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Photos by Anthony Traina
なぜかファーラン・マリは2021年の最初のリリースで注目を集めた。パテック フィリップ 1463へのオマージュとして数百ドルで販売されたそのメカクォーツウォッチは、パンデミックという荒波のなか多くの時計愛好家が求めていたものだったようだ。当時、私はシカゴに住む単なる時計愛好家であり、この新ブランドファーラン・マリに対して懐疑心を抱いていた。なぜ300ドル(当時の相場で約3万3000円)のメカクォーツ・オマージュが1000ドル(当時の相場で約11万円)もの金額で転売されているのか、理解に苦しんだのである。
これは何もファーラン・マリのせいではなかった。今となっては、再び繰り返されることのない多くの要因が重なった結果であることは分かっている。そう簡単に同じ事態が再び起こるとは思えないが、この数週間の動向を見る限りそうでないことを予感させた。
最初のリリースから3年で、ファーラン・マリは独自の地位を築いた。名目上は依然としてオマージュブランドであるが、最近のリリースはクラシックの忠実な解釈から、人気モデルのヴィンテージに対する現代的なアプローチへと進化している。
ファーラン・マリの最新リリースであるディスコ・ヴォランテ(イタリア語で“空飛ぶ円盤”)は、20世紀のアール・デコ時代にさかのぼるオメガ、ジャガー・ルクルト、ヴァシュロンなどのカタログにある時計をモチーフにしている。おそらく最も注目すべきディスコ・ヴォランテは、偶然にも(本当だよ!)先週書いたオーデマ ピゲのRef.5093だ。私がそのヴィンテージAPに触れたのはまったくの偶然であり、ディスコ・ヴォランテによる陰謀ではない(少なくともそう思っている)。しかしそれがファーラン・マリの現代的な空飛ぶ円盤の参考になったのは確かだ。ファーラン・マリのディスコ・ヴォランテは、古きよきアイデアに対する見事な現代的アプローチである。
ファーラン・マリのディスコ・ヴォランテは、直径38mm、厚さ8.95mmと(ブランドが9mm以下であることを示すために小数点第2位まで表示するのはうれしいが、きちんと自身のノギスで寸法を確認した)、ほとんどのヴィンテージウォッチの解釈よりも大きい。ラグは張り出したベゼルの下に隠れており、ラグからラグまでの長さは32mmである。ただしこのような時計ではL2L(ラグ・トゥ・ラグ)の寸法が重要であるかどうかは不明だ。
ディスコ・ヴォランテは、ハバナ(サーモン/ブラウン)、セレステ(ブルー/ホワイト)、ヴェルデ(グリーン/クリーム)の3色展開。セクタースタイルのダイヤルは4つのパーツで構成され、15分ごとにアプライドインデックスが配置されているが、6時位置のスモールセコンドによって一部が途切れている。アウタートラック部分はメタリックなサテン仕上げで、ダイヤル中央はマット仕上げになっている。針はポリッシュ仕上げでエレガントだが、少し長さが足りないかもしれない。とはいえ文字盤はすでに少し賑やかであり、針を長くするとダイヤルが煩雑になる可能性もある。
ディスコ・ハバナとヴェルデはオールドスクールな雰囲気に合わせて、オールドラジウムのスーパールミノバを使用、一方ブルーのセレステはより強力なホワイトのBGW9を使用している。照明を暗くするまで気づかないが、針だけでなくダイヤルのトラック部分にも夜光が施されているようだ。これによりクールな効果を生み出しており、ディスコ・ヴォランテのクラシックなディテールに対する最大の現代的アプローチといえるだろう。
ステンレススティールのケースにはステップベゼルがあり、またラグは下に隠れているため時計を上から見るとラグは目立たない。さらにリューズもベゼルの内側に隠れており、シンメトリーな感じでいいが機能性には欠け、巻き上げるのには少々手間がかかる。各モデルにはケースにぴったりとフィットするカーブラグを備えた2本のストラップが付属しており、バネ棒はすべてクイックリリース仕様である。ストラップはケースと見事に一体化しており、その取り付け部分は完全に隠されていてストラップが下から突然現れるように見える。
シースルーバックから見えるのは、ファーラン・マリがアレンジした手巻きのプゾー7001だ。これはごく普通のムーブメントだが、ブリッジを再設計し、ジュネーブストライプ、ブラックポリッシュ仕上げのネジ、手作業でポリッシュした面取りなど、魅力的な仕上げを施している。プゾー7001は厚さ2.5mm、約42時間のパワーリザーブを持ち、2万1600振動/時で動作する。ファーラン・マリのモットーである“Crafted with Care / Designed for Details(ていねいにつくり上げ、細部にこだわってデザインする)”がケース裏面にあしらわれている。少し気取った表現だが、それ以外は目立たない。
ブルーのセレステのルミノバがより強力であるため、3本のなかだと一番のお気に入りである。全体として、セレステは3タイプのなかで最も現代的だ。ディスコ・ヴォランテはヴィンテージの先駆者たちに触発されたものだが、この現代的な解釈がディスコ・ヴォランテの本来の精神、すなわち未来志向で少し大胆な感じに最も合致しているようだ。ほかの2色はクラシックなインスピレーションをより強く反映している。
ディスコ・ヴォランテは、一時的な興味や特異なデザインよりも、もっと身近で身につけられるものだと思っていた。結局のところラグが見えないだけで、ラウンドウォッチであることに変わりはないのだ。そういう意味では、少なくとも慣れ親しんだ経験だといえよう。ケースは薄く、ラグはストラップが手首に沿うようにデザインされている。この時計をヴィンテージAPのディスコ・ヴォランテと比較するのは公平ではない。あちらは50年前のもので、ゴールド製、厚さは半分、ストラップは(実用性に欠けるが)ケースに直接ねじ込まれているのだ。
私の6.3インチ(約16cm)の手首にはちょうどよい感じだ。
ご覧のとおりラグが隠れているため、6.3インチの私の手首に装着した場合、薄いケースを少し支えることができる。私の手首より少し太い手首にも対応できるが、ある程度のサイズになると、空飛ぶ円盤というより25セント硬貨のように見え始めるだろう。
それ以上にディスコ・ヴォランテのフィット感と仕上げは価格アップに見合っているようだ。プゾー7001は何の変哲もないムーブメントだが、ファーラン・マリ独自のアレンジが詰まっている。今回デザインも仕上げも一新され、さらにエキサイティングな時計に仕上がっている。たとえばOnly Watchで見られた革新的なセキュラーパーペチュアルカレンダーのメカニズムが今後どのように発展するのか、とても楽しみにしている。
ファーラン・マリは、厳密なオマージュをつくるブランドとしてスタートしたが、当初の盛り上がりを利用してそれ以上のものを築き上げた。最近のリリースはヴィンテージの要素を取り入れながらも、ファーラン・マリらしい独自のアレンジを加えている。
ファーラン・マリ ディスコ・ヴォランテ。38mm径×8.95mm厚のステップド・ステンレススティール製ケース。カラーはハバナ(サーモン/ブラウン)、セレステ(ブルー/ホワイト)、ヴェルデ(グリーン/クリーム)の3色で展開。ファーラン・マリによってカスタマイズされた手巻きのプゾー7001を搭載。再設計されたブリッジ、手作業で仕上げられたエッジ、ジュネーブにて手作業で施された面取り加工。カーブしたバネ棒がセットされた2本のレザーストラップが付属。予約注文制で、価格は2500スイスフラン(日本円で約42万7000円、編注;原文では2780ドル)