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伊勢丹新宿店 本館1階「ザ・ステージ」にて、2026年1月21日(水)〜27日(火)の7日間、プレコグ・スタヂオ代表の安藤夏樹さん(@a.natsuking)によるPOP UPイベント「プレコグのおもちゃ箱」が開催されます。会場となる「ザ・ステージ」は、通常はラグジュアリーブランドのPOP UPが中心のスペースです。そこに個人の企画として安藤さんが立つこと自体が、大きなトピックと言えます。
イベントに並ぶのは、安藤さんが約35年かけて蒐集してきたヴィンテージウォッチをはじめ、ヴィンテージ家具、工芸、北海道アート(木彫り熊など)、アーカイブファッションまで多岐にわたります。
ただし本企画の核は、単なる「私物放出」にあるわけではありません。編集者、ギャラリスト、そしてコレクターとして長年にわたり多様な“モノ”と向き合ってきた安藤夏樹さんが、「最も価値のある財産」と語るのは、それらを介して築かれてきた人間関係です。作家や世界各地のショップ、コレクターたちとの縁。その積み重ねによって、個人の蒐集だけでは決して揃えられない品々が、この場に一堂に会する点こそが、本企画の最大の特徴とであると思います。
プレコグのおもちゃ箱の意義
インタビューで印象的だったのは、現代が加速度的に「属人化」しているという安藤さんの実感です。情報があふれ、AIが整理や要約を担う時代において、情報そのものの価値は相対的に薄まっていきます。だからこそ問われるのは、「何が正しいか」よりも、「誰が何を選び、どう見立て、どう提示するのか」という点です。安藤さんは編集者の仕事を、嗅覚や選択眼を価値として提示する営みだと捉えています。
また、市場では「高い=良い」が加速しがちですが、安藤さんは高額であることが価値の証明になりすぎると、時計の面白さは狭いところに閉じてしまうと指摘されていました。今回のPOP UPは、そうした空気に風穴を開ける試みでもあるのではないでしょうか。
もっとも、本イベントが扱う領域は時計に限りません。ただし、僕たちは時計メディアである以上、やはり強く惹きつけられたのは時計という存在でした。安藤さんの編集的視点が、時計というプロダクトをどのように再解釈し、どんな文脈で提示するのか。その点に注目せずにはいられませんでした。
出合える時計の一例
ここからは、本イベントで販売される時計をいくつかをご紹介します。会場では日を追うごとに登場する時計のラインナップが変化していく予定だとのこと。足を運ぶたびに異なる出会いがあるという点もまた、安藤さんがこれまでに重ねてきた“出会いのプロセス”を、疑似体験するような感覚につながっているように思えます。
グランドセイコー ファースト プラチナ製ケース
初代グランドセイコーは1960年の誕生から約3年間のみ製造されたモデルで、その生産数自体が限られていました。そのなかでも、ごく一部にのみ存在するプラチナケース仕様は、静かな存在感を放つ特別な一本です。
初代グランドセイコーのほとんどは14金張りケースで作られましたが、このモデルにはプラチナケースが採用されています。長らく実在は知られつつも、市販の証拠が確認されていませんでしたが、2010年頃に1963年度版の定価表が発見され、当時14万円という価格で実際に販売されていたことが明らかになりました。これは同時代の金張りモデルと比べても、突出した高級品だったことを示しています。
製造本数はいまも不明で、公式にも「ごく少数のみ」とされています。さらにダイヤルやケース素材にいくつかのバリエーションが存在することも、このモデルをより謎めいた存在にしています。
安藤夏樹さんとの会話で印象的だったのが、ケースの「稜線」についての指摘でした。プラチナは柔らかく、研磨によってエッジが失われやすい素材です。今回出品される個体は、ラグやケースサイドの輪郭が明確に残っており、希少性だけでなく、コンディションの面でも際立った存在だと言えます。日本の高級時計づくりがどこを目指していたのか。その答えの一端を示してくれるのが、このプラチナケースのグランドセイコー ファーストです。
ジャガー・ルクルト ジオフィジックE168 イエロゴールド製、化粧箱付き
ヴィンテージのジャガー・ルクルトのなかで、個人的にいまだ過小評価されていると感じているモデルが、このジオフィジックです。昨年、僕が出張でパリを訪れた際、ヴィンテージウォッチを扱うショップでステンレススティールケースのジオフィジックを手に取る機会がありましたが、今回「プレコグのおもちゃ箱」に並ぶのは、さらに希少なイエローゴールドケースの個体です。
日本では、そもそもヴィンテージのジオフィジック自体が簡単に見られる存在ではありません。そのうえイエローゴールドケース、さらにオリジナルの化粧箱まで揃った個体となると、奇跡的と言っていいでしょう。
イエローゴールドケースのジオフィジックは、原子力潜水艦USSノーチラスの搭乗員に贈られた時計としても知られています。HODINKEE本国版では、2015年にウィリアム・R・アンダーソン司令官が実際に使用していたジオフィジックが発見された記事を掲載しました。式典を捉えたモノクロ写真からは、その時計がイエローゴールドであったことすら判別できず、後にそれが明らかになった際は話題となりました。
1958年12月16日に行われた式典の一幕。フレデリック・B・ウォーダー提督(中央)が、原子力潜水艦USSノーチラスの搭乗員であるウィリアム・R・アンダーソン司令官(右)と、J.F.カルバート司令官(左)に、ジャガー・ルクルトのジオフィジックを授与している。(Photo Courtesy: Watch ProSite)
安藤さんも、化粧箱の存在自体は写真資料から把握していたものの、実物を見るのはこの個体が初めてだったと語ります。時計単体の希少性に加え、このモデルがどのような文脈で生まれ、語られてきたのか。その背景を物語る資料とともに提示されることで、ジオフィジック E168は単なるヴィンテージウォッチを超えて歴史的な存在感が際立ちます。
ブライトリング 765 AVI "デジタル"
ブライトリング 765 AVI “デジタル”は、初見ではその正体を掴みにくい一本です。安藤さんも、最初に手にしたときは3時位置の表示が動かないことから、「カレンダーが壊れているのではないか」と感じたと言います。しかし裏蓋を開けてみると搭載されているムーブメントは、名機として知られるヴィーナス178。違和感を覚えながらクロノグラフを作動させ続けるうちに、3時位置に設けられた枠が日付表示ではなく、メカニカル・デジタル式の15分積算計であることに気づいたそうです。
一見すると誤解を誘うこの表示こそが、本モデル最大の魅力です。実際に触れ、動かし、考えることで初めてその仕組みが立ち上がってくる点に、安藤さんは強い興奮を覚えたといいます。
さらに興味深いのは、この時計の希少性を物語るエピソードです。安藤さんは過去に、ブライトリングに在籍するヴィンテージウォッチのエキスパートと話す機会があり、その人物もまた、この765 AVI “デジタル”を自身のコレクションとして所有していたそう。そして、そのエキスパートでさえも「他に所有している方にほとんど会ったことがない」と、当時語っていたとのことです。メーカー内部で長年ヴィンテージを見続けてきた人物の言葉として、非常に重みのある証言です。
知識だけでは辿り着けず、実際に触れ、動かし、考えることで初めて輪郭を現す本イベントの思想を象徴するような一本だと感じました。
オーデマ ピゲ懐中時計 Ref. 5710BA
1981年にわずか20個のみ製造された、ロイヤル オークのスケルトン懐中時計。伝説的デザイナー、ジェラルド・ジェンタによるロイヤル オークは、いまやオーデマ ピゲを象徴する存在ですが、その文脈はほとんどの場合、腕時計として語られてきました。だからこそ、このアイコンをあえて懐中時計として成立させた本作には、強い“異物感”があります。
この時計は、ロイヤル オーク初のオープンワークモデルとして1981年に登場したRef.5710で、後に35710と改称されることになります。搭載されるキャリバー5020SQは、厚さわずか1.9mmという極薄設計。オーデマ ピゲの時計師たちは、地板やブリッジを極限まで彫り抜き、歯車輪列やエスケープメント、バレルスプリングといった機構そのものを、積極的に見せる構成を選びました。
現代的なスケルトンの洗練というより、構造美をむき出しにしたような、どこかプリミティブな迫力が残されています。腕時計の常識から切り離されたことで、ロイヤル オークというデザインの強度が、かえって際立つ——その点に、この時計ならではの面白さがあると安藤さんは話します。
なお、本作は1981年から1989年にかけて販売され、総製造数は20本。うち16本が1981年に製造され、残りも数年に分けて散発的に作られたのみとされています。現存数はさらに限られている可能性が高く、実物に触れられる機会は極めて稀です。ロイヤル オークという完成されたアイコンの、最も実験的な一面を表している。その結晶とも言えるのが、このスケルトン懐中時計です。
セイコー 天文台クロノメーター、ゴールドブレス付き
世界を制したセイコーの金字塔として語られる天文台クロノメーターは、ただでさえ出合うことが難しい存在です。1968年、スイスの名高い天文台コンクールにおいてセイコーは上位を独占し、1968年から1970年にかけては、合計226個のムーブメントが天文台検定に合格しました。本作に搭載されているのは、そのひとつにあたるムーブメントであり、セイコーが世界的評価を決定的なものにした瞬間を体現する記念碑的モデルと言えるでしょう。現在では、特に海外のコレクターから熱心に探されている一本でもあります。
今回出品される個体がさらに特別なのは、ゴールドブレスレットを備えている点です。天文台クロノメーターは通常、レザーストラップで見かけることがほとんどですが、このブレスレットは当時、和光で別注されたものではないかと安藤さんは語ります。当時こうした天文台クロノメーターを購入できた限られた富裕層のなかには、「革ではなくブレスレットがいい」と考え、特別に注文する人々がいたそうです。機能や精度だけでなく、身につけたときの存在感までも含めて時計を選んでいた時代の空気が、この仕様からは伝わってきます。
さらに安藤さんは、この個体について、セイコーにオーバーホールを依頼しました。当時の天文台クロノメーターに求められていた基準は日差±1.5秒でしたが、本個体は現在、日差±1秒という水準で駆動しているそう。「それだけこの個体のムーブメントの状態が良かったのだと思います」と安藤さんは語ります。半世紀以上前に製造された機械式時計が、現代においてなおこの精度を実現しているという事実は、単なる数値以上の意味を持ちます。ここには、当時の技術力と、この個体が今日まで健全な状態を保ってきたことの両方が、はっきりと刻み込まれているのです。
セイコー 3820 V.F.A.
V.F.A.は「Very Fine Adjusted」の略で、セイコーが製造した時計のなかでも、選び抜かれた超高精度モデルにのみ与えられた称号です。時代を問わず、V.F.A.は常に特別な存在であり続けてきましたが、その思想が最も大胆なかたちで表出した例のひとつが、このクォーツ式3820 V.F.A.でしょう。
1972年の特選カタログに登場するプラチナモデルとイエローゴールドモデルは、ひと目でそれとわかるアイコニックなケース造形と、いわゆる“輝石ダイヤル”と呼ばれる石文字盤を特徴としています。当初は両モデルともタイガーアイダイヤルが採用されていましたが、1975年のカタログではラピスラズリへと仕様が変更されており、今回登場するプラチナケースの個体は、その後期仕様にあたるものと考えられます。
注目すべきは、その価格設定です。機械式の61V.F.A.が10万円前後で販売されていた時代に、この3820 V.F.A.のプラチナモデルには、385万円という驚異的な定価が与えられていました。クォーツ式でありながら、貴金属を惜しみなく用いた彫刻的なケース造形、そして天然石のダイヤルを組み合わせるという発想は、現代のクォーツ時計からは想像しがたいものです。
しかしこの豪奢な仕様こそが、当時におけるクォーツという技術の立ち位置を雄弁に物語っています。まだ“実用の道具”に回収される前、最先端技術として頂点に君臨していたクォーツ。その象徴として生まれたのが、この3820 V.F.A.なのではないでしょうか。精度、素材、造形のすべてにおいて、セイコーが本気で到達点を示そうとした一本と言えると思います。
僕自身が欲しいと思っているものを、欲しいと思う人が買えばいい。それだけなんです。
– 安藤夏樹『プレコグのおもちゃ箱』
会場: 伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ
住所: 東京都新宿区新宿3丁目14-1
会期: 2026年1月21日〜27日。10時〜20時。
詳細は、伊勢丹新宿店公式サイトへ。安藤夏樹さんのInstagramも要チェック。
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