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MB&Fの時計、すなわちホロロジカル・マシンは、それ自体がひとつの世界を形成している。5年前の今頃、私が最初に手に取ることができたのは、当時発売されたばかりのHM6“エイリアン・ネーション”だった。この時計は、文字通り、4体のエイリアンのフィギュアがムーブメント全体に配置され、まるで宇宙船で修理をしているクルーのように、サファイアクリスタルのケースからその姿を眺めることができた。その瞬間から、私はこのブランドの虜になってしまった。
しかし、MB&Fのクリエイションのすべてが“エイリアン・ネーション”のように異世界のものばかりではない。2011年、創業者のマックス・ブッサーと彼のチームは、同社の時計製造言語をわずかに、ほんのちょっと、その美学を広く受け入れられるように間口を拡張した。“エイリアン・ネーション”がホロロジカル・マシン(HM)と名付けられたのに対し、このモデルは(ラウンドケースや従来の時刻表示など)伝統に根ざしたものでありながら、MB&Fらしいヒネリを効かせている。
レガシー・マシン(LM)として知られるこのコレクションが、独自のフラッグシップとなったことは驚くことではない。公式Webサイトでレガシー・マシンのマーケティングキャッチフレーズ、“もし100年以上前にMB&Fが存在したのなら、作っていただろう機械”も伊達ではない。LMシリーズが2桁を迎える節目に、MB&Fがビッグな何かで祝ったのは当然のことだ。
そのビッグな何かとは、2021年に発表されたMB&F LMX(Xは10を意味するローマ数字)だった。この時計は、初代LM1に見られた、2地域のタイムゾーンの時刻を同時に表示するデュアルインダイヤルとリューズなど、オリジナルのLMデザインの要素を数多く融合させる一方で、MB&FとH.モーザー社の2020年のコラボレーションで初めて登場した、独自の円錐型輪列機構を利用した傾斜表示(傾斜格50°)など、最近のリリースに見られる特徴的外観も取り入れている。
新しいLMXはすぐに多くの賞賛を集め、最終的には2021年のGPHGで “メンズ・コンプリケーション”賞を獲得するに至った。
しかし残念ながら、LMXをまだ取り上げていない数少ない場所のひとつが、ここHODINKEEであった。取材しようと思っても、何らかの理由で(皮肉なことに、タイミングこそが最大の原因なのだが)取り上げられない時計がある。この時計もそのひとつだった。今月初め、ジュネーブ旧市街にあるMB&F MADギャラリーに立ち寄ったとき、LMXの新バージョンが私を待っているのを見つけ、感激した。
昨年発表された当初は、RG製ケースの限定18本とグレード5チタン製ケースの限定33本が用意されていた。先週初めに正式発表された新作は、貴金属製とは決定的に異なる、わずか33本の限定生産で再び登場。44mm×21.4mmのケースは、時計コレクターが好む316Lステンレススティール製で、ダイヤルは真鍮製で艶消し仕上げが施されている。
一般的に真鍮は、(F.P.ジュルヌの真鍮ムーブメント時代の話題でもない限り)時計製造の話題に上ることはほとんどなく、ダイヤルの下地として使われ、全く別の素材のようになるまで加工やコーティングが施されることが多いという認識だ。MB&FがLMXの第3弾で掲げた目標は、真鍮の自然で強い黄色の色合いはそのままに、繊細な艶消し仕上げを施し、より高貴な印象に仕上げることだった。まさに真鍮の良さが引き出された印象だ。
新たな素材構成以外、本機は昨年受賞したLMXとまったく同じ仕様だ。私見だが、LMXの最も印象的な特徴は、従来の12時位置に配置された半球状のディスプレイと縦型パワーリザーブの組み合わせで、リューズを巻くと実際に回転する様子はスチームパンクを彷彿とさせる。
また、駆動輪列などのムーブメントの様々な要素が、裏側に隠れることなく、時計の前面に表示されるのも魅力だ。例えば、ダイヤル中央にあるテンプは、時計の心臓部ともいえる存在で、注目して欲しい部分だ。いつもと少し違う?大きく見えるだって? そう、これは直径13.4mmという巨大なテンプだ。この大型テンプはMB&Fの依頼によりLMXのために特別に開発された。さらに、テンプには緩急針ではなく、フリースプラングによる偏心錘を採用し、より正確なムーブメントの調速制御を可能にしている。
左右対称の立体的なムーブメント構造は、美観だけでなく技術的な観点からも卓越している。ふたつの独立した輪列は、デュアルタイムゾーン表示を実現し、みっつの香箱は、青焼きされた特別な3本アームを持つクリックスプリングを中央に配置したラチェット歯車に連結されている。なんてクールなんだろう!? このムーブメントは、ふたつの駆動輪列によるエネルギーや出力を失うことなく、最大168時間(1週間分)の駆動を可能にしている。MB&Fの初代レガシーモデルであるLM1が45時間のパワーリザーブを備えていたのと比較すれば、その持続時間の改善は驚くばかりである。
時計の様々な側面に現れたMB&Fの時計製造に対するアプローチには、心奪われるほどである。今月、30分ほどスティール&真鍮版LMXを触らせてもらっただけで、HM6“エイリアン・ネーション”を初めて触ったときのことが思い出された。
LMXは、まったく異なる美的コードを持つ時計だが、決して退屈することのない時計を作るというMB&Fの永遠のエスプリを体現しているのである。
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MB&F LMX“スティール&真鍮”モデルの価格は12万2000ドル(約1550万円)で、現在MB&Fの正規販売店ネットワークで購入できます。MB&FとLMXの詳細については、公式Webサイトでご覧いただけます。