Headline photo, Gishani Ratnayake
私が初めてシチズンの「エコジラ(EcoZilla)」(BJ8050-08E)を見たのは、2000年代初頭、ここニューヨークの26th Street の蚤の市でのことだった。当時はまだヴィンテージウォッチのディーラーも多く、掘り出し物も少なくなかったが、すでに時計のインターネット化が進み、サイバーパンクの父、ウィリアム・ギブソン(William Gibson)が時計のエッセイ「My Obsession」で呼んだように、「ピッカーの国」になってしまっていたのだ。私が最も面白いと思ったディーラーは「引退したロシアのレスリングコーチ、ユーリ」と呼んでいた人物だ。彼は取引することよりも、何も知らない客を専門家が辱めるという、何世紀にもわたる儀式に興味があるような人物だった。彼の非常に太い手首には300m防水のプロ ダイバー、エコジラが装着されており、それはまるで象の脚に足首用のモニターを装着したかのようだった。エコジラは48mm x 18.6mmという巨大な時計で、東京の半分を照らすほどの夜光がついていた。つまり、とても大きな男性に大きな時計ということで、今までに見たことがないものを見るような、初めてスターウォーズを見たときのような感じがした。
シチズンの自動巻きやエコ・ドライブのダイバーズウォッチは、すべてがこのような深海の怪物というわけではないが、その多くが極めて珍しいデザインで、サイズもアグレッシブ、そして技術力の高さをアピールすることに徹している。エコ・ドライブはダイバーズウォッチとして理想的な技術だ。クォーツから得られる精度に加え電池切れの心配がないため、非常に実用的で有用なのだ。また、シチズンのダイバーズウォッチ史のユニークなデザイン言語によって、有名なダイバーズウォッチの多くにはそれにふさわしいニックネームがつけられている。そしてそれらは、時計の高価格化、コレクションの高級化が進むなか、永続的に素晴らしいバリューを提供しているのだ。
シチズンのダイバーズウォッチの歴史を紐解くと、夜空に輝く星の数ほどバリエーションがあることがわかる。そのなかでも技術的な特徴とデザインで際立つのが5つのモデルであり、そのデザインにはカラフルな愛称が付けられていることもある。
この時計が発売されたとき、私はバーモント州の小さなリベラルアーツカレッジ、ベニントンにいた(このカレッジは、私が在学しているあいだ、将来のベストセラー小説家<と、ある無名の時計ライタ>を異例に輩出したことでその後有名になる。そうでなければ、当時事実上私の故郷であったニューヨークのショップウィンドウで、この巨大な時計に目を留めたことだったろう)。1982年当時、特にクォーツ時計のトレンドは、より小さく、より薄くなる方向に向かっていた。一方で1970年代からテクニカルダイバーズウォッチは大きくなるトレンドになっていた。1971年にデビューしたオメガのプロプロフは、決してスリムな時計ではない(スタイルアイコンでありフィアットのボスでもあるジャンニ・アニエッリは、シャツのカフス上からつけていた)。しかし、1300メートル プロフェッショナルダイバーが登場すると、それは防水性の新記録を樹立し、チタンケース、覆うような形の外胴付きベゼル、よっつの留めネジを備えたフランジケース、左リューズを採用。まさに「ツールウォッチ」と呼ぶにふさわしいものだった。
最近、シチズンは1300メートルのプロダイバーのエコ・ドライブ版を発売した。よっつのフランジはそのままに、水深200mに対応したのである。
横幅47mmとオリジナルより若干小さくなり、リューズが右側になったが、最も大きな変更はムーブメントだ。シチズンのダイバーズウォッチ(ダイバーズウォッチ全体にも言えるが)は、花がミツバチを呼び寄せるように愛称を引き寄せるようだが、なぜこのモデルにはファンからつけられたかどうかに関わらず愛称や名前がないのか、私にはよくわからない。ディープシー ディフェンダーと呼ばれる新モデルはあちこちで見かけるが、シチズンのホームページでは正式名称ではないし、広く使われているわけでもなさそうだ。ケースのフランジは潜水艦のハッチ内側のフランジを少し連想させるし、ケースはDLC処理されたスーパーチタニウムで、ソ連が高速攻撃型潜水艦の1隻の船体に使用したことは有名だが、これは「アルファ」(あるいはソ連のクラス名「リラ」、「アルファ」はNATO報告名称)と呼ぶべきかもしれない。
ジェイソン・ヒートンは、1985年に発売された初代アクアランドを 「伝説の誕生、ひとつの時代の終焉 」と呼んだことがある。アクアランドは、ジェイソンが語るように、この種のものとしては初の電子ダイバーズウォッチで、水深計のほか、ダイビング中の重要なデータを数多く記録する機能を備えていた。彼はこう書いている。「1980年代は、時計だけでなく、ダイビングの世界でも過渡期だった。ダイバーが機械式アナログ腕時計をつけて潜水時間を記録し、旧式の無減圧テーブルを使用する時代は終わりを告げ、時計技術と潜水科学は先を見据えるようになった。シチズンのアクアランドは、この時代の架け橋となった。ダイナミックな更新機能、正確な水深計、ダイブタイマー、ラバーストラップにプリントされた無減圧限界値など、窒素への過剰な曝露や潜水病を抑えるために必要なすべてのツールを備え、ダイバーが安全にダイビングを行うための完全パッケージであった。さらに、アクアランドはダイビングデータを保存するため、水面に戻ってから最大深度と潜水時間を確認し、記録することができたのだ」。
現代のダイブコンピューターがダイバーズウォッチに取って代わって久しいが、ダイブコンピューターが故障することもある(まれなケースだが、ジェイソンの場合は2度あった)ので、バックアップがあることは決して悪いことではない、とジェイソンは言う。アクアランドにはいくつかの現代版があり、細部のデザインはかなり凝っているが、オリジナルのアクアランドをクラシックなものにした機能はまだ多く残っている。
アクアランドの近年のモデルは、エコ・ドライブ充電システムに加えて、クロノグラフと電子水深計を搭載しており、最大水深を記録し、それが水深の変化に応じてダイナミックに更新される。ダイビングを始めると自動的に動き出すウォーターセンサーを搭載し、最大50m(通常レクリエーションダイビングでは40mが最大水深)の水深を記録できるのも嬉しい機能だ。防水性能は200m。また、10時と12時のあいだのフランジにはエネルギーレベルスケールがあり、レベル1、レベル2、そして「NG」(つまり「よくない」という意味だと思われる。説明書には書かれてないが、NGの場合、ダイビング機能には十分なガスが入っていないので、充電した方がいいようだ)と表示されている。
また、現在のアクアランドの視覚的な複雑さを少し減らしたバージョンもある。BN2029-01E(上)は水深70mまで計測可能で、クロノグラフは搭載していないが、急降下アラームを備えており、よりピュアなダイバーズウォッチとなっている。アクアランドには、さまざまなモデルがあるが、どれもニックネームはない。これは、ニックネームをつけた時計が出回る前からあったのか、あるいは「アクアランド」自体に改善の余地がないためだろう。
怪獣の親玉の愛称を持つ時計となると、少しばかり泥にまみれるのは当然かもしれない。2002年に発売されたプロフェッショナルダイバーズ1000mは、シチズンのダイバーズウォッチの第一世代で、左リューズ、巨大な外胴プロテクター付きベゼル、独特の半円形の夜光プロットなど、後に他のテクニカルダイバーズウォッチにもある程度見られるデザイン要素があったが、必ずしもすべての要素がプロダイバーズ1000mから生まれた時計に見られるわけではない。この時計が「オートジラ」と呼ばれているのを見たことがあるが、その名前が300mのエコ・ドライブ プロマスター(Ref.BJ8050-08E)を「エコジラ」と呼ぶようになる前か後かはわからない。また、BJ8050-08Eを 「ソーラージラ(SolarZilla )」と呼んでいるのを見たことがある。
300mのエコジラはシチズンのラインナップにまだ存在する。しかし、一般的な外観、がっしりした重さ、超技術的なデザインという点で、「オートジラ」の最も直接的な後継機はプロマスター プロフェッショナルダイバー1000mであろう。
ダイバーズウォッチに関しては、ダイブコンピューターがダイバーズウォッチを時代遅れにしたというのは事実かもしれないが、どうやらシチズンはその伝言を受け取っておらず、受け取ったとしても、2017年に実際につけて海に入り In-Depthのレビューをいつものようにやったジェイソン・ヒートンと共に、単に無視しているだけのように見える。
当時(今もそうだと思うが)それは最も評価の高い太陽電池式ダイバーズウォッチで、デザインは奇抜に近いものの、ジェイソンが書いたように、全体を声高に唸らせる何かがあるのだ。彼はさらにこう書いている。「80年代以降、シチズンはあらゆる形や大きさのダイバーズウォッチを発表し続けてきた。その美学は、漫画のようなプロポーション、奇妙な形状、そして時には機能性に疑問を呈するなど、しばしば偏ったものとなってきた。しかし、そのようななかでも忠実なファンを魅了し続けている。この1000mプロフェッショナルダイバーは、この進化の最新作であり、その極端さを考えると、一種のエンジニアリングとデザインのエクササイズ、いわば「コンセプト」ピースとして存在すると私は確信している。この時計は、非常に多くのディテールが詰め込まれたビッグウォッチであり、間近で観察することが要求される。この時計には、説明するのが難しい魅力がある。普段、時計に見向きもしないような人たちにも興味を持ってもらえるような、そんな時計だ」
腕時計のニックネームは、ときに少し大げさなものになることがあるが、オルカの場合、私にはとてもわかりやすいものに思える。ブラック/ダークブルーの文字盤とベゼルの色、そして卵形のルームプロットとベゼルのくぼみは、確かに「キラー・ホエール」と呼ばれるシャチの配色を連想させる(自然保護論者は、野生動物全般、それも捕食性のカリスマ的巨大生物に断定的名称を適用すべきではないと考えているが、私は彼らの言うことにも一理あると思う。ライオンを「褐色のキラーキャット」と呼ばないのだから) 。
シャチ(オルカ)は、大きな脳と、おそらく我々と同じような感情を持つ、素早く精密な捕食者であり、私は彼らに魅了されている。しかし、彼らが時折フィルターで餌をとるクジラを食い殺し、サメの肝臓を外科的に除去するという事実は、私をぞっとさせるが、、、まあ、ここはHODINKEEであり、アニマル・プラネット(Animal Planet)ではない。時計に話を戻そう。シャチのデザインで最近発表されたバージョンは、興味深いことに自動巻きなのだ。
その新しい時計とは、5月上旬に取り上げた「プロマスター スーパーチタン ダイバーズ オートマチック」である。当然ながら、シチズンはエコ・ドライブ技術にかなり力を入れており、アナログのソーラーウォッチでこれほど頑張っている会社は他にないと思う。だが、自動巻きの「シャチ」もなかなか魅力的なモデルだ。プロマスター スーパーチタン ダイバーズ オートマチックは、大型のエコ・ドライブのような筋肉質な魅力(筋肉質であることが魅力的であれば)を持ちながら、心臓の鼓動が感じられる時計なのだ。
フグ(Fugu)として知られるようになったオリジナルモデルは、刺身に使われる悪名高く危険な日本のフグにちなんで名づけられた。その名の通り、泳ぐ魚は数種類あるが、最も権威があり、また調理法を誤ると命にかかわるのは、明らかにトラフグである。魚の下処理を誤ると(これは、適切かつ徹底した訓練を受けていなければ大いにあり得る)、テトロドトキシンを口に入れることになるのだ。この毒は弛緩性麻痺(呼吸筋だけでなく、他のすべての筋肉が次第に動かなくなり、窒息して死ぬ)を引き起こし死に至る。
ともあれ、この愛称はベゼルのエッジが滑らかな部分と鋸歯状の部分が交互に並んでいることに由来しているようだ。フグのオリジナルモデルは、リファレンスNY004とNY008で、後者はケースバックにフグのエングレービングが施されている。
最新のフグウォッチは、今年のプロマスター メカニカルダイバーで、多くの点でオリジナルの一般的なデザインと外観を再現している。そして、ケースバックにはフグのエングレービングが施されている。フグは脅威に直面すると突然膨張することから、「噛み切れないほど多くを食べるな」という意味が込められているようだ。フグモデルのベゼルがどれほどフグを連想させるかはわからないが、愛好家たちの収集知識に反論するようなことはしないでおこう。
私は時計に興味を持ってきたのと同じ期間、シチズンの時計製造にも興味を持ち続けている。1980年代から同社が製造してきたさまざまなダイバーズウォッチは、デザインと技術が相当ワイルドにミックスされており、しばしば極めて財布に優しい価格で提供されている。シチズンのダイバーズウォッチは、多くの人がそれほど懐を痛めずに大いに楽しむことができる時計だと言っていいだろう。普通とは違う、技術的に先進的なものを求める人にはとてもおすすめだ。ロシアの引退したレスリング・コーチのユーリからの伝言だ。
シチズンの詳細については、同社のウェブサイトをご覧ください。