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もちろん、人間やアニメのキャラクターを使って時を知らせたいという気持ちは、時計学と同じくらい古いものだ。ヨーロッパにおける第一世代の塔時計の多くには、このようなつくりになったものがあったが、通常は時刻を打ち鳴らす。プラハの天文時計には、ゴングで時を告げる「死の肖像」が描かれている。その後、ジャッキ(万力のように挟み込むもの)を備えた時計が登場し、スイスでは「bras en l'air(空中の腕)」と呼ばれる時計が登場したのである。これは、中央に描かれた生物と左右2本の腕(基本的にはレトログラード式の時針と分針)で時間と分を指し示すものである。しかし、本物のキャラクターウォッチが登場するには、まず別のものが発明されなければならなかった。それは、コミック・ストリップ(続きマンガ)である。
アメリカで最初のコミック・ストリップは、1895年から1898年まで連載された『イエロー・キッド(The Yellow Kid)』だと言われることが多いが、偉大なアイデアの多くがそうであるように、この作品にも先人がいて、さらに長寿な後継者もいた(『ガソリン・アレイ(Gasoline Alley)』は1918年から連載中)。バスター・ブラウンは、1902年から1921年頃までの放送。このキャラクターは、1904年にブラウン・シューズ・カンパニーのマスコットとなり、その後すぐにプロモーション用の時計(基本的にはマーケティングキャンペーン)が発売された。バスター・ブラウン・ウォッチは、本当に最初のキャラクター・ウォッチだったのだろうか? 多分、いや、そうではないかもしれない(今週末、最新情報をお届けする)。
鳴いたネズミ
バスター・ブラウンの時計は、漫画のキャラクターを文字盤に配した最初のモデルの一つであるが、バスターとタイガは静止画であった。1933年には、インガソール社の針が動くキャラクターウォッチとしてミッキーマウスが登場している。
ミッキーマウスのアニメーション(動作する)ウォッチは、アニメーション映画の開発と普及がなければ生まれなかっただろう。コミックストリップは、スピード線のように動きを示唆することはできても、実際に見せることはできない。しかし、1900年代初頭には、『恐竜ガーティー(Gertie The Dinosaur)』などの作品により、手描きのセルアニメーションの基本的な技術が確立された。ミッキーマウスは、ディズニー・スタジオが独立して製作した最初のキャラクターである。前身である『オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット(Oswald The Lucky Rabbit)』は、ディズニーのクライアントだったユニバーサル・ピクチャーズが所有していた。ミッキーは『プレーン・クレイジー(Plane Crazy)』や『ギャロッピン・ガウチョ(The Gallopin' Gaucho)』でデビューしたが、最初の本格的なヒット作は『蒸気船ウィリー(Steamboat Will)』で、当時としては革命的なシンクロナイズド・サウンドトラックを採用した(当時のほとんどのアニメはまだサイレントだった)。
ミッキーマウス・ウォッチのアイデアは、スーパーセールスマンのハーマン・ケイ・カーメンからもたらされた。彼は、ディズニーに雇われ、急成長しているライセンスやマーチャンダイジングを担当していた。カーメンの指揮のもと、ミッキーマウスのプロモーションイメージは、世界恐慌の最中にもかかわらず、年間数百万ドルのビジネスとなり、歯磨き粉のチューブからシリアルのポスト・トースティの箱まで、あらゆるものにミッキーマウスが描かれるようになった。カメンは、ミッキーマウスの時計のコンセプトをインガソール・ウォーターベリー・クロック社に売り込み、最終的にはオーガスト・シャラックが、アニメーションの針とサブセコンドの文字盤に3人のミッキーマウスが円のなかで追いかけっこをしているようなデザインを手がけた。
メイシーズで発売された初日には1万1000個が売れ、インガソール社の広報担当者は、このミッキーマウス・ウォッチの驚異的な成功が会社を倒産の危機から救ったとのちに語っている。ミッキーマウスは、スクリーンのなかだけでなく、腕の上でも大ヒットしたのだ。1939年、シカゴ万国博覧会で、20世紀アメリカの生活を象徴する品々が入った5000年のタイムカプセルが埋められたが、そのなかにインガソールのミッキーマウス・ウォッチが入っていた。
ミッキーマウスの時計はキャラクターウォッチの代名詞とも言えるほどの大ヒットを記録したが、もちろん戦前のキャラクターウォッチ全盛期に作られたものはこれだけではない。なかでも特に人気が高かったのは、ラジオやマンガで人気のあった『リトル・オーファン・アニー(the Little Orphan Annie)』の時計である。
リトル・オーファン・アニーを含め、キャラクターウォッチの大半はまだ針が動いていなかったが、その人気はほとんど衰えることがなかったようだ。このリトル・オーファン・アニーは、ニューヘイブン・ウォッチ・カンパニーが製造していた。ニューヘイブン・ウォッチ・カンパニーは、ディック・トレーシーやスミッティなどのキャラクター・ウォッチも製造しており、その他にもバック・ロジャース、フラッシュ・ゴードン、スーパーマンなど、黄金時代のコミックストリップやコミックブックの人気キャラクターをモチーフにしていた。
戦戦前のディズニーキャラクター・ウォッチは他にも存在したが、ミッキーの人気はそれらを凌駕していた。しかし、その結果、他のキャラクターのなかには、コレクターが多いものもある。ディズニーとインガソール社は1935年にドナルドダックの時計を構想したが、ミッキーのような流通は得られず、1935年のオリジナル・ドナルドダックのキャラクターウォッチは、少なくともこのカテゴリの基準では非常に高価なものとなっている。
第二次世界大戦中、キャラクターウォッチの生産はほぼ停止していた。終戦後、インガソル社はU.S.タイム社(後のタイメックス社)に買収され、1950年代にキャラクター・ウォッチは再び活気を取り戻した。
冷戦とホットウォッチ
1945年、U.S.タイム社はミッキーの復活だけでなく、ディズニー・ウォッチのフルラインナップを揃えることを発表した。同社は、戦後最初の時計の文字盤にミッキーマウスの名前を残すほど、インガソール社の名前はミッキーマウスと強く結びついていたのである。すべてのキャラクターが腕を動かしたわけではないが(白雪姫に腕を動かすことが似合うとは思えない)、ドナルドダックをはじめとするキャラクターが登場した。
1948年までにU.S.タイム社は10種類のキャラクターの広告を出していた。ミッキー、プルート、デイジーダック、ホセ・カリオカ(オウムを擬人化したもの)、忘れ去られたボンゴ、ドナルドダック、バンビ、ピノキオ、ドーピー、ジミニー・クリケットの10種類で、グーフィーとバンビを除くほとんどのキャラクターが腕を動かしていた。しかし、マウスはその市場を支配し続け、1957年3月27日、U.S.タイム社はウォルト・ディズニーに2500万個目のミッキーマウス・ウォッチを贈呈した。
ディズニーは圧倒的なシェアを誇っていたが、それだけではなかった。戦後のテレビ人気の波に乗って、ローン・レンジャー、ホパロング・キャシディ、ロイ・ロジャースなどのキャラクターをモチーフにしたキャラクターウォッチが続々と登場した。また、コミックストリップやコミックブックは、キャラクターウォッチのキャラクターの主要な供給源であり続けた(スーパーマンは人気者だった)。宇宙時代への憧れは、『Tom Corbett, Space Cadet』などのテレビ番組や、ロケット船の形をしたパッケージに入ったSpace Cadetウォッチを生み出した。
ミッキーをはじめとするキャラクターウォッチは、1950年代末には人気が衰え始め、1960年代半ばには数が激減していた。しかし、ミッキーをはじめとするキャラクターウォッチは、1960年代が終わり始めると、思いがけないルネッサンスを迎える。ひと言で言えばクールになり、カウンターカルチャーの不遜なスタイルの反逆のシンボルとして採用されたのだ。1968年には、アメリカ国旗をモチーフにした幅広の布製ストラップをつけた“モッズ”モデルのミッキーマウス・ウォッチが販売された。
キャラクターウォッチは1960年代にカウンターカルチャーの象徴となったが、そのクールさはベルボトム、マクラメ、マリファナをはるかに超えていた。アポロ7号に搭乗した宇宙飛行士ウォーリー・シラーはモッズ・ミッキーを着用していたが、彼だけではなく、ジーン・サーナンもアポロ10号でミッキーマウスの時計を着用していた。記者のジョン・ヒックスは『Navy Times』2月号でこう述べている。
「海軍将校がミッキーマウスの時計をつけて仕事をしているというユーモラスな側面だけでなく、ミッキーとその仲間たちを生み出した著名な漫画家、故ウォルト・ディズニー氏へのオマージュでもあるのです。ディズニーランドのトゥモローランドには、月への旅を疑似体験できる場所がありますが、サーナンは実際にその旅をすることになりました。そして、先日40歳の誕生日を迎えた小さなミッキーマウスも一緒に乗りこみます」(『The Mickey Mouse Watch: From The Beginning Of Time』から引用)
クォーツ革命
キャラクターウォッチの厄介な点は、マスメディアやマスマーケティングのツールとして成功するためには、安価でなければならないということだ。例えば、ヘルブロス社はスイス製のミッキーマウスに17石の手巻きムーブメントを搭載していた。しかし、クォーツ時計が登場する前のキャラクターウォッチの歴史では、ムーブメントは宝飾されていないピンレバー式キャリバーで、何年も安定して作動していたものの、その構造上修理が困難であったり、不可能であったりした。
一方、クォーツ式のアナログや液晶の技術は、簡単にキャラクターウォッチを作ることができた。純正のクォーツムーブメントを使い、文字盤にアニメなどのキャラクターをプリントすれば、それだけで商売になる。アナログや液晶のデジタルキャラクターウォッチは、時々電池を交換すれば永久に動き続けるため、市場に溢れた。『スターウォーズ』をはじめとするメジャーなメディアは、キャラクターウォッチのイメージを豊富に提供してくれた。しかし、キャラクターウォッチは、クォーツのおかげで空前の生産数と人気を獲得したが、その品質はノベルティウォッチ以下のものが多く、明らかに子供をターゲットにしたものが多かった。
しかし、ポストクォーツ世代のキャラクターウォッチのすべてが電子化されたわけではない。1980年代から1990年代になると、キャラクターウォッチは現代のマーケティングツールであるだけでなく、ノスタルジーを演出するものでもあり、機械式のミッキーマウス・ウォッチもいくつか作られ続け、1990年にはペドレ社がオリジナルのインガソールを再現したものもあった。
また、すべてのキャラクターウォッチが大衆向けのおもちゃだったわけでもない。最も有名なのはジェラルド・ジェンタである。ジェンタのキャラクターウォッチで最もよく知られているのはレトロファンタジー・ディズニーウォッチだが、彼がこのカテゴリに参加したのは1984年のことだ。その年、彼はピンクパンサーとミッキーマウスのキャラクターウォッチを、非常に格式あるジュネーブの展示会モントレ・エ・ビジュー(Montres et Bijoux)に出品。これに怒った主催者は、スイス人ならではのユーモアに満ちた態度で、彼にブースから時計を持ち出すように指示し、彼はそれに応えてショーから完全に立ち去った。
そして現代
キャラクターウォッチは、製造コストの低さとキャラクターの魅力により、多かれ少なかれどこにでも存在する。実際、人気のあるアニメキャラクターで時計に登場していないものはないと言っても過言ではない。ひとつのフランチャイズが、さまざまな時計を生み出すこともある(ダニー“スペース・ジャム”ミルトンに聞いてみて欲しい)。例えば、『スポンジ・ボブ』のキャラクターウォッチはいくつあるだろうか? 実際に見てみたが、あの直線的な黄色いキャラの大群を数えようとするのは無駄だと思う。とりあえず、“たくさん”とだけ言っておくことにする。
ヴィンテージキャラクター・ウォッチの収集に興味をお持ちの方は、オリジナルのストラップやバンド、特にオリジナルのパッケージの有無など、コンディションや完成度の高さが動作状態に勝る場合が多いことにご注意を。これらの時計は、世代を超えて受け継がれるような家宝として作られたものではない(パテック フィリップの広告を参考にするなら、「キャラクターウォッチは子供には絶対に渡さないでください。それはあなただけのものであり、彼らには関係ありません」だ)。それらは一般的に着用され、しばしばハードに着用されていた。しかし、20世紀の時計製造の歴史の重要な部分を知ることができる、魅力的な小さな窓であることは間違いない。また、何百万個も製造されていたため、入手するのは簡単だ(ただし、針が反時計回りに動く「バックワード・グーフィー」のような希少なモデルは、入手が難しく、ときには想像以上に高価となる)。
そして、現代のキャラクターウォッチは、ニッチではあっても、時計の世界では重要な存在であり続けている。例えば、スウォッチは、さまざまなアーティスト(特にダミアン・ハースト)とのコラボレーションでミッキーマウスの時計をいくつか発表しているし、2018年には、シャイノラがミッキーマウスの90周年を記念してカプセルコレクションを発表した。また、ガーミンでも、ガーミン ダース・ベーダーのようにこの市場に参入した例がある。
現在、キャラクターウォッチの最大手といえば、シチズンだ。マーベルのアベンジャーズやディズニーのキャラクターをモチーフにしたキャラクターウォッチを展開している。アベンジャーズでは、キャプテン・アメリカのように赤、白、青といったキャラクターをテーマにするが、ディズニーでは、実際のディズニーキャラクターを何らかの形で表現している。
どう考えても、100年以上の時を経てなお、キャラクターウォッチは健在であり、その魅力は変わらず新鮮だ。もしあなたがヴィンテージのキャラクターウォッチを集めたいと思っているなら、何百万個も作られているので、ゆっくりと時間をかけて、本当によい状態のものを探すことができるのはよい点と言える。自称時計通はキャラクターウォッチを鼻で笑うかもしれないが、それは腕時計の歴史で必要不可欠な存在であり、あまりにも無視されたり誤解されたりすることが多いものの、腕時計の未来の一部でもあるのだ。
TOP画像、現行品のシチズン エコ・ドライブ、ディズニー、タイメックスのキャラクターウォッチ。