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Business News なぜロレックスはセイルGPでレーススポンサーを強化するのか

タイトルパートナーとなったのち、ロレックスがジュネーブで初めてセイルGPイベントを開催した。

風が荒々しくないある日の午後、ジュネーブの湖で、全長50フィート(約15.2m)近くある最先端のカタマラン12隻が、位置取りを競い、突風を探していた。その目的は、巨大なカーボンファイバー製の船体を水面から浮上させることだ。薄い水中翼に乗り、風を受けて空中に舞い上がったこれらの数百万ドル(数億円)もするマシンは、時速100km(約60mph)を超えるスピードを出すことができる。この日の穏やかなコンディションでも、彼らはその半分ほどの速度に迫り、レマン湖の水面をジャイブとタックを繰り返しながら、最も速度が出るコースと最適なラインを探していた。

 8000人を超える観客が岸辺に特別に設置された仮設スタジアムから、大音量の音楽、データスクリーン、そしてレースの実況解説を聞きながら、短くスピーディなレースヒートのなかで船員たちのポジションの変化を追い、声援を送る。各ボートは異なる国と、少なくともひとりの女性を含むクルーを代表している。トリムされたセイルが力強く張りきると、各チームのシーズン予算1000万ドル(日本円で約15億円)を賄うスポンサーロゴがはっきりと浮かび上がる。そしてどのボートのメインセイルの最上部にも、スイス最大の時計ブランドである王冠ロゴとブランド名が堂々と配置されている。

 ジュネーブでのロレックス スイス セイル グランプリ(Rolex Switzerland Sail Grand Prix)。Photo courtesy of SailGP

 ロレックス スイス セイル グランプリ(Rolex Switzerland Sail Grand Prix)へようこそ。この小さなスイスの都市にとって主要なスポーツイベントであると同時に、レースシリーズの新しいタイトルパートナーにとっては、ある種の凱旋でもある。ロレックスにとって、2025年のセイルGPにおけるトップブランドパートナーシップは、ここ数年で最も重要な新しいスポーツスポンサーシップへのコミットメントを意味する。リーグに多大な財政的・ブランド的重みを与えることで、ロレックスはまた、スポーツ、そして各分野のトップ選手との長きにわたる関係が進化するなかで、今後どのようなイベントやアスリートと結びつきたいと考えているのかを示唆している。

 「彼らのサポートはかけがえのないものです」とセイルGPのマネージングディレクター、アンドリュー・トンプソン(Andrew Thompson)氏は言う。「ロレックスのような名声を持つブランドと肩を並べることで、私たちのブランドは真に高められました。そして私たちのブランドが彼らのブランドと対等になるよう、私たちに挑戦を課し続けているのです」と彼は語る。

 ロレックスは、これまでどのようなスポーツやアスリートと提携するかについて、きわめて厳格な姿勢を貫いてきた。マーケティングやスポンサーシップに関しては、同ブランドは歴史的に、テニス、ゴルフ、モータースポーツ、馬術、セーリングのわずか5つの組織化されたスポーツに限定してきたのだ。セイリングとの歴史は1958年にさかのぼり、ニューヨークヨットクラブとの継続的なパートナーシップから始まった。以来、ロレックスは支援者であり続けている。だがセイルGPはセイリングの知名度を高め、従来の堅苦しいヨットクラブという枠組みを超え、より多くの人々に広めることを目的とした、新しい種類のウィンドパワーレースなのだ。

 セイルGPは、これまでのレースシリーズとはひと味違うことを目指している。今年ロレックスが公式タイムキーピングスポンサーの座から退き、LVMHが10年間で10億ドル(日本円で約1500億円)の価値があるとされるトップモータースポーツレースシリーズと複数ブランド契約を結んだF1とは異なり、セイルGPは各チームにとってより公平な競争の場を創造することを目指しているのだ。同一のボート、すべてのチームによって生成されたすべての電子データへの均等なアクセス、そして資金力に頼った技術や才能の軍拡競争を避けるための支出上限を設けることで、セイルGPは最も懐の深いチームではなく、最高のセイラー、戦略家、戦術家に報いることを目指していると述べている。

 また、根本的に男女混合であることも特徴だ。すべてのチームには少なくともひとりの女性クルーが含まれている。史上最も成功したセイラーのひとりであり、オリンピックで2度金メダルを獲得したハナ・ミルズ(Hannah Mills)は、エミレーツGBRチームのストラテジストを務めている。彼女は2022年からロレックスのテスティモニーでもあり、これまでに2度、ロレックス ワールドセイラー・オブ・ザ・イヤー(Rolex World Sailor of the Year)に選ばれている。

 「グローバルスポーツにおいて、そして今のセイルGPにとっても、ロレックスがパートナーであることほど象徴的なことはありません」と、オイスターフレックス ブレスレット付きのロレックス ヨットマスター 37を着用したミルズは語る。「私たちセイラーにとって、ロレックスのようなブランドから私たちのスポーツが認められることはきわめて大きな意味を持ちます」と彼女は付け加えた。

ハナ・ミルズ、エミレーツGBR セールGP チームのストラテジスト。Photo courtesy of Rolex

 オリンピックで2度金メダルを獲得したマルティネ・グラエル(Martine Grael)も、ムバダラ ブラジルチームのドライバーであり、もうひとりのロレックスのテスティモニーだ。彼女は6月にニューヨークで行われた艦隊レースでクルーを勝利に導き、セイルGP史上初の女性ドライバーとなり、同シリーズで初めてレースに勝利した。ジュネーブのアカシアにあるロレックス本社でのインタビューで、グラエルはレースシリーズのデータ共有という側面が明確なイコライザー(平等化装置)であると語った。

 「私のバックグラウンドは主にオリンピックセイリングです。そこで最も大変なのは役立つデータを手に入れること。しかし、ここでは自分のデータをすべて見ることができ、ほかのチームと比較して彼らがどのようにパフォーマンスしているかを見ることができます」と、22歳という若さで2014年のロレックス ワールドセイラー・オブ・ザ・イヤー(Rolex World Sailor of the Year)に選ばれたグラエルは語る。「私たちはとても多くのことを学びました」と彼女は付け加えた。

マルティーニ・グラエル、ブラジル セールGP チームのドライバー。Photo courtesy of Rolex

 セイルGPは、米国のテクノロジー界の億万長者ラリー・エリソン(Larry Ellison)氏の着想と情熱から生まれたプロジェクトだ。彼は世界で最も裕福な人物のひとりで、2010年と2013年にオラクル・チームUSA(Oracle Team USA)としてアメリカズカップ(America's Cup)で優勝したことで、長年にわたりセイリング界の著名な支援者として知られている。オラクルの共同創業者であり、会長兼最高技術責任者(CTO)である彼は、セイルGPの過半数の株式を所有している(エンターテインメントグループのエンデバーが少数株主)。そしてこのイベントを、ニュージーランドの元世界チャンピオンのヨットマンで、アメリカズカップ優勝スキッパー、そして金メダリストのラッセル・クーツ(Russell Coutts)氏と共に設立した。クーツ氏は現在、セールGPの最高経営責任者を務めている。2019年に6チームによる5レースのイベントシリーズとして始まったこのイベントは、2025年には12の国を代表する12のクルーが、5大陸で12のレースを繰り広げ、賞金総額は1200万ドル(日本円で約18億円)を超えている。

 チームのライセンスは個人、投資家グループ、企業が所有している。そのなかにはジュネーブを拠点とする商品取引の億万長者トルビョルン・トルンクビスト(Törbjorn Törnqvist)氏のような人物も含まれており、彼の率いるスウェーデン代表のアルテミス レーシングは来年リーグに加わる予定だ。国際的なサッカーと同じように、俳優のヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)やライアン・レイノルズ(Ryan Reynolds)といった著名人もチームオーナーになりつつあり、彼らは今年、オリンピック金メダリストでロレックスのテスティモニーでもあるトム・スリングスビー(Tom Slingsby)が共同オーナー兼キャプテンを務める、オーストラリアのボンド フライング ルース(Bond Flying Roos)に共同オーナーとして参加した。このスポーツは費用がかかるため、各チームのボートとクルーにかける年間支出は現在1000万ドル(日本円で約15億円)に制限されている。

 チームはスポンサーシップ、グッズ販売、ファンとのエンゲージメントを通じて収益を上げている。放映権料の一部を共有しており、レースはフランスのCANAL+ Sport、ドイツの第2ドイツテレビ(ZDF)、米国のCBSスポーツなど200以上の地域でパートナーチャンネルを通じて放映されている。スポンサー契約の価値が高まるにつれて、いくつかのチームは収益を上げているものの、多くのチームは依然として赤字の状態だ。トンプソン氏によると、新しいオーナーへのチームの売却額は5000万ドル(日本円で約75億円)を超えるまでになっているという。

 セールGPのレースを開催するには多額の費用がかかり、ジュネーブでのイベントにかかる推定費用は約500万ドル(日本円で約7億5000万円)。しかしトンプソン氏は、この週末のレースシリーズは数千人の観客やセールGPのスタッフ、市内の関係者を通じて、ジュネーブに約2500万ドル(日本円で約37億5000万円)の経済効果をもたらすと予想されていると語る。ロレックスはイベント全体を通じて強く存在感を示しており、公式レース名やブランドのロゴが会場全体に、さらにはレースコースを点在させている電動モーターで動くブイを介して水上にも散りばめられていた。

 このレースを本拠地で開催する上で、ロレックスは重要な役割を担った。「彼らは私たちのために紹介してくれましたし、ロンドンに拠点を置く私たちよりもジュネーブでの人脈を多く持っています。ですから、こちらの当局と議論する扉を開いてくれたのです」と、セイルGPのマネージングディレクターであるトンプソン氏は語る。

レマン湖でのセイルGP。

 賞は最も速いボートだけに与えられるわけではない。セイルGPにはインパクトリーグと呼ばれるユニークな並行競技があり、CO2排出量の削減、再生可能エネルギー源の活用、そしてあらゆる年齢、ジェンダー、所得層にセイリングというスポーツをより身近なものにするためのプログラムやイニシアチブの推進において、優れたチームに報いるものだ。「この競争で最下位になることを望む者はいません」と、インパクトリーグや、そのほかのサステナビリティ、環境、インクルーシブに関するイニシアチブを担当するセイルGPの最高目的責任者フィオナ・モーガン(Fiona Morgan)氏は語る。

フィオナ・モーガン氏、セイルGP 最高目的責任者。

 日曜日の決勝レースではドイツ銀行のクルーが圧倒的な勝利を収め、今シーズン初の優勝を飾った。開催国スイスは3位、オーストラリアのボンド フライング ルース(Bond Flying Roos)は2位に入賞。オーストラリアチームは表彰台に上がったことで、今シーズン残り2レースを残して総合順位で首位に躍り出た。

 レース中、チームCEOで共同オーナー、さらにドライバーでもあるトム・スリングスビー(Tom Slingsby)は、チタン製のロレックス ヨットマスター 42を腕に着けていた。これは彼が以前、セールGPシーズンで優勝した際に授与されたものだ。彼は自分の時計について聞かれると、「この時計なしで外に出ることは決してありません」と答えた。「レースで水上にいるときも、ジムに行くときも、ディナーの席でも、どこへ行くにも着けています。この時計を1日24時間、週7日着けているんです。完璧なのです」。

ト ム・スリングスビー(左)、ハナ・ミルズ(中央)、スイス代表のセバスチャン・シュナイター(右)。Photo courtesy of SailGP

 セイルGPリーグは来年さらに多くのチームやイベントで拡大する予定だが、2026年のカレンダーにジュネーブの名はない。しかし、タイトルパートナーの地元であるこの湖でのデビューが成功裏に終わったことを受け、多くの人々がジュネーブへの再来を期待している。「本当にまた戻ってきたいですね」と語るのはスイスチームのドライバー、セバスチャン・シュナイター(Sébastien Schneiter)。「正直なところ、誰もが戻ってきたいと思っているはずです」と語った。