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Photos by Mark Kauzlarich
パンダの目や耳の周りの斑点模様を連想させる、ホワイトにブラックのインダイヤルを配したパンダダイヤルは、これまで生み出されたあらゆる時計デザインのなかでも、最も象徴的な文字盤バリエーションといえるだろう。だから先月まで、ヴァシュロン・コンスタンタンがまだちゃんとした“パンダ”クロノグラフを発表していなかったと聞いたら、おそらく多くの人が驚くに違いない。
そう、オーヴァーシーズ・クロノグラフの発売から24年ものあいだ、ブランドは1度も当たり前のデザインを採用したことがなかったのだ。さらに唖然とするような話だが、ヴァシュロンはオーヴァーシーズのラインナップを一新してからわずか2年後の2018年に、“リバースパンダ”(ブラックにホワイトのインダイヤル)をわざわざリリースしている。だが、スポーティなオーヴァーシーズに当たり前に備わっていたであろうパンダデザインを、完璧に受け入れるにはあと5年の歳月を費やすことになる。さて、待ちどおしい時間も終わり、世界のすべてがうまくいくだろう。
新型のオーヴァーシーズ・クロノグラフは特に目を引くものがあり、これまでのオーヴァーシーズとはまた違った新しさを感じる。絶妙なサンバースト仕上げが施された文字盤は文句なしに素晴らしいし、スネイルの仕上げのインダイヤルもいい感じの質感だ。18Kホワイトゴールドのインデックス、スーパールミノバで強調された時・分・秒針、そしてインダイヤルの針は、いずれも高品質であり、ここでは期待されるべき特徴である。
しかしこの時計が本当に特別な存在であるのは、全体のパッケージがどのように組み合わされているかということだ。美しく磨き上げられたベゼル、サテン仕上げのケースとブレスレットが対になり、光や影の当たり方によって、ベゼルが明るく艶やかな色から陶器のような質感を持つ黒へと変化し、ホワイトダイヤルの美しさを際立たせる。私が懸念する唯一の問題は、高度に研磨されたベゼルがすぐに摩耗してしまう傾向があることと、ベゼル周りの切り込みスペースに、ホコリや汚れがたまりやすい点である。私のことを知っている人であれば腕時計の摩耗はよく愛されている証だと思うかもしれないが、これを読んでいるあなたの感覚は異なるかもしれない。
しかし、パンダダイヤルのオーヴァーシーズ・クロノグラフを真に動かすのは、2016年のリニューアル以来、オーヴァーシーズ・クロノグラフのラインナップの主役として活躍してきた、信頼のおける自社製Cal.5200だ。54石、263点の部品を使用したコラムホイール式自動巻きムーブメントで、2万8800振動/時、約52時間のパワーリザーブで作動する。これは時計を巻くために手首を動かすまで、2日以上も座って竹を食べることができるということだ。スポーツウォッチとは少し違うかもしれないが、大食い中のパンダはまさにアスリートである。
パンダは泳ぎも登りも得意な動物だということをご存じだろうか? 新型オーヴァーシーズ・クロノグラフでの登山は不安(大きな衝撃で時計に傷がつくと困るため)だが、実際のパンダが潜ったことのない深さまで潜ることができる150mの防水性能を持っているため、この新しいパンダは間違いなく泳げるし、少なくともプールに持ち込んでも抵抗のない時計だと思う。実際このモデルは市場において、この価格帯としては究極のスポーツクロノグラフといえるかもしれない。“三大”時計ブランドのなかにある、ロイヤル オークとノーチラスがどれだけ注目されているかということを考えると、オーヴァーシーズ・クロノグラフが今、そのなかでいちばん着用感のいい時計であると強く主張できるような気がする。
特にオーヴァーシーズ・クロノグラフのスティール製ブレスレットの場合、直径42.5mmに厚さ13.7mmと確かに重量があるし、オーデマ ピゲ最大のロイヤル オーク クロノグラフよりも直径が1mm半ほどデカく、厚さも同様に1.2mmほど厚い。さらにノーチラス クロノグラフは2mm、厚さ1.5mmとさらに小さくなっている。しかしサイズは決して、すべてを語るものではない。
私の7.25インチ(約18.5mm)の手首に装着したオーヴァーシーズのバランスは、超極薄の永久カレンダーから、(わりとがっちりとした)クロノグラフに至るまでどれも素晴らしかった。それはブレスレットに起因すると思う。このブレスレットは、市場にあるほかの多くのブレスレットよりも、フィット感と仕上げが全体的に優れているように感じる。ロイヤル オークのアイコニックな形は好きなのだが、手首で取るバランスはモデルによって本当にさまざまだ。ぴったりとフィットするかどうかがとても重要で、ハーフリンクが必要だったり、それでも少しバランスが崩れたりすることがある。しかし、トリプルフォールディングクラスプとコンフォートアジャスト・システムの採用により、特にブレスレットで最適なフィット感を得るのは難しくない。
そして、それが汎用性の高い時計である理由に繋がっている。パンダが本来持っている“ジーンズにTシャツ”の品質はさておき、付属のラバーストラップとSSブレスレット、そしてブラックのカーフレザーストラップに簡単に交換することができるため、この時計は理論上プールからフォーマルなディナーまで、あらゆるシーンで身につけることができる時計である。レザーストラップはSS製のスポーツウォッチとしてはほとんど使わないが、自身が豪華なディナーを堪能している姿は目に浮かぶようだ。私は個人的にストラップツールと格闘するのが苦手だが、搭載されているクイックチェンジストラップシステムはその問題を簡単に解決してくれる。ストラップを交換する際、気がつけば頻繁にラバーストラップに交換している自分がそこにいた。
さてそれでは、オーヴァーシーズ・クロノグラフに対する最も重要な論争である、日付表示について説明しよう。目が普通の人の心の窓ならば、日付窓は時計好きの心を覗くことができるディテールである。そしてヴァシュロンは、日付窓を4時30分位置に配置することを選んだ。日付けを完璧に省くこともできたのだろうか? もちろんだ。日付を3時位置に置くために設計したムーブメントだろうか? そうかもしれない。どんな解決策を提示しても、みんなが幸せになれるのだろうか? おそらくそうはならないだろう。私のルールは、日付窓を存在しないことにすればだれも傷つくことはない、というものだ。
462万円(税込)という価格以外に気になる点がある。この時計はヴァシュロン・コンスタンタンが同ブランドのブティックでのみ販売することを決定したため、残された正規販売店のネットワークと、長年にわたって築いた関係を冷たくしてしまった事実があるということだ。これまでヴァシュロンブティックで購入したことがなくても、過去にヴァシュロン製品を何本も手に入れている人なら、新作パンダを手に入れるまでの(長く予想される)待ち時間を短縮できるかもしれないが、近くにブティックがない場合の利便性の低さや不満を、補うことはできないだろう。
パンダは食べ物をつかむのに、手首の骨が伸びていてそれを親指のように使っていることを知っているだろうか? 腕時計を手首の骨の上か下に装着している人も、竹を握るために手首の骨が伸びている人も、オーヴァーシーズの新しい“パンダ”クロノグラフは、おそらくあなたにぴったりだと思うし、私にとっても待つ価値のある発表だと思うのだ。