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Found ロレックス サブマリーナー 5513 “ミリタリー”&“COMEX” ふたつのレアピースを日本で発見

英国海軍に納入された“ミリタリー”サブ、そしてダイヤルにロゴを持たないファースト“COMEX”も。エポックメイキングな5513をベースに作られた希少なサブマリーナー。

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サブマリーナーの歴史において、Ref.5513は普及モデルとして重要な役割を担ってきた。日付表示のつかないノンデイトのフェイスは、ファーストモデル Ref.6204から続くサブマリーナーの正統な系譜を受け継ぐデザインだ。日付表示付きのサブマリーナー デイト Ref.1680は1969年に誕生するが、Ref.5513はこのRef.1680とともに併売され、サブマリーナーの普及に大きく貢献した。

 Ref.1680も製造期間は長かった(1979年ごろまで製造)が、Ref.5513は1962年から1989年までの27年にわたるロングセラーとなった。加えて製造本数もきわめて多く、Ref.5513は15万本強(これはニコラス・フォークス(Nicholas Foulkes)氏著/『Oyster Perpetual Submariner – The Watch That Unlocked The Deep(オイスター パーペチュアル サブマリーナー – 深海を切り開いた時計)』による)。Ref.5513以前のリファレンスでは比較的数が多かったRef.5508でも約9000本、希少なエクスプローラーダイヤルのRef.6200にいたっては約300本しか製造されなかった。この15万本強という数字は、Ref.5513と同時代に製造されていたクロノメーター仕様であるRef.5512の製造本数の約8.7倍に相当し、Ref.1680(こちらは11万本強)とともにRef.5513がサブマリーナーの普及に貢献したことが数字からもよくわかる。

 その長い製造期間は、Ref.5513における細かなディテールの違いも生んだ。ケースやブレスレット、そしてなんといってもダイヤルだ。ギルトダイヤルやマットダイヤルなど、ヴィンテージロレックスの個性豊かなコレクションにRef.5513 サブマリーナーが果たした役割は大きい。ちなみに、Ref.5513 サブマリーナーのヴィンテージコレクションに興味がある方は、こちらの深掘り記事『In-Depth ヴィンテージロレックスのサブマリーナー 5513 コレクターズガイド』をご覧いただきたい。

 Ref.5513はサブマリーナーの普及に貢献した一方、それをベースにしたスペシャルモデルが存在することも忘れてはならない。今回紹介するミリタリー サブマリーナーやコメックスとのWネームの初期モデルが、まさにそれにあたる。


ミリタリー サブマリーナー Ref.5513 “イギリス海軍モデル”

 まずはミリタリー サブマリーナーからだ。このモデルは、1970年代にイギリス海軍と陸軍が調達したもので、1971年から1979年にわたり軍へ支給された。Ref.5513、5513/5517のダブルリファレンス、そしてRef.5517の3タイプが存在する。

 特徴はさまざまだ。時・分針の“ソードハンド”は、民生用のいわゆる“メルセデスハンド”と大きく異なるディテールで、より読みやすさを重視したデザインを基調にしている。秒針は先端が矢印型になっている“アローハンド”を採用。水中や暗闇といった視認性の低い環境下でも、瞬時に時刻を判読できるように針の形状が変更されている。

 ダイヤル6時位置の小さな丸で囲まれたTマークは、夜光塗料に放射性物質であるトリチウムを使用していることを記すものだ。トリチウムは自発光性があり、暗闇でも視認性が確保できるため、軍用時計に広く採用された。

ミリタリー サブマリーナーの最も重要なパーツのひとつである“全周目盛りベゼル”。

固定式ラグもミリタリーモデルならではのディテール。バネ棒ではなく、スティールバーで固定されている。

 次に特筆すべきパーツは、60分目盛りを採用した“全周目盛りベゼル”だろう。一般的なサブマリーナーの回転ベゼルは、潜水時間を計測するために最初の15分間のみ分刻みの目盛りが付いているが、ミリタリー サブマリーナーではベゼル全体(60分間)に分刻みで目盛りが刻まれている。これは潜水任務中の経過時間計測をしやすくするための仕様変更だ。これは交換されていることが多いパーツであるため、購入の際は特に注意して見る必要がある。

 固定式(ハメ殺し)ラグも特徴的なパーツとして挙げられる。ケースとラグのあいだに取り外しができないように、溶接された頑丈なスティールバーで固定されているのだ。これは、潜水中の衝撃や引っ掛かりでバネ棒が外れ、時計本体が脱落するのを防ぐために考案されたもの。ミリタリー サブマリーナーに限らず、軍用時計において多く用いられた仕様である。

ケースバックの刻印は、ミリタリー サブマリーナーならではのディテール。真贋を見極めるための重要なポイントのひとつでもある。

 そして軍用モデルとして見逃してはならないのは、ケースバックの刻印だ。そこには、イギリス国防省(Ministry of Defence:MoD)の官給品であることを示すブロードアローと呼ばれる矢印型のマークや軍の管理番号、支給年などのシリアルナンバーが刻印されている。本物はこの個体のように、刻印の字体・深さが非常に明確で一貫性があるとされている。

 どのパーツやディテールもミリタリーサブマリーナーに欠かせないものだが、ここからさらに真贋の問題などが出てくるから厄介だ。

 偽装の内容は多々ある。たとえば、形状が似ているということから、通常のRef.5513にオメガ シーマスター 300の秒針、アロー針が取り付けられていることがあるという。ほかにも通常のRef.5513に全周目盛りベゼルが取り付けられていることもあれば、ケースバックの刻印が不鮮明であったり、固定バーが通常のバネ棒だったりと、その事例は多岐にわたる。なかには本物とほとんど見分けがつかないようなものまであるのが現状だ。

 軍用時計をメインに扱うヴィンテージウォッチショップとして時計好きに広くその名が知られているキュリオスキュリオ。そんな同店が見つけた、このミリタリー サブマリーナー Ref.5513の個体について、店主の萩原秀樹氏は次のように話す。

 「この個体は製造は1972年ですが、支給されたのは75年です。ミリタリーサブマリーナーは、Ref.5513、Ref.5517/5513、Ref.5517の3つのリファレンスがあるのですが、Ref.5513が最初になります。例えば、Ref.5517だと正しいダイヤルは“マキシダイヤル”というように、基本的にはサブマリーナー本体の製造年に合うダイヤルにTマークが入っていることが真贋を分けるひとつのポイントになります。製造本数は3つのリファレンスを合わせて、大体1200本弱ぐらい。現存しているのは300本ぐらいだと言われていますが、その真相はわかっていません」

通常のサブマリーナーと比べて、全体的にゴツゴツしいデザインのミリタリー サブマリーナー。すべてのデザインは機能に基づいている。


COMEX サブマリーナー Ref.5513 “ファーストモデル”

一見すると、普通のサブマリーナーにしか見えないのだが、ディテールをよく見てみると、ヘリウムガスエスケープバルブ、ケースバックの刻印など、通常のRef.5513にはない特別な仕様になっている。

 COMEXとのWネームの初期モデルのほうはどうだろうか。ロレックスと深い信頼関係を持つ、フランス・マルセイユに拠点を置く世界有数の潜水専門会社COMEX(コメックス)。同社と共同開発されたロレックスのモデルはどれも人気が高く、そのほとんどがプレミアム価格で取り引きされている。この1971年製のサブマリーナー Ref.5513 “ファーストモデル”も、それに該当する希少モデルだ。

明らかに通常とは異なる仕様となる9時位置に設けられたヘリウムガスエスケープバルブ。Ref.5513では唯一、このモデルにのみ取り付けられている。

 このモデルは250本製造され、COMEXの社員に支給されたと言われており、ケースバックの下部に小さく支給ナンバー(通称スモールナンバー)が刻まれている。こちらの個体はミリタリーモデルと同様、固定式ラグになっているが、このタイプは珍しくほとんど存在しないらしい。

 ちなみにロレックスがCOMEXの協力を得てヘリウムガスエスケープバルブ搭載のシードゥエラー Ref.1665を開発・発売したのが1967年、そしてCOMEX専用レファレンスとなる5514というナンバーを振ったのが1969年と思われる(前出の『Oyster Perpetual Submariner – The Watch That Unlocked The Deep』による)。しかし、実際にCOMEX社のダイバーにCOMEXサブマリーナーが支給されるようになるのは、実は1970年代になってからである。このCOMEX サブマリーナー Ref.5513を紹介してくれたエンツォショップ(同店は6月に公開した記事『Found ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.16520、希少な“マーク1ダイヤル”と出合う』にも協力してくれた多くの希少なヴィンテージロレックスを扱う名店)の中井一成氏は次のように話す。

 「COMEXの著名なコレクターたちの見解とCOMEX社のダイバーに支給された資料を確認してもらったところ、最初にCOMEX社に納品されたのはRef.5513で、ダイヤルにロゴがなく、ケースバックにCOMEXのロゴとスモールナンバー、そしてインナーケース内部にシリアルの3桁が刻印されていることが特徴です。その後、COMEXロゴが入るRef.5514が1975年前後から、そして77年前後からRef.1665のCOMEXモデルが支給されているようです。ここからはダイヤルから見る僕の解釈になりますが、Ref.5513 COMEXはスターン(Stern)社製、Ref.5514も同様で、ダイヤル自体はクラウンマークやフォント、レイアウトがすべて同じです。ともにこのダイヤルをベースとしていますが、最初のRef.5513 COMEXにはダイヤルにロゴがなく、次いでRef.5514からCOMEXのロゴが入ることになります。これはミリタリー サブマリーナーのRef.5517も同様ですね。特殊ダイヤルの製造は、ほぼすべてスターン社が担っていて、COMEXロゴが入るRef.5514やRef.1665のダイヤルは前出のとおり、1976年頃から納品されるようになったと考えられます」

 中井氏が話すように、先に紹介したミリタリー サブマリーナーや、このCOMEX サブマリーナーは共通して“Pre COMEX”と呼ばれるダイヤルだけが持つ特徴を備えている。これは通常のRef.5513よりもインデックスのドットが大きめ(いわゆるマキシダイヤルとは異なる)で、 12時位置のクラウンマークはぽってりとした形状。そして最大のポイントは6時位置の表記が上段が“660ft=200m”、下段が“SUBMARINER”の表記となっているところだ(下サブとも呼ばれている。一般的なRef.5513のダイヤルはこれとは逆で、上段に“SUBMARINER”、下段に“660ft=200m”表記が入る)。

 基本的にはミリタリー サブマリーナーやCOMEX サブマリーナーに使用されたダイヤルだが、1977年に少量のみ、ノーマルモデルのRef.5513に使用されており、これはRef.5513 Pre COMEXモデルというレアピースとして扱われている。中井氏はさらに話を続ける。

“ROLEX”のロゴと”COMEX”の文字が刻印がされたケースバック。

拡大して見ないとまず確認できないのだが、COMEXの刻印から下のほうに小さな文字で105とスモールナンバーが入っている。

 「この105番は1972年にダイバーに支給されたRef.5513のCOMEXモデル(COMEX社の資料より。資料にはシリアルナンバーと支給番号の記載がある)で、通常のサブマリーナーにはない飽和潜水に対応するヘリウムガスエスケープバルブが付いています。いわゆる“ノンロゴ”、“スモールナンバー”などと呼ばれているモデルですね。ケースバックに支給番号(スモールナンバー)を示す105という数字が入っています。こちらの個体は固定式ラグですが、通常はブレスレットのバージョンとなります。ダイヤルはスターン社製でCOMEX専用。このあとに登場するダイヤルにロゴが入るものがRef.5514となるのです。このモデルはダイヤルにCOMEXの表記がない、プロトタイプ的な存在というところがやはり魅力ですよね。また、リューズがツインロックになっていますが、実はガスケットのゴムが入っていないところも特徴と言えるでしょう。コレクターたちによるこれまでの研究やさまざま資料の内容を総合すると、COMEX社のダイバーに支給されたのは、まずRef.5513のCOMEXロゴなしモデルが最初で、次いでRef.5514(COMEXロゴあり)、Ref.1665(COMEXロゴ)ありの順番となります。これ以降、COMEX社が倒産するまでのあいだ(1997年まで)にほかのリファレンスでもCOMEXモデルが同社のダイバーに支給されました」

 チェックすべき箇所が多いミリタリーサブマリーナーに対して、COMEX サブマリーナーの初期モデルは見るべきポイントが明らかだ。どちらにも共通して言えることだが、これらはロレックスが誇るプロフェッショナルモデルが持つスペックを最大化するべく開発されたことにある。軍用時計に用いられるほどの高い性能を示し、シードウェラーのようなハイスペックモデルも、言うなればRef.5513が直接的な原点となった。そういった意味でも、こうしたレアピースは、ベースとなったRef.5513が優れた名機であることを伝える貴重な存在と言えよう。

Special Thanks:Hideki Hagiwara(Curious Curio)/Kazunari Nakai(Enzo Shop)

写真は、すべてKyosuke Sato