これまでずっと腕時計業界に携わってきましたが、Apple Watch程話題になった時計は他にありません。それだけ聞けばおかしな話です。Apple Watchは腕時計メーカーが作ったものではないし、従来の時計やジュエリーとは異なる流通・販売経路で売られています。腕時計ブランドが好んで語るような歴史的・文化的背景も伝統もない。そしてその最大の用途が、時を告げることではないことは明白です。
でもここで思い出したいこと。それは、Apple Watchが人類史上最も価値ある企業の主力製品であること、世界最高のデザイナーとエンジニアの手で創造されていること、従来なら腕を裸にしたまま外出していた世代に対して腕時計を着ける理由を見出させたことです。そう考えると、この時計がこれほど注目を集めているのもさほど不思議ではないのです。
※本記事は2018年9月に執筆されたものの翻訳です。
最新のApple Watch シリーズ5についてのレビュー記事はコチラ。
僕は、幸運にもレビュー用にApple Watch Series 4を1本借りる機会があり、この6日間その性能を試してみました。完璧にセッティングされたスティーブ・ジョブス劇場で行われたApple のキーノートプレゼンテーションでは、生活を一変させるという新機能の数々が雄弁に紹介されたが、これもチェック。アップデートされたオペレーティング・システム「watchOS 5」内を探索し、Apple Watchがプラットフォームレベルでどう変化しているかも調べてみました。Appleが描くApple Watchの長期ビジョンについて、またどのような姿が見えてきたかについてもあれこれ考察し、Apple Watch Series 4自体がいかに独自の価値を持つ概念であるか、今すぐ自分のマックブックを開け、プレオーダーで注文すべきか否か、思いを巡らせたのです。
それでは見てみましょう。
今どこにいるか、どうやってここまで来たか
成熟しつつあるとはいえ、Apple Watchは比較的若い製品だ。腕時計業界の基準でいえばまだほんの赤ん坊というところですが、18世紀の技術に基づいて100年単位の歴史を持つ製品とApple Watchを比べるのは愚かといえます。今どきのテクノノロジー企業風にいうと、スマートウォッチが本格的に製品カテゴリーとみなされるようになったのはほんのここ6、7年のことで、Apple Watchとなるとまだ5歳にも満たない。登場してから10年ちょっとしか経っていないスマートフォンやタブレットの市場と比べれば、Apple Watchが本領を発揮し始めるのは正にこれから、ということが分かるでしょう。
2017年、Appleがセルラー接続機能を初めて搭載したことで、Apple Watchは史上最大の飛躍を果たした。ベン(Ben Clymer)はin-depthでのSeries 3のレビューで時計自体について、またセルラー機能がもたらす意味について書いているが、それだけでなくApple Watchのより広い (意味での) 市場ポジショニングや、Apple全体におけるSeries 3の位置付け、Apple Watchと従来の腕時計との違いも述べている。そのレビュー全編と動画はこちら。
Apple Watchが発表されたのは2014年9月、スティーブ・ジョブスが初代マッキントッシュを発表したのと同じカリフォルニア州クパティーノの劇場で開催された、巨大イベントでのこと。数ヵ月後の2015年4月には一般向け販売が始まり大いに話題になりました。18万ドル(約197万円)のソリッドゴールドモデルもあり、Appleはビヨンセやカール・ラガーフェルドなどのためにソリッドゴールドブレスレット付きのカスタムバージョンも生産されます。その18ヵ月後の2016年9月、Apple Watchはハード面を刷新し、同年前半に公表していた通りOSを全面更新。それ以降Apple Watchは年1回の製品サイクルを続け、毎年秋にiPhoneの旗艦モデルと共にアップデートされています。
2017年のアップデートは、Apple Watch史上でも最大のものでした。Series 3ではセルラー接続機能が採用され全アプリが使えるようになったほか、メッセージの送受信や電話での通話も、すべてペアリングさせたiPhoneを介さずできるようになったのです。些細なことに聞こえるかもしれないが決してそんなことはありません。これは、AppleがApple Watchをアクセサリーではなく、主要なデバイスとみなしていることを示唆した証。Airpodsやドングルの話をするのとわけが違うわけです。ベン・クライマーは、Apple Watch Series 3のレビューで「セルラー接続機能が備わっただけでも、Apple Watchはスキマ周辺機器から何百万人もの生活に欠かせない物に格上げされる可能性が生まれた」とまで言い切りました。当時の僕も異論はなかったものの、1年後になってみるとこの見方は的確だったとより強く思うのです。
今回のプレゼンテーションには、我々がAppleのキーノートに期待するようなApple Watch情報はいつも通り全部含まれていました。Apple Watchを腕に世界を旅する人々をとらえたスタイリッシュなマーケティング画像が映し出され、Apple Watchが (売上金額で) 世界で最も売れている腕時計であることが再度説明され、もちろん新しいSeries 4の全スペックも公開されます。しかしプレゼン中、私にとって最も重要なスライドが登場したのは、Appleのチーフオペレーティングオフィサー ジェフ・ウィリアムズが、その朝のプレゼンの中でも腕時計について触れ始めて1分少々経ったときのことでした。上写真がまさにそのスライドで、これが現在AppleがApple Watchについて描いているビジョンを余さず表しています。Series 4に加わったのは主に3つの要素。
Apple Watchは、自分にとって最も大切な世界や人々とつながること、健康で活動的なより良い生活を送ること、一連のセンサーやアプリを利用して健康状態をモニターすることを重視します。Series 4やそれがもたらすものを知るにあたって、この3点が重要になるので頭に入れましょう。
どこが新しくなったか
ありふれた表現ですが、Apple Watch Series 4は革命というよりも進化です。スマートウォッチの概念を覆すような根底からの変化なく、でもその代わりに、手首を上げる度に感じる変化や、気づきもしない変化を含む数多くの漸進的な変化があります。そして、最終的にどう使うべきか、どう役立つかについて明確な概念があると感じさせるのがApple Watchといえます。
本記事は、単なるApple Watch Series 4のレビューではありません。Appleが既存のApple Watchユーザーのために今週発表した腕時計用最新OS「watchOS 5」のレビューでもあります。
Appleはハードウェアとソフトウェアの相互作用について、また垂直統合的にアプローチすることでこの相互関係の効果が最大限発揮でき、結果としてシームレスなエクスペリエンスが生まれると常々語っています。スイスの腕時計メーカーが「インハウス」の概念やマニュファクチュールであることにこだわるように、Appleもこの概念にこだわっていますが、そこには正当な理由があるのです。OSとハードウェアは実際、本質的に分かち難いものであり、一体とした時に最大の能力を発揮するからでしょう。
Series 4は、Appleが創造しうる最高のwatchOS 5エクスペリエンスを体験できるデバイスです。フル機能、特に先進的な健康・フィットネス機能を手に入れたいならSeries 4が必要になります。ただし、Series 3や Series 2をキープして (watchOS 5は元祖Apple Watchに互換性がない。残念) OSをアップデートするだけのつもりの人も多い。そういう人たちが今後何を選ぶのか、AppleによるApple Watchの旅への誘いに、その人たちがどの程度乗るのかあるいは乗らないのか、も注視に値します。Apple Watch Series 4 について、またSeries 4 がwatchOS 5をいかに最大限活用しているかについて見ていくと同時に、Apple Watch従来モデルユーザーがどうすれば新しいエクスペリエンスを得られるかも検討しましょう。
Apple Watch シリーズ4
一見したところ、Series 4の見た目は…Apple Watchです。Appleがフォルムを大胆に変えてくるという噂は、最初の画像がスクリーンに映し出された瞬間に打ち消されました。Appleがこのフォルムを近い将来大きく変える可能性は、僕としては考えられません。Apple Watchの主な仕事は、テキストで情報を表示すること。そのため、変に変形させずに角型ディスプレイが画面として最も使いやすいでしょう。Series 4に関してえばモットーはこんな感じかな。「いつものApple Watchです。でももっとできるヤツ」
「もっと」の一番根本的な部分は、腕に着ける実際のハードウェアが「もっと」大きいことです。2種類あるサイズ、38mmと42mmが40mmと44mmに拡大。しかし、このサイズ表示はちょっと誤認しやすく、44mmの製品は実際にはタテ44mm×ヨコ38mm×厚さ10.7mmで、以前の42mm製品は同42.5mm×36.4mm×11.4mm。同様に、40mmの製品は40mm×34mm×10.7mm、以前の38mm製品は38.6mm ×33.3mm×11.4mmなのです。
最も待たれていたSeries 4の新機能の一つが、好きなときに心電図を取れる機能だ。これは背部センサーに電極を追加し、デジタルクラウンにも電極を組み入れたことで可能になった。ハードウェアの方はもう準備ができているが機能は今秋後半の公開(現在公開済)。当然ながら僕たちはテストできなかったが、Appleの健康戦略の主要な部分だ。それについてはここで詳しく紹介されている。
先代モデルがサイズを大幅に (すごく) 切り捨てたことを別にしても、諸々を合理化するために縦横比も微妙に変更されました。一番分かりやすいサイズの差は厚みです。背面が0.7mm (主に一連のセンサーから) 削り取られたことで大幅に快適になりました。Series 4を身に着けた瞬間にそれが分かります。
ただし視覚的には、先代モデルよりかなり大きくなった印象。これは増えた分のスペースをベゼルではなく広くなったディスプレイが占めているせいでしょう。両モデルともディスプレイが先代モデルより30%拡大。上の図でも明らかですし、実用上もあらゆる点で大きな意味があることが感じます。フルスクリーンにするときの、ちょっと不気味な浮かぶ画像エフェクトはなくなり、四隅に丸みをもたせたことで全体がずっと洗練されました。
次に、皆さんの最大の懸念を解消します。新サイズに合わせて新しい時計バンドを買う必要は、ありません。スマートなAppleは、新しいサイズのケースが従来サイズのバンドにも対応すると明言しました(38mmが40mmに、42mm が44mmに対応)。先週のプレゼンテーションでAppleがこう発表したとき私は少し懐疑的で、ちょっとぐらいは差が目に付くだろうと思いました。しかしこれは間違いで、全く差に気づけません。↓は42mmのNike+スポーツバンドを44mmモデルに付けた状態。ほら、わかったでしょ?
側面については、少しスッキリしたことに気付くでしょう。メインボタンはケースの表面上に収まるようになり、デジタルクラウンはセルラーモデルに付いていた赤い大きな丸がなくなりました。その代わり、クラウン自体に組み込まれたECG電極の縁を取り巻くシンプルな赤いリングが追加。クラウンには、触覚フィードバックという目に見えないもう一つの機能があります。watchOS 5ではメニューとリストごとに一連の「クリック感」が用意されており、最適なフィーリングが得られるのです。この小さな違いがあるおかげで、動作に安心感があるんです。やるな、Apple。
Series 4を裏返して見ると背面が先代モデルと大きく異なることが分かります。今回は、ケース裏全体がブラックのセラミックとサファイア製で、技術的進歩と新しいセンサーを別としても、何しろカッコいい。センサー周りのリングは新しい心拍センサーで、今年秋後半に心電図機能が提供されたら使えるようになります。新採用の素材は美しいだけでなく、セラミックがアンテナに干渉しないことからセルラーとWi-Fiの接続性が向上するとAppleは説明します。厳密なテストは実施しませんが、Apple Watchを使った1週間で何ひとつ問題は起きませんでした。ということはきちんと作動するのでしょう。
Series 4にはアルミニウムとステンレススティールの2種類の素材があります。さらに、その年のiPhoneに対応したいろいろな仕上げが各々に選択できます。私が使ってみたのは44mmステンレスモデルで、仕上げは新登場のポリッシュドゴールドSS仕上げだ。今週同僚や友人から一番よく受けた質問は「もしかしてそれソリッドゴールド?」でした。違います。金色なだけ。
以前はソリッドゴールドのApple Watchもあったし、アルミニウムを陽極酸化処理して柔らかい金色にしたアルミニウムモデルもあったけれど、この輝き、この重量感、この手頃さを同時に実現したものはありませんでした。このモデルには間違いなくちょっとしたリュクス感を感じます。このゴールドの色調は、ほのかに暖かく同時に柔らかで、A. ランゲ&ゾーネのハニーゴールドやシャネルのベージュゴールドを思わせます。ただしApple Watchはこの2つほど淡色ではありませんが。
Series 4には「エディション」モデルがないことにも注目です。そのため今年はフルセラミックモデルもソリッドゴールドモデルもなし。グレイセラミックがあったらよかったのにと心から思いますが、なしでもなんとか大丈夫でしょう。
幸運なことにゴールドのSeries 4には完璧にマッチするバンドが発売されています。本体と同じゴールド仕上げのAppleミラネーゼループです。バンドなしで買うと100ドル(約1万900円)安いけど、絶対にそんなことをしないように。ミラネーゼループは、2014年に使い始めて以来、僕のお気に入りApple Watchバンドで、その評価はずっと変わりません。快適だし、いくらでも調整できるし、ルックスも素晴らしい。ラグはケースにぴたりと合い、全体が完全に調和してプロト1970年代風を実現しており、メッシュの光り具合もあからさまに派手ではなく絶妙なんです。
WatchOS 5
平らなサイドボタンを押した瞬間、深い淵のような画面が点灯しユーザーはwatchOS 5の世界に入り込む。既存のApple Watchオーナーも今回のアップグレードを適用可能ですが、Series 4を活用してしか使えない機能も多数あります。その中でも最たるものが新しい文字盤「インフォグラフ フェイス」です。この文字盤は新しくなったディスプレイの強みをフルに生かすよう設計され、44mmモデルではそれがより顕著です。情報が文字盤の中心から、まるで爆発しているように見えるのです。
インフォグラフでは文字盤上に8つのコンプリケーションを配置でき、そのうち1つは少し特別です。それぞれの隅に「リッチ」コンプリケーションを置けて、これまでのと比べて得られる情報が少し増えました。私の好きな2つは、現在の気温に加えてその日の最高気温と最低気温を知らせてくれる温度計と、現在地の月の出時刻が分かるムーンフェイズ表示です。文字盤の中央、メインの時刻表示の内側には、3時、6時、9時位置にさらに3つの基本コンプリケーションがあり、12時位置には、文字盤の一番上から情報が下りてくるコンプリケーションを配置できます。ここにはカレンダーを最もよく使った。自分の各メトリクスを一括して表示できる、アクティビティコンプリケーションがなかなか便利でした。
この文字盤には「インフォグラフ モジュラー」というバリエーションもあります。よりデジタルなスタイルのオプションで、1つのスクリーンにできる限りたくさん濃密に情報を詰め込むというゴールは同じです。ここでも同じく、リッチコンプリケーションが画面下に並んでいるし、文字盤の横幅いっぱいに広がるスペシャルコンプリケーションのスポットもある。Appleはこれをサードパーティ開発者にも公開したので、今後数週間で選択肢が無数に増えるでしょう。フライト情報や詳しいカレンダー、拡張版天気予報などは、この場所が特にぴったりです。インフォグラフ モジュラーは初期Apple Watch以来注目されてきた「パーソナルダッシュボード」に近い概念だといえます。おそらく非常に人気が出るだろうと僕は見ていて、特にApple Watchを生産性向上のために使う人は気に入ると思っています。
しかし、ここで正直に言います。新しい文字盤のどちらも、いかに洗練されたデザインであっても (事実洗練されているのだが) 、情報量が僕には多すぎる。僕はモバイル機器の通知を最小限にして、常に鳴り続けるベルや現れるポップアップバナーを捌き続けるよりも、スケジュールに合うときだけ情報をチェックしたい人間だからです。絶対必要でない限りオンにしない。そういうわけなので、僕の個人的なお気に入り文字盤はwatchOS 5にある選択肢の中でも最も地味なもの。リキッドメタル、ヴェイパー、ファイヤー/ウォーターといったものです。
Appleチームが高速写真を使い、実写でその映像を作成したものでレンダリングではありません。その映像が素晴らしいんです。手首を上げる度に、ちょっとしたショーを見て時刻を知る。それだけで、何か心を落ち着かせるものがあり、いい意味で気を紛らわせる効果があります。これと同じものでSeries 2やSeries 3モデルバージョンもあるのですが、Series 4でなければフルスクリーンでのこの素晴らしい体験はできないみたい。ごめんよ…。
しかし究極的には、最も重要な新機能といえば健康管理とフィットネス関連なのでしょう。Appleは明らかに、Apple Watchでここに一番力を注いでいるし、最大のインパクトがあると考えているようです。前述した、間もなく登場予定のECG機能に加え、Series 4とwatchOS 5には低心拍通知、不整脈検知、転倒検知といった通知機能があります。Series 4試用期間の1週間にこんな通知がなくて幸運でした。
AppleのアプリWorkoutには、ヨガやハイキングなど新しいワークアウトがいくつか登場し、こうしたアクティビティをする際、新しいアルゴリズムと従来のセンサーを用いてより正確な計測が可能になりました。重要な点は、ワークアウトについても自動検知があること。アプリを起動し忘れてランニングを始めても後から遡ることができるのです。こういう機能は、必要になるまで気にも留めませんが、いざというときにあってよかったと実感するものでしょう。文字盤に関していうと、新しいフェイス「ブリーズ」が登場。ゆったり呼吸するための人気アプリを、メインの時刻表示に適用したものです。ここで重要なのは機能の多さだけでなく、Appleが描くApple Watch活用法のビジョンの中心に、これらが位置付けられている点です。
その他にもwatchOS 5の新機能はたくさんあり、Walkie Talkie (短い音声メッセージをリアルタイムでやりとりできる)や、Activity Competitionsで友人に挑戦する機能が追加。ただしwatchOS 5の公開からこの記事執筆までの間に48時間しかなかったため、友人らに声をかけて実際にそれを試してみるわけにはいきませんでした。新しい音声アシスタントSiriもちゃんと作動しましたが、今まで(=ほぼ皆無)以上にSiriを使おうとは思いません。
A Week On The Wrist
発表の噂がたってから先週のイベントまでApple Watchの話題をフォローし、その間リリースやソフトのアップデートもすべてチェックしてきた結果、Apple Watchにはかなり詳しくなったと思います。しかし新しいモデルを初めて身に着けるときはいつも、慣れるまで時間が必要なものです。ちょうどいいアプリを探したり、適切な通知設定を探ったり、文字盤の設定などもまだ途中です。初日にいきなり深いところに飛び込んで、インフォグラフとインフォグラフ モジュラーフェイスを設定し、より簡単なExplorer初期設定ではなくそちらを使うべく自分に強制しました。
最初の1、2日は手首を上げてディスプレイが点灯するたび、表示される情報の多さを目にしてギャッと跳び上がるようでした。ディスプレイの輝度や解像度に変化はないものの、サイズが変わったことですべてが「もっと」増えたような錯覚に陥ったのです。3日目、4日目になると新しいエクスペリエンスにも馴れて、クイックアクセスタイマーを使ってパスタをアルデンテに茹でたり、スイスの同僚に電話するのにベストの時間を複数タイムゾーン表示を使い確認したりするように。ミニマリズム志向の僕ですが、整然と並んだ多くのデータをひと目で確認できるというのはなかなか便利に感じました。
WatchOS 5の新機能で私が好きなもの、それは間違いなくPodcastアプリです。この機能はおそらく誰もが既にあると思っていたでしょう。Appleはこの機能をフィットネスの一環として売り込んでいます。つまり、ワークアウトしながら聴くものをどうぞ、というわけ。確かにその通りで、マラソン出場に向け準備中の妻は、このアップデートにとても感謝しています。僕の場合はランチ中や地下鉄の中でスマホを取り出すことなく音楽を聴いてくつろげるというのも嬉しい。さらに、HODINKEE Radioのエピソードを聴き逃した言い訳も、これでできなくなるね (笑)。
とはいえ、Apple Watch Series 4を私が愛する理由は結局フィットネスアプリの存在。ランニングをする際、アプリNike Run ClubとApple Workoutのランニング機能の両方を使ってみましたが、それぞれに利点があります。前者は最小限の機能でトレーニングプログラムが優れている一方、後者はユーザーが走っているときの情報を極めて詳細に記録してくれます。これからもそれぞれの利点を考慮しながら、合理的に両方を使い続けるつもりです。フィットネスをゲーム化するという考えは特に新しくないけれど、アクティビティリングを完成させるのは楽しいですよ。近いうちに友人に競争を挑もうとたくらんでいます。
新機能と新しいフェイスの他にも、Series 4には重要なアップデートが隠れています。それが新しいS4チップ。このApple Watchは超高速なんです。初代Apple Watchは速度に問題があったし、Series 3でももたつくことがありました。Series 4ではこれまでのところ全く問題なし。全く、です。Series 4はキビキビ動いて反応がよく、必要なときに必要なことをやってくれます。これがユーザーエクスペリエンス全体にどれだけ大きく影響するか、強調しきれないくらいです。雨が降るかを知りたいだけのときにしかめっ面で手首を見下ろしながらジリジリと待つなんて、誰でも勘弁して欲しいですよね。
大いなる問い
これらすべてを知ると、二つの大きな問いが浮かんできます。その一。Apple Watch Series 4を買うべきか。その2。Series 4は機械式腕時計を放り出す理由になるでしょうか?
HODINKEE Magazine Vol.2に向け、弊社創業者のベン・クライマーはAppleのチーフデザインオフィサーであるジョニー・アイブその人と対談し、Apple Watchの一番初めの着想、ユーザーの生活にどのように役立って欲しいか、将来Apple Watchがどうなっていくかなどを語った。もちろんアイブの機械式時計のコレクションについても聞いている。
では最初の問いから始めます。端的に言うと答えは「たぶん」です。去年Series 3でセルラーがラインナップに加わり「はい」と答えるに十分な理由ができましたが、それがSeries 4を買わなくていい理由にはなりません。心臓が悪かったり健康状態全般をモニターする手段がもっと欲しいというならSeries 4モデルをぜひ選ぶべきで、多くの情報をひと目で確認したいうえに従来のApple Watchでは物足りないなら、Series 4にはもっと利用価値があり、投資に見合った効果が得られるでしょう。Apple Watchの概念は好きだが従来モデルは遅すぎると感じるなら、機器内部の性能が向上したことがアップグレードする十分な理由です。
おそらく最も重要なケースは、Apple Watchを所有したことがなく自分の生活に合うかどうか迷っている場合です。僕は、Series 4を試してみる価値は十分にあると思います。Series 4は、Appleが考え抜いたApple Watch初めてのイテレーション(反復)だと思われるからです。それを定義するのが先週のキーノート冒頭でジェフ・ウィリアムズが紹介した3原則(本記事の冒頭でも紹介した)。一体性があり、大志があり、ユーザーに自分の習慣や行動を改善する気持ちを起こさせるかもしれないということです。Apple Watchをまだ使ったことがなく、タイミングを待っているなら、今がそのときです。試してみましょう!
さて、Apple Watchに興味のある腕時計マニアが毎年直面するジレンマにはどう対処したらいいでしょう。機械式腕時計を外してApple Watchを着けるのか。いや、そうはならないと思います。しかし、まだApple Watchを持っていないならローテーションに加える価値はあると言えます。僕はワークアウトするときに機械式腕時計をしないので、そんなときこそApple Watchの出番なんです。ヴィンテージのスポーツウォッチは数時間自宅の箱に入れておいて、いろいろな情報がすぐ得られるというのもそれほど悪くはありませんよ。
そこから腕時計に対する自分の関わり方も見えてきます。自分にとって伝統的な腕時計の何が必要で何が必要でないか。Apple Watchは機械式腕時計がもたらしえない、どんな価値を生活にもたらすか。どれもいい質問だし、他の時計に混じってローテーションにApple Watchを組み入れている腕時計コレクターを僕はたくさん知っています (自分自身やHODINKEEのエディター数名も含め)。腕時計愛好家がApple Watchを素通りしていた時代はもう終わり。広く腕時計を愛する人にとって、今やApple Watchはマストハブと言っていいと思うのです。
一緒に暮らすための機械
ル・コルビジェは住宅を「住むための機械」と表現しましたた(フランス語ではUne maison est une machine-à-habiter)。住宅とはあくまでも人間が日常生活を送るための道具にすぎないという考え方です。コルビジェによると、良い住宅とは日常の作業や活動がより簡易に、楽しくできる住宅だといいます。
その意味で、Apple Watchは一緒に暮らすための機械です。Apple Watchは肌身離さず着けるデバイスであり、一日を共に過ごし、毎日繰り返す作業をちょっとラクに、そして楽しいものにしてくれるでしょう。
Apple Watch Series 4は、3つの目的を果たすべく最も基本的な要素から設計されています。すなわち、つながりの提供、アクティビティ、ウェルネスです。21世紀の生活が私たちの多くにとってどのようなものかを考えるとき、これら3つは日常生活で最も重要な側面といえます。Apple Watchは朝のランニングへ一緒に出かけ、トレーニングプログラムをこなす手助けをします。また、一日を過ごす案内役となり、時間管理を助けたり世の中の出来事について教えてくれたりします。ディナーの時刻に遅れないように教えてくれるし、デート中にiPhoneをカバンから取り出す手間も取らせません。アクティビティを静かに追い続け、何か注意すべきことを検知したらチャイムでそれを告げてくれる。しかし何よりもいい点は、スマートフォンほど邪魔になることなく、快適さと信頼性を提供してくれることです。
そして、何よりもまずい点は、別のスクリーンでも確認できそうな情報を表示しているにすぎない、ということ。リスクとリターンのバランスが、一方に傾き始めているように思えますね。
そろそろこの辺で明確にしましょう。Apple Watchを不可欠だと言うつもりはありません。健康で活動的で生産的な生活を、Apple Watchなしで送ることは可能です。しかしSeries 4によって、AppleはApple Watchの将来における有用性を証明しました。もしかして僕はちょっと単純なのかもしれないけれど、現在のApple Watchの方向性やそのカテゴリの目指すものを踏まえると、Apple Watchがほぼ必需品になるまでに数年もいらないのかもしれません。手首に何か別のものを着けるか否かの論争は年々難しくなっていて、長い目で見て機械式腕時計にどんな影響があるのか疑問が残るでしょう。正直いって僕には分かりません。しかし、それについてはそのときに考えることにしませんか。まだしばらく先のことでしょう。
でも当面は、Apple Watch Series 4は本当に、Appleが好きな言い回しを使えば、過去最高のApple Watchです。Series 4はApple Watchの成熟した姿であり、Appleが過去4年間に切り拓いた道の次の一歩であり、将来の姿を予見させるモデルです。
時間を確認するときに、新時代の懐中時計よろしく携帯電話を取り出すような腕に何も着けない派の方々も、素晴らしい機械式時計を諦めるなんてありえないという筋金入りの腕時計コレクターも、Apple Watchを試すならここいらが潮時ですよ。
編集部注
ここではApple Watch Series 4のみをレビューしていますが、ペアリングするために新型iPhone Xsのサンプルも借り受けました。試しに本記事に使う写真はすべて新型iPhoneで撮影。iPhoneのレビューは他でもたくさん読めますが、それに疑念を持った人へ。新しいカメラシステムでめちゃくちゃいい腕時計の写真が撮れています。