※本記事は2018年3月に執筆された本国版の翻訳です。
ヴァシュロン・コンスタンタンのオーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、貴族のなかの貴族というべきモデルだ。この時計の初代は、18KWG製ケースで2016年に登場した。この年、ヴァシュロンは、全体的にデザインが洗練され、初めて純粋な永久(パーペチュアル)カレンダーを搭載したオーヴァーシーズを発表し、新しいコレクションに加えたのだ。このコレクションには、新しいオーヴァーシーズ・エクストラフラット(当時も今も、ヴァシュロンの現行のモデルのなかで最も美しい時計のひとつだと感じている)も含まれており、どちらの時計もヴァシュロンのCal.1120という同じ基幹ムーブメントを搭載している。
Cal.1120は20世紀のムーブメントのなかでも2、3本の指に入るほど有名で、超薄型時計のファンにとっては、間違いなく1位、2位を争うほど重要なムーブメントだ。Cal.1120(ジャガー・ルクルトのCal.920、パテック フィリップのCal.28-255、オーデマ ピゲのCal.2120としても知られている)は1967年にデビューし、当時は最も薄型のフルローター自動巻きムーブメントだった。驚くべきことに、この記録は今日も破られていない(より薄い自動巻きムーブメントは存在するが、フルローターは存在しない)。エレガントな自動巻きパーペチュアルカレンダーのベースムーブメントとして、純粋に時計学的に意味のあるものを求めるのであれば、これはまさにうってつけのモデルだ。
もちろん、パーペチュアルカレンダーを機械的に組み込む方法は数多くある。過去50年余りにわたるパーペチュアルカレンダーの主要な技術革新により、この機構を搭載した時計は、限りなく完璧に近い姿となってきている。ヴァシュロンのオーヴァーシーズ パーペチュアルカレンダーとはデザイン的にも哲学的にも正反対のオックス・ウント・ユニオールの永久カレンダー機構は、わずか9個の部品を追加しているのみである。
後者は、エンジニアリングの観点からは非常にエレガントな効果が得られる。部品が少なければ少ないほど、不具合が発生する可能性は低くなり、この種のシンプルさには真の美しさと知的満足感が得られる。しかし、機械式時計製造においては、エレガンスの在り方は多様であり、それぞれに満足感がある。Cal.1120に搭載された古典的なパーペチュアルカレンダー、Cal.1120 QP/1は、数世紀にわたるパーペチュアルカレンダー機構の伝統に系譜を持つ。Cal.1120 QP/1は、現代の腕時計に見られるような伝統的なパーペチュアルカレンダーの受けを採用し、プログラムホイール、ムーンフェイズ、そしてこの種のパーペチュアルカレンダーを時計製造技術と歴史の宝庫たらしめる、製造が難しいスティール製カムとジャンパーを備える。
残念ながら、パーペチュアルカレンダー機構はダイヤル下に隠されているが(この種の伝統的なパーペチュアルカレンダー機構はすべてそのようなものである)、この種のパーペチュアルカレンダー機構の最大の魅力は、すべての魔法が見えるのに、それを実現する種や仕掛けがまったく見えないということだろう。
パーペチュアルカレンダーのデザインには、月数表示やうるう年の表示など、さまざまなバリエーションが存在する。オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、4年に1度、1本の針で1周するようになっており、プログラムホイール(これも4年に1度回転)に針を1本設けるだけの機械的に非常に優れたソリューションだといえよう。まぁ不思議、統合された月数とうるう年表示の出来上がりである。
もちろん、課題は視認性の確保だ。月数表示を備えたパーペチュアルカレンダーは、メカニズムが多少複雑になるものの、その情報を伝えるためのわかりやすく、非常に読みやすい方法だ。ポインター式の月表示もあるものの、これは一般的に12ヵ月を表示するだけで、うるう年の周期表示に別の針が必要だ。12ヵ月表示の場合、月が変わるたびに針が30°回転する贅沢な仕様となる。しかし、48ヵ月の場合は7.5°ずつしか動かないため、48ヵ月分の月名を小さな円のなかに詰め込んでしまうと、インダイヤルが読みづらくなってしまう。
オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーの解決策は、月名を3ヵ月おきに表記することだ。文字がない月はダイヤルマーカーで表示し、うるう年はインダイヤルをうるう年のゾーンを4分の1割り当てることで表示する。至高の読みやすさには達していないものの、驚くほどうまく機能する(月針の運針のための輪列を追加する必要がないため、厚みを抑える利点もある)。
オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、現代の“完全防バカ”パーペチュアル(あるいは“日常生活防バカ”というべきか。バカげた使い方によって完全に破壊から逃れられるような機構は作られていないからだ)と言えるほどではないかもしれないが、設定はいたって簡単だ。曜日、日付、月の設定は、ケースに埋め込まれたプッシュボタンで行い、それぞれの表示の歯車をインデックスする。ムーンフェイズ機構は独立した修正機構を備えており、ほかの表示に影響を与えることなく進めることが可能だ。近年、すべての表示をリューズで設定できる機構や、従来型を改良してピンを必要としない修正機構も考案されているが、頻繁に修正するわけでもないので、特に不便を感じることはない(結局のところ、日付を修正する必要がないことこそがパーペチュアルカレンダーの存在意義でもある)。
そして、昔ながらの方法で物事を行うことには、紛れもない満足感をもたらす。結局のところ、人生には便利さよりも大切なことがあるのだ。
ムーンフェイズは、カレンダー情報そのものを表示するために不可欠なものではないが、パーペチュアルカレンダーに美しく、そして叙情的なアクセントを加えている。私はいつもムーン“フェイス”付きのムーンフェイズ機構を楽しんでいるが、ヴァシュロンが採用した滑らかな月は、ちょっと情報過多なダイヤルにある種の落ち着きを与えている。ムーンフェイズディスクは軽い質感で、エングレービングされた星座とハンドペイントの星で装飾されている。
エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、新しいオーヴァーシーズコレクションのほかの時計と同様(2年ぶりだが、ヴァシュロンの息の長さを考えると、“新しい”という表現はまだ妥当だと思われる)、シンプルで実用的、そして安全なクイックチェンジ・ストラップシステムが採用されている。私はこのエクストラフラット・パーペチュアルカレンダーを、深いブルーの質感を持つラバーストラップとゴールドのフォールディングバックルで装着してみたが、非常に快適な装着感であることが判明した。オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、歴史に彩られた複雑機構を惜しげもなく搭載しながらも、驚くほど使いやすい日常使いの時計に仕上がっているのだ。
この時計は、全体的に非常に満足のいく時計だと思う。ラバーストラップ、クイックチェンジ・ストラップ、夜光の針とインデックス(これは日常使いの時計にふさわしいものだ)など、ある面では非常にコンテンポラリーなデザインとなっている。しかし、この時計はパーペチュアルカレンダー機構という由緒ある技術と、それに付随するムーブメントの仕上げに深い関わりを持っているのである。パーペチュアルカレンダー機構がダイヤルの下に隠されていることも魅力のひとつだが、完全に伝統的な機構を踏襲していることが、この時計の魅力になっている。
個人的には、オーヴァーシーズが発表された1996年以降、最も好きなデザインだ(オーヴァーシーズのルーツは1977年発表のRef.222まで遡るが)。オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、超薄型時計として非常に理に適っており、スリムなサイズがベゼルの角張りを抑え(以前のオーヴァーシーズの先代モデルは、少し攻撃的に見えることがあった)、このすばらしいムーブメントを搭載しているため、この種のものがまったく好きでなければ基本的に抗しがたい魅力を放っているのだ。
7万4500ドルという価格(日本国内定価は税込1100万円)は、確かに市場でも安価なパーペチュアルカレンダーとは言い難いが、この種の優れた製品はこれまでも、そしてこれからも、決して安価にはなり得ないだろう。時計愛好家にとって、ハイエンドとローエンドのものでは雲泥の差がある趣味に興じるあらゆる分野の愛好家にとっても、評価するために必ずしも所有することは必要ではない。このような時計づくりがクォーツ危機を乗り越え、今日まで続いているという事実こそが、我々の心を動かすのである。
ヴァシュロン・コンスタンタン ピンクゴールドのオーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーは、2018年3月ヴァシュロン ブティックにて発売され、現在も販売中です。詳細については、公式Webサイトをご覧ください。
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