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Watches & Wondersで、ダニエラ・デュフォー(Danièla Dufour)氏を見逃すわけにはいかない。
存命の最も偉大な時計職人である父フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏と、母エリザベート・デュフォー(Elisabeth Dufour)氏の衣装と同じ真っ赤なスーツに身を包んでいることは置いておいて、ダニエラ氏は今年初めて訪れたWatches & Wondersを歩いていたとき、10フィート(約3m)ごとに、彼女の作品を絶賛する人たちに呼び止められたようだった。また彼女がピエール・ビバー(Pierre Biver)氏と話をしているのを初めて見たのは、ビバーブランド立ち上げのとき。さらに3日後、彼女はパレクスポの真ん中で、ルイ・ヴィトンの時計マーケティング兼商品開発担当ディレクターのジャン・アルノー(Jean Arnault)氏と話をしていた。すべては彼女のためだった。
Watch Spotting: フィリップ・デュフォー、バーゼルワールド2019にてロレックスの“ペプシ”GMTを着用
バーゼルワールド2019では、彼女の父親であるフィリップ・デュフォー氏がロレックス GMTマスターII ペプシ ジュビリーブレスを着用しているのを発見し、100件を超えるコメントが集まるほど読者を驚かせ、そして喜ばせた。デュフォー氏がつけているものに興味がないわけがないし(近いうちに彼のウォッチスポッティングが行われるかもしれない)、前回のWatches & Wondersに登場したデュフォー夫人は左利き用のロレックス GMTマスターII “スプライト"を着用していた。ただ個人的には、ダニエラの腕に巻かれた黒い文字盤の小さな輝きに心を奪われた。遠目から見て、Watches & Wondersで見ることのできる最高の時計のひとつ、 ダニエラ・デュフォー シンプリシティであることがわかったのだ。
15歳から始めたダニエラ・デュフォー氏の“スクール ウォッチ”である。ダニエラ氏は、週末は父親の工房で働きながら、スイスのル・シュニにある時計専門学校(École Technique de la Vallée de Joux)に通っており、卒業間近の2021年に、20歳という若さでこの時計を完成させている。美しいローズゴールドケースにデュフォーの真骨頂であるブラックダイヤル、3・9・12のアラビア数字インデックスと中央のギヨシェ、そしてくぼんだスモールセコンドダイヤルを配置しているのが特徴だ。しかし彼女が自身の足跡を残したのはムーブメントにある。
「ジュウ渓谷にいた幼いころ、作業台に立つ父の姿を見て育ちましたが、父に初めて時計職人になりたいと言ったのは12歳のころでした」と彼女は教えてくれた。「この提案について、私たちは口論しました。私には十分な学力があるのだから大学に行ってもっと有意義なことをやりなさいと彼に言われましたが、これこそが私のやりたいと思っていたことだったのです」
「2年間説得を続けた結果、ついに彼は私にこう言ったのです。“本当に時計職人になりたいのなら、学校に行って、入学試験に合格して、そして合格したら時計づくりを始めればいい”と」
「父は、私が本当に望んでいるのはこれなのか、また古い体制で変化の遅い職業における女性の扱いに挑戦する覚悟があるのか、その両方を確認したかったのだと時計学校に入学するまで理解できていませんでした。彼はただ私を守りたかったのだと思うし、私がその挑戦に耐えられるかどうかを知りたかったのです」
ダニエラ氏は父の指導の下、自身の手で時計をつくりあげたが、父からはアドバイスや教育以上の援助を受けたことがないことを誇りに思っている。もし彼女が時計の一部分に取り組む準備ができていなければ、その時計は彼女が作業を続けるのを待つためにただ置かれていたということだ。
「彼は間違いなく、私に何をすべきか、またどのようにすべきかを示してアドバイスを与えてくれました」と彼女は言う。「それに質問があれば、すぐに答えてくれました。しかし始めから終わりまで時計をつくったのは、私が学ぶためであると同時に、自分がこの仕事でうまくいっていると、彼や自分自身に証明するためでもありました」
シンプリシティに搭載された、フィリップス型巻き上げヒゲゼンマイについて、彼女は「ヒゲゼンマイの加工はすべての作業を何度もやり直しました」と話す。「すべてが完璧でなければなりませんが、その部分については特段そうしなければいけません。時計の精度を決定づけるものであり、いわば“時計の心臓”の部分なのですから。今でこそ上手くなりましたが、シンプリシティを製作していた当時、私がまだ見習いだったということを念頭に置いておいてください。そしてそのあいだに多くのことを学びましたし、具体的に何かを達成するということができて、本当に満足しています」
私は幸運にも、いくつかのシンプリシティを手に取ることができたが、比較してみると、フィリップ・デュフォー氏自身の手によるものとは明らかに違う作品だった。それは彼女らしさを表現した、とても美しいものだった。文字盤とムーブメントには“Philippe Dufour”と刻印されているが、シリアルナンバーが記載されているはずの通常のプレートの代わりに、“D. Dufour”という刻印を施している。ダニエラ氏と、彼女の両親と一緒にテーブルに座っているときにそのことを伝えると、彼女の父親は驚いて少し席を立ち、ルーペを取り出した。
「名前を入れたのか?」と尋ねていたため、どうやら今まで気づかなかったようである。少し誇らしげにしていた私から受け取った彼は、それを彼女に返した。
ダニエラ氏が話してくれたプランのなかには、時計職人として成長し続けたいという謙虚な思いがあった。
彼女は「まだまだ経験すべきこと、学ぶべきことがたくさんあります」と話す。「なぜなら私にとって好奇心は、時計づくりにおいてとても重要な素質だからです。いつかは自分の名前で時計を持ちたいし、自分の名前でブランドも持ちたい。ただそれまでは、学んで成長するために働き続けようと思います」
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ダニエラ・デュフォー氏の旅は、彼女のInstagramからご覧いただけます。