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Interview 《エルメスH08》コレクションについてエルメス・オルロジェ社ローラン・ドルデCEOに聞く

そしてこれから同社のウォッチメイキングはどこへ向かうのか。

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エルメスといえばレザー製品やシルク製品のイメージが強いかもしれませんが、腕時計にも非常に力を入れており、魅力的なラインナップが取り揃えられています。昨年のGPHG 2022では、同社のアルソー ル タン ヴォヤジャーが、メンズとレディス両方のコンプリケーションウォッチ部門でダブル受賞を果たしました。エルメスの時計が好きな顧客だけではなく、時計愛好家たちのあいだでも高い評判を得ているのです。

《エルメスH08》

《エルメスH08 クロノグラフ》

  今年エルメスは、2021年に発表された《エルメスH08》コレクションを拡張しました。3針モデルは、複合素材のケースを採用し、文字盤のアクセントカラーとラバーストラップのカラーが異なる4モデルと、ローズゴールドケースとブラックセラミックベゼルが特徴的な《エルメスH08》が登場。そして、カーボンファイバー、熱硬化性エポキシ樹脂、グラフェンパウダーで構成された複合素材をケースに採用したオレンジカラーがアクセントのモノプッシャークロノグラフです。

 僕たちは、新作のエルメスH08コレクション、そしてエルメスのこれからのウォッチメイキングについて、2015年からエルメス・オルロジェ社のCEOを務めるローラン・ドルデ(Laurent Dordet)氏に伺いました。

和田将治

 今年の新作は、《エルメスH08》の新たな展開が目立ちましたが、より理解を深めるために同コレクションの最初のコンセプトについて教えてください。

ローラン・ドルデ

 《エルメスH08》の当初のコンセプトは、スポーティな精神をメンズコレクションに取り入れることでした。長らく存在していたクリッパーラインがラインナップから外れていたため(2018年に生産終了)、私たちのコレクションにはスポーティなモデルがありませんでした。そこでクリッパーを置き換え、水泳などのスポーツやさまざまな生活の場面で顧客をサポートする時計でありながら、クールで都会的な見た目を持ったエレガンスなものを作ることにしたのです。

エルメス H08 ローズゴールドの正面イメージカット

ローズゴールドケースとブラックセラミックベゼルを備えた《エルメスH08》。

 《エルメスH08》は、モデル名のとおり0と8の数字をモチーフにしたデザイン性の高いケースを備えています。デザインを手掛けたのは、エルメス・オルロジェ社のクリエイティブ・ディレクターのフィリップ・デロタル氏。

和田将治

 エルメスの時計ケースはいつもとてもユニークなものですよね。《エルメスH08》の特徴的なケースはどのようにして決まったのでしょうか?

ローラン・ドルデ

 私たちは時計業界の純粋なプレーヤーではありません。時計ブランドとしての出自があるわけではないからです。もちろん技術的な面においては、常にほかの時計ブランドと同じレベルで、最高のものを作り上げようと努めています。ですが、スタイルと哲学の面では根本的に異なるものをもたらそうと目指しているのです。

 それは、当社の時計の多くがスクエアやレクタングルケースで、約8割がラウンドケースではないことにも表れています。《エルメスH08》もエルメス独自のスタイルと哲学が反映されたユニークなデザインです。まず、フィリップが円と四角を組み合わせた幾何学的なケースとこの奇妙なベゼルを作りました。それからこの形状にあわせたタイポグラフィにも取り組んだのです。

 エルメスのスタイルは、タイポグラフィによく表れています。時計メーカーによっては、単に一般的な書体が使われていたり、文字盤上のスペースが正しく詰められていなかったり、フォントまでに及ばない場合もあるのです。

 また、ひとつのフォントをさまざまなコレクションに使うのが当たり前ですが、エルメスは、それぞれのコレクションにあわせて異なる書体まで用意する徹底ぶり。「悪魔は細部に宿る」といいますが、こうした些細な部分にまで及ぶこだわりが彼らのスタイルを確立しているのです。

《エルメスH08》コレクションに使用されるオリジナルの書体。

和田将治

 新作の《エルメスH08》について教えてください。

ローラン・ドルデ

 《エルメスH08》はリリース直後からとても反響がありました。当初はメンズコレクションとして考えていましたが、39mmというサイズ感や軽やかなつけ心地からか女性の顧客も多く、実際私たちの時計コレクションのなかでも大きな成功となりました。

 それを受けて、より多くの選択肢を提供することにしたのです。まず私たちはいくつかの企業と協力して新素材を開発しました。アルミ加工を施したグラスファイバー、熱硬化性エポキシ樹脂、スレートパウダーを組み合わせたもので、リシャール・ミルなど他のブランドでも同様の技術を用いたものがすでにありますね。対傷性に優れ、軽量であるため、スポーティウォッチとして最適です。私たちが作ったこの素材は、ライトグレーとグレーの独自の外観が生まれますが、そこにエルメスと結びつきの強いアクセントカラーを融合させたのです。

 《エルメスH08 クロノグラフ》は、3針モデルに使われていたH1837ムーブメントをベースにデュボア・デプラ製のモジュールを追加しました。3針モデルのプロポーションを意識して極力厚みが出ないようにしたり、モノプッシャーを意図的に採用することで、オリジナルのエルメスH08から逸脱しないように工夫しています。

 今回ローラン・ドルデCEOとお話するなかで、会話の端々に透明性を高めようとする姿勢が強く感じられました。ケース素材、ムーブメントモジュールからサプライヤーについての情報まで、基本的に訊ねたことに対してすべて回答してもらえることには、とても驚きました。

 冒頭で自らを「業界の純粋なプレーヤーではない」と語っていましたが、だからこそいかにほかの時計メーカーと同様の高い品質での時計作りをしているかというのを伝えようとしているように感じました。

インタビューの際、ローラン・ドルデCEOがつけていたエルメス アルソー ル タン ヴォヤジャー

そのムーブメントの設計から、

組み立て、

そしてテストまで、クロノード(Chronode)社が担っている。

和田将治

 エルメスの今後のウォッチメイキングについて教えてください。

ローラン・ドルデ

 これまで腕時計といえば、スイスの時計ブランドが最高峰であるという考えが強くありました。何世紀も前から時計を作り続けているブランドが評価され、私たちのようなメゾンが作る時計はファッションウォッチというレッテルを貼られることもあったのです。ですが、そうした考え方は急速に変化してきています。エルメスだけでなく、ほかのブランドも含めて、私たちにも特別な時計を作ることができるということが証明されたからです。

 かつては、純粋なプレーヤーではないということが障害でしたが、高い品質と技術が伴い、また理解された今、それが逆に私たちの財産となりつつあります。ほかのブランドにはない、エルメスだからこそというプロダクトをこれからも作り続けていきます。