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数週間前、私はイタリアでHODINKEE Magazine Vol.12(USで近日発売予定だ)の記事の執筆にあたっていた。そこで発見したある時計があまりにも特別なものだったため、今すぐにそれをシェアしなければならないと思った。私が存在すら知らなかったカルティエだから、きっとほかの人たちも知らないに違いない。
これは過去数十年のうちで最も重要な、あるひとりのカルティエコレクターのために製作されたホワイトゴールドのカルティエ シェシュだ。2010年に作られたオーダーメイドの1点モノとなる。詳しく説明しよう。
2022年9月のサザビーズにて、100万3000ユーロ(当時の相場で約1億3850万円)で落札された初代カルティエ シェシュ。
ちょうど昨年、オークションにて100万ドル強で落札された1980年代製のカルティエ シェシュを特集している。元祖シェシュの全貌はこの記事を全文読んでもらうとして、以下はその要約だ。
パリ・ダカールラリーという、バイクでサハラ砂漠を6200マイル(約1万km)走る過酷な耐久レースがある。このレースの創設者であるティエリー・サビーヌ(Thierry Sabine)と、当時のカルティエCEOが、1984年にカルティエ・チャレンジを発案。連覇を達成した選手に新しい時計(シェシュ)が贈られたのだ。この新しい時計ケースは、サハラ砂漠に住むトゥアレグ族の男性が被るヘッドスカーフ(別名シェシュ)のようにデザインされた。そしてオートバイ選手のガストン・ライエ(Gaston Rahier)が、カルティエ・チャレンジで優勝を飾る。しかし、サビーヌがそのわずか2年後に悲劇的な死を遂げたため、チャレンジは長くは続かなかった。オリジナルのカルティエ シェシュは合計4本しか製造されなかったといわれている。(トリドール製の)ライエのシェシュは、昨年サザビーズで落札されたものだ。
オリジナルのカルティエ シェシュはイエロー、ローズ、ホワイトの3種類のゴールド素材が織り成すユニークな“トリドール”ケースが特徴で、ふたつのサイズで製造された。小さいバージョンはカルティエ・チャレンジで優勝候補だった女性を対象につくられており、ダイヤモンドをセットしていたという。これが80年代のオリジナルシェシュの物語である。では私が見かけたWGのシェシュはどういうことだろう?
このモデルを所有するThe Watch Boutiqueによると、これはカルティエがジョルジオ・セラニョーリ(Giorgio Seragnoli)のために製作したものだという。カルティエに造詣の深い人ならこの名前を知っているかもしれない。セラニョーリは有名な『Cartier Bianco』の共著者であり、これはほかの多くの時計よりも入手するのが難しい書籍である。著名なオークショニア、オズワルド・パトリッツィ(Osvaldo Patrizzi)との共著であるこの本は、セラニョーリのホワイトメタル製カルティエウォッチコレクションの多くを記録したものだ。当時セラニョーリは世界で最も有力なカルティエコレクターのひとりだった。エドモンド・サラン(Edmond Saran)の話によれば、それ以前のセラニョーリはホワイト製パテックをコレクションする重要なコレクターだったが、彼の好みが変化し、最終的にプラチナとWGのカルティエウォッチだけを集めるようになったという(彼はかつて2002年に660万スイスフラン/当時の相場で約5億3150万円 で落札した、世界で最も高価な腕時計の称号を長く保持していたパテック ワールドタイム 1415を所有していたことで知られていた)。
多くの人たちはホワイト(貴金属)ウォッチの魅力を本質的に、つまり“じっくりと見てわかる”、ひそかに身につけられるアクセサリーだということを理解している。しかしセラニョーリの時計に対する愛情は、恐ろしく執拗なものだったようで、そして彼がそれを本にしてくれたおかげでほかの人たちも楽しむことができた。
彼がオーダーしたカルティエ シェシュはWG製で、オリジナルの(女性向けのほうではない)大きいシェシュと同じサイズである。そして裏蓋には“No.1”という刻印が施されていた。カルティエのカスタマイズプログラムの仕組み上、理論上は別につくられる可能性があるため、厳密にはカスタムしたカルティエを唯一無二のユニークピースと呼ぶことはできない。しかしつい最近、ある大物コレクターから聞いた話によると、彼らはここ数年のあいだに、カルティエに別の特注シェシュをつくらせようと実際に試みたのだが、カルティエはそれをしないとのことだった。Instagramによく目を向けている人なら、この数年、有名なコレクターがカスタムしたクラッシュやクロシュといったカルティエモデルを披露し、カルティエのカスタマイズプログラムがちょっとした流行になっていることはご存じだろう。これらのカスタムデザインはカルティエのものであることに変わりはないため、別のものが製作される可能性がある(コレクターは誰かが自分のデザインを“コピー”していると感じたとき憤慨したがる。けれどそれは些細な問題だ。そうだろう?)。だから裏蓋が“1/1”ではなく、“No.1”なのはそのためだ。しかしカルティエはシェシュをつくることに躊躇しているように見える。それはこの特別なシェシュが唯一無二であることを意味しているのかもしれない。
間違いなくシェシュは風変わりなデザインであり、時間とともに味の出る嗜好品だ。私と同じように、あなたもシンプルなタンクタイプが好きかもしれない。しかし私がタンクを愛している(そして所有している)理由のひとつは、シェシュやクラッシュのような時計が存在することを知っているからである。カルティエはシンプルなシェイプもクレイジーなシェイプもできる。だからこそ世界中のコレクターがシェシュを高く評価しているのだ。個性的なだけでなく、レイヤー状のトリドールケースには熟練のクラフトマンシップが発揮される。
このWGのシェシュは、サハラ砂漠を連覇した選手に贈られたものではないが、オリジナルとはまた違った魅力を放つ。カルティエの歴史を物語る重要なピースであり、偉大なカルティエコレクターのひとりにつながるものであることに変わりはない。
ここ数年カルティエは話題に事欠かず、以前ほどワクワクすることはなくなったが(主に価格が大幅に上昇したため)、でもこのような時計に出合えることこそ、私がいつもカルティエに戻ってくる理由なのだ。
カルティエ シェシュを自身の手首に巻いてみた。
最後の1枚を除く写真は、エンツォ・フィニゾーラ(Enzo Finizola)によるものだ。この珍しいシェシュを見せてくれた、ミラノのThe Watch Boutiqueに感謝する。彼らのウェブサイトを見るか、またはInstagramで彼らをフォローして詳細を確認して欲しい。
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