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In-Depth オメガ スピードマスター X-33 レガッタ(第35回アメリカズカップモデル)について

ムーンウォッチが海に漕ぎ出すとどうなるのか、という答えがここにある。

本稿は2017年8月に執筆された本国版の翻訳です。

第35回アメリカズカップとエミレーツ・チーム・ニュージーランド(ETNZ)のために特別に作られたオメガ スピードマスター X-33 レガッタは、オメガの革新的なスピードマスター X-33の進化版にあたるモデルだ。専門性の高い特殊進化は昆虫に特徴的なものだといわれているが、それが真実ならばX-33 レガッタはスピードマスターにおけるカマキリにほかならない。高度に専門化された、比較的異質な存在だ。特に神聖な“ムーンウォッチ”ラインナップのなかではひと際異彩を放っている。

 僕はスピーディのファンのなかでもはみ出し者に違いないが、現在のX-33を理解するにはその歴史を簡潔に振り返ることが重要だと考えている。オリジナルのスピードマスター プロフェッショナル X-33は1998年3月、ヒューストンのジョンソン宇宙センターで多くの観客を前に発表され、そのイベントではミール宇宙ステーションからの初の公開テレビ生中継も行われた。X-33はとにかく大胆なデザインだったが、その機能性の基礎は1980年代半ばのオメガ シーマスター マルチファンクションに見られる。

x-33 omega

(左)1986年製のオメガ シーマスター マルチファンクション。Photo: Omega Museum、(右)2016年にクリスティーズのオークションに出品された初期のスピードマスターX-33。Photo: Christies

 1998年にこの斬新なミッションタイマーが一般に公開されたころには、同モデルはすでに軍用や宇宙空間での使用が進んでいた。1990年代半ばにフライトマスター X-33として初登場したこの時計は、いくつかの試作機やプレプロダクションモデルがオメガによって製作されており、その開発には数名の宇宙飛行士やブルーエンジェルス、サンダーバーズといったジェットチームの選抜パイロットたちが関与していた。一般販売される前にこれらの試作機は国際宇宙ステーション(ISS)やミール、さらには航空分野でも使用され、ある個体はMiG-15の墜落事故においてもパイロットとともに生還したというエピソードもある。

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 当初からX-33はミッションでの使用を想定したツールとして設計されており、ケースはアラーム音ができる限り大きく響くように設計されていた。オメガはそのアラーム音の出力が80dBに達すると主張している。またこの時計は999日までの“ミッションタイム”を計測でき、その値をカウントダウンまたは経過時間として表示することが可能であった。

x-33 omega regatta

X-33はその外観や触り心地からして、まさに高級技術の結晶のように感じられる。

 2001年にはサテン仕上げのベゼルと新しいリューズが追加され、X-33はその後2006年に一般向けの販売が終了した。時は進み、2014年12月にオメガは第3世代のX-33、オメガ スピードマスター スカイウォーカー X-33を発表する。この新しいモデルは前世代の円形ディスプレイを廃止し、3つのセグメントを持ったよりシンプルな横型ディスプレイを採用していた。基本的に上部に追加データ、文字盤の9時位置にモードや機能、下部に時間やアクティブな計測データが表示されている。X-33の細かい仕様についてはジャックが2015年に類似したモデルのHands-On記事を書いているのでここでは詳述しない。

omega x-33 regatta close-up

X-33はほとんどの状況で非常に高い視認性を約束しているが、さらに針を“隠す”機能も備えている。バックライトボタンを2回押すと、針がデジタル表示を遮らない位置に回転する仕組みになっている。

 3世代のX-33すべてに共通するように、レガッタモデルも直径45mm、厚さ15.1mmというサイズで、グレード2のチタンを使用した精巧なケースとセラミックベゼル、サファイアクリスタル風防、そして30mの防水性能を備えている。防水性能の上限に対して疑問を持つ人がいるのも理解できるが、X-33はこの深さまでのテストがしっかり行われておる。それに航行や航空、宇宙飛行といった活動は基本的に水面やそれ以上の高度で行われることが多い。

 X-33 レガッタは2017本限定生産で、エミレーツ・チーム・ニュージーランドのセーリングチームとの関係を示す青と赤のカラーが施されている点や、アメリカズカップレースのためにオメガが機能を巧妙にカスタマイズした点が標準的なX-33との主な違いとなっている。既存のX-33はミッション経過タイマーや、特定のミッションステージを知らせるための経過時間に基づくカスタマイズ可能なアラームシステム(フェーズ経過時間)を提供していたが、X-33 レガッタはレガッタのさまざまなステージを特定して計測し、記録できる。

omega x-33 regatta

カウントダウンが終わると、自動的にレースモードに切り替わる。

omega x-33 regatta

“A06”はレースの第6ステージを示しており、ボートが各ブイを通過する際にスプリットタイムを計測するために使用される。

 10時位置の“レース”ボタンを押すとX-33 レガッタはカウントダウン(CTD)モードに切り替わり、あらかじめ設定されたカウントダウン時間(最大1時間)でレースの開始時間を知らせる。レガッタではスタートの段階で勝敗が決まることが多く、ボートはレース開始までの正確な時間を示す音声信号と同期させるために、何らかのタイマー(時計など)を使用する。ボートは単に列を作ってスタートを待つわけではなく、レースが始まる瞬間に速度を落とさずスタートラインを超えるために、動きのパターンや位置を調整する必要がある。

omega x-33 regatta wristshot

X-33は非常に軽快で、快適に着用できる。

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 カウントダウンモードではアナログの分針が秒を刻み、カウントダウンの進行に合わせて反時計回りに進む。同様に時針はレース開始までの残りの分数(12分から0分まで)を知らせ、下部のディスプレイには全体の計測時間が表示される。セイラーが途中で音声信号と同期させたい場合は、レースボタンを押すだけで30秒単位で最も近い時間に同期する(45秒なら繰り上げ、15秒なら繰り下げ)。毎分の経過ごとにX-33が大きなチャイムを鳴らし、最後の1分間は15秒ごとに、そして最後の10秒間にアラームが鳴る。

omega x-33 regatta caseback

X-33の裏蓋は、アラーム音ができる限り大きく響くように設計されている。

 カウントダウンが終了してレースが始まると、X-33 レガッタは自動的にレース(RAC)モードに切り替わり、時計はレースの各ステージを計測して記録する。セイラーはボタンを押すだけで最大12ステージまでのレースのフェーズ(各ブイ間のスプリットタイムなど)を簡単に切り替えることができる。ブイを通過するたびにレースボタンを1回押して時間を記録し、次の計測に移行する(9時位置の円形ディスプレイにA01〜A12として記録が表示される)。レース終了時にはレースボタンを2回押して計測を終了し、さらにボタンを押し続けるとデータがX-33のログブックに保存される。視覚的に理解したい人のために、オメガはX-33 レガッタのユーザーマニュアルにわかりやすい図解を記している。

omega x-33 regatta route

オメガのユーザーマニュアルに記載されている、X-33 レガッタの活用方法を示すレースの図解。

 既存のX-33には温度補正型クォーツキャリバーである5619が搭載されていたが、X-33 レガッタにはレガッタ計時専用のプログラムを備えてさらに特化したCal.5620が使用された。また同機能に加えて、UTC、T1(ホームタイム)、T2という3つのタイムゾーン、さらにタイマー、クロノグラフ、アラーム、そして永久カレンダーを搭載。これらすべてが標準的な3針のアナログ表示と、明るく視認性が高くバックライト付きの3つのデジタルディスプレイで表示される。正確な計測はしていないがアラーム音は非常に大きく、もしコーヒーショップの列に並んでいるときに鳴らせば、周囲の注目を集めることは間違いないだろう。

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 レガッタ計時は時計の機能のなかでもとりわけ特殊な部類に入るだろう。この機能の有用性はボートレースに参加する人々に限定され、特にアメリカズカップやそれに近い形式のレースでないとX-33の真価は発揮されない。それを踏まえても、X-33全体を俯瞰して見るとこの時計に対する愛着が湧いてくる。軽量なチタンケースと厚みのあるデザインのおかげで、X-33は45mmというサイズにもかかわらず、実際には小振りに感じられる。付属するチタン製フォールディングバックル搭載のナイロンコーティングストラップを装着した状態でわずか78gしかなく、45mm径のスポーツウォッチとしては特に快適な装着感を有しているといえる。

omega x-33 regatta lume

アナログ表示とデジタル表示の両方が光る。デジタル表示のバックライトは、8時位置のボタンで作動する。

 90万2000円(税込)という価格のX-33 レガッタは、オメガのラインナップのなかでもとりわけ興味深く、奇妙な存在だ。お買い得感があるわけでも大衆向けの時計というでもなく、レガッタレースに必須のツールというわけでもない。ETNZ(エミレーツ・チーム・ニュージーランド)と第35回アメリカズカップとの協力で製作されたこの限定モデルはチームへのスポンサーシップを促進するための特別なエディションであり、クルーも着用していたが購入するのはETNZの熱烈なファンに限られるだろう。

 これほどニッチな存在であるにもかかわらずオメガがX-33を製作し、さらにレガッタに特化した限定版のためにムーブメントをカスタマイズしてより高い専門性を追求したことは非常に注目に値し、かつクールだと思う。僕はアナログとデジタルを組み合わせた時計に対する興味が高まってきているところで、X-33(レガッタモデルであろうとなかろうと)はそのスタイルのなかでも楽しく素晴らしい専門性を体現しているように感じられる。

オメガ X-33 レガッタの詳細については、オメガのウェブサイトをチェック。