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歴史的なヨット競技の大会であるアメリカズカップにおいて、オメガを知らない人はいない。過去25年間、オメガはパートナーシップを維持し、エミレーツ チーム・ニュージーランドのスポンサーでもある。オメガは今年、第36回アメリカズカップの公式タイムキーパーに任命されたことを発表。この偉業を記念した限定モデル、オメガ シーマスター プラネットオーシャン 36th アメリカズカップ エディションを発表した。
アメリカズカップを記念して時計を発表したのは今回が初めてではないが、このような限定モデルがシーマスター プラネットオーシャンで発表されたのは実は初だ(それ以前のモデルは、X-33とシーマスター ダイバー 300Mだった)。歴史的なヨットイベントの公式タイムキーパーに任命されたことは大きなニュースであり、それを記念して特別な時計が選ばれたというわけだ。通常のシーマスター プラネットオーシャン 600Mをお使いの方にとっては、この時計は使用感、フィット感、仕上げの点においてほとんど同じものである。しかし、この時計にはいくつかの特別なデザインが施されており、限定モデルにふさわしく、腕にはめているだけで楽しくなる仕上がりだ。
この時計の詳細についてまず語るべきはサイズである。43.5mmと数値上は大きく感じるものの、ブランド側が言うように本当に重要なことは数字だけでは分からないのだ。角度の急なラグからラグまでの縦のサイズが比較的短い44.8mmである本機は、手首の上では41mmの時計に近いサイズ感である。これは普段42mmが限界だと感じる人にも対応する時計だと思う。白文字盤ながら本機は、手首の上で大きすぎたり気になるような感じはしなかった。
私は、これまでシーマスター プラネットオーシャン 600Mの実機を試してみることはほとんど無かったけれど、この時計の品質の高さには本当に驚かされた。つまり、私が欠陥や何かを期待していたと言っているのではなく―結局のところこれはオメガなのだから―この時計が時計工学的に本当によくできた作品であると言わなければならない。確かな重厚感は品質を示す簡単なサインではあるものの、それ以上に深いものがあるのだ。ケースの面取りや曲面、サテンとポリッシュ仕上げを組み合わせた表面は、実際に観察してみると本当に素晴らしいものだった。ベゼルは、セラミックの一形態ではあるが(それについての詳細は後述)、ロレックスがセラクロムベゼルでもっているような光沢(ギラギラしたような)は無かった。
文字盤のディテールも同様に印象的だ。アラビア数字は際立った立体感がある。文字盤の向きを変えると新たな視点が生まれて面白い。これは数字自体の大きさと関係があるのだと思う。文字盤が大きく、それに合わせて数字を大きくするのは簡単だったのではないかと思うかもしれないが、そうではない。実際には文字盤の残りの部分と比較して非常に控えめだが、これが機能するのは、メインではなく赤いアクセントとして成り立っているからだ。
先程も述べたように、この白文字盤は手首に装着しても膨張した感じはなく、むしろ視認性を高める目的を果たしている。赤い数字と赤い分針、そしてアワーマーカーと針を囲う厚いブルーのカラーリングによって、時間を確認するのは呼吸をするのと同じくらい容易だった。私はヨットマンではないが(テレビではヨットマンを演じている)、このような視認性の高さは、エリートクラスのヨット競技には欠かせないものだと言わざるを得ない。
白い文字盤にもちょっとしたクセがあった。光の加減によって、滑らかなラッカーのような質感に見えたり、銀色のメタリックなサンバーストのようにも見えるのだ。オメガの文字とロゴは両方ともブルーで塗られており、数字と同じ立体感をもつため、直射日光の下ではブルーがキラキラと輝く。必ずしも光ったり反射したりするわけではなく、夢のような輝きを放っている。
ダイヤルは要素自体は多いものの、非常に意図的な方法で作られている。本当に余計なものは何もなく、それぞれの構成要素がデザイン観点から相互に作用している。台形のインデックスは、白、夜光とブルーで囲われている(光の加減でキラキラと輝く)が、12、3、6、9時位置のインデックスは四角い形をしている、それぞれのインデックスは中央に向かって凹んでおり、この時計の難解でシンプルな側面に幾何学的なディテールが施されている。日付表示は、愛好家の間では常に議論の的になっているが、私にはこの時計では上手く機能しているように感じた。アラビア数字の大きさに話を戻すと、日付表示窓の表面積は、数字と全く同じスペースを占めているように見える。そうすることで、全体のレイアウトは対称性と一貫性を維持している。日付ディスクの数字を赤にしたり、ルーレット風にしたりしたら良かったかな? もちろん、この時計でそれらは上手く作用するだろうとは思う。
ケースは、ステンレススティールとZrO2ブルーセラミックから作られている。オメガの他の時計と同様に、文字盤に印字された「プロフェッショナル」の文字のすぐ下には、セラミック化合物の控えめな区分けが見られる。ベゼルも同様に、ポリッシュ仕上げのブルーセラミックに、ダイビングスケール用の白と赤の液体セラミックが埋め込まれている。
ちなみに、ベゼルの赤い部分は5分カウントダウンを示している。12時位置には伝統的な夜光のポイントがあり、これにはグリーンのスーパールミノバを塗布。ベゼルの色は、光の加減によって鮮やかさが増し、ロレックスのような超光沢感のあるベゼルとは異なり、より液状感のある印象を与えてくれる。ベゼルには、アメリカズカップやヨットレースの計時に固有の白、赤、開始マークが配されている。 ベゼルのタイミング刻印には目立たない質感があるが、ほとんど全てがベゼル全体と揃っている。
この時計はもちろん、オメガのコーアクシャル クロノメーターキャリバー8900を搭載している。自動巻きで耐磁性(1万5000ガウスまで)をもったマスター クロノメーター認定ムーブメントだ。しかし、それだけではない。オメガはこれまでにもコーアクシャルムーブメントを搭載したプロフェッショナルウォッチを発表してきたが、本機の価格は見逃せないものだ。最初にかの有名なジョージ・ダニエルズが開発したコーアクシャル脱進機を利用して、シリコン製ヒゲゼンマイとフリースプラングテンプを備えている。この価格帯で同様の時計を見つけるのは非常に難しく、大抵大幅に価格が超えてしまうだろう。
さらに特筆すべきはその正確さだ。ムーブメントがクロノメーター認定済みということもあるが、それだけではない。オメガのムーブメントは、より厳格なMETAS認証プロセスを追加で経ている。これらのムーブメントが本当に優れており、ハイウォッチメイキングの観点からも非常に正確であるということも意味する。
私はコーアクシャルムーブメントをチェックするのを楽しみにしていたのだが、裏蓋の装飾がそれを覆い隠している。第36回アメリカズカップ、オークランド 2021のトロフィーをモチーフにした波を連想させるブルーのスクリーンがあり、その下にあるムーブメントを楽しむチャンスが削がれている。ある意味ではそれは相応しい。ツールウォッチは一般的にシースルーバックをもつべきではないと思うが、これはある意味でハイブリッドなのだ。意図したものかどうかは分からないが、私はそう考えている。そうはいっても、ローターが回転している様子だけは見えるだろう。
もっとエンジニアリング的な側面に移ろう。この時計には、オメガのツイントリガー デプロイヤント クラスプが付属する。私はこれはかなり使いやすく感じた。何も考えることなく時計の着脱ができるだろう。ストラップは、クラスプの下をスライドするだけで好みのサイズに、箱から出してすぐに調整ができる。バックルを留めたときに偶然開いたりすることがないと分かるよう、カチッと確かなクリックがある。ツイントリガーのつまみの部分の鏡面仕上げを除き、全てサテン仕上げが施されている。
ストラップは、柔らかな質感のラバー製だ。このラバーストラップは、思い出せる限り最も着け心地の良いものとまでは言わないが、非常に快適だった。白い編込みのステッチ模様が入っている。サイズが適切であれば、手首にぴったりとフィットするしなやかさだ。先述の通り確かに少し重くは感じるものの、デプロイヤントクラスプや柔らかいストラップとサイズ変更の容易さが相まって、手首の中心をうまく捉えることができる。
サイズに関しては、―特にサイズが適切にあっている場合は―手首の上で重さが消えたかのような感覚だ。文字盤の直径にも関わらずラグ幅が短いためにこのような予想外のフィット感を得られたのではないかと考える。この時計は、普段42mmサイズが限界と感じる私の手首にぴたりとフィットした。厚さも問題はなかった。確かに厚みのあるケースではあるものの、ケースの面取り、ベベル、仕上げによってそれほど厚さを感じさせなかったのだ。ヘリウムエスケープバルブも厚さを隠すのに役立っている。
この種の時計、つまりダイビングや水に接するような時計では、あまり白文字盤というのは見かけないため、それがどれほど楽しいものなのか全く予想していなかった。そして、楽しさと意外性はそこにとどまらなかった。オメガがマルチカラーの夜光を時計によく使うは知っていたが、この時計では見た目の美しさを維持しつつ、形よりも機能を重視したデザインになっているのが本当に印象的だった。前述したように、ベゼル上の夜光ポイントは、グリーンのスーパールミノバで処理されている。分針もそうだ。これらはヨット競技のタイミング的観点から見ると、2つの最も重要な側面である。一方向回転ベゼルは、その設定された開始点からベゼルに沿って時間を追跡する分針の経過をユーザーに知らせてくれる。オメガは、時針と秒針を含むマーカーの残りの部分をブルーで処理し、光の少ない環境下で緑のマーカーを容易に識別できるようにしたのだ。これもまた難解なディテールではあるが、詳しい人にとっては、よく考え抜かれた、そしてよく実装された機能だといえる。
全体的にこの時計は戦車のように作られている。装着してしばらく使ってみて、一貫して思ったことは、この時計は非常に頑丈で長持ちするように作られているということだ。また、この時計には多くの機能が搭載されているが、驚くべきことに、その全てが首尾一貫して機能しているのである。オメガは、ヨットライフのためのワイルドでカラフルなデザインを提供し、それらはある種の擬似的な気まぐれでありながら、目的のために作られており、とても使い勝手が良い。
この時計が本当に輝くのは屋外である。白はより鮮やかに、青はより青く、赤はより豊かに映える。このデザインは、オメガの通常LINEにも採用して欲しいと思えるものだ。なぜなら、このカラースキームは既に成功を収めているからだ(そこのGMTペプシファンにぜひ聞いてみてほしい)。まあ、私は来年エミレーツ チーム・ニュージーランドに同行しないかもしれないが、この時計はそうなるわけだ。 私が観察した限りでは、本機は航海のための忠実な相棒となると思う。
オメガ シーマスター プラネットオーシャン 36th アメリカズカップ エディション Ref. 215.32.43.21.04.001。ステンレススティールとブルーセラミックを採用した43.5mm x 16.04mmのケース。自社製コーアクシャル マスター クロノメーターキャリバー8900(3.5Hz、39石、60時間パワーリザーブ)を搭載。白文字盤にアプライドで夜光を塗布したインデックス、針とプロット。600mの防水性能。SS製のフォールディングクラスプが付いた、質感のある青と赤のラバーストラップ。価格は、75万円(税抜)。詳細はオメガ公式サイトへ。