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Photos by James Stacey
フェルディナント・アドルフ・ランゲ(Ferdinand-Adolph Lange)が亡くなって、今年で150年になる。この名前はなじみ深いはずだ。なぜなら彼の時計製造はドイツの田舎の静かな町と、今日に至るまで広範囲の世界を形作ってきたからだ。スイスの時計製造に注目が集まるなかでも、時計の世界は常に一国が独占できるほど狭くはなく、グラスヒュッテの時計製造の頭脳は常に世界の最高峰と真正面に渡り合ってきた。証拠として、金属に刻まれたその真実を伝えるためへルムート・クロット博士(Dr. Helmut Crott)がグラスヒュッテの最高のものを集めた巡回展を開催した。博士の知識は率直に言って限界を知らず、そのキュレーションと収集のスキルは世界最高峰と肩を並べる。彼自身によってキュレートされ、フィリップスによって開催された本展では、クロット博士の個人コレクションから選ばれた時計が展示され、A.ランゲ&ゾーネの多様な作品群と、この町が紡いできた物語を広く伝える。
1921年/1931年製のブルーノ・ライヒェルト(Bruno Reichert)によるフライング・ワンミニッツトゥールビヨンとアップ/ダウン表示(編注;パワーリザーブインジケーター)を備えた懐中時計(Flying One-Minute Tourbillon Up/Down Pocket Watch)。フュゼ・チェーン機構とフュゼ内に小さな遊星歯車付き。
A.ランゲ&ゾーネの1990年代製のトゥールビヨン“プール・ル・メリット”は、フュゼ・チェーン機構を搭載した最初の腕時計だった。それには、ここに見られるライヒェルトの懐中時計に触発され、フュゼ内に遊星歯車も組み込まれていた。
クロット博士のような人物のコレクションを目にできるのはきわめて珍しい体験である。彼はグラスヒュッテのウォッチメイキングと深い関わりを持ち、その経緯をフィリップスのウェブサイトのなかのエッセイで詳細に語っている。簡潔に言えば、専門的な時計オークションハウスの構想を練っていたあいだ、彼は友人で元学友のリチャード・ミクロシュ氏(Richard Miklosch/1939-2014)に頼った。彼は、グラスヒュッテ様式の手巻き懐中時計トゥールビヨンで名を知られる独立時計師だった。ミクロシュ氏は、彼に1930年代に作られたマックス・ハーン(Max Hahn)のフライングトゥールビヨン搭載の懐中時計を見せ、そこから彼の情熱は花開いた。
1820年ごろのヨハン・クリスチャン・フリードリヒ・グートケスによる懐中時計、No.9(Johan Christian Friedrich Gutkaes Pocket Watch No.9)。
クロット博士の物語をこれ以上詳しく述べるのは控える。エッセイは読む価値がある。私が言いたいのは、ジュネーブでの展覧会を見逃したあと(ジェームズ・ステイシーは参加してこれらの写真を共有してくれた)、これらの時計を2度と見ることができないかもしれないことにきわめて落胆したということだ。時計収集とは単に物を所有するということではなく、実物を目の当たりにする経験を通じて知識を得る行為でもある。それはまた、自分が何者であり、何に心を動かされるのかを知ることでもあり、このコレクションは現代において数少ないコレクターだけが示すことができるような、一点に集中した情熱を表している。
1911年ごろのユニークなA.ランゲ&ゾーネによるグランド&プチソヌリ搭載の懐中時計、No.62510。ミニッツリピーターとミネラルガラス製ダイヤルとケースバック付き。
1911年頃のA.ランゲ&ゾーネによるグランド&プチソヌリ搭載の懐中時計(ミニッツリピーター付き)のようなピースは、当時ほとんどのブランドが採用しなかったミネラルガラス製ダイヤルを使用し、技術力だけでなく工芸において信じられないほどの表現力を誇る。クロノメトリーは、グラスヒュッテでは同等(あるいはさらに大きな)の焦点であり、A.ランゲ&ゾーネが製作した0.5秒刻みで動作する高精度なクロノメーターデッキウォッチ No.92307(Half-Second Chronometer Deckwatch No.92307/グラスヒュッテのピボット・デテント脱進機とパワーリザーブインジケーター付き)や、ハンス・カール・コンラッド(Hans Carl Conrad) によるフライングワンミニッツトゥールビヨンのような時計はどちらも必見だ。そしてコンプリケーションもそろい、1845年にまでさかのぼるコレクションを完成させている。
幸いなことに、この展覧会は来週ニューヨークにやってくる。そのため、私がジュネーブで見逃したものに追いつくことができるだけでなく、ニューヨーク在住の誰もが鑑賞できる。展覧会はアメリカ東部時間で12月3日から5日まで午前10時から午後7時まで開催される。詳しくはフィリップスの公式サイトから。
リード写真は、1902年ごろのウーレンファブリック・ユニオン(Uhrenfabrik Union)製グランドコンプリケーション搭載の懐中時計 No. 44502。グランド&プチソヌリ、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、およびパーペチュアルカレンダー付き。ユニオン・グラスヒュッテが完成させたグランド・コンプリケーション搭載の時計はわずか6点のみ。
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