我々が知っていること
エナメルダイヤルを備えた新作デイトナや、多彩なオイスター パーペチュアルの新作群と並んで、ロレックスはプロフェッショナルラインのなかでもとりわけ個性的でニッチな存在だったヨットマスター IIを復活させた。2007年にホワイトゴールドとイエローゴールドでデビューしたこのモデルは、今回まったく新しい世代へと生まれ変わり、スティールまたはイエローゴールドで登場する。セーリングに特化した機能はそのままに、操作系を全面的に見直し、レガッタのスタート計時というこのモデルならではの機能もあらためて磨き上げられている。
これまでヨットマスター IIにあまり注目してこなかった人のために、まずはこのモデルの近年の歩みを簡単に振り返っておこう。前述のとおり、ヨットマスター IIは2007年に登場し、2024年に完全に生産終了となった。そのあいだに展開されたのは、イエローゴールド(Ref.116688)、プラチナベゼルを備えたホワイトゴールド(Ref.116689)、ツートーンのロレゾール(Ref.116681)、そしてスティール(Ref.116680)の各モデルである。いずれもケース径は44mmで、明るいホワイトダイヤルを採用している。
搭載ムーブメントはCal.4160からCal.4161へと進化したが、機能の核となる部分はいわばフライバッククロノグラフをベースにした発展形と考えていい。この機能は、驚くほど用途が絞られている。というのも、ヨットマスター IIという時計の存在意義そのものが、レガッタ、つまりボートレースのスタートを計時することにあるからだ。搭載されるクロノグラフムーブメントには改良が加えられ、最長10分まで設定できるプログラム式のカウントダウン機能を備えている。ここでいう“プログラム式”とは、レースや艇の状況に応じて、1分から10分までのあいだでカウントダウンタイマーを設定できる、という意味である。
マイナーチェンジ前のRef.116688。ブルーのバトン針を備え、12時位置のマーカーは三角形ではなくスクエア型となっている。
こうした機能、あるいはそもそもレガッタタイマーのようなものをなぜ必要とする人がいるのかを理解するために(ちなみにレガッタタイマーは20世紀半ば以降、多くのブランドが手がけてきた)、まずはレガッタのスタートがどのように行われるのかを、ごく簡単に説明しておこう。セーリングレースでは、いわゆる“フライングスタート”方式が採用されており、レース開始は通常ホーンなどの合図によって知らされる。スタートまでの猶予は5〜10分程度で、そのあいだに艇をしっかり加速させ、レース開始の瞬間にちょうどスタートラインを通過するのが理想となる。最初の警告信号(ホーンや旗)でこのプロセスが始まり、その後、各艇はカウントダウンがゼロになる瞬間にぴたりとスタートラインを横切れるよう、有利なポジション取りを競う。レガッタタイマーが存在する理由はまさにここにあり、多くの場合、短時間のカウントダウンを高い視認性で表示できるよう設計されているのもそのためである。
先代モデルでは(見方によっては2世代分とも言える。ロレックスはヨットマスター IIの初期展開期間中にいくつか改良を加えながらも、リファレンスナンバーは変更しなかった)、ヨットマスター IIの機能は“リングコマンドベゼル”に大きく依存していた。ベゼルを反時計回りに90度回すことでカウントダウンのプログラム設定が可能であり、その設定はリューズで行う仕組みとなっている。必要な分数を選んだら、リューズをねじ込み、ベゼルを元の位置に戻すことで、カウントダウン機能の準備が完了する。2時位置のプッシャーでカウントダウンをスタート/ストップし、4時位置のプッシャーであらかじめ設定しておいた時間にリセットする、という流れだ。ただ、この操作体系はかなり複雑で、その場で素早く設定を変更することもできない。加えて、リングコマンドによる制御は機構面でも相当な複雑さを伴っていた。
新たに発表された第2世代のヨットマスター IIは、オイスタースティール(Ref.126680)と18Kイエローゴールド(Ref.126688)で展開される。先代が備えていた機能を根本から見直し、シンプルさ、視認性、そして柔軟性に重きを置いて再構築されたモデルだ。ケースサイズは従来どおり44mm、厚さは13.9mmで、防水性能は10気圧。いずれのモデルにもロレックス製のCal.4162が搭載される。これはコラムホイールと垂直クラッチを備えた自動巻きクロノグラフムーブメントで、振動数は2万8800振動/時、パワーリザーブは72時間である。
今世代で大きく変わったのは、リングコマンド機構が廃されたことだ。ベゼルはブルーのセラクロム製による標準的な両方向回転式タイミングベゼルとなり、レガッタタイミング機能には新たにプッシャー主体の操作系が採用された。下側のプッシャーでカウントダウンの長さを設定し、その設定はGMT針のような第4の針と、0〜10の目盛りを刻んだ見返し部分で表示される。1回押すごとに1分ずつ加算され、最終的に選んだ時間がムーブメントに記憶される仕組みだ。この点は先代と共通している。上側のプッシャーでカウントダウンを開始するのだが、ここで興味深いのは、センターの秒針が反時計回りに動く点である。これはカウントダウン最後の30秒をより直感的に読み取りやすくするための工夫だ。さらに注目すべきなのは、カウントがゼロに達したあとも、機能をリセットするまで秒針がそのまま逆回転を続けること。実際にヨットレースをしていないときでも楽しめる、ちょっとしたギミックと言える。
レース運営側から出される合図に対して、何らかの理由でカウントにずれが生じた場合には、カウントダウン作動中に下側のプッシャーを押すことで、秒と分を最も近い1分単位に補正できる。必要に応じて、カウントダウンは上側のプッシャーで停止し、その後下側のプッシャーでリセットすることも可能だ。
要するに、これが2026年世代の新しいヨットマスター IIの機能と基本仕様であり、より詳しいスペックやディテールは以下で確認できる。価格はスティールモデルが300万5200円(税込)から、イエローゴールドモデルは857万5600円(税込)となる。
我々の考え
ヨットマスター IIは過去も現在も、プロフェッショナルラインのなかではどこか異質な存在であり続けてきた。たしかに、サブマリーナーだって実際にはダイバーではないオーナーが大半なのだから、オーバースペックな時計だと言えなくもない。では、ヨットレースのためだけに設計された、あの過剰なまでに作り込まれた大ぶりで複雑な1本を、ロレックスのラインナップのなかでどう位置づければいいのだろうか。とはいえ、本作は単なる変わり種ではない。きわめて限定的な用途から機能が導き出された、れっきとしたツールウォッチでもあるのだ。ロレックスが現在も世界各地のレガッタに関わり続けていること(たとえばSailGPへの協賛についてはアンディの記事が詳しい)をその前触れと見ることもできなくはないが、それを差し引いても、ヨットマスター IIの復活はほとんど予想外だったと言っていい。
もっとも、評価すべき点はきちんと評価すべきだろう。ロレックスは、この新世代のヨットマスター IIを決しておざなりには仕上げていない。新ムーブメントは先代の機能をしっかりと前進させているし、秒針が逆回転するのを目にしたときには、僕も思わず5歳児みたいに笑ってしまった。
ホイヤーの古いモデルやメモセイルから、シーマスター、ブレモン、パネライにいたるまで、レガッタタイマーはつねに、きわめて限定的な用途に根差しながらも、遊び心や軽やかさ、そして色気を備えた存在だった。そして今回の新しいヨットマスター IIは、設定が簡単になったことで、なにもレガッタのスタートだけに使う必要はない。ほかの何かのカウントダウンに使ってもいいわけだ。極端な話、5分炊きのインスタントライスでその実力を試してみるのも悪くない。
基本情報
ブランド: ロレックス(Rolex)
モデル名: ヨットマスター II
型番: Ref.126680 (オイスタースチール)、Ref.126688 (18Kイエローゴールド)
直径: 44mm
厚さ: 13.9mm
ケース素材: オイスタースチール、もしくは18Kイエローゴールド
文字盤色: マットホワイト
インデックス: アプライド、夜光
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ケースと同素材のスティールまたはゴールドによるフルオイスター ブレスレットを備え、センターリンクはポリッシュ仕上げ。クラスプはイージーリンクによる5mm幅エクステンション機構付きのオイスターロッククラスプ
ムーブメント情報
キャリバー: ロレックス製 4162
機能: 時・分表示、スモールセコンド表示に加え、反時計回りに進むセンター秒針表示を備えたレガッタタイマーと、調整可能な10分カウントダウン機能を搭載
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 47
クロノメーター認定: クロノメーター認定を取得、さらにケーシング後にロレックス 高精度クロノメーター認定も受けている
追加情報: 耐磁性に優れたブルー パラクロム・ヘアスプリング、ロレックス独自のオーバーコイルを備えたヒゲゼンマイ、大型の可変慣性テンプ、4つのゴールド製マイクロステラナットによる高精度調速機構、両端支持のバランスブリッジ、そしてパラフレックス ショック・アブソーバーを備える
価格 & 発売時期
価格: スティールモデル 300万5200円/イエローゴールドモデル 857万5600円(すべて税込)
詳細はこちらから
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