Auctions ニューヨーク サマーオークションが開催！クリスティーズ、フィリップス、サザビーズの注目ロットを一挙紹介

Lead image, James K./@waitlisted

　有力メゾン3社は、各々125ロットを超える深い感銘を与える素晴らしいカタログを用意している。また、今月はクリスティーズとサザビーズが一貫してライブオークションを開催してきたが、今週末にはフィリップスが初めてニューヨーク サマーオークションを開催することも注目に値する。ニューヨークのオークションシーンが、かつてないほど盛り上がっていることの表れだろう。

　残りのカイロスコレクションのロットは、最初の68ロットが最初のイブニングセール全体を構成しているが、2日目の晩は、ヴィンテージのヒット作が惜しみなく投入される。137ロットのオークションのうち、3分の2近くがオリジナルオーナーやその家族から譲り受けたもので、初めてマーケットに登場する時計であることは驚くべきことだ。

　パテック フィリップはごく最近、Ref.5470P-0011を発表し、ラトラパンテというジャンルの最新作を我々に見せてくれた。しかし、同社が自社製スプリットセコンド・クロノグラフの製造に初めて着手したのは、それほど昔のことではない。Ref.5950/1A-010は、2010年に発表されたパテック Ref.5959の後継として、2010年に発表された。Ref.5950は、先代よりも少し大きめだが、初期デザインのヴィンテージな魅力は十分に受け継がれている。クリスティーズのLot No.64は、ブルーダイヤルにシルバーインデックスの組み合わせで、わずか10本しか生産されなかったもので、落札予想価格は30〜50万ドル（約4025万〜6710万円）だ。　※編注：69万3000ドル（約9300万円）で落札された。

　今週競りにかけられた2本のヴィンテージロレックス “ポール・ニューマン”デイトナのうちの1本、Lot No.94はポール・ニューマン‘オイスターSotto’ Mk-1のダイヤルレイアウトを持つ注目のデイトナである。カナダに住むオリジナルオーナーの家族から譲り受けた個体で、このダイヤルレイアウトを持つ5本のRef.6263の個体のうちの1本。参考までに、この同じダイヤルレイアウトを持つ5本の個体はすべて、もともとカナダ国内に輸出されたものだ。クリスティーズは60〜100万ドル（約8070万〜1億3425万円）のあいだで落札予想価格を提示した。　※編注：69万3000ドル（約9300万円）で落札された。

　パテック フィリップの極めてレアなモデル、Ref.3448のパーペチュアルカレンダーは、3時と4時のあいだに、真っ赤なエナメルで埋め尽くされた開口部があるのが特徴だ。この“レッドドット”はパテック フィリップのうるう年表示の初期の例であり、実際、Lot No.111は、その仕様のRef.3448の2本のうちの1本で、WG製のうるう年表示が可能なパテック フィリップ初のパーペチュアルカレンダーである。そう、不思議に思われたかもしれないが、このモデルはリリース直後にパテック フィリップによって特徴的な一体型のWG製ブレスレットとの組み合わせに変更されたのだ。

　まったく同じ時計が、1990年代のクリスティーズ・ロンドンをはじめ、長年にわたって何度かオークションで落札されているが、純粋な歴史的観点から見ても、これまでのところ、今年のオークションの大注目株になるに違いないと思っている。クリスティーズはその希少性に見合った80〜160万ドル（約1億765万〜2億1530万円）の落札予想価格を提示している　※編注：100万8000ドル（約1億3560万円）で落札された。

　フィリップスは、クリスティーズのオークションが終了した数日後の今週末、俳優のジェームズ・ガーナーが所有していた数々の時計をオークションに出品する。1964年の第2次世界大戦中の映画『大脱走』は、ナチスドイツの第三航空兵基幹収容所のイギリス連邦軍の捕虜が集団逃亡を図った物語である。ジェームズ・ガーナーの時計は魅力的で注目に値するが、やはり本物には敵わないようだ。クリスティーズがLot No.120で販売するのがその“本物”のほうである。

　このロレックス Ref.3525 “Monoblocco（モノブロック）”クロノグラフは、英国空軍のジェラルド・イメソン中尉が、第三捕虜収容所に投獄され、脱獄を試みていた時に届けられたものである。この時計は、現実世界の忍耐と陰謀を潜り抜けた驚くべき物語であり、20〜40万ドル（約2690万〜5380万円）の予想落札価格が見込まれている。この時計については、英国バッキンガムシャーのボーン・エンド・オークションで初めて販売される直前に寄稿者エリック・ウィンド氏が執筆した2013年のHODINKEEの記事で詳しく紹介されている。

　今回のクリスティーズオークションには、隠れた名品が多数出品されている。パテック フィリップ Ref.5170Gは、特注のサンバーストブルーダイヤルにブレゲ数字が施されている。また、Lot No.65のパテック フィリップ Ref. 5004は、ブラックダイヤルに18KPGケースという超レアな組み合わせだ。木製の寄木細工（とロデオ）が好きな私としては、10本しかないパテック フィリップ Ref.5089G-070を挙げずにはいられない。Ref.5089G-070は、同社が2017年にニューヨークで開催したグランドエキシビションのために発表されたモデルだ。“ダブルレッド”、“特許出願中”のロレックス シードゥエラー（Lot No.93）も注目を集めそうだし、ティファニーのサイン入りロレックス デイトナ Ref. 6263（Lot No.95）は、14KYG製で、ラグのひとつにティファニーの管理番号が打刻されている。

　私が初めてクリスティーズのカタログを見たとき、完全に見逃してしまった時計のひとつが、ホイヤー オータヴィア“シフェール”Ref.1163（ロットNo.114）で、この時計は1970年の『栄光のル・マン』撮影時にスティーブ・マックイーンがレイ・サマーズという人物に贈った時計だ。サマーズはこの映画の衣装とワードローブ部門で働き、マックイーンと親交があったそうだ。この時計はサマーズの未亡人からの委託品で、サマーズとマックイーンの友情について詳しく書かれた多数の画像とサマーズの妻からの手紙が添えられている。

クリスティーズ、卓越した来歴を持つインポータントウォッチ：カイロスコレクション Part Ⅲは、2022年6月8日から9日にかけて、20 ロックフェラープラザ、ニューヨーク、ニューヨーク州、10020で、両日とも午後6時（日本時間）から開催された。全137ロットのカタログの残りは、オンラインにて。

　ジョージ・ダニエルズという人物の重要性は誰もが知っている（知らない人はこちらを読んで簡単に復習しておこう）し、彼の名を冠した腕時計がいかに希少であるかも知っているはずだ。彼が生涯を通じて、腕時計を自らの手で作り上げたのは、たった一組だけだからだ。しかし、ジョージ・ダニエルズのサイン入り腕時計は2本だけではないのでは、と思われるかもしれない。実際そうなのだ。ダニエルズの指導のもと、彼の弟子であるロジャー・スミスが完成させた2本の腕時計がそれである。ジョージ・ダニエルズ・ミレニアムは1998年に50本のシリーズで発表され、ジョージ・ダニエルズ・アニバーサリーはダニエルズの死と同じ2010年に発表された。今週末のフィリップスでのLot No.12は、後者の個体だ。47本の記念モデルのうち、プラチナ製は4本のみで、このモデルはその最初1本。ムーブメントにはシリアルナンバー“00”が刻印されている。予想落札価格は50〜100万ドル（約6725万〜1億3425万円）だ。　※編注：238万9500ドルで落札（約3億2130万円）された。

　偶然にも、ジョージ・ダニエルズ・アニバーサリーモデルが発表された同じ年、F.P.ジュルヌはダニエルズに自身の時計を贈った。このユニークなクロノメーター・スヴランのムーブメントには“FP to George Daniels my mentor 2010”と刻まれ、フランソワ・ポール・ジュルヌからジョージ・ダニエルズへ宛てたサイン入りレターが付属している。

　この時計は、ダニエルズ氏が亡くなってから2年後の2012年に、遺品のオークションで初めて落札された。その後、昨年クリスティーズ香港で再びオークションに出品され、325万香港ドル（約41万4602ドル）で落札されたばかりだ。オークションシーンでの知名度も上がってきているので、週末のフィリップスでのLot No.115は、25〜50万ドル（約3365万〜6725万円）の予想だが、もう少し期待してもいいのではないだろうか。　編注：148万2000ドル（約1億9945万円）で落札された。

　フォレスト・バード（Forrest Bird）という名は読者にとってあまりなじみがないかもしれないが、彼の発明は世界中の無数の人々にとって大きな意味を持つことを約束しよう。バードは、世界初の信頼性の高い量産型人工呼吸器を開発・発明した生物医学エンジニアで、この発明は1965年のデビュー以来、数え切れないほどの命を救ってきた。フィリップスの出品作Lot No.29は、バードの個人所有のロレックス GMTマスター Ref.1675である。この時計はバードの生涯とキャリアを通じて愛用された。この時計の落札予想価格は4〜8万ドル（約540万〜1080万円）だ。　※編注：7万5600ドル（約1020万円）で落札された。

　今週ニューヨークで入手しやすい2番目の新顔でポール・ニューマン デイトナとして私が特に注目しているLot No.111は、18KYGの“レモン”ダイヤルと“Hecho in Mexico（メキシコ製）”ブレスレットの特別なモデルだ。複数のコレクターがこの時計を、そのオリジナリティとコンディションから、今オークションシーズンで入手できるロレックスヴィンテージ時計のなかで“ベスト”だと評している。この時計は元の所有者の家族からのもので、60〜120万ドル（約8070万〜1億6150万円）の落札予想価格となっている。　※編注：208万7000ドル（約2億8080万円）で落札された。

　アーノルド・シュワルツェネッガーが、1999年の映画『エンド・オブ・デイズ』の撮影時に着用した特別仕様のロイヤル オーク オフショアのデザインと開発に協力したことから、時計ブランドと特定の腕時計をコラボレーションした最初のセレブのひとりだったことはよく知られている。このユニークなブラック＆イエローのオフショアは、最終的に500本が限定生産され、それ以来、ほとんどすべてのセレブと時計ブランドの関係の基礎となった時計と表現しても差し支えないだろう。フィリップスは、ニューヨークでのオークションのためにシュワルツェネッガー氏が映画で着用したオリジナルモデルを入手した。Lot No.125は、時計とセレブリティ文化の交差点に興味を持つ人にとって価値ある逸品だ。落札予想価格は2万5000〜5万ドル（約340万〜675万円）。　※編注：9万4500ドル（約1275万円）で落札された。

　Lot No.11、オープンダイヤルのロジャー・スミス シリーズ2をお見逃しなく！　この針は死ぬほど美しいからだ。プラチナ製のヒスイ色のF.P.ジュルヌ トゥールビヨン スヴラン （Lot No.10）もめったに見られないもので、じっくりと見る価値がある。信じられないかもしれないが、事実だ。Lot No.88は、ギュベリンのサインが入った史上3本目のパテック フィリップ ノーチラスRef.3700/1、18KYG製だ。　※編注：30万2400ドル（約4070万円）で落札された。

　米俳優ジェームズ・ガーナーのカルティエ ベニュワール（Lot No.23）とカスタムダイヤルのホイヤー カレラ（Lot No.24）はどちらも手に入れることができるが、ガーナーのカレラについては、2017年に掲載した過去の記事をぜひこちらをご覧いただきたい。そして、読者の皆さんはどうかわからないが、私は20本限りのランゲ1 トゥールビヨン・ハンドヴェルクスクンスト（Lot No.49）のブラックポリッシュされたトゥールビヨンブリッジからほとんど目が離せないでいる。

フィリップス ニューヨーウォッチ・オークション：SIXは2022年6月11日～12日、両日とも午前10時（日本時間）から432 パークアベニュー、ニューヨーク、ニューヨーク州、10022で開催された。全163ロットのカタログの閲覧は、オンラインにて。

　サザビーズのカタログはコンテンポラリーな作品が多いが、注目株はLot No.49のステンレススティール製パテック“タスティ・トンディ” Ref.1463である。このモデルは、1940年代から50年代にかけて製造されたが180本も満たなかったとみられる。しかし、このモデルがさらに希少なのは、すべての12時間マーカーにブレゲ数字がアプライドされている点で、この組み合わせはこの数年間で20回を下回るほどしか登場していない。このモデルは魅力的なコンディションで、1949年に米国で販売されたもので、落札予想価格は25～50万ドル（約3365万〜6725万円）だ。

　私は、5月のジュネーブオークション以降、ロイヤル オークの個体が飽和状態になったため、エンド・オブ・デイズ オフショア以外のロイヤル オークをこのラウンドアップに加えることをためらった。しかし、サザビーズのLot No.73は、特別すぎてスキップできなかった。APのクライアントの特別な要望で2020年に製造された、ブラックセラミック製のユニークピースのロイヤル オーク グランドコンプリケーションだ。この時計ほど、現在のオーデマ ピゲを象徴するロイヤル オークはないだろう。これは限界に挑戦したクラシックなロイヤル オークなのだ。この時計の落札予想価格は20〜40万ドル（約2690万〜5380万円）とされている。

　1990年代後半から2000年代前半のF.P.ジュルヌの腕時計は、過去2年間だけでも膨大に市場に出てきたように感じられるが、だからといって、Lot No.75が特別でないわけではない。このF.P.ジュルヌ トゥールビヨン・スヴラン・ア・ルモントワール・デガリテは、1999年に製造されたもので、特徴的な真鍮製のムーブメントを備えているが、この年に製造された作品の第3世代に属する。つまり、スースクリプションの作品ではないが、これまでに製造された最も重要なジュルヌのタイムピースのひとつであり、市場では新しい作品だ。(ただし、フィリップスには第2世代の1999年製のトゥールビヨン・スヴラン・ア・ルモントワール・デガリテ、Lot No.116があり、こちらも市場に出たばかりで今週末に入手可能となる。こちらの落札予想価格は比較的低い30〜60万ドルだ（約4035万〜8070万円）。

　ロットNo.75と同様に、このオクタ クロノグラフ（Lot No.164）は、真鍮製のムーブメントを搭載した極めて初期の個体だ。この時計が発表された2001年に、パリのラ・パンドゥレリーを通じて購入したオリジナルオーナー所有の個体である。ラ・パンドゥレリーは当時、F.P.ジュルヌのフランスにおける唯一の小売店で、サザビーズは、Lot No.164がフランスで最初に納品された時計である可能性が高いと見ている。この時計がほかの初期オクタ クロノグラフと比較してさらにユニークなのは、オーナーがこの時計の初期に行った点検の際にジュルヌによって調整されたダイヤルで、クル・ド・パリ仕上げとダイヤルの一部のレリーフにクロスハッチ装飾が施されていることだ。この時計の落札予想価格は25万〜40万ドル（約3365〜5380万円）だ。

　わずか5本のうちの1本、パテック フィリップ　パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ Ref. 3970P “ロンドン・エディション”は、もともとロンドンのサーチ・ギャラリーで開催された2015年のパテック フィリップ ウォッチアート大展覧会のために製作された作品だ。プラチナケース、ブラックダイヤル、ムーンフェイズ表示、12時位置のブレゲ風数字が特徴だ。Lot No.179は、今年のエリザベス女王のプラチナジュビリーに間に合うように、5本生産されたうちの2本目として市場に登場したもの。予想落札価格は20〜40万ドル（約2690〜5380万円）だ。

　5月初旬にフィリップスで販売されたマーカス（オブ・ロンドン）・マーグリーズの特注ロイヤル オークとウルベルクのユニークピースモデルに私がどれほど魅了されたかを覚えているだろうか？今回もマーカスがデザインした、そしてマーカスのためにデザインされた特別なロイヤル オークが登場する。Lot No.119は、PVDコーティングされたチタンケースに、真っ赤なアクセントで強調されたスケルトンダイヤルを持つグランドコンプリケーションである。そして、このオークションの早い段階で、Lot No.53から4種類のケース素材で作られた4本のティファニーサイン入りのRef.5270を見つけることができるだろう。

　また、サザビーズが今年初めにオークションでデイデイトの新記録を打ち立てたことからも、Lot No.76のジェムセットされたロレックス デイデイトが好調なパフォーマンスを維持できるか興味深いところだ。さらに、このオークションでは、初期のF.P.ジュルヌ レゾナンス、ロレックス デイトナ Ref.6239 “ソロ”、鮮やかなブルーの“イヴ・クライン”ダイヤルを持つWG製ロイヤル オーク グランドコンプリケーション、ティファニーのサイン入りパテック フィリップ Ref.1463など、どれも一見の価値がある品々が登場することになる。

サザビーズ ニューヨーク インポータントウォッチズは、2022年6月15日午前10時（米国東部時間）より、1334 ヨークアベニュー、ニューヨーク、NY、10021にて開催される。残りの180ロットのカタログの閲覧と入札登録は、オンラインでも可能だ。