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クイック解説
近年、世界的に独立時計師やインディペンデントブランドへの関心が一段と高まるなか、日本はこの分野できわめて多彩で豊かなマーケットを形成しています。たとえば、菊野昌宏氏やキクチナカガワ、浅岡肇氏、浅岡氏が率いる東京時計精密のクロノトウキョウ、大塚ローテック、そして飛田直哉氏の Naoya & Hida Co.など、挙げればきりがないほど個性あふれる名前が思い浮かびます。
実際、僕が元HODINKEEメンバーのスティーブン・プルビレント氏とライターのジャスティン・ハスト氏が配信するポッドキャスト『THE ENTHUSIASTS』に出演した際にも、「なぜ今、日本のインディペンデントが爆発的に増えているのか」という問いを受けたほどです。
そうした潮流の中、東京・銀座の時計ショップ、クロノセオリーが展開する CHRONOTHEORY & Co. から、ブランド初となるオリジナルモデルAV-98(Advanced Vintage 6498)が満を持して登場しました。
モデル名が示すとおり、本作は1930年〜1950年代のヴィンテージウォッチに着想を得た一本です。ブレゲ数字のインデックスと6時位置のスモールセコンドが特徴的で、クラシックな佇まいを演出しています。
ラウンドシェイプのケースはステンレススティール製で、直径42mm、厚さ9.1mm。防水性能は6気圧が確保されています。クラシックな外観を保ちつつも、直径がやや大きめに設定されているのは、ムーブメントに手巻きのユニタスCal.6498が搭載されているためです。
ダイヤルはラッカー仕上げが施された全3色展開。深みのあるブラックにイエローゴールドカラーのインデックスが映えるピアノ・フォルテ・ブラック、透明感と奥行きを感じさせるブルーにシルバーカラーのインデックスを組み合わせたストラト・ネイビー、そして3モデルで唯一、縦方向のサテン仕上げが施されたブロンズカラーのダイヤルにシルバーカラーのインデックスが華やかさを添えるティンパニ・ローズです。
本作の背後には、ふたりのキーマンの存在があります。ひとりは、本作のデザインを手がけたクロノセオリー代表兼インハウスデザイナーの渡邉直人氏です。もともとグラフィックデザイナーとして活動していた同氏の美意識とこだわりが随所に反映されており、インデックスに用いられているブレゲ数字も一から描き起こされたオリジナル。基本的に、目に見えるほとんどすべての要素が氏の手によるものです。
そしてもうひとりは、クロノセオリー専属の時計師、飯塚雄太郎氏です。時計の組み立てはもちろんのこと、彼に課された最も重要な役割はムーブメントの仕上げにあります。ブリッジの天面には半円状のコート・ド・ジュネーブが施され、さらに幅広の面取りも採用。ムーブメント自体の径が大きいことに加え、24Kゴールドメッキが施されていることも相まって、視覚的な迫力と精緻な仕上げを存分に楽しめる構成となっています。
ユニタス Cal. 6498 を搭載する現行モデルはいくつか存在しますが、ここまで手の込んだ仕上げが施されたものは、他に思い浮かびません。僕自身、ユニタスにこれほど丁寧な仕上げが施されたのを目にしたのは初めてです。
CHRONOTHEORY & Co. AV-98の価格は税込220万円。2025年はわずか3本のみの限定販売で、すでに抽選は終了していますが、今後は毎年、限定本数での販売が予定されているとのことです。
ファースト・インプレッション
この時計について、僕自身は以前からその存在を知っていました。というのも、本作を手がけた渡邉氏とは交友があり、AV-98の開発段階からプロトタイプに関する情報を共有していただいていたからです。試作機を初めて拝見した時点で、すでにプロダクトとしての完成度の高さには驚かされましたが、完成品を手にして改めて感じたのは、細部に宿る意志の強さでした。
ラウンドケース、ブレゲ数字のアプライドインデックス、リーフ針、そして6時位置に配されたスモールセコンド──いずれもヴィンテージウォッチ愛好家の心をくすぐる要素が丁寧に取り入れられており、それらが美しく磨き上げられた外装と見事に調和しています。
立体的なブレゲ数字インデックスと丁寧に曲げられたリーフ針。
さらに、ムーブメントには、いまインディペンデントブランドの世界で高い価値を持たせうる要素の仕上げがしっかりと施されており、そうしたディテールに対するこだわりが、外装やデザインと見事に響き合っています。まさに現在の独立系の時計づくりにおける人気の要素が、ひとつの時計として高い次元で融合されていると感じました。これらを実現できたのは、インディペンデントブランドの時計を数多く取り扱い、日々現物に触れ、顧客のリアルな声に向き合ってきたクロノセオリーという時計ショップが母体であったからこそだと思います。
コート・ド・ジュネーブと面取りが施されたブリッジ。
ただ、それと同じくらい重要な存在として挙げたいのが、国内の優れたサプライヤーたちです。彼らの高度な技術と真摯なものづくりの姿勢があってこそ、AV-98はここまでの完成度にたどり着いたのだと感じています。そして、特筆すべきは、今回携わったパートナー企業や製造の背景が一切隠されることなく、すべて公開されているという点です。ケース製造を担った協和精工、ダイヤルを手がけた昭工舎など、両者の名前が明確にクレジットされています。
歪みの無いケースにレフ板とカメラを手に持つ僕の姿が映っている。
ケースの製造を担当した協和精工は、MINASEの運営元としても知られる、精密・微細加工の分野における名門企業です。本作でもその高い技術力が存分に発揮されており、複雑な三次元曲面を持つミドルケースを一体成型で仕上げています。さらに、CNCでの切削後にザラツ研磨と手磨きを組み合わせることで、エッジのシャープさを保ちながら、歪みのない美しい鏡面仕上げを実現しています。
そしてダイヤルの製作を担ったのは、1929年創業の老舗・昭工舎。ダイヤル製造において国内トップクラスのシェアを誇り、多くの大手時計メーカーのサプライヤーとしても知られる存在です。本作では、ミラーポリッシュが施された美しいラッカー仕上げのダイヤル上に、厚みのあるアプライドのブレゲ数字インデックスが丁寧に植え込まれており、その立体感と陰影が、文字盤全体に表情をもたらしています。
外装の完成度の高さは、実物を手に取った瞬間に目で見てはっきりと確認できましたが、それでもやはり気になっていたのは直径42mmというケースサイズでした。というのも、僕自身の“時計サイズのスイートスポット”はおおよそ37mmで、それよりも5mm大きいとなると、着けた際のバランスに不安があったからです。ですが、実際に試着してみると、手首周り15.5cmの僕の腕でもラグがはみ出すことなく、自然な装着感で収まってくれました。
ただ、やはりこのデザインでさらに小径のサイズがあれば、より僕の好みにフィットしていたことは間違いありません。特にヴィンテージテイストの時計においては、37〜39mmあたりのコンパクトなプロポーションに惹かれるタイプなので、もし将来的にそういったバリエーションが展開されたら、ぜひ手に取ってみたいと思います。とはいえ、現行の42mmというサイズ設定には、前述の通りユニタスを搭載するうえでの必然性があり、ムーブメントの美観をしっかりと見せるという意味でも納得のいく選択だと感じました。
ユニタスはその大ぶりなサイズゆえにケース径にも影響を与えますが、視認性や仕上げ映えの面で優れています。サイズだけにとらわれず、全体のバランスと意図を理解することでこれが何を目指して作られた時計なのかが見えてくるのではないかと思います。
本作には、「一時計店がここまでのものを作れるのか」という純粋な驚きがありました。時計ショップが手がけるオリジナルモデル自体はこれまでにも存在してきましたが、AV-98が際立っているのは、外装からムーブメントの仕上げに至るまで、あらゆる面で高い完成度を実現している点にあります。この時計を通じて、日本のものづくりの底力を改めて実感させられました。
また、独立時計師のように一から設計し、ネジ一本まで自ら作り上げていくスタイルとは異なり、信頼のおける職人やサプライヤーとチームを組むことで、ひとつの時計を作り上げるというアプローチが、ここでは明確に選ばれています。そして何より、それを可能にする技術力と感性を備えた土壌が、日本にはしっかりと存在しているという事実が、本作を通してはっきりと示されたのではないでしょうか。
こうしたプロジェクトが、今後も日本から生まれてくることを楽しみにしています。
基本情報
ブランド: CHRONOTHEORY & Co.
モデル名: AV-98
直径: 42mm
厚さ: 9.1mm
ラグ トゥ ラグ: 49mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ピアノ・フォルテ・ブラック、ストラト・ネイビー、ティンパニ・ローズ(すべて真鍮製のベースにラッカーコーティング)
インデックス: アプライドのブレゲ数字
夜光: なし
防水性能: 6気圧
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ(22mm - 18mmのテーパード)
ムーブメント情報
キャリバー: ETA6498-1 CT EDITION
機構: 時・分・秒
直径: 36.6mm
厚さ: 4.4mm
パワーリザーブ: 46時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時
石数: 17
クロノメーター認定: なし
追加情報: 24Kゴールドメッキ
価格 & 発売時期
価格: 220万円(税込)
発売時期: 2025年の抽選はすでに終了
限定: なし、2025年は3本のみ。その後は年間6本ずつ製造予定。
詳細は、クロノセオリー公式サイトへ。
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