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Photos by James Stacey
前回、ロレックスが2016年にデイトナをアップデートして以来、多くのことが起きた。ポール・ニューマンのヴィンテージデイトナが1700万ドル(当時の相場で約20億円)で落札され、現行のスティール製デイトナが地球上で最もホットな、そして入手困難な時計のひとつとなり、そしてエバーローズゴールド製のレインボー デイトナが流行した。
そしてデイトナが誕生60周年を迎えた今、ロレックスはクロノグラフの全ラインナップの刷新を行った。
なんといっても新しいムーブメントである、ロレックスCal.4131が導入されたことだろう。そして現在、ロレックスの公式ウェブサイトには、なんと32種類ものデイトナが掲載されている。新しいものもあれば、もっと身近に感じられるものまで多彩にある。
2020年に行われたサブマリーナーのアップデートが頭をよぎるが、最近のロレックスのラインナップの一新と同様に、これはロレックスがクロノグラフに改良を加えて、美観が、そして技術的にもほんの少しよくなったデイトナなのだ。
だから肩をすくめながら、“デイトナのアップデートはすごい。それでもアンオブタニウム(編注;工学などで用いられる架空の素材。また入手困難な金属という意味)であることに変わりはないだろう?”という程度にしておけばいいのだ。しかしデイトナのわずかなその調整も、ヴィンテージロレックスから明確にインスパイアされたものがいくつかあるとしたら我々の目を引くことだろう。それでは今回の大きな変更点を見ていこう。
現行のCal.4130は、長年にわたり静かにアップデートが重ねられている。とはいえ23年も前のムーブメントであり、ロレックスの最新技術は必要だった。そのほかの技術的なアップグレードとして、ロレックスは新しいCal.4131で部品点数を減らし、より効率的なクロナジー脱進機を搭載、さらにローターにはボールベアリングを追加した。またデイトナは依然として約72時間のパワーリザーブを備えている。
ロレックスは、ブリッジに機械で施したロレックス流のコート・ド・ジュネーブ仕上げをプラスした。さらに大きなニュースがある。ロレックスのスポーツウォッチとしては初となるのだが、プラチナ製デイトナではサファイアクリスタル製のシースルーバックから、これらのムーブメントを見ることができるのだ。8万ドル(日本円で約1065万円、日本価格は要問合せ)する新型のプラチナ製デイトナを裏返して、なかのムーブメントを見ると、何を期待するかにもよるのだが、奇妙で不可思議な感覚に襲われると同時にこのような工業的な仕上げが施されているという事実に少しがっかりするかもしれない。しかし繰り返しになるが、プラチナのデイトナが存在するということ自体が何とも奇妙なことである。
そのプラチナ製デイトナが最高級の目玉商品であるのに対し、新たに登場したSS製デイトナのRef.126500LNは、誰もが知りたいと思う存在だろう。
旧デイトナ同様、黒文字盤と白文字盤の2種類が用意され、直径は40mm。新型デイトナを手にしてまず感じたのは、より洗練された文字盤だということ。インダイヤルのリングが細くなったことで、ヴィンテージの“ビッグアイ”クロノグラフのように、インダイヤルそのものが大きく見える効果があるようだ。
インデックスの大きさも小さくなり、文字盤は昔のゼニス デイトナにも似ているように感じる。これらの変化により、文字盤はややすっきりとしたバランスになった。
また、アワーマーカーも小さくなり、昔のゼニスのデイトナのような文字盤になった。これらの変更により、文字盤はわずかだがすっきりとし、バランスが取れているように感じられる。それ以外の文字盤の色、つまり白と黒、そしてあの赤い“DAYTONA”の文字は、昔のセラミックデイトナと同じように感じられる。
まあ数m離れたところで、その違いを見分けることはできないかもしれない。しかし実際に手首に装着してみると明らかに違う時計がそこにあるのだ。
外観上のもうひとつの大きな変更点はセラミックベゼルだ。ベゼルの縁までセラミックが伸びているわけではなく、ケースと同じ金属のリングで囲まれている。これは実用的な措置だ。セラミックは耐久性に優れているが、それはベゼルの縁を強くぶつけて全体を粉々にしてしまわない限り、である。
また新しいベゼルは、デイトナがヴィンテージの6263(ロレックスがブラックベゼルとまで言っているそれは、ブラックのプレキシガラス製ベゼルインサートを装着した1965年のモデルを彷彿とさせるものである)と同じラインに近づいたように見え、ルックスがよくなったように思う。
コレクターはロレックスが自らの歴史を認識していないことに不満を持つことがあるが、しかしロレックス公式ウェブサイトでそれがあるかないか誰でも見ることができるようになっている。ロレックスは現代的な時計に、過去の歴史をはっきりと反映させ、そしてそれが功を奏しているのだ。
またロレックスによると、ベゼルは1枚からつくられていると発表しているため、これはベゼルインサートではないということになる。文字盤の変更と同様にベゼルも刷新され、よりすっきりと洗練された印象の外観に仕上げられた。
依然として40mm径だが、ケース厚は11.9mmと旧デイトナよりも約0.5mm薄くなっている。これこそが、デイトナを身につけるという日常的な体験における最大の違いであり、そして結局のところそれが最も重要なことなのである。デイトナは一般的な量産型クロノグラフの競合モデルの多く(ほとんどかも?)よりもはるかに薄い。またケースのラグは従来の116500よりもシンメトリーになっている。
今週はSSとプラチナモデルが最も注目を集めているが、ゴールドとのツートンモデルも数十種類用意されているのを忘れてはならない(一方、メテオライトダイヤルとグリーンダイヤルの“ジョン・メイヤー”デイトナは消えている)。なかでも私が注目しているのは、シルバーとブラックのパンダと、リバースパンダの文字盤を備えたホワイトゴールドバージョンだ。ロレックスがホワイトメタルにブレスレットという、限りなくパンダに近いデザインに仕上げているのがポイントだ。このWGによるペアは、新コレクションのなかでもヒット商品になりそうな予感がする。SSはもちろんブレスレットのみだが、貴金属のリファレンスの多くはオイスターフレックスでもデリバリーされている。
以上が、デイトナの最大のアップデートとなる。ロレックスによるとゴールドモデルは9月に、SSモデルは10月に納品を開始する予定とのことだ。
何が新しいかを突き詰めていくと、新しいデイトナは昔のセラミックデイトナとかなり似ているということだ。そしてSS製だと、179万5200円(税込)で販売されているクロノグラフであるということに変わりはない。さらに小売店での入手は不可能というところまで一緒だろう。時計があり、そして所有する時計がある。この数年、後者の議論は前者を完全に上回っている。インダイヤルが少し大きくなったからといって、それが変わることはないだろう。
それでもデイトナ誕生60周年を迎えたロレックスは、これまでの各世代で行ってきたことと同じように、旧型のデイトナよりも優れたデイトナを作り上げた。夜寝ているあいだに、iPhoneが自動で行うソフトウェアアップデートのようなものだ。新しいものが出てくると、そのほとんどが古いものであると気づくのである。