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Business News レオナルド・ディカプリオ、サステナビリティを追求する新興時計ブランドのアイディー・ジュネーブに出資

(レオナルド・)ディカプリオが参加する200万スイスフランのシードラウンドは、ブランドの最新コレクションであるサーキュラーSの発表に伴うものだ。

ここ数年、時計業界ではより環境に配慮した持続可能な取り組みへの関心が高まっている。例えばパネライにはリサイクル素材のeスティールがあるし、オリスは再生プラスチック製ダイヤルを使用している(サステナビリティレポートを通じた透明性のなど、ほかにも多くの環境プロジェクトを推進している)。さらに環境問題だけでなく、ショパールのようなブランドはリサイクル素材を含む、“責任ある調達を持って採掘されたゴールド”を使用しているのを目にすることもある。さらにタグ・ホイヤーは、ラボグロウンダイヤモンドを大胆に使った時計を発表しているが、おそらくその技術を取り入れなければ製造できなかっただろう。これは環境にとっていいだけではなく、ビジネスにとってもいいことだ。

Tag Heuer Plasma

今年発表されたタグ・ホイヤー カレラ プラズマ トゥールビヨンは、ラボグロウンダイヤモンドを採用している。Photo by Mark Kauzlarich

 本日発表された、環境に配慮した時計ブランド、アイディー・ジュネーブ(ID Genève)による200万スイスフラン(日本円で約3億2990万円)のシードラウンド(資金調達)は、小規模なブランドが時計業界をよりよい環境活動へと押し上げる上で大きな影響を与えることを示しているかもしれない。俳優であり、気候変動活動家のレオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)氏が関与していることも、注目されることは間違いない。

 アイディー・ジュネーブは、気候変動や社会環境への影響を懸念し、その価値観や原則を反映した時計を作ることを目的として、2020年12月にスタート。CEOのニコラ・フロイディガー(Nicolas Freudiger)氏、COOのセドリック・ムルハウザー(Céderic Mulhauser)氏、デザイナーのシンガル・デペリー(Singal Depery)氏の、3人の友人によって設立された。ブランドを設立してから、その後よりよい気候変動志向の実践を追求するのではなく、彼らの目標は最初から組み込まれている。

Co-founders of ID Genève

アイディー・ジュネーブ、共同設立者の3人。

 ブランドにはウォッチメイキングの実力もある。ムルハウザー氏が14歳のとき、ヴァシュロン・コンスタンタンの最年少見習いのひとりに選ばれ、24歳まで、ブランドで急速に出世をしていく。一方、フロイディガー氏がウォッチメイキングに夢中になったのもほぼ同時期だったが、当初はビジネスとホスピタリティに専念するべく、別の道を歩んだ。それでもふたりは、最終的には自分たちでブランドを立ち上げ、ムルハウザー氏が時計づくり、フロイディガー氏がビジネス面を担当すると心に決めていた。ある年、ふたりはバーゼルワールドの路地で、将来ブランドのアーティスト兼デザイナーとなるデペリー氏と出会う。彼のエコなライフスタイルがフロイディガー氏に刺激を与え、そこから歯車が回り始める。

 2019年、フロイディガー氏はコカ・コーラ社を辞め、ムルハウザー氏に夢の実現を持ちかけた。少々説得が必要だったが、デペリー氏が自身の信念を持ったブランドを作るために後押ししてくれたこともあり、最終的にアイディー・ジュネーブが誕生した。アイディー・ジュネーブは、最終消費者につながる出発点を持つ製品ラインに焦点を当てるのではなく、たとえ小さな行動から始めたとしても、時計経済を循環型経済へと変えることを望んでいる。

 フロイディガー氏は2021年にディカプリオ氏と仕事をすると目標を掲げる。気候変動に関しては時間が重要であるため、今後3年以内に実現しなければならないと自らに言い聞かせていたのだという。それは先見の明のある決断であり、幸運なことにフロイディガー氏が目標とした時間内に結実した。2023年7月、ハリウッドのコンサルタント会社、ナショナル・リサーチグループがアメリカ在住者1500人を対象に実施した世論調査によると、ディカプリオ氏はグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)氏、アル・ゴア(Al Gore)氏、ザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン、Dwayne Johnson)を抑えて、気候危機に関して最も信頼される有名な権威になったと結果が示していた。

ID Genève Circular 1

オリジナルのIアイディー・ジュネーブ サーキュラー1。

 ディカプリオ氏の実績は、キャリアの初期にまで遡る。1998年、ディカプリオは24歳のときにホワイトハウスを訪れ、当時の副大統領アル・ゴア氏と会談し、気候変動や地球温暖化について話し合った。これは彼の活動にとってとても重要な瞬間だった。同年、ディカプリオ氏は地球最後の原生地域の保護に焦点を当てた自身の財団を設立。同財団から資金提供を受けているプログラムには、助成金交付、公共キャンペーン、メディアプロジェクトなどがある。

 2014年、国連事務総長は2014年の気候サミットを前にして、ディカプリオ氏を気候変動に、特別に焦点を当てたピース・メッセンジャーに指名した。ディカプリオ氏は同ブランドが発表したコメントのなかで、次のように述べている。「一貫して革新を続け、循環型経済の原則に重点を置くことで、ラグジュアリー業界だけでなく、そのほかの業界にも変化をもたらしているブランドであるアイディー・ジュネーブに投資できることを、うれしく思います」

Leonardo DiCaprio

“サーキュラーS”を着用する、レオナルド・ディカプリオ氏。

 最近行われた200万スイスフラン(日本円で約3億2990万円)の資金調達ラウンドは、ディカプリオ氏や複数のスイスファミリー・オフィスが関与する、Cape Capitalが率いたプロジェクトであり、2022年のスイス時計産業からの輸出総額である237億スイスフラン(日本円で約3兆9085億6370万円)に比べれば、ほんのひと握りに過ぎない。しかし、たとえそれが大きな計画のなかでは少額であったとしても、小さな変化は大きな影響をもたらすとフロイディガー氏は考えている。

 「10人の完璧な人よりも、生活を改善して少しずつ影響を与えたいと思っている何百万人もの人がいるほうがいいです。私たちは皆、自分自身、レオも、皆も、よりよい環境になりたいと思っていますが、誰もが自分自身の矛盾を抱えています。そして最も重要なのは、今影響を与えるために私たちが行う小さなことです。というのも、残された時間はわずかであり、より大きな効果を与えたいのであれば、今後5年から10年のあいだにそう実現すべき必要があるからです」

The Circular S

アイディー・ジュネーブ サーキュラーS。

 アイディー・ジュネーブが最近リリースしたサーキュラーSは、100%リサイクルされたSSケースに収められた、6種類のダイヤルバリエーションと、売れ残りの在庫から調達したスイス製のETA 2824自動巻きムーブメントを改装したものである。ETA 2824を選んだ理由は、単に売れ残っていたエボーシュムーブメントだからではなく、世界中で最も修理しやすいムーブメントのひとつだからだ。これにより、いつか時計が機能しなくなった場合、捨てられてしまうという無駄を減らすことを期待している。

Solar furnace

フランス、モン=ルイにある太陽熱炉。

 41mm径×9.65mm厚、50m防水のケースは、単なるリサイクルSSではない。このSSはフランスのモン=ルイにある太陽熱炉で溶かされている。その太陽熱炉を使用することで、炭素の影響を、業界平均の4441スチールの165分の1にまで減らすことができる。つまりCO2換算6.8kgに対し、0.041kg相当ということになる。この太陽熱炉は、新型サーキュラーSのデザイン言語にもインスピレーションを与えており、サンバースト仕上げのベゼルとサンバースト仕上げの文字盤、そして一般的な文字盤よりも混沌としたソーラー効果を与えるレーザー彫刻が施されている。ストラップは100%植物由来で、ブランドのパッケージと同様に堆肥化が可能。またケースは、フルーテッドタイプとスムースタイプを用意している。

Circular S

 サーキュラーSの詳細については、アイディー・ジュネーブの公式ウェブサイトで確認できる。実際に時計を見たことはないが、サイズ感は快適そうだ。4380スイスフラン(日本円で約72万2000円)という価格は、同じようなスペックで市場に出回っている、ほかの選択肢と比較すると高く感じられるが、やはり市場に出回っているほかのブランドはアイディー・ジュネーブと同じような取り組みをしていないため、比較するのは難しい。どちらかといえば、これは“自分の言葉を行動で証明する、言葉だけでなく行動で示している”ように思える。高級時計にはエゴの部分があり、持続可能な商品の持続可能性および入手のしやすさは、そのエゴを満たす独占性と相反していると、フロイディガー氏は認めている。これは彼らが克服しようとしている課題であり、ひとつにはラグジュアリーとは品質であり、単なる高級品ではないということを示すために、可能な限り最高の製品を作ろうとしているのだ。

 フロイディガー氏との1時間に及ぶ会話を終えたとき、私はチームが時計に誇りを持っているのと同様に、製品そのものは、製品を使って業界をよりよい方向に向かわせたいという真の情熱に比べれば、後回しになるのではないかという印象を持った。

 「世界で販売されている1000スイスフラン(日本円で約16万5000円)以上の時計の95%がスイス製であるため、スイス製時計の責任は非常に大きいです」 とフロイディガー氏は語った。「スイス製の時計の話をするとき、最初に何が頭に浮かびますか? と問います。彼らの答えは品質、贅沢、エリート主義であり、スイスの山々やチョコレート、時にはプライベート・バンキングについても触れます。5年後、10年後の私の目標は、人々が経済の変遷期について話し、業界全体として私たちには一体何ができるのかと語ることです」

 「私のビジョンは、ラグジュアリー産業をエコロジー転換の中心に置くことです」 と、続けてフロイディガー氏。「私たちだけの問題ではありません。私は今年、多くの時間をほかのブランドと一緒に過ごして、意識改革を求めました。私はそれをリードしているのではなく、ただその一部であり、座って彼らと共同創造しているに過ぎません。なぜなら持続可能性の話題においては、私たちは競争相手ではなく、私たち全員が生態系転換の中心にいるのですから」

特に注意書きのない限り、画像はすべてアイディー・ジュネーブの提供によるもの。