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近年、アートと高級時計製造、そしてデザインの融合は盛んに語られているが、そのテーマに真剣に向き合っているブランドは決して多くない。昨年、マークはパリを拠点とするアルトに注目すべきだと紹介し、建築に着想を得たデザイン重視のインディペンデントブランドとして、そのアート 01モデルを取り上げた。
オーデマ ピゲの元エグゼクティブであり、アートやデザイン、そして自動車の熱心なコレクターでもあるティボー・ギタールによって設立されたアルト。そのクリエイティブディレクターを務めるのが、元カルティエのシニアデザイナー、ラファエル・アベイヨンだ。ブルータリズム建築を思わせる佇まい、鋭角的なフォルム、さらには1970年代のアバンギャルドな自動車デザインの影響を取り込んだアート 01は、ラグジュアリーウォッチを“時を示すオブジェ”として再解釈する、このフランスのブランドにとって中核的なプラットフォームとなっている。
そして今回、スイス製タイムピースの最新作において、アルトは現代アート界の巨匠ベルナール・ヴネを、インスピレーション源であると同時にコラボレーターとして迎えた。
ヴネは、コールテン鋼を用いた巨大な崩壊した梁状の彫刻作品で広く知られている。弧や線、角度といった概念に加え、形状の変化やパティーナを通じて時間の経過を探求するその作品は、いずれも大規模な公共空間に展開されてきた。
彼の作品はパリやベルリン、東京、ソウル、ニューヨークといった世界各地で設置・展示されている。プロダクトとのコラボレーションは多くないが、例外的な存在として挙げられるのが、2012年にアート・バーゼル・マイアミで発表され、2013年初頭のジュネーブ・モーターショーでも披露されたブガッティ・ヴェイロン・グランスポール・ヴネだ。ヴネのコンセプチュアルな鋼構造に基づく線や角度を表す数式がボディに描かれ、1001馬力のターボエンジンを搭載したこの車は、“史上最速のアート作品”とも称されている。
そしてギタールとの対話がきっかけとなり、ヴネは自身の芸術的ビジョンを、大規模な造形から腕時計という極小のキャンバスへと移すことに同意した。彼自身、この大きく制約された表現領域という挑戦を積極的に受け入れたと語っている。
アルトのクリエイティブディレクターであるアベイヨンとともに、最初に取り組んだ課題のひとつは、ヴネ作品の鋼構造が見せる色の変化とパティーナを表現しつつ、高級時計にふさわしいケース素材を見つけることだった。コールテン鋼そのものは、着用者の肌へ直接触れる素材であるなど、さまざまな理由から適さなかった。
そこでアルトはサプライヤーパートナーと協働し、ヴネの鋼彫刻に見られる温かみのあるブラウントーンを想起させながらも、安定性を保ち、時間の経過とともにゆっくりと独自のパティーナを形成する特別なブロンズ合金を見出した。このアルト独自のブロンズは、あらかじめパティネーションと安定化処理が施されているが、着用に伴い、なお緩やかに経年変化を重ねていく。
実機を見る機会にも恵まれたが、このヴネエディションに採用されたブロンズは、重厚で奥行きのある表情を持ちながら、光の当たり方によって豊かな変化を見せるのが印象的だった。いわば控えめな素材でありながら、ケース素材としては異例とも言えるほどラグジュアリーな質感と存在感を備えている。
4月上旬、フランス・ル・ミュイにあるヴネ財団にてローンチイベントが開催された。同財団は、ヴネをはじめとする現代美術作品を展示する広大な施設だ。会場ではアルトの幹部が、異なる経年状態にある3本の腕時計を披露した。未使用の個体はケースにほとんど色調の変化が見られなかった一方で、3カ月および6カ月着用された個体は、それぞれ明確な変化を示していた。
直径40mmのスクエアケースには、それぞれ独特の経年変化が見られ、時間の経過とともに色合いがより豊かで多様になっていった。それでも、表面の変化によって時計の高級感や質感が損なわれることはなく、スクエアケースとしては直径が大きいにもかかわらず、重量は約68gと軽量で、比較的装着しやすい。
新しい時計を着用しているベルナール・ヴネ氏。
フランス、ル・ミュイにあるヴネ財団の敷地内に展示されているヴネ作品。
ヴェネ作品に使用されている、時間の経過とともにパティーナが生じるコールテン鋼素材のクローズアップ写真。
新作においてヴネの作風が最も明確に表れているのはダイヤルだ。同じくパティネーション処理と安定化処理が施されたブロンズ製で、地形的かつ彫刻的な造形を持ち、表面には曲線を描く素材が層を成して配置されている。アート 01特有のファセットカットされたサファイアクリスタルの下に収められたこれらの交差する曲線は、光と影の相互作用によって、時計のダイヤルとしては希有な奥行きとテクスチャーを生み出している。
アルトは直近のモノクロームモデルを含むこれまでのモデルに六角形の幾何学パターンを採用してきたが、本作はダイヤルデザインにおいて大きく転換したと言えるだろう。ヴネの限定モデル(わずか10本製作)では、ダイヤルは流動的で有機的な方向へと舵を切り、きわめて魅力的な表現となっている。
ヴネ自身、時計に携わるのは今回が初めてであり、普段は時計を着用しないという。それでも彼は、時間を示す小さな装置の上で自身のアイデアを表現するのを楽しんだと語っている。なぜなら時間、週、年といった時間の積み重ね、そして摩耗や自然環境との相互作用は、彼の作品、特に弧を折り畳んだような作品の多くにおいて重要なテーマとなっているからだ。
アート 01自体も、斬新な方法で時間の概念を探求している。以前のモデルと同様に、ベルナール・ヴネの限定モデルは秒針が逆方向に動くのが特徴だ。このユニークな特徴は、時間の概念を常に意識させるものとなっている。
ムーブメントは従来モデルと同じく、チタン製メインプレートを備えたマイクロローター式ムーブメント Cal. A01を搭載。アルトのムーブメントはインディペンデントブランド、コロキウムの3人の主要メンバーのひとりであり、プロジェクト 02の地形的なダイヤルなどを手がけたバース・ヌスバウマー(Barth Nussbaumer)によって設計された。アート 01のラインアップ全体に彼のデザイン的影響を見て取れる。
ムーブメントはル・セルクル・デ・オルロジェ(Le Cercle des Horlogers)によって製造され、2万8800振動/時(4Hz)で作動し、パワーリザーブは48時間。防水性能は50mで、塩水で泳ぐことでパティーナの変化をさらに促すことも可能かもしれない。ストラップはヌバックカーフレザー製で、パティネーション処理されたブロンズ仕上げを施したチタン製フォールディングバックルが組み合わされる。
アルトはこの限定モデル、アート 01 ベルナール・ヴネの価格を公表していないが、従来のモノクロームモデルの2万5500ユーロ(日本円で約470万円)より高くなる可能性が高い。新しいムーブメントではないが、新素材のケースと、何よりもまったく新しいダイヤルが採用されている。そしてそのダイヤルは、現代において最も重要な彫刻・インスタレーションアーティストのひとりによってデザインされ、制作されたものだ。ヴネの曲線を描いた屋外鋼製作品と同様に、この10本の時計はそれぞれが時間の経過を物語る唯一無二のストーリーを刻んでいくことになるだろう。
アルト アート 01 ベルナール・ヴネ Ref.MK5 BRz: パティネーション処理および安定化処理を施したブロンズ製で幅40mmのケースは50mの防水性能を備える。パティネーション処理を施したブロンズのモノブロックダイヤルで、時・分・秒を逆回転に表示する。マイクロローター式の自動巻きムーブメントは振動数2万8800振動/時(4Hz)、パワーリザーブ48時間、グレード5チタン製メインプレートを備えている。ブロンズコーティングを施したチタン製フォールディングバックルを備えた、ヌバックカーフスキンストラップが付属。価格は要問い合わせ。
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