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Photos by Mark Kauzlarich
パルミジャーニ・フルリエのCEO、グイド・テレーニ(Guido Terreni)氏に“新しいトリックはいつ登場するのか”と尋ねたのは、ちょうど1年前のことだった。その質問で何よりも知りたかったのは、現代の熱狂的なファンのあいだで愛された新しいトンダ PFの勢いにブランドが自信を持ち、ミシェル・パルミジャーニ(Michel Parmigiani)氏がブランドを再スタートさせるために開発したコレクションを再び見直す時期がいつになるのかということであった。
“ブランドは10年か12年のあいだに少し方向性を失ったと言えるでしょう”とテレーニ氏は語った。“初期のトリックのなかで非常に興味深いコレクタブルな作品が存在するのは、ブランドの威信がそこから来ているからです。そしてその後の10年間は、ブランドが顧客との接触を少し失った時期だと思います。私が最初に取り組んだのは、最も緊急性が高く、販売面で最も可能性があったトンダ PFでした。そしてトリックは最初に生まれたコレクションです。そのため、まずトリックに取り組むのは当然のことでした”。
当初は気づかず、2024年4月のWatches&Wondersで知ることになったのだが、トリックについて尋ねた私のタイミングは最悪だった。テレーニ氏は後に、私たちが会う直前にトリック再ローンチの初期プロトタイプを受け取り、それが完全に的外れだと感じたそうだ。彼はすべてのアイデアを捨ててゼロから始める準備をし、再ローンチを少なくとも1年遅らせる可能性があった。幸いなことに、核心となるアイデアはやはり正しかった。プロジェクトは大幅に練り直されたものの、チームはWatches&Wondersで披露したトリックの素晴らしい再解釈モデルを製作し、2024年9月に納品予定となった。
新しいトリックコレクションは3つのモデルでスタートした。ここで紹介する2本のトリック プティ・セコンドと、スプリットセコンドクロノグラフである。トリックの最新バージョンは、ふたつのデザイン言語のあいだで行き詰まっているように見えた。文字盤にはオリジナルラインで見られたギヨシェ装飾が施されていたが、しばしばアプライドの数字とロゴが、文字盤のブロックの中に浮かんでいることが多く、一貫性に欠けていてデザインを邪魔しているように見えた。削ぎ落とされた文字盤を持つトンダ PFと比べると、トリックは少し場違いな感じがしたのだ。
新作のトリックは、トンダと同様に簡素化された文字盤デザインを採用し、新しいオーバルロゴを取り入れている。18Kホワイトゴールド文字盤のギヨシェ装飾をやめ、アンティークのマリンクロノメーターや置き時計からインスピレーションを得た木目調の質感を表現した。ミシェル・パルミジャーニ氏はブレゲのサンパティーククロックなどの修復作業でこの技術を完成させた。酸化した文字盤を剥がし、酒石酸、海塩、銀を脱塩水で混ぜ合わせたものを使って、新たな粒子状の質感を作り出したのだ。文字盤はグレーセラドン(青磁、グリーン)とサンドゴールドで仕上げられ、それぞれ18KWGまたはRGのプレートの上につくられる。文字盤プレートの面取りされたエッジをとおして、インダイヤルや5分置きのインデックス付近で層を形成しているのがわかる。職人が作業の抵抗を感じつつ微細な粒が形成されるまで、手作業で工具を使い圧力をかける。文字盤はその後、手作業で適切な色の18Kインデックスを付けて仕上げられるのだ。
手巻きムーブメントのPF780は、全体が18KRGで作られていながら、それと同様に簡素化されたモダンなデザイン言語を備えている。コート・ド・フルリエ仕上げが施された18KRG製ブリッジからは、ふたつの香箱とテンプのみを見ることができ、底部にはサンドブラスト仕上げのプレートが覗いている。このスタイルはイギリスのシンプルなフロステッド仕上げと、スイスの装飾的なエレガンスの中間に位置している。ムーブメントはリューズを巻いた時の感触を重視していて、時計を扱うたびにその感触が忘れられなくなり、次に購入する時計を想像する際のポイントになる。ムーブメントの厚さはわずか3.15mmで、振動数は2万8800振動/時、パワーリザーブは約60時間である。
これが“トリックらしくない”と感じるなら、それで構わない。ブランドは意図的にオリジナルコレクションの復刻やリメイクを避けてきたが、ミシェル・パルミジャーニ氏のオリジナルデザインの核となる要素はいくつか残している。ドーリア式柱にインスパイアされた“トーラス”幾何学(ある点を中心に円を描いて立体的な“ドーナツ”を、ニューヨーカーなら“ベーグル”を作る)の要素を加えたローレットベゼルは、トリックラインの一貫した特徴として続いている。ケースも一新され、鋭角的なデザインはなく、むしろ流れるようなラインがストラップにつながり、それを湾曲したバネ棒が支えている。これはミシェル・パルミジャーニ氏のオリジナルコンセプトである“調和とバランス”を追求したものだという。トリックとトンダ PFが調和し、まとまりのあるラインナップになったと感じる。
グリーンとホワイト(プラチナ)の組み合わせのトリックは個人的なお気に入りだが(まだゴールドを身につけることに100%自信がないため)、RGのトリックも素晴らしい。特にブラックダイヤルにローズのアクセントを加えたRG製の初代トリックが大好きだ。全体的に仕上げは見事で、非常に控えめなテンプ受けでさえ、ムーブメントがもっと見えてもおかしくないと思えるほど、十分な見ごたえがある。もしそういったディスプレイを望むなら、パルミジャーニのほかのラインナップに目を向ければいい。
またこの角度から見ると、文字盤が完全にフラットではないことに気づくかもしれない(6時位置のやや窪んだスモールセコンドを考慮しなくとも)。文字盤はケース内側のエッジに合わせてわずかに下がるシェヴェデザインを採用しており、サファイアがケースと接する部分の面取りを鏡のように映し出している。
トリックに加えられた最後のふたつの工夫は、ミシェル・パルミジャーニ氏(そしてイタリア生まれのグイド・テレーニCEO) へのオマージュである。最初の工夫は、ムーブメントのふたつの香箱のあいだにあるコート・ド・フルリエに刻まれたミシェル・パルミジャーニ氏のシグネチャーだ。これはブランド創設者への新たな敬意を示している。一方、ストラップは通常見られる伝統的な縫い方ではなく、ナポリの一流テーラーが使用する“プント・ア・マーノ”スタイルのステッチで縫われる。
最後に、本モデルは40.6mm×8.8mmというサイズで、装着感も良好だ。厚さが9mm以下になると、高級時計のドレスウォッチとして理想的なサイズに近づく。ラグが少し短くなっているので、手首に対してやや高さがでるが、手首の小さい人(下の写真のトニー・トライナのように)でも問題なく着用できるだろう。7.25インチ(約18.4cm)の私の手首にはぴったりフィットした。
新しいトリックコレクションは、パルミジャーニにとってこれまで以上にまとまりのある1歩であり、唯一現代的なトンダ PFラインだけに頼ることなく、ブランドを確固たる地盤に乗せるだろう。しかし、一部のコレクターにとっては価格がネックになるかもしれない。プラチナとRGケースでつくられたこの時計はそれぞれ820万6000円、709万5000円(ともに税込)となり、素材と仕上げに割高感がある。これらは目の肥えたコレクター向けに深く考えられた時計であり、トンダ PFよりも少し難解で正当化しづらいかもしれないし、さらにトンダ PF GMTラトラパンテの2倍近い価格であるため、顧客の支持を得るには時間がかかりそうだ。しかしパルミジャーニはまたヒット商品を手に入れたように思う。新しいコレクションを早期に購入した人は、手に入れたことにきっと満足するだろう。
パルミジャーニ・フルリエ トリック プティ・セコンド。直径40.6mm、厚さ8.8mmの18KRGまたはプラチナ製ケース、30m防水。文字盤は18KWGまたはRG製、ハンドグレイン仕上げ、ケースに合わせたアプライドインデックス(RG製はサンドゴールド、プラチナ製はグレーセラドン)。18KRG製の手巻きムーブメント、Cal.PF780搭載、時・分・スモールセコンド表示、2万8800振動/時、ツインバレルにより約60時間パワーリザーブ確保。手縫いのヌバック製アリゲーターストラップ、ケースとマッチしたピンバックル。価格はRGモデルが709万5000円、プラチナモデルが820万6000円(ともに税込)