基準を定めて3本の時計を比較レビューするスリー・オン・スリー シリーズ。今回は、高級時計の3大ブランドから自社製自動巻きムーブメントを搭載するエントリーモデルの対決です。
今回用意したのは、40万円から60万円の価格帯のラインナップで、初めての高級時計を選ぶにはうってつけの候補となるでしょう。もちろん、機械式時計はこれらよりも手頃な価格で売られているものもありますが、由緒正しいマニュファクチュールから自社製ムーブメントを搭載する時計を買うことにはメリットがあるのです。
今回紹介する時計は、現代の時計製造において最もコストパフォーマスに優れる3本といっていいでしょう。
それでは、ロレックス、オメガ、およびグランドセイコーのエントリーモデルを購入することと、他社製の低価格ムーブメントを搭載する時計との違いは何でしょう? 3社はそれぞれ、最も手頃な価格のモデルにおいてすら、特別で魅力的なものを感じさせてくれます。だから、これら3本の時計の内どれを自分のコレクションに追加するかを選択するのは簡単には決められないのです。
今回紹介する3本は各ブランドの最も手頃な価格のモデルであるにもかかわらず、ブランドがそれぞれ矜恃とするところを明確に打ち出しています。例えば、オメガがムーブメントに先進的な技術を採用してして精度認証まで得ていること、グランドセイコーが仕上げの細部にまで気を配っていること、ロレックスが堅牢な時計を大規模かつ安定的に製造する驚異的能力を持つこと、等々。 難しい話はここまでとして、早速紹介しましょう。
グランドセイコー SBGR253
ファースト・インプレッション
このモデルは、グランドセイコーの基本モデルの中の基本モデル。しかし、SBGR253について本当に感銘を受けるのは、高価なモデルと同じくらい見た目も感触も優れているだけでなく、現在スイスやドイツから発売されている多くの高級時計と比べても遜色がないことだ。 多くの時計愛好家がグランドセイコーに惹きつけられているが、その品質の高さは、まだまだ一般の人々に知られているとは言い難い。私は他人が自分のグランドセイコーのロゴを見て、とるに足らない時計だとみなすことに、ある種の満足感を感じていないと言えば嘘になるだろう。
ダイヤル
セイコーが独自ブランドとしてグランドセイコーを擁立してからわずか2年だが、前世代の時計に見られた『SEIKO』のロゴを避けた新しいダイヤルデザインは、外観上の大幅な改善といえる。 ロゴを並べて冗長に思われた前世代と比べ、現行モデルのダイヤルは非常にスッキリとしている。
グランドセイコーを所有したことがある人なら、この時計メーカーが最も注力しているのがダイヤルであることにお気付きだろうか。グランドセイコーの機械式エントリーモデルも例外ではなく、高価なモデルと同じくダイヤモンド研磨された針とインデックスを、このSBGR253は採用している。このグランドセイコーの針とインデックスは、スイスの多くの高級時計に見られるものと比較して、同等かそれ以上だろう。このレビューの最中、私は手首を静かに回して、光が反射する様子を観察した。これは本当に何度も賞賛してしまうような時計なのだ。
デイトウィンドウは時計をデザインする上で最も違いが出やすいことは周知の事実だが、グランドセイコーはそのアプローチが高く評価されるべきだと思う。彼らは、針とインデックスの質感にマッチする反射性の金属フレームでデイトウィンドウを製作した。非常に全体のバランスが考えられたデイトウィンドウだと私は思う。
ムーブメント
グランドセイコーがその矜恃を示す別の分野が自社製ムーブメントだ。新しい素材や技術をムーブメントに積極的に取り入れたオメガやロレックスとは異なり、グランドセイコーが採用するのは、かなり古典的なハイエンド自動巻きキャリバーである。 SBGR253の内部には、一般的な4Hz(2万8800振動/時)で72時間のパワーリザーブを備えた自動巻きキャリバー9S65が搭載される。グランドセイコーは、このムーブメントの精度を、静止時は日差+5〜-3秒、通常の使用では日差+10〜-1秒と記載しているが、この時計や他のグランドセイコーの時計を身に着けている私の経験上、これらの記載はかなり謙虚な表現と言っていい。時計を身に着けるときの私の習慣から、レビューを開始したとき、この時計をHODINKEEアプリの“原子時計”に合わせたところ、 5日めを経過した結果、約2〜3秒だけ進んでいるだけであった。
ケースとブレスレット
ひと言でいえば、ケースの仕上げは非常に素晴らしい。グランドセイコーはケースを磨く独自技術に定評があるが、ブレスレットだけはグランドセイコーが改善する余地のあるパーツだと思う。 このブレスレットは、ケース、ムーブメント、そして間違いなくダイヤルによって設定された高い品質基準に見合うものではないのだ。
個人的な好みから注文をつけると、私はブレスレットリンクの間のリブが好きではない。一方で、グランドセイコーのより手頃なクォーツ時計は実に見栄えの良いブレスレットが付いていると思う。 このエピソードの動画で話したように、ブレスレットがあるに越した事はないが、私はレザーストラップに換装することにしている。 外側まで貫通したラグホールのおかげで、ブレスレットを交換するのに手間はかからない。
総括
今回紹介する3本の時計はすべて魅力的であると思うが、グランドセイコー(特にこの最小サイズ)は、私のお気に入りの筆頭だ。 2本目のGSをコレクションに追加するとしたら、確実にここのモデルを選ぶだろう。 グランドセイコーは、消費者に訴求するスタイルの在り方とブランドの力を完全に理解しており、コレクション全体にこれらの要素を確実に感じさせるようにしている。
確かに、SBGR253は今回のエピソードで最も手頃な価格の時計であり、それもかなり他の2本と差があるのだが、ロレックスやオメガよりも「劣る」とは感じない。それこそがグランドセイコーが持つ魅力なのだ。
グランドセイコー SBGR253 40万円
オメガ シーマスター アクアテラ 150m
ファースト・インプレッション
アクアテラ は、ダイバーズほどストイックではない、日常使いできるマリーンスポーツウォッチとして独特なテイストを味わせてくれる。 オメガのスピードマスターやプラネットオーシャンのような重厚なスポーツウォッチとは一線を画したドレッシーさを持ち合わせつつ、デ・ヴィルよりもスポーティだ。 その証拠に、このアクアテラは、直径38mm、厚さ12mm、ラグからラグまでわずか44mmで、近年のオメガにしては少し小さく設計されているのだ。 クルージングやヨットを好む男女向けに、アクアテラ 150Mは、オメガの最先端ムーブメントに加えて、仕上げの細かさときらびやかさをブレンドしたシーマスターシリーズの非常に魅力的なエントリーモデルとなっている。
ダイヤル
アクアテラ シリーズのダイヤルは、ロレックスとグランドセイコーと比較して華やかだ。 メタリックで虹色に輝くブルーのカラーリングと、水平な模様により、高級なヨットやそのチーク材のデッキを表現したアクアテラ150Mは手首の上で存在感を放つ。マーカーと針は非常に鋭利かつ宝石のように光を捉えることができ、 針とマーカーには蓄光塗料が塗布されているが、注目すべきは短針と長針である。
短針は軸に沿って、分針は矢印の先端部にかけて蓄光塗料が塗布されている。 長針の中央部分は艶消しで、ポリッシュされたエッジとのコントラストが際立って美しい。 ブランドロゴとペットネームはアプライドで取り付けられ、6時位置にはデイトウィンドウが配され、大きな黒地に白のテキストが付いた日付がバランスよく表示されている。
全体的にアクアテラ 150Mのダイヤルの仕上げは明るく、見やすく、非常に丁寧で、真のスポーツウォッチらしさを十分に保ちながら、手に巻いた感覚は特別なものとなっている。
ムーブメント
ムーブメントの観点からも、アクアテラ 150Mは価格以上の価値を提供してくれる。このエントリーモデルでも、オメガのCal.8800 マスターコーアクシャルを搭載しており、非常に高い精度を保証するために、フリースプリングテンプ、Si14シリコン製ヘアスプリング、METAS認定を備えている。3.5Hz振動の非常に現代的な自動巻きムーブメントは35石、55時間のパワーリザーブを確保する。
Cal.8800は、広く取られたトランスパレントケースバックから眺めることが可能だ。この価格帯で時計愛好家への訴求と価格競争力を両立している稀有なムーブメントなのである。オメガがムーブメントを自社開発することの大きなメリットのひとつは、オメガ(および巨大なスウォッチグループ)向けに開発された最先端技術を幅広いモデルに展開できることだ。これにより、自社製ムーブメントであることのアピールのみならず、ムーブメントそのものの信頼性が高く、高性能であることを名実ともに示すことができる。アクアテラ 150Mの価値というのは、まさにここにある。
ケースとブレスレット
アクアテラ 150Mにはスティールブレスレットが別売となるが、本機には通常、中央に編み込み模様と白いステッチの入る、航海をイメージしたブルーのラバーストラップが取り付けられている。 プッシュボタン式のフォールディングバックルと堅牢性確保のためのラグ間のスティールインサートは僕の好みからはやや過剰な印象であるが。アクアテラ 150Mにはスティールブレスレット、レザーストラップ、またはオメガの高級NATOストラップの方が適していると思う。個人的な好みはさておき、ラバーストラップそのものは快適で、色はダイヤルと雰囲気に非常にマッチしている。
とりわけ38mmのケースは素敵だ。 シンプルなライン、ラグの幅広の洗練された傾斜、ベゼルにより、紛れもなくオメガらしさが表現されており、ケースはデザイン思想である、スポーティかつドレッシーさを反映している。 トランスパレントケースバックの厚みを加味すると、アクアテラ 150Mは12mmになるが、全体的にコンパクトなため、手首に吸い付くように収まる。150mの防水性を確保するアクアテラ 150Mのねじ込み式リューズは、適度な大きさで、リューズガード(多くのスポーツウォッチに付いている)はついていない。
総括
オメガのエントリーモデルとして、アクアテラ 150Mはとても秀逸な一本だと僕は思う。 ラバーストラップが59万円(スティールブレスレットが61万円、いずれも税抜価格)のアクアテラ 150Mは、ドレッシーさとスポーティさを絶妙に両立させ、オメガ(およびスウォッチグループ)の開発力を活用したテクノロジー志向の腕時計である。僕ならスティールブレスレット、またはNATOストラップに換装し、アクアテラ 150Mの38mmケースと細部まで行き届いたダイヤルデザイン、そして大胆な色使いを楽しむだろう。 僕は、オフィス、プール、ビーチ、週末のボートまでシーンが変わっても違和感なく使える時計が好きだ。
60万円は時計に費やす額として小さくはないが、オメガはこの価格帯で最高の時計のひとつであり、歴史あるラグジュアリーブランドのエントリーモデルとして、アクアテラ 150Mはオメガの美学を見事に象徴しているといえる。
オメガ シーマスター アクアテラ 150M 59万円(スティールブレスレットモデル;61万円)
ロレックス オイスターパーペチュアル 36mm
ファースト・インプレション
ロレックスのファーストインプレッションを言語化しようとするのは困難な試みだ。ロレックスに対する私の体験は1970年代に遡り、数十年にわたって、非常に多くの異なるモデルを、あらゆる状況下で見てきた自分にとって、 ロレックスの第一印象はどうあるべきかについての持論を語るのは実に難しいことなのだ。 しかし、それすら魅力の一部なのだろう。 モデルに応じて、ロレックスは人によってさまざまな捉え方がなされるが、最もベーシックなオイスター パーペチュアル、または豪華な宝石がセットされたデイトナのいずれにも揺るぎない共通項があり、それはロレックスをロレックスたらしめる共通項でもあるのだ。
ある種の期待を持ってロレックスブティックに赴くこと。それは流行や最先端技術に感嘆するためではなく、優れた時計を製造する徹底したコミットメントに対する安心感のためだ。 もちろん、それだけではなく、むしろ期待以上をもたらすのだが、現行コレクションのすべてのロレックスの基本的な特徴は、設計と仕上げの秀逸さが均一であることであり、ロレックスが一見簡単に提供しているこの特徴は、いざ実行に移すとなると、とても難しいことなのだ。
そこで、ロレックス オイスターパーペチュアル 36mmである。ロレックスが矜恃とするべきものを代表する時計であり、単にロレックスの手頃なモデルではなく、ある意味では、最も純粋なロレックスらしさを堪能できるモデルだ。「オイスター」という名前は、1926年にロレックスの時計に初めてつけられた。「パーペチュアル」という用語は、パーペチュアルカレンダー(初心者にとっては混乱の原因となることもあろう)ではなく、自動巻き機構を指す。
今回用意した36mmのオイスターパーペチュアルは、究極のスペアウォッチともいえる。ホワイトダイヤル、バーインデックス(3、6、および9時位置に2本)、12時位置にロレックスの王冠が配されていて、手に取るとオイスターパーペチュアル、ロレックス 高精度クロノメーター公式認定されていることに気づくだろう。もちろん、サイクロップレンズが無く(当然、日付もない)、フルーテッドベゼルでもない。ケースは戦車のような形で、ブレスレットも同じように無骨である。細部における異なる点として他には5分のマークにアラビア数字が書かれたミニッツトラックだが、デザイン要素としてではなく、確実な時刻合わせの補助として、単にそこにあるようだ。時刻合わせをすれば、当面の間再び時刻合わせをする必要がなく、日常に集中することができるというわけだ。
ダイヤル
ロレックス オイスターパーペチュアル 36mmのダイヤルと針は、一点の曇りもなく時刻を読み取らせるという機能以外の気を逸らす要素の一切を拒絶しているかのようだ。 しかし、他の時計と同様、共に過ごす時間が長くなればなる程、機能に関係するものとそうでないものも分かってくるものだ。 実用主義という言葉がある。しばしば誤解されるのだが、実用主義の意味は、何かを機能させるために必要なこと以上のエネルギーを費やさないことだ(それはまさにロレックスのための言葉だ)。
しかし、実用的なモノを製造するための別のアプローチがある。時代遅れの概念となりつつあるが、それは威厳を示すことであり、オイスター パーペチュアル36mmは小さいながら最も威厳のある時計である。目を凝らして調べてみると、文字盤のデザインと針、そして印字の完璧さは時間が経つ程好ましく感じられ、それがこの時計を作った人々と組織の完璧主義を象徴しているのだ。ロレックスは確かにグランドセイコーの針やマーカーのような高度な工芸品でないことは明確だが、これは単にロレックスとグランドセイコーが優先順位が異なるというだけで、その優先順位を満たすために細心のアプローチを採っているという点では同じである。
実用的な時計には確固たる威厳がある。それは装飾でゴテゴテしたものではなく、機能的な合理性のみが形に反映された時計だけが、針とダイヤルから放つものである。オイスター パーペチュアル 36mmは装飾性にはほとんど関心が払われていない(時計に人格があれば、間違いなく派手さを隠すタイプだ)。
この根底にはスイスの時計であり、ジュネーブの時計であることが大きい。 国、そして都市から州に至るまで、勤勉を価値とみなす倫理観(カルヴァン派)が浸透しており、虚飾に対する嫌悪が刻み込まれている(これは スイス人のラグジュアリー関連の写真が酷いものになることによく表れている。とにかく不自然なのだ)。
すべての36mm径のオイスター パーペチュアルがこの種のほとんど神々しいまでの静けさを放つわけではない。レッドグレープやイエローグレープを含む、遊び心のあるダイヤルも選ぶことが可能だ。 しかし、白のダイヤルを持つオイスター パーペチュアル 36mmは、50年台のクルーズ船の有能な船長のような雰囲気を持つ。文字盤上のアプライドマーカーは18Kゴールドであるが、それを知らずとも品質の高さは確かなもので、人目を引くこともない。
ムーブメント
ムーブメント設計こそがロレックスをロレックスたらしめるという事実にもかかわらず、それをトランスパレントケースバックから眺めることができないことも同社の特異な点のひとつである。このモデルのムーブメントには、20年前に導入されたキャリバー3130が搭載されており、その前身である Cal. 3135(ムーブメント番号の順序は後だが、3130にほぼ10年先行)とほぼ同一だ。 2つのムーブメントは Cal. 3130にカレンダー機構がないことを除き基本的構造は同じである。
サイズは28mm径 x 6mm厚で、2万8800振動/時で動作し、ロレックス自社開発のパラクロムヒゲゼンマイと、バランスブリッジ(一般的なテンプ受けよりも堅牢性が高い)に支えられるグリュシデュール製テンワが備えられている。特に、テンワにはマススロット偏心錘の付いたフリースプラングであり、ヒゲゼンマイはブレゲ巻き上げ式である。これらはハイグレードなクロノメータームーブメントの特徴であり、この価格帯では稀有な存在である。ロレックスが使用するマススロット偏心錘システムは、マイクロステラナットと呼ぶ。 パテック フィリップではこの仕組みをジャイロマックステンプ、オメガは、コーアクシャル脱進機を備えたフリースプリングムーブメントに同様の偏心錘を採用している。
2015年、ロレックスはムーブメント技術の革新を図り、クロナジーエスケープメントを開発した。 クロナジーエスケープメントは、Cal.3130/35に見られるスイスレバー脱進機の亜種であり、中抜きされたガンギ車と最適化された形状のレバーを備えている。スイスレバー脱進機よりも効率的であり、長いパワーリザーブを確保する。また、脱進機構の慣性が小さいため、速度安定性と精度が向上する。とはいえCal.3130/35とクロナジーエスケープメントとの違いはパワーリザーブの長さは別として、気づくことはないだろう。近年、ロレックスはすべての時計を日差±2秒以内に調整している。これは業界で最も厳格な精度基準といえる。
Cal. 3130は典型的な同社のムーブメントであり、オイスター パーペチュアル 36mmはロレックスらしいの時計だ。古典的なスイスのレバー脱進機の中では比類がない程非常に堅牢で、信頼性の高いムーブメント(とりわけロジャー・スミスとフィリップ・デュフォーによって賞賛されている)を探すなら、この時計をおいて他はない。エンジニアリングの観点からは目新しさはないものの、例えばF1エンジンの開発はエキゾチックで冒険的である反面、1シーズン耐用することすらままならない。普通の車を作るうえ大量生産の方が正しい選択なのである。
ケースとブレスレット
ケースとブレスレットはよりシンプルであることを追求している。すなわち、ケースはムーブメントをしっかり保護することに徹しており、過酷な環境にも耐えうるよう設計されている。ブレスレットは手首から外れないように徹している。 どちらも、サテン仕上げされたステンレスにミリタリーテイストを見出さない限り、装飾のための装飾にはほとんど関心が払われていない。
手のひらと手首に時計を乗せると、ケースとブレスレットの質の高さが顕著に感じられる。そして、私の18cmの腕周りに36mm径のフィット感は申し分なく、現行のロレックスのブレスレットと同様、他のブランドにはない柔軟性と堅牢性を両立させている。このような絶妙なフィット感は、形状、構造、材料のどれによるものかは分からないが(あるいは3つの要素すべてか)、オイスター パーペチュアル 36mmは抗い難いほどの物理的および体感的な心地良さがあるのだ。
モータージャーナリストはロードフィールについて語るように、時計ジャーナリストは腕に乗せた際の感触について語るべきだ。オイスター パーペチュアル 36mmのスティールブレスレット腕に乗せた際の感触はまさに理想とされるものだ。時計を身に着けるうえで、ステンレスは険しい田舎道を走る機敏で正確な操舵性を持つ車から得られる安定感と信頼感に似た、ほど良い重量感があるのだ(チタンだと場合によっては軽すぎる)。
総括
今回のスリー・オン・スリーのエピソードは、比較レビューとして最も興味深いものであった。これらは、非常に似た目的を持つ3社の優れた腕時計であるが、目標へのアプローチは各々異なる。グランドセイコーは、独自の卓越したブランドを追求する中で、40万円台(取るに足らない、控えめに言っても記憶に残らない時計が多く存在する価格帯だ)では到底不可能なほどの職人技と強迫観念にも似た完璧主義を我々に見せつける。オメガ シーマスターは、59万円(下限)で同様に、唯一無二の価値を提供する。それは唯一スイスレバー脱進機を持たない量産ムーブメントであったり、超耐磁性能を含む先進技術を指す。
一方、オイスター パーペチュアル 36mmは、ハッと驚くようなものは何もないのだが、重要な点は押さえている。信頼でき、目立たず、ほぼ欠点がないことだ。
エドマンド・ロスタンドの戯曲『シラノ・ド・ベルジュラック』に関し、それは素晴らしい演劇ではなく、すべてにおいて完璧な演劇だとある人が批評した。これがロレックスのオイスター パーペチュアル 36mmをうまく言い当てている。優れているのは特定の何かではない。むしろ、それが優れているのは、あらゆる点において均一に優れているからこそなのである。
ゴテゴテしない、きちんと作られた存在にこそ納得のいくものがある。金槌を買うために金物屋に行って、なぜひとつの金槌が他の金槌よりも高価なのかと疑問に思い、その価格の不合理さに不満を感じつつも、手に取る。程良い重さに安心を感じ、鋼の無骨な仕上げに気づき、レジに向かい、内なる自分に「これぞ求めていた金槌だ」と語りかける。
ロレックス オイスター パーペチュアル 36mmも同じである。これまで所有したことも、身に着けたこともないなら、あれこれ疑問に思うことかもしれないが、最後には「これぞ求めていた時計だ」と納得するはずだ。
ロレックス オイスター パーペチュアル 36mm 51万5000円