Buying, Selling, & Collecting 意外なところで見つけたアラビア文字盤のセイコー

[編集部注：この記事の著者である元CIAの潜入捜査官は匿名を希望している]

　アメリカのスーパーでさえ時計の楽しさを発見する場所になると、権威ある学者から聞いていた。しかし最近購入するまで、私はそれを信じなかった。目的地の楽しさよりも、旅で得られる知識や経験の方が大きいという、狩りのスリルを大切にする伝統主義者としては、Amazonで時計を買うという発想は冒涜的なのである。抹茶やトイレットペーパーなど、あらゆるものを提供するオンラインマーケットで、本当に感動的な1本に出会えるのだろうか？

　どうやらそうらしい。

　長い一日の仕事の疲れを癒し、好奇心に駆られた私は、ネグローニを注ぎ、足を投げ出し、iPhoneのAmazonアプリを開き、検索バーに「機械式時計」と入力した。 タイメックス、ハミルトン、カシオが並ぶ最初のページをスクロールしていくと、スティール製のセイコーが目に飛び込んできた。それはセイコー 5だったが、東洋の黒いアラビア数字文字盤が印象的だった。

　Amazonのアルゴリズムに翻弄されながら、私は夢中になった。最初に知的好奇心で始めたことが、すぐに真剣になってしまった。セイコーは、セイコーUSAのウェブサイトでは購入できないモデルをAmazonで提供している。特に、アラビア文字盤のものだ。私の過去の注文履歴からか、アマゾンはすぐにセイコーのアラビア文字盤、42mmのSNKP21J1と34mmのSNK063J5の2本を案内してくれた。

　当時、私のコレクションに2本のアラビア文字盤の腕時計があった。ブライトリングのエアロスペース（ヨルダンのアブドッラー国王からの贈り物）と、ブラックスティールのアラビア文字盤ブライトリング　アビエーター8 エティハド限定「ミドルイースト」モデルだ。アラビア文字盤のロレックスは手に入れることができないので、200ドル以下で私のコレクションにもう1本アラビア文字盤を加えられるというのは、抗しがたい魅力があった。

　私はCIA時代、セイコーを身につけて活動したことはないが、日本のブランドは諜報機関や特殊作戦の分野で長い歴史を持っている。1960年代から70年代にかけて、私の先輩たちはベトナム戦争の秘密作戦で「MACV-SOG」のセイコーを着用していた。海上特殊作戦部隊（ネイビーシールズを含む）は、少なくとも1990年代半ばにデジタルG-SHOCKに取って代わられるまで、セイコーダイバーズを支給されていた。

　ブレスレットは捨てればいいやと思った。 時計は試してみる価値があった。

　そして、あの3つの単語が現れた。「Add to cart」

　もう少しで美しいスムースブラウンレザーのストラップを購入するところだった。しかし、時計本体よりも高価なストラップを購入するのは馬鹿げていると気がついたのだ。そこで、Amazonで22mmのバートン・キャンバスのストラップを20ドルで購入することにした。

　2日後に届いた時計とストラップは、どちらも私の期待を上回るものだった。どう見ても、この時計はユニークで歴史的なタイムピースであり、卓越した文字盤を備えている。早速、ストラップを交換すると、すぐに使いだした。手持ちのロレックス　GMTマスターII "コーク” Ref.16710を外し、新しい時計を手首にはめ、フィールドグリーンのキャンバスストラップを締めた。時計収集の世界では稀なことだが、即効性のある満足感に酔いしれた。大量生産された実用的なツールにふさわしい、飾り気のない購入体験だった。

　それから1週間、より「人気のある」ロレックス、ブライトリング、IWCは金庫のなかに置かれ、この200ドル以下の傑作は私と旅を始めた。数日後、私はCIAの元同僚と、スパイや工作員の行きつけとして知られるバージニア州北部のレストランでランチを共にした。時計マニアである私は、彼のロレックス　サブマリーナーにすぐ気がついたが、何も言わなかった。食事の途中、袖口からのぞくアラビア文字盤が友人の目にとまった。彼は、私の話を途中で遮り、その時計を見せてくれと言い、その時計にまつわるエピソードを聞いてきた。

　私が死んだら、孫たちが私の（Amazonで買った）ペリカンケースの模造品を開けて、時計コレクションを熱心に分けてくれることを期待している。孫たちは、私が伝説の人物を助けるためにカイロのカーン・エル・ハリリ・スーク（市場）で手に入れたのではとか、中東の諜報機関から衝撃的な作戦の後に名誉ある贈り物として受け取ったのではないか、などと推測してくれることだろう。

　私の遺族たちが事実を言って、よい物語をじゃますることがないように願う。