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Hands-On JPN 130R メイドインジャパンにこだわる新興ブランドの初代モデルを実機レビュー

日本のものづくりを次世代のセンスで具現化したブランド。

2020年の10月、国産であることにこだわった新ブランドが誕生したことはIntroducing記事でお知らせしたとおりだ。このJPNという時計は、元レーサー(ある意味現役でもある)の下山征人氏がプロデュースしたブランドで、レースの世界と高い親和性をもつカーボンケースが特徴的。内部には、セイコーエプソン製のソーラークォーツを搭載し時計として申し分ない機能を備えながら、外装面に振り切る形で近年のモダンな高級時計に見られるディテールを与えている。

 さて、ここ数年の時計業界は明らかな復刻ブームであり、豊かなヘリテージをもつブランドとそれ以外とで存在感に大きな差がついてしまったように思う。2020年もその流れは勢いを増すばかりで、挑戦が制限されるコロナ禍においてはより手堅い印象の時計が多かった。もちろん、それは必要なもので今年の時計界を引っ張ってくれたけれど、僕は、今年最後のHands-On記事を書くにあたり、良い意味で今年らしくない時計を選択しようと思い、このJPNの130Rを選んだというわけだ。ここ2ヵ月、主に休日に愛用している時計でもあるので、リアルな使用感もお伝えしたい。

 まず、この130Rというモデルには当初5つのバリエーションが用意された。モノトーンな黒文字盤のタイプや、黒文字盤に赤いクロノ針を採用したモデル、パンダダイヤルに青ダイヤル、そしてこのチタニウムグレーというラインナップだ。インデックスと針には端正に夜光が施され、そこまで強力ではないが必要十分に発光し、暗所での視認性を保ってくれる。

 カラーバリエーションに関していえば、ここ数年の潮流をうまく掴んでおり、ブランド第一弾モデルから青やグレーといった“2本め”の時計的なカラーリングを採用した点は好印象だ(大手ブランドでも、新しいコレクションでは、白と黒、あっても青くらいがほとんど)。これについては後述するが、下山氏の遊び心ゆえにここまで多種類でのコレクションローンチになったのだと思う。

 文字盤をよく見ると、非常にモダンな解釈でロゴや腕時計の表示が印字されている。メイドインジャパン、タキメーターというカナ表記での表示は、受け手によっては紙一重のシャレかもしれない。これは、日本独自の文化・文字を海外に向けて発信する狙いがあるのではないか? 外国人観光客が多く来日していたころ、漢字のタトゥーやお気に入りの四字熟語が入ったTシャツが流行った、あのような感覚だ。あまり説明しすぎるのは野暮というもので、このデザインのクールさを台無しにしてしまいそうなので自重するが、僕はこの手のシャレが好きで、当然この時計も気に入ってしまった。

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 文字盤に関しては遊び心が溢れていたが、こと外装のつくりに関しては一切の妥協がないのがこの130Rのすごいところ。何しろこの時計は、カーボン製で超軽量。一部の超高級ブランドが進んでいる方向性を、より手にとりやすいパッケージで楽しみやすく提供しているのだ。もちろん、本機はクォーツウォッチでありスイスブランドのそれとは別物であるが、着ける楽しさと快適さという面ではひけをとらない。
 ストラップまで含めて総重量62gという驚異的な軽さは、着けているのを本当に忘れてしまうほどだ。その要となるカーボンケースは、東京の町工場で加工されているというから、日本人としての心がくすぐられてしまう。カーボンはただ削られただけでなく、表面に仕上げが施され、ケースからは素材のテクスチャが感じられる。正直、10万円台でここまでの仕上げは、スイス製ではまずお目にかかれないだろう。どこにもエッジのない曲面でありながら、表面にザラザラとした質感まで与えている。これは、モノとしての満足度が高い。

 お次はラバーストラップだ。正面からみると、ケースから生えているように見えるこのストラップは、それぞれ2点のネジでケース背面に固定されている。ラグのない形状で、ケースに直接接続しているようなデザインであり、これは優れた着用感にも寄与している。この取付方法については、多くの独立系高級ブランドを扱ってきた下山氏がたくさんの時計を見てきた中で考慮を重ねて生み出したものだという。

 ラバーの素材自体には、高価なFKM=フッ素ゴムが採用されている。これは、通常のラバーに比べ、耐油性、耐化学薬品性、耐熱性、耐炎性などに優れており、特に高い耐熱性を誇る素材であるという。つまり、上記の耐性をもつことで通常はパッキンやOリングなどに用いられる素材なのだが、本機ではぜいたくにもストラップ全面に使用。耐摩耗性にも優れているので、耐久性が求められる時計のストラップとしても適任であるといえる。ただし、その反面コストが割高になることが多いため、ここに注力するメーカーが少ないわけだが、JPNに関してはそういったことは度外視でより長く快適に使えるものを選択したようだ。事実、弾力性にも優れるこのストラップは、腕に吸い付くように装着できるためいつでも着けていられる。例えば、趣味の料理をしている最中でも気にならず、鍋をふるなどの動作が行えた(もちろんコンロの熱でも安心できる)。

 ここまで紹介してきて、この時計を褒めてしかいない自分を奇妙に思った。意地悪な見方をすれば、例えばダイヤルの構成やデザインなど、遊んでいるようで割と安パイな選択をしていることなど、言えることはある。ただ、それをする気にさせられないのは、この時計は明確にターゲットを定めて、彼らのツボに刺さることだけを考えていると思われるからだ。この130Rを買う人物は、仕事でスーツを着るときの時計として本機を選ぶだろうか。もしくは、結納返しの時計として、もっといえば、親からのプレゼント、社会人になってからのファーストウォッチの選択肢になりえるだろうか?(そういう選択を否定するわけではない)

 僕としてはその答えはNOだ。HODINKEEとしては、ロレックスやオメガといった王道があってこそのニッチブランドであり、その逆もまた然り。幅広い時計があるからこそのJPNなのだ。ファーストウォッチには、多くの人が納得できる価値観を備える時計をオススメするが、この時計は自分で時計の楽しみ方を知っている人物にこそふさわしい。

 高級時計のリアルな付き合い方とは、扱いにもそれなりに気を遣うもの。高価でもそうでなくても、伝統的な機械式時計はやはり着け手にある程度の作法を求めるものだと思う(そうでなければ突然の不調や故障といった憂き目にあうこともある)。それはそれとして、オフでは着けていてストレスのない時計を求めたくなる気持ちもあるだろう。オンでデリケートな高級時計を着ける人ほど、そういう時計を欲するのではないだろうか? もしくは、オンオフの境目がないライフスタイルを送る人のためにこうした時計が生まれたのかもしれない。

 冒頭、この時計のラインナップのお話をしたが、そういう価値観をもつ人は概して他と同じものを嫌い、自分の感性と合致するものを好む。だからこその確信犯的なバリエーション展開だったのだろう。この時計が似合うのは、とてもニッチな好みをもつような人かもしれない。数本以上の高級時計を所有しながら必要以上にそれに執着せず、ユーモアを好むような人だ。

 今後、下山氏のレースでの知見とつながりを活かし、さらにメイドインジャパンを追求したサプライヤーを増やすとの噂も聞いている。より優れた技術がモダンな感性によっていかに表現されていくのか、今後も楽しみでならない。

JPN 130Rの価格は12万円(税抜)。スペックなどの詳細は、「Introducing JPN 日本にこだわった新機軸の時計ブランド」へ。さらに詳しく知りたい方は、JPN公式サイトへ。