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Photos by Anthony Traina
ケン・ジェイコブス(Ken Jacobs)氏は1980年代初頭に、ウェスト・ハリウッドでヴィンテージウォッチ店“Wanna Buy A Watch?(ワナ・バイ・ア・ウォッチ?)”を開店したが、彼が40年以上もこの業界に携わっていることはほとんど知られていないだろう。彼のエネルギーと情熱はあらゆるもの、特に時計に対してのそれはまるでシモーネ・バイルズ(Simone Biles)選手の床の演技や初めてトゥールビヨンが文字盤を回るのを見るような感嘆を抱かせる。
ケン・ジェイコブス氏は幼少期にあらゆる小物を集めて過ごしたが、彼がヴィンテージウォッチに出合ったのは、臨床心理学の博士号を取得し、数年間の実務経験を積んだあとのことだった。日曜日にはカリフォルニア州パサデナのローズボール・フリーマーケットに向かい、コインの取引をしていた。そこで彼は懐中時計に出合い、すぐにその魅力に気づいたという。初めて彼と話したとき、彼は時計を“三次元的”と表現し、コインについては“二次元的で静的”と述べた。コインコレクターの皆さん、申し訳ない。
彼は懐中時計から腕時計へとすぐに興味を広げた。初期のころ、ジェイコブス氏は古い時計のデザインと美学に引かれ、特にアール・デコ時代のハミルトンやエルジンといったレクタンギュラーウォッチに強い関心を持っていたという。
「私が(収集を)始めたころ、デイトナは500ドルで売れ残っていました」と彼は話す。コレクターたちがアメリカ製のレクタンギュラーウォッチを手放し、その代わりにいくつかのロレックス バブルバックやヴィンテージパテックを手に入れ始めたとき、変化が起こり始めた。
やがてこの興味は、今日のヴィンテージロレックス収集を特徴づけるスポーツウォッチへと移り変わっていった。すべての移り変わりとトレンドを経て、ジェイコブスと彼の店はロサンゼルスにおけるヴィンテージコレクターの中心地であり続けている。
「私は常に小売店の運営、そして美しく魅力的で快適な環境づくりを楽しんできました」とジェイコブス氏は話す。「世界は劇的に変化し、入手可能な情報の量には圧倒されます。終わりのない新製品の紹介は疲れますし、それについていこうとは思いません。正直なところ、ワナ・バイ・ア・ウォッチ?がまだ人気でいられることに感謝しています。我々は最先端ではないかもしれませんし、世界で最も高価な時計を販売しているわけでもありません。ただ長年のコレクターであろうと初めて訪れる方であろうと、所有して身につけるのが楽しいクールな時計を探し提供し続けています」
ジェイコブス氏はこの業界において伝説的存在であり、多くの逸話を持っている。ここではその一部を紹介しよう。
彼の4本
ロレックス オイスター パーペチュアル デイト Ref.1530
少し離れたところから見ると、ロレックス Ref.1530のオイスタークォーツだと思うかもしれない。これはロレックスがクォーツウォッチの製造に初めて進出した時計として知られている。しかしこの時計は同じ角ばったケース形状でありながら、実は自動巻きムーブメントを採用している。
「10年か15年前には誰も欲しがらなかったニッチなリファレンスです」とジェイコブス氏。「そして今ではとても人気になっています」
この個体はまさに“ケン・ジェイコブスダイヤル”だと思うと私は伝えた。シルバーダイヤルが重厚で温かみのあるパティーナを帯び、アウタートラックには少しサビも見られる。ジェイコブス氏は美しく歳を重ねた(ときにはそうでなくても)時計を愛していることで知られており、キャラクター性やパティーナ、個性を愛している。この1530はそのすべてを備えているのだ。
私がワナ・バイ・ア・ウォッチ?のジェイコブス氏を訪れた日、彼の手首にはこの時計が巻かれており、それを毎日身につける時計として愛用していた。
「このモデルは特にダイヤルが暖かみのあるゴールドへとパティーナする傾向があるようです」と彼は言った。このダイヤルは当初シルバーだったが、今ではほとんどシャンパントーンに見える。長くヴィンテージに携わってきたディーラーにとって、完璧にパティーナがかかった、少し控えめなリファレンスなのだ。
ロレックス デイデイト Ref.18038
「私は間違いなくダイヤルにこだわるタイプです」とジェイコブス氏。「ただデイデイトの世界において、我々のクライアントはシンプルなシャンパンダイヤルを求めることが多いです。でも、私は珍しいものや一般的でないものを見つけるのが好きなんです」
ブラックダイヤルのロレックス デイデイトは世界で最も珍しい時計ではないが、定番のシャンパンダイヤルとは少し異なるため、それを試してみたいという一部のクライアントもいる。
「デイデイトはかつてプレジデントの時計でしたが、今ではファッションウォッチになっています」と彼は話す。ロレックスのマーケティングとユビキタス化により、人々はデイデイトを思い浮かべるときにシャンパンダイヤルを思い出し、それが彼らの欲望をかき立てるのだ。
「ディーラーとしてはエキゾチックで珍しいものを探していますが、人々が実際に求めるのはたいていなじみのあるものやよく知られているものです」
これはイエローゴールドのロレックス デイデイト Ref.18038で、いわゆる“シングルクイック”モデルである。日付にはクイックセット機能があるが、曜日はそうではない。針とダイヤルのパティーナには温かみがあり、ブラックダイヤルのデイデイトでは比較的珍しい。それ以上にクラシックなYGとブラックダイヤルの組み合わせに勝るものはない。
ハミルトン フォンテーヌブロー
「私が1980年代初頭にウォッチビジネスに参入したのは、ヴィンテージの美学全般に対する興味からでした」とジェイコブス氏。「古いジーンズ、ハワイアンシャツ、ネオンクロックなどを楽しんでいた私は、このビジネスを始めたとき腕時計なんてしていませんでした」
しかし、ハミルトン、グリュエン、イリノイといったアール・デコデザインに出合ったとき、彼は恋に落ちた。
「必ずしも価値の問題ではなかったのです。パテックやロレックスでさえ扱っていなかったのは、それらが丸くてシンプルで興味を引かれなかったからです」と彼は言う。彼が引かれたのは、装飾的なディテールやラグ、ツートンダイヤル、スタイル化されたフォントを備えたレクタンギュラーウォッチの時代である。厳密にはスタイルとデザインに関することだった。
「これはハミルトンのフォンテーヌブローで、これまで見たことがないモデルです」と話す。楕円形のフォンテーヌブローにはなじみがあったが、モナコのようなモダンで建築的なこのシェイプが彼の心を捉えたのだ。
この個体はオリジナルの値付けタグ、箱、ブレスレットが付いた新品のデッドストックで、ケースのシャープさが際立っている。私にとっては、ジェイコブス氏が生涯時計に携わってきたにもかかわらず、今でも見たことのないモデルに出合えるということのほうが魅力的だと感じた。高価でも希少でもなく、新しいことを知る(そして新古品を見つけること)ことが、ジェイコブス氏にとって時計を刺激的なものにしているのだ。
ロンジン マジェテック
1920年代から30年代にかけて、ロンジンはチャールズ・リンドバーグ、アメリア・イアハート、フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームスといった飛行士の手首に着用されたパイロットウォッチで知られるようになる。1935年にはチェコスロバキア空軍に時計を供給し始めた。ロンジン マジェテックは大きなクッション型のケース、フラットベゼル、そして特大の夜光付き数字を特徴とし、その繊細な経過時間ベゼル(上の写真12時位置の矢印参照)で仕上げられている。
「10年か15年ぶりに手に入れたものです」とジェイコブス氏。ロンジン、特にマジェテックはアメリカでは比較的珍しいものだと説明した。ディーラーたちがミュンヘンで開催される見本市に足を運び、マジェテックのような見慣れない時計を持ち帰ってきたことを思い出すと話す。
チェコの飛行士との歴史も興味深いが、ジェイコブス氏はほかの時計と同じ理由でこれを愛していると言う。それはすべてスタイルにある。
もうひとつ
1920年代のロレックス小売店の看板
ウェスト・ハリウッドのメルローズ・アベニューにあるワナ・バイ・ア・ウォッチ?に入ると、いくつかの看板が目を引く。まず、入り口の上にある大きなグリュエンの看板がひとつ。もうひとつはショールームの奥にある、アール・デコ時代の“ロレックス・レバーウォッチ”の看板だ。
「この看板はかつて、ロンドン南部にあるバーツ ジュエリーストアの外に掛かっていたものです」とジェイコブス氏は話す。看板にある18の世界記録というのは、およそ1929年から1930年ごろのものだという。この看板は25年以上前にアンティークディーラーから譲り受けたもので、それ以来店に飾っている。アメリカの電気配線に対応させるべく配線も変更させた。今では時計の歴史のなかでも異色の一品となっている。ワナ・バイ・ア・ウォッチ?には、JLCのテーブルランプクロックやカルティエのブドワールクロック、そのほかさまざまな時計の雑貨や記念品などがたくさんある。なかでもこの看板はなお際立っている。
ジェイコブス氏は、「これは我々の誇りであり、よろこびです。これを持てることは幸運なことなのです」と話した。
ワナ・バイ・ア・ウォッチ?については、オンラインストアをチェックするか、実店舗(住所は8441 Melrose Ave., West Hollywood, CA 90069)を訪れてください。