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我々が知っていること
昨年、ヴィンテージ・カルティエの世界で奇妙なことが起こった。フィリップスで超レアなカルティエ ロンドン製のペブルが40万3000スイスフラン(当時約4870万円)で落札された(その1ヵ月後、ボナムスでやや低い価格で別のペブルが落札)。カルティエのクレイジーな作品のなかでも、カルティエ・ロンドンが製作したペブルは最も希少なもののひとつだ。多くの人が、ラージサイズのペブルは6個しか作られなかったと推定しており(おそらく、さらに小さなサイズも数個作られたはず)、このカルティエ ロンドンの無名のヴィンテージウォッチは、ちょっとしたきっかけで、すべてのコレクターに注目されるようになったのだ。
さて、今日、ペブルはまた別の局面を迎えている。カルティエは、新しい限定モデルとして、「ペブルシェイプ」 ウォッチ発売すると発表した。今回は、18Kイエローゴールドのケースに、個別のシリアルナンバーが入った150本のペブルシェイプ ウォッチが作られる予定だ。
オリジナルのペブルは、今や有名なクラッシュと同様に、ロンドンがファッション、音楽、文化の最前線にあったスウィンギング・シックスティーズの時代に、カルティエ ロンドンから生まれた異形の時計である。カルティエ ロンドンはこの時代、戦後の倦怠感を払拭し、より遊び心と反骨精神を追求するために、あらゆる種類の大胆なデザインを生み出していた。
カルティエのイメージ、スタイル、ヘリテージ部門のディレクターであるピエール・ライネロ氏は、「既存の価値観で遊ぶことを念頭に置いていたのがロンドンだった」と教えてくれた。カルティエ ロンドンによるシェイプは、遊び心にあふれた、クリエイティブな雰囲気のなかで「パリで生まれたカルティエの伝統が完全に刻まれている」のであり、パリの本質的なシェイプに対する遊び心が、ペブルのような時計にさらなる文脈を与えている。そして、また別の魅力があるのだ。
1945年から1974年までカルティエ ロンドン支店を率いたジャン-ジャック・カルティエは、当時のロンドンに脈打つこのクリエイティブなスピリットと歩調を合わせていた。1960年代半ば、彼は同支店が独自の腕時計の生産を開始することを決定(この時期は、カルティエのビジネスがニューヨーク、パリ、ロンドンの各支店に分割されていた時期でもある)。この決断こそが、爆発的な技術革新のきっかけとなった。カルティエ ロンドンはもはやタンクだけでなく、ベニュワールやクラッシュ、そしてもちろんペブルといったクレイジーな形状の時計を製造していたのだ。
新しいペブルシェイプ ウォッチは、旧型ペブルとよく似ている。大胆なラウンド型の36mmケースに、オフホワイトのエッグシェル・オパーリンを使用した、傾いたスクエア型の文字盤(このことから「ベースボール」という別の愛称もある)が、ペブルシェイプ ウォッチに暖かみのあるヴィンテージ感をもたらしている。
我々の考え
これはかなりゴージャスな時計だ。コレクターの夢のようなもので、真の純粋主義者は、カルティエはペブルのことは放っておいて、この時計を表現するのは最後までオリジナルだけにすべきだったと主張するかもしれない。しかし、150個の新しいモデルが出回ったところで、市場が氾濫することはないだろう。そして、今回のリリースが、あるいは他の何かが、そのオリジナルの半ダースの価値を下げることになるとは考えにくい。
それに、カルティエが2015年にカルティエ プリヴェをリニューアルして以来、クラッシュ、トノー、サントレ、クロシュなどの新バージョンをクラシックデザインのショーケースのように発表している。これらの時計に共通しているのは、カルティエが以前から限定生産していたモデルだということだ。例えば、1960年代から70年代にかけてのオリジナル「ロンドン クラッシュ」以来、カルティエは数多くの限定モデルを発表しており、特に1991年の「パリ クラッシュ」は400本が製造された。
カルティエがペブルを復活させるのは、1972年にロンドンの工房で6本のオリジナルモデルを製造して以来のことである。ペブルの誕生から50周年という節目の年にふさわしいが、1年前のオークションの結果が出るまでは、あまり騒がれることなく過ぎてしまった記念日だったのかもしれない。
新しいペブルシェイプ ウォッチは、オリジナルを尊重しながらも、現代の時計製造の基準に合うようにいくつかのアップデートが加えられた。カルティエの担当者によると、オリジナルのロンドン ペブルを3つ(ラージ1つとスモール2つ)所有しており、オリジナルの柔らかさとバランスを再現した新たなモデルを作るために不可欠だったとのこと。新作は、直径36mm、厚さ6.3mmで、オリジナル(35.4mm、5.3mm)とほぼ同じ大きさとなっている。
カルティエ プリヴェというコレクションは、クラッシュに代表されるカルティエのヴィンテージウォッチの評価(とオークション結果)が復活する以前、2015年に始まったものだ。実際、カルティエがプリヴェを模範的に実行したこと、つまり、このコレクションで発表されるかなりの作品が即座にヒットする(そして完売する)ことが、復活に拍車をかけたと私は推測している。他のどの時計ブランドよりも、新旧のカルティエが常にコミュニケーションをとっているように見える。
それを物語っているのがペブルシェイプ ウォッチなのだ。確かに今はカルティエ ロンドンが全幅の信頼を得ているが、イメージ、スタイル、ヘリテージ担当ディレクターのライネロ氏は、スクエア・インサイド・サークル(四角が円のなかに用いられる)というモチーフはカルティエ パリが以前からやっていたことだと述べている(今で言えば、パシャもスクエアとサークルを用いた遊びの効いた例だと考えて欲しい)。カルティエ ロンドンは、角型の文字盤を傾けて菱形にすることで、そのアイデアに新しい遊び心を加えたのだ。つまり、カルティエは太古の昔から「四角い釘、丸い穴をいかにして時計に変えるか?」ということを実践しているのだ。
私が新たなペブルシェイプ ウォッチを好む理由は、ロンドン ペブルのヴィンテージがすぐに売りに出されることはもうないだろう、ということだ。昨年販売された2つと、カルティエ・コレクションにある例でその半分は説明ができる。ジョン・ゴールドバーガー氏(John Goldberger)なら、野外で食事をしながら気軽に写真を投稿できるだろうが、熱心なカルティエ・コレクターにとっても、ペブルを見る機会、ましてや所有する機会はほとんどないだろう。それは何かおかしい。今や150本のペブルシェイプがそれに加わるわけで、もちろん手に入れるのは簡単ではないものの、不可能ではないのだ。
だからこそ、新旧カルティエの絶え間ない対話は、コレクターにとって大きな刺激と言える。70年代のカルティエ ロンドンがパリのクラシックを独自のスタイルで表現したように、現代のカルティエもまた、その歴史に深い理解を示している。ロンドンのスウィンギング・シックスティーズのように、遊び心が感じられるのだ。この時計は、4万ドルのドレスウォッチとは思えないほどに楽しいものでもある。そして、この時計を手に入れるためにコレクターたちが互いを押しのけるようになると、遊びの時間はすぐに終わってしまうのだ。
基本情報
ブランド名: カルティエ(Cartier)
モデル名: ペブルシェイプ ウォッチ(Pebble)
型番: WGPB0003
直径: 36mm
厚み: 6.3mm
ケース素材: YG
文字盤色: ブラス オパーリン
インデックス: ローマ数字
防水性: 非防水
ストラップ/ブレスレット: ベージュカーフレザー、アルディロンバックル付き
ムーブメント情報
キャリバー: 430MC
機能: 時、分
直径: 20.8mm
厚み: 2.15mm
パワーリザーブ: 38時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 18
価格&発売時期
価格: 640万2000円(税込)
発売: 2022年11月
限定: 150本
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