントが登場して初めて技術的に可能となった。時計製造史の大部分において、それは時計アートの頂点を象徴するものであり、通常、同類のもっと伝統的に均整のとれた腕時計よりもはるかに高価なのが普通だ。
競争力という点に関してBVL-138がもつただ一つの技術的デメリットは、38.6㎜という大きな直径にある。腕時計のムーブメントに最適とされる直径は普通、約30mmだからだ。だが、ムーブメントを収納するケースが高水準の精密さを有しているため、この時計は非常に装着感の高い40mmの直径を全般的に維持できている。
このように平らな形状を持ち、軽い素材で作られた腕時計は、手首に着けるとやや風変りな姿になる可能性があるが、それは必ずしも悪いことではない。妥協を許さない品質を誇るオリジナルのマットブラックのバージョンは、それだけで独特の魅力を放っている。しかし、光を反射し、魅力的に輝く表面を持つこの時計は、ある種のスプレッツァトゥーラ(無造作の技巧)を明らかに感じさせる。以前にはなかったこの特徴により、これまで以上にブルガリらしい時計であると思わせている。
ブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック セラミック:ケース、ブラックセラミック、ポリッシュおよびサンドブラスト仕上げの表面、40mm x 5.5mm。30mの防水性。マットブラックのサンドブラスト仕上げセラミック文字盤。折り畳み式クラスプ付き一体型セラミックブレスレット。ムーブメント。自動巻きCal.BVL-138。自動巻きおよび手巻き。60時間パワーリザーブ。振動数2万1600振動/時。36石。プラチナ製マイクロローター。価格167万9000円(税抜)。さらなる詳細はブルガリ公式サイトをご覧ください。