ADVERTISEMENT
Photos by James Stacey
チューダーはロレックスにできないこと、あるいはやらないことをやるために存在しているというのが一般的な認識である。しかし、ロレックスが絵文字の時計からチタン製のヨットマスターまでやっている現在、チューダーにはどんな手が残されているだろうか?
信頼性の高い丈夫な時計をつくるという基本に労力を投じつつ、騒ぎ立てないこと。これこそオールドスクールかつ、ずっと変わらないロレックスならではのやり方である。そしてそれこそがチューダーがアップデートを施したブラックベイ マスター クロノメーターなのだ。パッと見た感じ、この新しいワインレッドのブラックベイは、同様のベゼルインサートに同じケース直径、そして見覚えのある文字盤と時・分・秒針など、2012年に発売されたオリジナルのワインレッドのブラックベイによく似ている。そして先週、チューダーがオリジナルのワインレッドのブラックベイを改良したという発表を見たとき、それがチューダー最初のリリースとして目に留まったわけではなく、37mmの新しいダイバーズウォッチやオパラインダイヤル GMTのほうを先にカバーするべきだと思った。
しかし、新しいワインレッドのブラックベイを手にしてみて、ル・ロックルにあるチューダーの新しい製造拠点に関する詳しい話を聞いてみると、これこそが今年最大のチューダーのリリースのひとつであることが明らかになったのだ。チューダーは、同社の最もメジャーな最新ウォッチをマスタークロノメーターにすることに成功し、同時に、よりつけやすいものにしたのだ!
小さな進化が、よりよいブラックベイをつくる
METAS認証。それがチューダーにとってどのような意味を持つのか深堀りする前に、ワインレッドのブラックベイのほかのアップデートについて見ていこう。まず前世代よりも0.8mm薄くなり、13.6mmの厚さとなった。ブラックベイ 58を愛用している私の小柄な手首であっても、ワインレッドのブラックベイを快適に身につけることができる。
この素晴らしい着用感の背景には、既存のオイスタースタイルよりも手首にフィットする新しい5連リンク(ジュビリーとは呼ばない!)ブレスレットの存在がある。チューダーでは現在もオイスタースタイルのブレスレットや、ワインレッドのブラックベイに合わせたラバーストラップが用意されているが、新しい5連リンクのほうをぜひともおすすめしたい。21mmから16mmへのテーパード(徐々に細くなること)、フェイクリベットじゃない仕様、見た目も使い勝手も、すべてにおいて優れている。さらにチューダーのクラスプには“T-fit”が採用されている(納得いただけただろうか?)
チューダーはアップデートしたワインレッド ブラックベイの文字盤も手を加えている。新しい自社製ブラックベイ31/36/39/41のラインナップと同様、マット仕上げからサンバースト仕上げへ変更。光を受けると文字盤の色味がより豊かになって、さらに文字盤に施された金色のアクセントもより自然に見えるようになった。また地味な部分だが時・分・秒針もアップデートされている。最も注目すべきはロリポップ秒針だ。ただスノーフレークの時針と、あまりうまくマッチしていないという意見も挙げられるディテールでもある。しかし私はロリポップ秒針が大好きなため、それが本当にマッチしているか、またロリポップとスノーフレークを組み合わせた過去の前例があるかどうかは気にしていない。
さらにブランドはベゼルのエッジ部分もリニューアル。ブラックベイラインが持つ伝統的なコインエッジに比べ、より強調されたローレットエッジとなっている。ワインレッドのブラックベイは、ヴィンテージのチューダーサブのような、伝統的なツールウォッチの雰囲気を醸し出しているように感じる。またオリジナルのブラックベイでおなじみである、黒いクラウンチューブも廃止された。METAS認証の取得、以上の変更が加えられたことで、新しいブラックベイは多くの人が待ち望んでいた高性能かつモダンなチューダーダイバーに昇華したのである。
これらの変化がもたらす純然たる効果は、ブラックベイを手に取って腕に巻いたとき(もう一度。できればジュビリーブレスレットと呼ばないで!)、自分が何を手に入れたかを嚙みしめられることだろう。“そうそう、これがブラックベイだ。何年も前から何十回も試着しているよ”と静かに考え込んでいたら、“ああ、今のはいいね”とすぐに思えた。一切なじみのないものではなく、なじみのある時計を少しよくして、より身につけやすくしたものだったのだ。
ブラックベイ マスタークロノメーターが起こすこれからの前兆
これでようやく、文字盤6時位置にある“Master Chronometer”の文字までたどり着いた。ロレックスとチューダーの文字盤にしては意外にも簡素なデザインだが、この2行が多くを物語っていることには違いない。2021年にブラックベイ セラミックを発表して以来、チューダーにとってふたつ目のマスタークロノメーター認定モデルであり、チューダーからすればこれから起こるすべてのラインナップの方向性を示している。チューダーは先月、ル・ロックルに新施設を作ったことを正式に発表し、以降すべての時計をここで生産するとしている(この件に関しては今週末にジェームズが詳しく説明してくれる)。これにより今後チューダーの時計は、すべて自社製ムーブメントを搭載することになる。
チューダーの新しい施設はブランドが2015年に設立したムーブメント製造会社であるケニッシ社と連携して運営していく。今後チューダーのムーブメントはすべてル・ロックルの新施設で製造されていくそうだ。なおこの施設にはMETASの試験設備も備えている。ブランドは近い将来すべての時計をMETAS認定のマスタークロノメーターモデルにすることを目標としていると考えていいだろう。
まずMETAS認証は、ケースシングしたあと、日差0/+5秒の精度を維持するCOSC認定ムーブメントから始まる(これに関して、昨年チューダーのマスタークロノメーターラボを取材した際にお伝えしている)。その後、防水性、耐磁性、パワーリザーブなどの一連のテストを実施したのち、時計が完成する。それは1万5000ガウスの耐磁性、200mの防水性、ふたつの温度、6つのポジション、2段階のパワーリザーブ(100%と33%)でこの精度を実現しているということだ。
ブラックベイ ワインレッドのなかには、チューダーによるMETAS認定マニュファクチュールCal.MT5602-Uが搭載されている。チューダーは別の時計にもMETAS認証を導入してさらにその先の未来を予感させることで、現在マスタークロノメーターを大規模で生産している唯一のブランドであるオメガをほぼ完全にターゲットにしている。さらに価格もある程度それが反映されている。マスタークロノメーターでないブラックベイは51万8100円(税込)、バーガンディ以外のベゼルカラーも引き続き用意している。そして新しいバーガンディブラックベイは57万2000円(税込)で提供される(参考までに、シーマスター 300Mは税込で79万2000円だ)。
今のところ、この競争は消費者にとってプラスでしかないようだ。オメガとチューダーは機械式時計の精度と信頼性の新たな基準(と期待)を、さらに押し進めようとしている。1万5000ガウスの耐磁性と200mの防水性は本当に必要なのだろうか? ほとんどの場合、この回答はもちろんナシだ。ただオメガ、そして現在のチューダーがアンダー80万円で技術的な向上を追求し続けることはとても喜ばしいことである。