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Photos by James K./@waitlisted
オリジン・ストーリー
フローラン・ルコント氏は教えることが大好きだ。この41歳のフランス人はインダストリアルデザインの元教授である。2006年、フランスのモルトーの時計学校リセ・エドガー・フォール(the Lycée Edgar Faure school of watchmaking)でデザインを教えることになり、時計製造の世界に足を踏み入れた。16年後の今も、彼はリセ・エドガー・フォールに在職している。デザイン教育ではなく、次世代のフランス人時計職人の教育を担当しているのだ。
HODINKEEで彼のかつての教え子たちの名前を聞いたことがあるかもしれない。レミー・クールス(Remy Cools)、シリル・ブリヴェ・ノードー(Cyril Brivet-Naudot)、テオ・オフレ(Théo Auffret)といった新星たちが、過去10年間にルコント氏の弟子として過ごしてきたのである。
ルコント氏は通訳を交えながら、「私は教師であることが好きなんです」と語った。「自分の技術を生徒たちに伝えることができるのですから。生徒が入学してから卒業するまでのあいだに、どんどん成長していくのを見るのは楽しいものです。彼らは次世代のフランス人時計職人です。ノウハウがなくならないように伝えることは、とても大切なことなのです」
彼は教えることをとても楽しんでいる。もし2020年に世界的なパンデミックによって生徒が自宅待機を余儀なくされていなかったら、自分の時計を作るために教室を離れることはなかっただろう。彼はロックダウンの早い時期から個人の工房でさまざまな時計やムーブメントに取り組み、やがて時計づくりの実験結果をInstagramで公開するようになった。そこでまもなく彼は目ざとい少数のコレクターたちの目に留まるようになり、彼らは作品を商品化することを恐れずに作り続けるよう彼を励ましたのだ(そのコレクターたちのなかには、この記事のためにルコント氏を紹介してくれた@onlybuyingtimeのCB氏も含まれている。彼は賞賛に値する)。
ルコント氏の時計は、デザイン、装飾、構造において極めて伝統的なものだ。ブレゲの流れを汲む彼は、フェルディナン・ベルトゥーのマリンクロノメーター、ジョージ・ダニエルズのコレクション、そしてグルーベル・フォルセイやロジャー・スミスの現代的なクリエーションからインスピレーションを受けたと語っている。
「ブレゲが好きです 」とルコント氏。「18世紀の時計が好きなんです。とてもクラシカルで、ソヌリやパーペチュアルカレンダーなど、今日私たちが目にする多くの複雑機構はこの時代に開発されたものです。また、当時のスタイルは今でもとてもコンテンポラリーだと感じています」
彼はインスピレーションを受けた人たちと同じように、自分ができる限り最高の、そして最も興味深い時計を作ることに全力を注いでいる。そして、もし完成した作品を買いたいと思う人がいるならば、売らない手はない。
しかし同時に彼は会社の新たな成功によって、彼の人生におけるもうふたつの大きな情熱である教育と家族との時間を奪われることはないとも考えている。
「時計づくりと教授業、そして家族との時間にバランスをと ります」と彼は語る。「週に2日は教壇に立ち、週に3日は時計づくりに励んでいます。また、夜も多くの時間を時計づくりに費やしています」
我々が彼を好きな理由
ルコント氏は愛すべき人物で、時計の世界に入った経緯もおもしろい。しかし、結局のところ重要なのは出来上がった製品なのだ。幸い、彼が最も輝くのはそこだ。
ルコント氏が過去2年間に完成させた時計は20本足らずだが、かなり一貫して新鮮なデザインの数々を市場に送り出している(つまり、自身のInstagramでそれを披露している)。最初のコレクションであるシリーズ 1を構成する10本すべてを完成させ、最終的にシリーズ 2(この記事の写真の時計)を構成する12本のうち、初の試みである自社製テンプを搭載した時計のちょうど半分を完成させたのである。彼はこのふたつのコアコレクションと並行して実験を続け、楽しんでいる。2020年以降、彼はふたつの型破りなユニークピースを世に送り出し、つい2週間前には、魅力的なレトログラードGMT表示を備えたみっつ目のユニークピースを発表したのだ。
彼にとって透明性は重要な要素だ。だからこそ彼のウェブサイトでは、シリーズ1とシリーズ2のムーブメントが、ETA 6497やユニタス 6498といったスイスの主力ムーブメントに酷似していることを遠慮なく強調しているのである。彼は信頼性の高いムーブメントの構造を反復しているが、最終的には輪列の要素だけが認識できるような、まったく別のものに仕上がっている。彼は伝統的な旋盤やフライス盤、CNCマシンを使って、自身の基準に合うようにカスタマイズされた部品を製造しており、すべて自宅の工房で行っている。
彼は可能な限り外注をしない。ブリッジ、歯車、ネジ、針に至るまで、すべて自分で設計、製作、仕上げを行い、現在自分で作ることができないごく一部のアイテム(宝石、クリスタル、ストラップ、ケースなど)を購入するだけである。 彼は特定の分野の仕上げを手伝ってもらうためにフリーランサーを雇うこともあるとためらうことなく認めている。最近、フィリップ・ナルベル(Philippe Narbel)氏 がアングラージュ(面取り)の仕事を請け負ったという話も、ルコント氏が進んで語ったことだ。
「私は手仕上げの時計しか作りたくないのです。それが時計に魂を与えるのです」とルコント氏は言う。「コート・ド・ジュネーブは機械で仕上げているので好きではありません。もし、いちばん好きな仕上げを選ぶとしたら、それはアングラージュでしょう」
ルコント氏が自社製にこだわった結果として、シリーズ2に使用されているテンプを自作することになった。それまでやったことのないことだったが、それを2作目の最も目立つ部品にすることにした。こうして完成したテンプは、立体的な多層構造のダイヤルのなかで、ブラックポリッシュ仕上げの美しいブリッジに支えられながら、その姿をあらわにしたのだ。
「初めて一人でテンプを作るのは大変なことでした」とルコント氏は言う。「テンプを加工し、ヒゲゼンマイを数え、全体のバランスをとるという長く退屈な作業です。でも私にとっては自作のテンプは時計に本当の付加価値をもたらしてくれます。もう自作のヒゲゼンマイを使わないというのは難しいでしょう」
シリーズ 2のダイヤル上にあり、目に見えるさまざまな装飾技法をじっくりと見てみることをおすすめしたい。ネジはブラックポリッシュ仕上げで、ダイヤルの主要なカットは内側に傾斜しており、そのエッジはアングラージュで装飾され、内側と外側のアングルが見える。裏返すと、歯車のスポークに施されたアングラージュなど、さらに多くの手仕上げを見ることができる。
ルコント氏は、装飾の領域以外では複雑な時計製造の世界に夢中になっていると言ってよいだろう。ムーンフェイズ表示、パワーリザーブ表示、セカンドタイムゾーンを搭載した時計を製作したのはそのためだ。また彼はリセ・エドガー・フォールの講師としてもその点でもっとも有名で、新しい時計の制作を考える際には、常にこのテーマに焦点を当てている。
彼は「プロジェクトのスタート時に、コンプリケーションについて考えます」と言う。「どのコンプリケーションを作るか? これは常に私の出発点です。その後デザインに反映させ、どのようにコンプリケーションを作るかを考えます。しかし最初のポイントは常に、どのコンプリケーションを作るかを決めることなのです」
次に来るもの
ルコント氏は教師の仕事を辞めるつもりはない。またスイスに移住する予定もない。スイスに移住すれば、仕入先や独立系メーカーとのネットワークが容易に得られるとしてもだ。
彼はフランス人であることに誇りを持ち、かつては時計産業の中心地でありながら1970年代から80年代にかけてのクォーツレボリューションで活気を失ったフランス時計産業の未来に一石を投じたいと考えているのだ。愛国心があるからこそ、彼は自分の時計に、自分が住み、教え、家族を養っている小さな町の名前であるモルトー(Morteau)とサインする。そして、リセ・エドガー・フォールの卒業生でキャリアをスタートしたばかりの時計職人たちに、彼の個人工房にある時計製造の機械や道具を無償で開放するのもそのためなのだ。
また、ルコント氏は資本参加を募る気もない。「私は一人でやりたいんです。コレクターからアドバイスを受けるのは嬉しいですが、私は自立していたいのです。投資の話も来ましたが、独立を貫きたいので受けていません」
時計製作、教育、そして家族との時間を完璧にバランスさせることができるのは彼の独立性によるものだ。彼は現在、家族やリセ・エドガー・フォールの生徒たちと時間を持ちながら、自分が求める品質の時計を製造できるのは年間約10本と判断しているそうだ。
「今後5年間の計画はありますか」と尋ねると、彼は少し恥ずかしそうにその質問を受け流した。ルコント氏はすでに十分忙しいし、これからもっと忙しくなりそうだからだ。彼と彼の妻には、もうすぐ3人目の子供が生まれる。そして、最初の子供たちは、彼らの父親はずっと自分で時計製造業を経営していると知りながら育つだろう。
枯葉は「世界中の人々に私の時計を買っていただいていることを誇りに思います」と語る。ニューヨーク、ワシントン、ドバイなどからだそうだ。「地球儀を持って子供たちに見せながら、時計を売った国を指さすんです。誇りに思います」
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フローラン・ルコントについては、オンラインで詳しく知ることができます。
ルコントのシリーズ 1の発売時の価格は約4000ユーロ(約55万2000円)、シリーズ 2の発売時の価格は約1万ユーロ(約138万円)だった。