セイコーのSKX007を自動巻き腕時計のベストバリューと断言して以来、7年余り。SKX007は王者として堂々と君臨していた。そして、我々はその忠実な臣民であった。
SKXが生産終了して久しい今日、腕時計のベストバリューは、セイコーと接点のある日本の有名ブランドからの人気モデルだ。そう、オリエントのFAC00008W0、通称オリエント バンビーノだ。特にこの時計はバンビーノバージョン2なのだ。
バンビーノとSKXのあいだには大きな違いがある。セイコーはISO規格のダイバーズウォッチで、何でもできる頑丈さと万人向けの手ごろな価格がマッチした根っからのツールウォッチであった。たしかに搭載されているムーブメントは素晴らしいというほどではなかったが(秒針停止のハック機能もなかった)、それでも機械式時計であることに変わりはなく、見た目も美しく耐久性にも優れていた。水に濡れても、ぶつけても心配は無用。むしろ傷があったほうがいい。バンビーノはどちらかというとドレッシーな時計だ。だがとても安価で、特別な注意を必要とせずつけることができる。
バンビーノコレクションは2012年までさかのぼり、それ以降、コンテンポラリークラシックと名前を変えている(我々がバンビーノと呼ぶことに変わりはないが)。2013年ごろにバージョン2が登場した。オリエントはその後数年にわたりバンビーノの追加バージョンを発表し、ラインのほとんどはそのまま現在のオリエントのカタログに残っている。つまりこれは現行生産中の時計ということになる。あなたは今日にでも購入することができるのだ。そして、そうすべきだと思う。
オリエントのウェブサイトでは今なら150ドル(約2万円)でバンビーノ V2を手に入れることができる(本来の希望小売価格は300ドル)。Amazonを探せば、120ドルという低価格で購入もできるのだ。
コレクター諸君、これを見逃す手はない。王侯貴族にふさわしい品質と庶民にふさわしい価格という、王様のような価値観がシンプルな外観から見え隠れしているのだ。ジョン・メイヤーはTalking Watchesの第2回エピソードで、コレクションについて痛烈な言葉を残している。「もし私たちが常に過去を振り返り、なぜ知らなかったのかと考えているのなら、未来でも“なぜ知らなかったのか?”と思うことがあるはずで、今行動すればそれに対処することができるのです」と。これは、そのような時計のひとつだ。
時計マニアが「SKXが150ドルで買えたのを覚えている」などと語るのを聞いたことがある人は多いと思う。そして、その時計が300ドル、400ドル、はたまた500ドルで売られているのを見たことがあるのではないだろうか。このような話はコレクターのあいだではよく聞くことだ。どれだけ長くこの世界にいるかを示す方法として。正規代理店に行けるまでの険しい道のりを語るように。
しかし今この記事を読んでいるのであれば、これらはバンビーノを欲しがった人にとっての古きよき時代だったことを知っておく必要がある。
今買うなら、あなたは以下のものを手に入れることができる。
オリエント バンビーノ V2は直径40.5mmだ。それはある一定の角度で光が当たると、わずかなサンバースト効果を持つ白っぽいシルバートーンのダイヤルに見える。3時位置にギュッと締まった小さな日付窓があり、それはダイヤルに溶け込むような開口部になっている。針はローズゴールドでアプライドのローマ数字とマッチしている。数字はロレックスのデイデイト 40を思わせる直線的でシャープなラインで、モダンな印象を与える。私はこのオリエントとロレックスを直接比較しているのだろうか? そうではなくて数字を比較しているのだ。ヴィンテージ感のあるミネラルクリスタル風防はダイヤルの外周を軽く歪ませ、その下にこれらすべてが収まっている。
ケースにはほんのわずかにポリッシュ仕上げベゼルが付いている。ダイヤルが大きいため、ほとんど気にならないだろう。オリエントのロゴから始まり、ローマ数字、そして5分間隔のアラビア数字がプリントされたクラシックなミニッツトラック、さらにその先にはまるで鉄道のようなトラックも見える。ケースは厚さ11.8mmと薄型だ。側面はサテン仕上げで、ポリッシュ仕上げの薄型ベゼルと美しいコントラストを描いている。
ダイヤルを見ると、価格を知らなければ1000ドル(またはそれ以上)の時計を手にしているように思うかもしれない。実際3000ドルで、もっと質の低いダイヤルの時計を見たことがある。オリエントのブランド名は、手書き風に書かれた“automatic”の文字と同様に、端正で鮮明だ。ロゴはマッチングするローズゴールドの色合いで、200ドル以下の時計としてはかなり衝撃的なレベルのディテールである。すべてにおいて均整がとれており、何ひとつ不釣り合いなものはない。リューズにも高級感がある。
この時計の内部では、オリエントのCal.F6724が鼓動している。注意しなければならないのは、オリエントはセイコーエプソンの傘下に入っているが、事業運営の観点からは独立して運営されているということ。このようにムーブメントは自社製、オリエントの製造は垂直統合されており、実際のムーブメントの品質というよりも日本での時計の製造方法によるものだ。SKX007のCal.7S26と同様、エントリーレベルの自動巻きムーブメントということだ。しかし、Cal.F6724がハック機能を有していることは注目に値する。SKXとは違い、バンビーノを購入すれば、時計を巻き上げるというシンプルな楽しみを理解することができる。
手首に装着してみると、久しぶりにジャストサイズで装着できる時計だと思った。ダイヤル(目立つベゼルはない)が、この時計に手首での大きな存在感を与えている。ラグからラグまでは46.8mmとかなりコンパクトで、ラグが手首にかかるのを防いでくれる。みな手首の上に張り出すは嫌だろう。
もちろん、この低価格を実現するためには、オリエントはどこかで手を抜かなければならない。そこでOEMのレザーストラップが採用された。革というよりプラスチックのような感触で、先も細くなっていない。私自身はバンビーノにアフターマーケットのストラップをつけるつもりだが、おそらく時計本体よりも高い値段になるだろう。もしあなたもそうしたいなら、ラグ幅が21mmなのでストラップの交換は少し複雑になるが、それもまた一興だ。
この時計の最後の美点は、やはりどちらかというとインサイダー的であることだ。ファッションウォッチはどこのデパートでも、スマートウォッチは数軒先のショッピングモールでも手に入るのに対し、オリエントは探さなければならない。だから若い社会人や時計初心者にこそ、使ってほしい時計だと思う。スーツ(着なくなった?)にもカジュアルな夜遊びにも使えるスタイルを備えているのだ。
また、バーで友人が300ドルのファッションウォッチの電池が切れたと文句を言っているとき、あなたは機械式時計の長所について一方的に語ることができる。機械式時計が持つ長寿命という価値をあなたは絶賛できるのだ。何世代にもわたって受け継がれ、我々よりも長生きする可能性がある。このオリエントは厳密にはバンビーノとは呼ばないが、本当のコレクターはそう呼ぶのだと言い、「もう作られていないセイコーの後継機だ」と延々と語り続ける。そして、その素晴らしいお手頃価格の時計が22石を使用し、ポリッシュ仕上げのクローズドケースバックのなかに40時間のパワーリザーブを備えていることをすべて説明するころにあなたは顔を上げ、周りに誰もいないことに気づくだろう。時計趣味の世界へようこそ。
オリエント FAC00008W0。40.5×11.8mmのケース、ラグからラグまで46.8mm、ラグ幅21mm。SS製ケース、レザーストラップ、SS製バックル。30m防水。ホワイトダイヤル、ローズゴールドカラーのアプライドローマ数字マーカー。巻上げ式リューズによるストップセコンド機能。40時間のパワーリザーブと22石を特徴とするCal.F6724。価格:150ドル(約2万円)。 ※海外モデルのため日本では未発売。
オリエントの時計およびオリエント バンビーノ(FAC00008W0)については、同ブランドのホームページをご覧ください。