「REFERENCE POINTS」は、世界で最も重要な時計達の完全保存版ガイドとして、正確かつ包括的な情報を、分かりやすい形でコレクターに提供する私たちなりの手段として考案されました。2014年の第一弾以来、このシリーズは、常に読者リクエストの最上位をキープしていると同時に、制作に最も時間と根気を要するものの一つとなっています。数十もの特に状態の良い個体の確保、コレクターコミュニティ内の専門家とのパートナーシップ、数十年にも及ぶ歴史を正確に記録していく作業に必要なリソースは膨大なものになります。だからこそ、ロレックス・サブマリーナーのREFERENCE POINTSを今回皆さんにお届けできることを、私たちは非常に誇りに思います。
ベストな時計はどれ? は、私たちHODINKEEチームが受ける、返答に困る質問の代表格です。もちろん聞きたくなる気持ちはわかりますが、腕時計という、とてつもなく主観と個人的な趣向に左右される存在に対して、「ベスト」という括りで回答するのは不可能と言っていいでしょう。個人的に心に響くデザイン、特別な思い出、生活スタイルすべてがその答えに影響します。そして、この質問に似てはいるものの、私たちなりの答えを出すことが可能な質問の一つが、「歴史上最も重要な時計はどれ?」です。もちろん、これが唯一の答えというわけではありませんが、今回取り上げる時計は、この質問に対する回答の筆頭候補であると言っても差し支えないと思います。
1953年の登場以来、ロレックス・サブマリーナーは、ダイバーズウォッチという枠を超えて、スポーツウォッチというカテゴリー全体を開拓、体現してきたと言えるでしょう。「腕時計」という言葉に対して、多くの人が無意識的に頭に思い描くものはこのサブマリーナーに近いものになるのではないでしょうか。サブマリーナーは、世界中の権威、銀幕のスター、伝説的なアスリートを始め、ありとあらゆる分野の著名人、有名人に愛用されてきました。「黒文字板、夜光塗料付きの針、回転ベゼルを搭載し、腕によく馴染むブレスレット仕様のステンレス製腕時計」というアイデアそのものが、サブマリーナーの存在によって人々に浸透していったといっても過言ではないでしょう。
これだけの地位と存在感を持つサブマリーナーは、実は誤解されがちな時計であるとも言えます。サブマリーナーとして明確に分類できるリファレンスだけで、十数モデルが現在までに存在し、文字盤の表記、夜光塗料によるインデックス(夜光プロット)の違い等をどこまで細かく分類するかによっては、数百ものバリエーションが存在することになります。私たちは、このサブマリーナーという時計全体を、分かりやすく解明する時がきたと考えました。ただ、ご想像いただけるかと思いますが、自分たちとして一定の境界線を設ける必要がありました。
今回の記事では、明確に最初のサブマリーナーであると定義できる1953年のモデルから、最後のクラシックモデルといえるリファレンス5513までの「ヴィンテージ サブマリーナー」に焦点を絞って解説していきます。それら全モデルの共通点は4桁のリファレンス ナンバーであることと、アクリル風防を使用している点が挙げられます。5桁リファレンス、サファイヤ風防をはじめとする先進的な技術を搭載した、現代の時計としてのサブマリーナー達に関しては、またの機会に掘り下げていきたいと思います。
この一大プロジェクトを実現するにあたり、私たちは長年のHODINKEEの協力者であり、ウィンド・ヴィンテージの創設者であるエリック・ウィンド(Eric Wind)氏に協力を仰ぎました。彼がヴィンテージロレックスコレクターのコミュニティに働きかけてくださったおかげで、数十にも及ぶ、世界的に貴重な時計達を記録し、解明することが可能になりました。
サブマリーナーの起源
「REFERENCE POINTS:シードゥエラーを理解する」でも触れた通り、サブマリーナーはダイバーズウォッチとして最初に市場に出た時計の一つであり、その後、瞬く間にジャンルを象徴する時計としての地位を獲得しました。ロレックスにとって、サブという存在は、今日まで続く、会社そのものの方向性を定めるきっかけとなった時計であると言えるでしょう。1950年代以前のロレックスは、現在でいうところのドレスウォッチ、もしくは「汎用時計」に分類される時計を作っており、バブルバック、2レジスタークロノグラフ、デイトジャストが売り上げの中核を占めていました。もちろん、それらの時計にも防水性の高いオイスターケースや「パーペチュアル」と呼ばれた自動巻き機構など、非常に重要な技術が投入されていましたが、その時計達は、現在私たちが「スポーツウォッチ」として認識するものには至っていませんでした。
この状態は、40年代の終焉、50年代の始まりとともに、変化を見せることになります。最初期のエクスプローラーがエベレストの頂上に到達し、(そのオリジナルの時計はこちら)ロレックスは、その後の製品の大半を占めることになる新しいデザインランゲージを、この先10年をかけて模索し始めるのでした。白色や銀色が主流であった文字盤は黒色になり、大型化した夜光プロットがこれまでのアプライド・インデックス(立体的なパーツを取り付けたインデックス)に取って代わるようになりました。ケースはより頑丈な形状に変化し、回転式ベゼルも幅広く使われ始めました。これらの特徴の組み合わせが、エクスプローラー、GMTマスター、ミルガウスなどのモデルとして世に出ることになります。
そして、1953年という年が、ロレックスにとって非常に大きな意味を持つことになります。6202ターノグラフ、エクスプローラー(複数モデル)そして6204サブマリーナーのすべてが、この年にデビューしたのです。小さめのサイズ、フラットもしくはハニカムダイヤル、細身の針などの差異はあるものの、これら最初期のモデル達は、サブマリーナーに強く結びついており、現在の私たちにとって馴染みのある見た目と雰囲気を持っていました。この3つの時計達が、今日まで続くブランドイメージと象徴的なステータスの礎となるロレックス・デザインの創世記を担うことになります。これらの時計は、「スポーツウォッチ」であると同時に、洗練されたデザイン要素を持ち、難解な問題をシンプルなソリューションで解決する、統一性ある製品デザインとしての言語を持っていました。これらの時計は、生まれながらにして最高の実用時計であったともいえるでしょう。
前置きはこのくらいにして、初号機からモダン世代の始まりまで、ロレックス サブマリーナーの各リファレンスを見ていきましょう。大きく息を吸って、いざ!
リファレンス6204:1953年
これが、“サブマリーナー”という歴史的な名前を文字盤に刻んだ初の時計です。一般的な資料では、サブマリーナーの登場は1954年となっていることが多いですが、それは、あくまでもロレックスが正式に発表し、マーケティングを始めた年になります。シリアルナンバーとケースバック内側の刻印から判断すると、実際の製造は1953年に始まっており、最初期のものには製造時期を示す“II.53”(1953年第2四半期)の刻印があります。
リファレンス6204を観察すると、この時計がサブマリーナーであることは明白ですが、いくつかの特徴には違いが見られます。まず、ケースは後続のモデルと比べて薄い作りになっています。直径5.3mmとかなり小型のリューズと合わせて、このモデルは100m防水として設計されたと考えられていますが、最初期の広告に一例のみ、200m防水であると表記されているものが確認されています。また、後のモデルよりも無骨なデザインが特徴的なベゼルには0から15までの分単位の目盛り(ハッシュマーク)がありません。ミラーダイヤルはより簡素なデザインで、メルセデス針の代わりに、かなり細めのペンシル型の時針分針と、小さめのロリポップを先端に配した秒針という組み合わせになっています。
これらの初期型6204は、後期バブルバックの一部も含めた既存のオイスターパーペチュアルモデルから流用された、ロレックスキャリバーA260を搭載していました。対衝撃機構を実装したこのキャリバーは、当時のロレックスのラインナップの中で最も頑丈なものであり、挑戦的な新参者だったサブマリーナーに最適な選択であったといえるでしょう。
もしもあなたがこのモデルの入手を考えているならば、信頼できる真のエキスパートにまず相談するのが賢明でしょう。このモデルには数多くの非常に細かいバリエーションや奇妙ともいえる特徴が存在するため、購入を決心する前に、各パーツの整合性や状態をしっかり確認するべきでしょう。この年代は、サブマリーナーの歴史の中でも開拓時代まっ只中であり、資料や文献も非常に少ない上に、間違った情報も広く出回っていることを忘れてはいけません。
6204には、大きく分けて二つの文字盤のバリエーションが存在します。最初期シリアルのものは“スプリットロゴ”と呼ばれ、“OYSTER”と“PERPETUAL”表記の間隔が大きく離れているのに対し(フラットもしくはハニカム・テクスチャー文字盤)、ここに掲載する、より一般的なものは、現在のサブマリーナーのようにロレックス銘の下に“OYSTER”と“PERPETUAL”が近い間隔で表記されています。希少なバリエーションとして、イギリス市場向けに作られた、“SUBMARINER”の代りに“SUB-AQUA”と表記されたものも確認されていますが、それらは非常にレアな存在であるといえるでしょう。もう一つ、フラット文字盤で気をつけなければならないのが、その表面の状態です。ロレックスの歴史上、艶ありミラーダイヤル世代のモデルであるにも関わらず、6204に関しては、現時点でまだらな艶消しの見た目になっている傾向があります。もしも艶がしっかり残った個体を見つけた場合、疑いを持った方が良いでしょう。
リファレンス 6205(クリーンダイヤル&ペンシルハンズ):1954年
「ん?逆行している?」と思うかもしれません。この時計には“SUBMARINER”の表記がどこにもありませんが、6時位置に“SUBMARINER”を冠した6024の後に登場したことは間違いありません。ロレックスが1954年初頭の短い期間のみ、文字盤からモデル名を廃した理由は、ブラックボックスのようなロレックスの秘密主義のおかげで、私たちが知ることはできません。しかし、彼らがこの仕様のバリエーションを世に送り出したのは間違いなく、結果、それらは“クリーンダイヤル”サブと呼ばれることになります。ロレックス銘と“OYSTER PERPETUAL”の二行の表記のみのこの文字盤は、ギルト・チャプターリングバージョンの6204と非常に似通っています。針もまた、6204のようなペンシル&ロリポップ仕様となっています。これが、メルセデス針を使わない最後のサブマリーナーとなりました。
注目すべき二つの重要な変更点はケースとリューズです。前者は、少し厚くなり、後者は5.3mmから6mmへとサイズアップしています。防水性能に変更はありませんが、時計全体の堅牢性とリューズの操作性のアップが図られたと言えるでしょう(5.3mmの小さなリューズの操作性はとても良いとはいえません)。文字盤のバリエーションとしては、6204のそれと非常に近いですが、“クリーンダイヤル”という点は、このリファレンスにのみ見られる特徴です。
リファレンス6205(シグネチャー&メルセデスハンズ):1954年
このバージョンは、上記のモデルと同じリファレンスではあるものの、一般的に認識されているサブマリーナーの見た目に、明らかに近づき始めています。“SUBMARINER”の文字が文字盤6時位置に復活し、特徴的なメルセデス時針がついに登場すると共に、秒針のロリポップの先に直線状の先端部ができました。特筆すべき点は、これらの針が後述する5512や5513と比べて、明らかに長いことです。時針の文字盤中心からメルセデスマーク部分をつなぐ直線部は後継モデルよりも長く、分針はチャプターリングギリギリまで伸びています。もしもこれらが後継モデルのように短ければ、整備時に交換されたものか、正規のパーツではないということになります。
6204と同じく、6205のベゼルにもハッシュマークがないことにお気づきでしょう。時々、12時位置に赤色の三角印と、そこから15分まで続くハッシュマークのあるベゼルがつけられている場合がありますが、それは後づけされたもので、このリファレンス用ではありません。赤三角印とハッシュマークは、もうしばらく先まで登場しないからです。もう一つ注意すべき点は、ベゼル自体(インサートだけではなく)が、大型の滑り止め付きではなく、この年代に見られるコインエッジ型のものであるかどうかです。もしもそうでなければ、ベゼルごと交換されている可能性が高いです。
リファレンス6200(エクスプローラーダイヤル):1955年–1956年
さて、そろそろワイルドな領域に入ってきました。この時計は6204の2年後に登場したにも関わらず、それよりも小さいリファレンス・ナンバーが割り当てられています。その真相を知る人はいませんが、強いて仮説を立てるならば、このモデルの方が先に開発されていたものの、ロレックスが何らかの理由で発表を遅らせたのかもしれません。ただ、どんな仮説もどんぐりの背比べでしかないというのが正直なところです。
大多数のリューズガードなしのエクスプローラーダイヤル・サブマリーナーはref.6200ですが、一部、ref.6538でこの珍しい文字盤仕様のものも存在します。それらはオークションで高額取引されており、ここに掲載する、赤色の防水性表記付きでベゼルが欠落している個体は、2018年6月に100万ドルで落札され、世界一高価なサブマリーナーとなりました。
6200は、サブマリーナーの最高傑作リファレンスの一つとされ、多くの真剣なコレクター達を熱狂させるモデルであり、“キング・サブ”と呼ばれています。このモデルは、サブマリーナー初の8mmの大型のリューズ(通称:デカリューズ)を採用し、その外装には、“Brevet”の刻印が入っていました。また、このモデルは、別の有名ロレックスモデル譲りの3-6-9時マークが入ったデザインからエクスプローラーダイヤルと呼ばれる、新しい文字盤を世に送り出しました。この世代は、防水性表記やクロノメーター認定表記以前であり、後のモデルでは失われてしまった、非常にシンプルな見た目の文字盤に仕上がっています。それが、ラジウム塗料で描かれた大きなアラビア数字を際立たせることにも貢献しています。
6200のケースはこれまでのモデルよりも少し分厚く、幅広のデザインになっており、デカリューズと合わせて、これまでの倍の耐水性(200m)を提供しました。また、大きく分けて、スモールロゴ(上写真)とラージロゴ(下写真)の2種類が6200リファレンス内に存在します。前者には6時位置の“SUBMARINER”表記がなく、後者にはそれが存在します。両バージョンで、前リファレンスでお馴染みの、長めのメルセデス針とハッシュマーク無しのベゼルが採用されています。
これらを見ると、ロゴサイズの違いが、時計全体の雰囲気を大きく左右することが分かると思います。各バージョンの正確な製造数は分かっていませんが、合計で約300個前後と考えられており、ラージロゴの方がスモールロゴよりも明らかに多く作られたようです。ただ、このリファレンス自体が非常にレアなため、その中で状態の良い個体はさらに見つけにくく、ロゴサイズよりも、時計自体のコンディションと、どれだけオリジナルのパーツが揃っているかが価値を決めていきます。
6200の最も重要なポイントというわけではありませんが、新しいキャリバーであるA296が搭載されたことにも触れておきましょう。技術的なスペックとしてはA260と似通っていますが、サイズが26.4mmから29.5mmへと少し大きくなり、ビッグクラウンモデルの大きめのケースによりフィットするようになりました。
リファレンス 6536/1(最初期バージョン):1956年–1957年
いよいよ、色々と難しくなってきました。ここまでのところ、ほとんどのリファレンスはバージョンごとの特徴が比較的分かりやすく、バリエーションとしては多少の違いがある程度でした。1956年以降の多くのリファレンスでは、各バージョンの製造年数も伸び、時期ごとの違いやバリエーションも増え、微細なディテールが今日のコレクターにとって重要な要素になってきます。
この最初期のリファレンス6536は、実際には、後述する6538との“ダブル・リファレンス”であるといえます。このバリエーションでは、8mmではなく6mmの小さいリューズが使われており、ケースとケースバック内側の“6538”の刻印が横線で消され、その下に“6536”と刻印されています。専用のケースとリファレンス6536/1が割り当てられるまでに、非常に少数の個体が製造されました。
6536/1については、大きく分けて3つの世代を掘り下げていきます。最初期のバージョンは、6200と一部時期が重なる形で1956年に製造が始まりましたが、明確に違う時計に仕上がっています。まず、防水性は100mになっており、小さめの6mmリューズと少しスリムな6205のケースが使われていました。そして、このバージョンは12時位置に“ROLEX / OYSTER PERPETUAL”、6時位置に“100m=330ft / SUBMARINER”と入った、初の“フォー・ライン”サブマリーナー文字盤でもあります。文字盤そのものは、ラジウム夜光プロットとチャプターリングを備えたギルト仕様ですが、針はこれまでのモデルからの進化を始め、短めのメルセデス時針と、視認性を高めたとされる真っ白な秒針が搭載されました。
6536/1登場と共に、ロレックスはついにバブルバック世代のキャリバーから離れ、よりスリムなキャリバーをサブマリーナーに搭載し始めます。興味深いことに、6536/1に搭載されるキャリバー1030は、A260とA296と同じ1950年に登場しており、多くのオイスターパーペチュアルや、有名なref.6610を含むエクスプローラーにも使われていました。2.5Hz(1万8000振動/時)仕様のこのキャリバーは、わずか5.85mmの薄さで、自動巻ローターを犠牲にすることなく、ケースバックの出っ張りを大きく減らすことを可能にしました。
リファレンス6536/1(中期バージョン):1957年
中期型6536/1は初期型と非常に似通っていますが、ベゼルと秒針の2点の違いがキーになっています。このサブマリーナーが、後継モデルでも使われることになる、有名な赤三角印を0/60分位置に配する初のバージョンになります。合わせて、白色の秒針上の夜光プロットのサイズが少し小さくなりました。このバージョンと差別化するために、正確には秒針の円形部分の先に尖った先端部分が付いているにも関わらず、プロットが大きめの初期型の秒針を“ロリポップ”秒針と呼ぶ人もいます。
これら2世代の6536/1を並べてみると、ヴィンテージ サブマリーナーの世界において、個々の時計達の間に、どれだけ多彩なバリエーションが生まれ得るかが実感できると思います。例えば、ここに掲載する2つの個体の文字盤達は、ほぼ同じ色と仕上げを持って生まれたはずですが、何十年もの時を経て、それらは違った色褪せ方をし、プリントも次第に違った見え方をし始めてくるわけです。これらの個体については、それぞれが各々の「あるべき姿」をしているといえるでしょう。それが、いかにお互いと異なる姿であろうとも。
リファレンス6536/1(最終バージョン):1957年–1958年
リファレンス6536/1は、最初のバージョンが店頭に並んでからたった2年で、ここに掲載する最終形態へとたどり着きました。もちろん、バージョン2からバージョン3への違いは非常に細かいものになります。注目すべき点は、ベゼルが再度変化を遂げ、0/60分から15分位置にかけて、ハッシュマークが付いたことです。また、この後期型のベゼルを搭載する個体として本来あるべき針が保持されているか、チェックする必要があります。保持されていれば、白色の秒針ではなく、他の2針とマッチする真鍮色の秒針となっているはずです(ついでに、秒針の夜光プロットはさらに小さくなりました)。
ここに掲載する個体のベゼルには赤三角印がついていますが、ハッシュマーク有り、赤三角印無しの6536/1も存在しました。劇的な時を過ごしたこの仕様の個体を、ジェイソン・ヒートン(Jason Heaton)のレポートで見ることができます。
リファレンス6538(フォー・ライン):1956年–1959年
ロレックスは、“スモール・クラウン”と呼ばれるリファレンス6536の製造期間中に、“ビッグ・クラウン”ことリファレンス6538も製造していたことが、状況をさらにややこしくしています。多く人たちにとって、このモデルこそが、ザ・ロレックス・サブマリーナーであるといえるでしょう。1962年の「007 ドクター・ノオ」でショーン・コネリーが着用したことであまりにも有名なこのリファレンスは、無骨な実用時計感を持ちながら、ヴィンテージモデルのチャーミングな雰囲気にも包まれたモデルです。
6538には大きく分けて二つのバリエーションが存在します。6時位置に4行のテキストがあるバージョンと、それが2行のバージョンです。まずは、前者から見ていきましょう(上写真)。12時位置の“ROLEX / OYSTER PERPETUAL”に加えて、“200m=660ft / SUBMARINER / OFFICIALLY CERTIFIED / CHRONOMETER”の4行が6時位置にあります。このリファレンスが、サブマリーナーとして初めてクロノメーター認定テキストを冠したモデルであり、ギルト・チャプターリング文字盤の複雑な配色が見て取れると思います。モデルとしてのブランディングはすべてゴールドで、その他のテキストは白もしくはシルバーとなっています。
“Brevet”刻印の8mmリューズ、ハッシュマークなし赤三角印ありのベゼル、そして幅広のケースのコンビネーションは、圧倒的な存在感を出しています。もしもあなたが、これらの初期型ビッグ・クラウン・サブを試着したことがなければ、試させてくれるコレクターかディーラーを探すことをお勧めします。その装着感は、小型のサブマリーナーとも、リューズガード付きのものとも明らかに異なるもので、テキストが追加された文字盤と相まった外観の雰囲気も、6200のそれとはがらりと変わっています。私が初めてこのモデルを手に取った時、なぜこのモデルがこれほど伝説的なクラシックとしての地位を得たのか、一瞬で理解しました。
リファレンス6538(ツー・ライン):1956年–1959年
さて、フォー・ライン6538はクロノメーター認定されていましたが、同じリファレンス中に、クロノメーター仕様でないものも存在していました。これらの非クロノメーターの個体は、“OFFICIALLY CERTIFIED / CHRONOMETER”のテキストが6時位置から消えた、シンプルな文字盤になっています。結果として、これらの時計は、よりオープンな文字盤の雰囲気を醸し出しています。上写真の個体は、美しい深い茶色のトロピカル文字盤になっているのに対し、下写真の個体はまだ漆黒の文字盤を保っています。先ほどの例のように、これらの個体はまったく同じ見た目で生を受け、60年を超える時を経て、全く違う雰囲気の時計へとたどり着いたとことになります。
クロノメーター認定の表記が文字盤にない個体は、まず間違いなくCOSC認定されていないと
言えるでしょう。
ただ、ここはヴィンテージ ロレックスの世界、
例外も存在します。
これら後期型の6538の文字盤はシンプルですが、ベゼルの方は0/60分から15分位置へのハッシュマークが復活し、12時位置の赤三角印も、このモデルの最初の7〜8年間の製造期間には多く見られました。
小柄な姉妹モデルである6536と同じく、ツー・ライン6538用として正しい針には、複数のタイプが存在します。前期型に比べてスリムな白色秒針と、さらにスリムな真鍮色秒針バージョンの両方が正解です。これは、理論上、大きな白色秒針のみがオリジナル・コンディションとして正解であるフォー・ライン6538との対比になっています。
リファレンス5510(最後のビッグクラウン・リファレンス):1958年
リファレンス5510は、一時代の終焉を告げるモデルといっていいでしょう。これが、8mmのデカリューズを使用する最後のサブマリーナーとなりました。見ての通り、このモデルはこれまでに登場したいくつかのモデルと同時期に製造されており、それが、この時期のサブマリーナーの歴史を非常に複雑なものにしている理由の一つでもあります。その時期に販売されていたモデルの種類、そしてそれらが新品時にどんな姿をしていたのかを理解するためには、古い広告や販売代理店の資料などを隈なくチェックする必要があります。
もしあなたがここにある写真を見て、「え? 一つ前のツー・ライン6538と同じじゃない?」と思っても無理はありません。主だった特徴である大型のリューズ、ハッシュマークと赤三角印付きベゼル、そして小さめのメルセデス針は全く同じなのです。私が複数のディーラーやコレクターに見分け方を尋ねたところ、ほとんどの答えは「ラグ間のリファレンス・ナンバーの刻印で見分ける」でした。そういうことにしておきましょう。
また、5510は明らかに現代的なキャリバー1530を搭載した最初のサブマリーナーでもありました。このムーブメントは1957年に登場し、少しずつロレックスのラインナップに浸透してきました。このムーブメントは、5510、5508、そして5512の各モデルに継続して使われましたが、ムーブメントそのものも同形式番号内で進化を遂げたため、世代によって仕様が異なります。最初のバージョンは17石仕様で登場し、その後、24石、25石のバージョンも製造されました。同じく、ローターのサイズの形と、色付きのテフロン加工が施された歯車の仕様も変化しました。
リファレンス5508:1958年–1962年
そろそろパターンが読めてきたのではないでしょうか? 6538にスモールクラウンの姉妹機である6536/1が存在したように、5510にも、5508という小柄の相方が存在しました。この時計は、防水性が100mでよりスリムなケースとリューズを備えつつ、6536/1からデザインの進化を遂げたモデルでした。このモデルでは、落ち着いた雰囲気のメルセデス針が最初から一貫して使用され、インデックスとタイポグラフィのバランスが非常に良い文字盤が採用されました。
5508には、5年に渡る製造期間中に進化した点が2つあります。その1つ目は、ベゼルの赤三角印が銀色へと変わっていきました(一貫してハッシュマーク有り)。そして2つ目は、文字盤に使われた夜光塗料の素材です。1960年代初頭、人々は、ラジウム塗料が時計技師とユーザー双方に及ぼす危険性に気づき始めました。そして1963年、ロレックスは、これ以降の全モデルのトリチウム塗料への移行を実施することになります(1990年代に合成素材が登場するまで)。ただし、1960年代初頭に製造された5508では、ラジウムの含有量を下げた、明るめの色合いの夜光塗料を使用した個体が確認されています。こちらに挙げる2つの個体を見れば、その差異は歴然です。1つ目が初期の例、2つ目がかなり後期に当たる例となります。
5508には、もう一つ重要なポイントがあります。これが、右側面にリューズガードがないケースを採用した最後のサブマリーナーとなったのです。1962年より先、全てのサブマリーナーは、ロレックスの看板ともいえるプロテクターをリューズの両側に搭載することになり、これまでより多少かさばる輪郭となるものの、さらに頑丈な道具として進化したといえるでしょう。僕らがまだ、ダイブウォッチが実際の潜水器材だった時代の真っ只中にいることを忘れてはいけません。デザイナー達は、この時計があなたの911の運転席でどう見えるかよりも、水中でいかに機能するかを考えていたのです。
リファレンス5512(スクエア・リューズガード):1958年–1962年
1959年のリファレンス5512の登場は、私達の知る現在のサブマリーナーの基本形に到達した瞬間でした。約40mmのケースに、面取りの入ったラグ、リューズガード、そして少し大きめの7mmリューズ、ハッシュマーク付きのダイブベゼル、12時と6時位置にテキストを配した落ち着きのある文字盤、200mの防水性、そして標準仕様のメルセデス針と、ここにすべてが揃いました。
しかし、5512は1959年から1980年までの20年以上継続して製造されることになり、そのバリエーションは数十にも上ります(コレクターの見解によってはさらに増えます)。ここでは、特に構造的な変化や歴史的に大きな役割を果たした、重要なバージョン達に焦点を当てていきます。すべてのロレックス・フォントのバリエーションの掘り下げや、王冠ロゴのバリエーションにおかしなニックネームをつけていくといった作業はまたの機会にしたいと思います。
この最初期の5512は、リューズガード無しのサブから現代的なリューズガード付きのサブへ移行する、過渡的なバリエーションです。このモデルは、先出のモデルのような美しいミラーダイヤル、ハッシュマークと赤三角印付きのベゼルを備えており、そこにこのリューズガードが追加されています。先端が完全に切り落とされた、この角型のリューズガードの形状は、これ以降のモデルと一線を画しています。この時計の、非常に印象深い輪郭を観察すると、ロレックスがまだ、デザインの詳細を煮詰めている段階にあったことが窺い知れます。リューズガードの登場により、確かにリューズの防護性は上がりましたが、その操作性には少々難があったといえるでしょう。
リファレンス5512(イーグルビーク・リューズガード):1959年
この時期、ロレックスは製品改善の試行錯誤を重ねていました。もちろんそれは、時計をより良いものに昇華させることに繋がったわけですが、その歴史を紐解く作業を厄介なものにしたことも事実です。角形のリューズガードに改善の余地あることを学んだロレックスは、尖った先端へ続く斜面の形から“イーグルビーク”(鷲口)と後のコレクターが呼ぶことになるリューズガードへと移行しました。この形は、既存のスクエア・リューズガードのケースを削り落とすことで作られたと考えられており、それによって、製造プロセスの大掛かりな変更をすることなく、迅速な改変作業を可能にしたわけです。
さて、私と同じく、「もしもこのデザインを再現したければ、現存するスクエア・リューズガード5512をこの形まで削れば良いのでは?」と考えた方もいるでしょう。短い答えは、「イエス、多分可能」です。ただ、スクエア・リューズガードは、よりレアかつ高額取引されるバリエーションであり、そこまでして偽のイーグルビークを作って人を欺く意味はあまりないといえます。もしその希少性が逆であれば、おそらく問題になっていたでしょう。
リファレンス5512(ポインテッド・リューズガード):1959年–1963年
私達はまだ、クラシックなミラーダイヤル5512の時代にいます。リューズガードの変化は続き、ここに取り上げるのは“PCG”もしくは“ポインテッド・リューズガード”と呼ばれる5512です。そのリューズガードは、上写真のイーグルビークタイプのそれよりも直線的な輪郭になっていることが分かると思います。この形を角型のリューズガードから削り出すことはできず、ロレックスが製造工程を変更し、このモデル専用のケースを製作したことが分かります。約4年に渡る製造期間を経て、ミラーダイヤルの5512は、その後の大多数のサブで採用されることになる、角の取れたリューズガードへと移行することになります(後述するマット5512とギルト5513を参照)。
ヴィンテージ ロレックスについてひとつ知っておくべきことは、「製造時期」の割り当てが、想像以上に複雑な作業だということです。1970年代半ばまでは、ケースバック内側の下部に製造時期が刻印されていました(この時計の場合、1968年第二四半期を意味する“II.68”が入っています)。ただ、これはあくまでケースの製造時期であり、時計の組み立て、クロノメーター・テスト、販売店への出荷などにかかる時間は加味されていません。
この番号システム終了以降の個体については、シリアルナンバーから製造時期を割り出すのがベストな方法ですが、これはあくまでも不正確な非公式の代物で、ロレックスはヴィンテージ時計の製造年月日を確認してくれません。
というわけで、あなたが誕生年の時計を探すときには、そのターゲットはあくまでも流動的なものだと覚えておいてください。
(写真提供:HQ Milton)
さて、ここにはもうひとつの変化があります。“SUPERLATIVE CHRONOMETER / OFFICIALLY CERTIFIED”表記が文字盤下部へ追加された点です。この時計が製造された同時期に、非クロノメーター・サブマリーナーである5513も出荷され始めたのです。結果、この2行のテキストが、これら2つのリファレンスを見分ける主な方法となります。これに関しては、より詳しく掘り下げていくのでしばしお待ちを。
また、ここに掲載する個体は、コレクターが“スイス・エクスクラメーション・ポイント”と呼ぶ文字盤を持っています。文字盤の最下部、風防が視界を屈折させ始める位置をよく見ると、“Swiss”テキストがチャプターリングの外側にあり、円形の夜光プロットが6時位置の長方形インデックスのすぐ下にあるため 、それらが“!”を形作っているのが確認できます。これは、この時期のロレックスのスポーツウォッチに見られる特徴で、同じエクスクラメーション・ポイント文字盤を、同時期のGMTマスターとエクスプローラーにも見ることができます。
そして、ポインテッド・リューズガード5512には2種類のムーブメントが混在していた事実が、状況をさらに複雑なものにしています。最初期のバージョン(ハッシュマークと赤三角印付きのベゼルを搭載)にはキャリバー1530が使われており、ここに掲載するバージョンでは新登場のキャリバー1560が搭載されています。1959年から段階的にいくつかのモデルに使われ始めたキャリバー1560は、2.5Hz(1万8000振動/時)、26石のムーブメントでKIF社製耐震装置、フリースプラング・ヘアスプリングを搭載していました。このムーブメントはこの先、ミラーダイヤルからマットダイヤル世代の初頭までの約5年間に渡り使われ続けることになります。
少々脱線しますが、フィラデルフィアの蚤の市にて10ドルで売られていたこのモデルを私達がレポートしたことを覚えていますか? もしもご存知なければ、この信じられないストーリーをこちらからどうぞ。 凄いですよ。
リファレンス5512(マットダイヤル、メーターファースト):1967年–1969年
この時計は、いくつかのマイルストーンを含んでいます。まず、ここに掲載する個体は、最初期のマット文字盤サブマリーナーの一つです。1960年台半ば(1967年説が有力)、ロレックスは、これまでの艶ありの黒色ベースとゴールドのテキストを持つメッキ処理されたミラーダイヤルから、ソフトな艶消しのベースに白色でプリントされたテキストを使う、いわゆる“マット”ダイヤルへと移行しました。今日のコレクターを二分する基本的な要素は、おそらくこのミラーVSマットとなるでしょう。もちろんそれが大まかすぎる定義なのは一目瞭然ですが。
文字盤の下部、これまでなら“Swiss”とあった部分に“Swiss–T<25”と入っています。これは、夜光塗料がトリチウムであることと、その放射線量が着用するのに安全なレベルに収まっていることを示しています。基本的に、“T”の表記が文字盤のどこかにあれば、それは、より安全なトリチウムを使用していることを表すためのものです。文字盤の同部分を見ると、ハッシュマークをつなぐチャプターリングがなくなっていることに気づくと思います。チャプターリングは、ミラーダイヤルの世代終盤にその姿を消し始め、ロレックスがマット文字盤に移行した時点では完全に無くなっていました。
さて、文字盤から目を離すと、リューズガードが最終形(もしくはそれに限りなく近い)に到達したことが分かります。それらは、前バージョンよりもさらに丸みを帯び、その先端は四角でも尖形でもありません。この形は、操作性を高めると同時に、リューズを十分に保護することを可能にしています。このケースは、ヴィンテージ サブマリーナー愛好者にとって最も馴染みの深いもので、1970年代から1980年代にかけて、ほとんどのサブマリーナーに使用されました。
稀にミラーダイヤルチャプターリングのないものを目にしますが、その逆にマットダイヤルに
チャプターリングの組み合わせはあり得ません。
コレクターやディーラーの下心がちらつくニックネームが誕生し続ける底なし沼ともいえる、フォントやロゴのバリエーションに関しては深く掘り下げないと、冒頭で書きました。しかし、そのバリエーションの一例が、ここに掲載する第2世代マット文字盤、いわゆるメーターファースト5512の“ニート・フォント”文字盤になります。特筆すべきは、12時・6時位置のプリントのクオリティの高さと、クリーンで間隔の空いたタイポグラフィによる、ハッキリとした、手描き感のない雰囲気です。
この“ニート・フォント”5512から、新たなキャリバー1570が登場します。このムーブメントは1560から基本設計を引き継ぎつつ、振動数が2.75Hz(1万9800振動/時)に引き上げられ、いくつかの歯車とローターの仕上げが向上しました。1972年には、形式番号の変更なしで、さらに秒針のハック機能が搭載されました。
リファレンス5512(マットダイヤル、フィートファースト):1969年–1980年
この最終世代の5512は、先代と比べて二つの大きな変更点がありました。もちろん「大きな」というのは、ヴィンテージ ロレックス基準での話ですが。まず、防水性表記がメーター先行から、フィート先行になり、そこからこのニックネームがついたわけです。具体的には、この時計で“660ft=200m”となっている表記は、先代では“200m=600ft”でした。時計としての性能に変更はなく、これはあくまでも外見のみの変更です。一説には、フィートを単位として使う代表国であるアメリカが、ロレックスにとって、より重要な市場になったことを示しているという見解もありますが、もちろんそこはヴィンテージ ロレックスの世界、あくまでも推測の域をでません。
また、このバージョンは、大型化した夜光プロットを指して“マキシ・ダイヤル”とコレクターに呼ばれています。この時計と上記のモデルの写真を比べれば、その差は一目瞭然です。その目的は、文字盤の視認性をさらに向上させることでした。正確には、この個体はマキシ・ダイヤルのマーク3に当たるわけですが、気をつけないとまたバリエーション沼にはまってしまいます。
リファレンス5513(ポインテッド・リューズガード):1962年–1963年
さて、この辺で少し方向転換しましょう。ここまで、リューズガード付きサブマリーナーの世界において、私たちは5512に集中してみてきました。しかし、ここで登場する5513も、ノンデイト・サブマリーナーを語るにおいて非常に重要なリファレンスです。このモデルは、5512登場のわずか3年後にあたる1962年に発表され、5513にはCOSCからクロノメーターとして認定されたムーブメントが搭載されていなかったことが唯一の違いです。そう、シンプルにそれだけです。
結果、ここに掲載する初期の5513は、上記3番目に紹介した、ほぼ同時期に製造された5512と非常に似通っています。5512には存在する“SUPERLATIVE CHRONOMETER / OFFICIALLY CERTIFIED”が文字盤にないこと以外、この2つの時計の違いを見つけることは容易ではありません。ケース、ベゼル、ミラーダイヤルのプリントのスタイルまでほぼ同一といえるでしょう。6時位置の“エクスクラメーション・ポイント”まで同じです。
これら早い世代の5513は、最初期にのみ存在した非クロノメーター仕様の5512と同じ、キャリバー1530を搭載しています。元々このムーブメントはクロノメーター認定向けに用意されたものではなかったので、COSC認定されたキャリバーを搭載する5512との差別化を図る上で、ロレックスにとって自然な選択でした。
リファレンス5513(エクスプローラー・ダイヤル):1962年–1965年
これは、数ある5513のバリエーションの中でも一番貴重なものの一つであり、リファレンス・ナンバーを共有する他のバリエーションとは一線を画しています。この5513はエクスプローラー・ダイヤルと呼ばれ、長方形のインデックスの代わりに3-6-9の数字が使われています。また、その他の時間位置には、円形タイプの代わりに細めのバトン型夜光プロットが使われると共に、文字盤上のすべてのテキストサイズも縮小され、それが夜光性の数字インデックスの存在感を高めています。
これらエクスプローラー・ダイヤル5513は、エクスプローラー・ダイヤル・サブマリーナーの最終世代にあたり、これまでのエクスプローラー・ダイヤル6200と6538とは大きく異なった見た目をしています。忘れてはいけないのは、最初期の6200から最後のエクスプローラー・ダイヤル5513の間には、ほんの10年ちょっとの時間しか経っておらず、この時期に、いかに速いペースでサブマリーナーが進化していったのかが分かると思います。現在、私たちはその存在を確固たるアーキタイプとして捉えていますが、50年代〜60年代のサブマリーナーは、まだまだ非常に柔軟なものであったいえるでしょう。
実は、これらのモデルと同時期に、エクスプローラー・ダイヤルの5512も製造されていました。興味深いことに、そのほとんどはイギリス市場向けに作られていたらしいのです。なぜイギリス市場がそれらの時計をほぼ独占したのかははっきりしませんが、これも、元々普通ではないバリエーションの、さらに奇妙な歴史の一部だということでしょう。
リファレンス5513(アンダーライン):1963年–1964年
この5513は、6時位置の防水性表記と“SUBMARINER”銘の下に“アンダーライン”(下線)が引かれている、特別なミラーダイヤルを持っています。この時期のロレックスのスポーツモデル全体に見られるアンダーライン文字盤は、会社の歴史における過渡期を象徴しているといえるでしょう。
ロレックスがその事実を認めたことはありませんが、この下線マーキングは、これまで使われていたラジウム文字盤よりも放射性が低い、トリチウム夜光塗料仕様の文字盤であったことを示すためにつけられたのだと一般には認識されています。文字盤そのものはプリント済みで、まだ夜光塗料の塗布が終わっていない在庫が存在し、それらを識別するためにロレックスが下線を足したのだと考えられています。アンダーライン文字盤を持つ個体の製造時期が、1962年から1964年ごろに集中していることを考えるとつじつまが合いますし、私が問い合わせたエキスパートたちも、これらの時計は以前のバリエーションよりも低い放射線レベルを示していると返答しました。もちろん、この特徴を無視しても、この時計が非常に美しいギルト5513であることに変わりはありません。
リファレンス5513(ダブルスイス・アンダーライン):1963年
まるで、その複雑さがまだ足りないとでもいうかの如く、知っておくべきアンダーライン5513のバリエーションがまだ存在します。それが、ダブルスイス・アンダーライン5513です。あなたがまず気づくことは、下線の位置がこれまでの6時位置ではなく、12時位置のロレックス銘の下に移っていることでしょう。まだポインテッド・リューズガード仕様のケースを持つこの個体は、このタイプのリューズガードを使う5513の最終ロットの一つです。
より重要な点は、ギルトの“SWISS”テキストがオープンタイプのチャプターリング上に、そして白色の“SWISS”テキストがその直下に確認できることです。この二重表記は非常に珍しく、このバリエーションのレアさを次の次元へと押し上げています。ただ、“ダブルスイス”の呼称はサブマリーナーだけに存在するわけではありません。ベン(Ben Clymer)のダブルスイス・アンダーライン・デイトナに関するレポートはこちら。
リファレンス5513(ギルトダイヤル、オープン・チャプターリング):1964年–1966年
さて、もしも、余計な“SWISS”表記も、隠れた下線も、ビックリマークもなければどうなると思いますか? それがこの時計です。これは、後期型ミラーダイヤルの5513で、文字盤外縁のオープンチャプターリングがそれを示しています(ギルトのハッシュマークの外側が、円状のラインでつながっていないことから“オープン”と呼ばれる)。
たった数年しか製造されず、貴重がられることもなく使い倒された個体が大多数であるにも関わらず、ヴィンテージ ロレックス収集の世界が、このバリエーションを“普通”や“通常仕様”というカテゴリーで見るところまで到達したと思うと、これまたおかしいものです。このバリエーションにあまり関心を持たないコレクターも存在しますが、クリーンな文字盤、均等に色あせたベゼル、シャープなケースを持つ、上質なギルト5513を見つけることは、決して簡単なことではありません。ここに載せる個体は、極上のコンディションだと言いえるでしょう。
もしあなたが確信を持てないのならば、
恐れずリサーチをしましょう。
サブマリーナーには無数の文字盤バリエーションが存在し、そのすべてを暗記するのは無謀です。
ミラーダイヤル世代終盤のどこかの時点で、5513は、キャリバー1520という新ムーブメントに移行しました。いくつもの点で勝っていたといえる既存のキャリバー1530と比べると、これは少々奇妙なムーブメントであったといえるでしょう。1520は、1530よりもわずかに速い、2.75Hz(1万9800振動/時)仕様でしたが、レギュレーターやバランス・スプリングはより廉価版のものが使われており、「技術的進歩はコスト削減と共に世に出た」と言えるかもしれません。このムーブメントはCOSC認定されることを想定せずに作られており、5513にはちょうど良い選択でした。
リファレンス5513(バート・シンプソン):1966年
さて、ミラーダイヤル5513の最後を飾るバリエーションとして、ちょっと面白いものを紹介しましょう。詳細をひたすら追求するこのヴィンテージ ロレックスの世界で、コレクターやディーラーが最もこだわるものの一つが、ロレックスの王冠の形です。それは、20世紀中盤、会社のロゴとしてはかなりの変化を経験したといえるでしょう。「5つの角を持ち下側が開いた王冠に、セリフ体フォントの社名」という基本構成は常に同じでした。しかし、時には背が低く、時には高く、幅広かと思えば細くなり、はたまた王冠の角同士が近い時もあれば、離れている時もありました。
ここに掲載するバリエーションは、その王冠の形が有名な某アニメーションのキャラクターに見えるということから“バート・シンプソン”というニックネームがつけられています。王冠ロゴの深い黄色も(ミラーダイヤルのメッキプロセスによる)それらしい見た目を強調しています。
実は、バート・シンプソン5512も存在しますが、それは5513バージョンよりもかなりレアな代物です。
リファレンス5513(マットダイヤル、メーターファースト):1967–1969年
これも、5512と5513が同時に変化した瞬間の一つです。ロレックスが、伝統的なミラーダイヤルを引退させるにあたり、両サブマリーナーモデルはマット文字盤と白色プリントに移行しました。5512と同じく、5513も最終的にはフィートファーストに落ち着くことになりますが、この個体は、初期型モデルであり、まだメートル単位の方が先行しています。
今回紹介している時計の多くは、色あせたベゼルや文字盤などのパティーナ(古色)を持っていますが、この個体は、基本的にタイムカプセルであるといえるでしょう。マット文字盤の深い黒、カスタードクリーム色の夜光塗料、そしてアルミ製ベゼルインサートの艶のある黒がしっかり保持されています。まるで、1960年代後半から時が止まったかのような保存状態です。
リファレンス5513(ミリサブ):1972−1976年
この時計は、エクスプローラー・ダイヤルと並んで、今日、最も貴重な5513のひとつだといえるでしょう。ミリサブ(ミリタリー・サブマリーナー)は、ここに紹介する5513、のちに登場する5513/5517のダブル・リファレンス、そして5517シングル・リファレンスの3種が存在します(後者の2リファレンスは、一般用サブマリーナーではなく、ミリサブとしてのみ存在)。ここに掲載する個体は、俗にいう“フルスペック”ミリサブで、ミリタリーモデルと一般用を分ける特徴をすべて併せ持っています。多くの場合、軍用としての役割を終えた時計は、日常使用を想定して改変され、その特徴を失ってしまっていることがあります。ここに掲載するような個体が、理想的なミリサブだといえるでしょう。
さて、その特徴を見ていきましょう。大まかに言えば、分刻みの目盛りが一周する特殊なベゼル(この仕様は一般市民用のサブマリーナーには存在しない)、ソード形の針、安全なトリチウムをラジウムの代わりに使用していることを示す6時位置のサークルTロゴ、そしてラグ間の固定式バー(着脱可能なスプリングバーではない)がその特徴です。もしもこのうちのいずれかの要素が改変されていたとしても、それが本物のミリサブである可能性は十分にありますが、その特別さが失われているともいえるでしょう。
すべてのヴィンテージ時計において、しっかりとした書類が残っていることが、その個体の価値を上げるといっていいでしょう。しかし、ミリタリー時計に関しては、明細や文献などの重要性がさらに高まります。一般向けの5513を改造してミリサブを偽造することで得られる利益は大きく、常習犯的な人々も存在します。あなたがミリサブの購入を考えているなら、信用できるルートを使い、経緯や証拠を示す書類が揃っているものを探すことが重要です。
もしも興味があれば、それ自体が奥深い存在であるミリサブの、さらに最初期のバージョンに関する情報をどうぞ。(ネタバレ:読む価値ありです)
リファレンス5513(マットダイヤル、フィートファースト):1969−1982年
これまで幾度となく絡み合ってきた、5512と5513が最後に重なるのが、このバージョンです。10年以上作られたこの一系統のみで、十数個のバリエーションが存在します。ここに掲載する個体は、マット文字盤にフィートファーストの防水性表記を持ち、最後に掲載した5512とほぼ同じ見た目をしています。夜光プロットはいわゆる“マキシ”サイズであり、この時期の夜光塗料は、暗めのオレンジやベージュ色ではなく、薄めの黄色に変化していることがよくあります。このバージョンが、本質的に、最終世代のヴィンテージ サブマリーナー・ノンデイトだといえるでしょう。
リファレンス5513(最終世代):1982−1989年
この個体は今回の記事の中で一番若い時計になります。1988年ごろに作られたこの個体は、27年間継続した5513の製造期間の最終ロットの1つです(“L”で始まるシリアルナンバーがそれを示す)。この時計が、これまで見てきたものと大きく異なることは一目瞭然でしょう。なぜなら、このバージョンは、真のヴィンテージ サブマリーナーと、ロレックスが1990年ごろに製造開始した5桁リファレンスのちょうど中間に当たるものだからです。これは、過ぎ去ったサブマリーナーと、現在(運が良ければ)購入できるサブマリーナーを繋ぐ、「ミッシング・リンク」とも呼べるバージョンだといえるでしょう。
この5513の最終シリーズで導入された一番重要な特徴は、艶あり黒文字盤と、ホワイトゴールドに囲まれたトリチウム夜光のインデックスです。その他、文字盤上のフォントの変更、ベゼルの詳細などいくつもの変更点があります。しかし、ケース、その輪郭、そしてムーブメントを見ると、この時計が紛れもなく5513であることが分かります。
リファレンス1680(赤サブ):1969−1975年
「デイト付きサブマリーナー、ついに登場!」今となっては信じがたい話ですが、3時位置にデイト機構を備えるサブマリーナーが世に出るまでに、実に16年もの年月がかかったことになります。特筆すべきは、デイト付きとしてイチから設計された、最初期のシードゥエラーは、実はこの2年前にリリースされていました。このサブマリーナーは、初期のシードゥエラーと同じ、キャリバー1575を搭載していました。(「リファレンス ポイント:シードゥエラーを理解する」はこちら)
ご存知の通り、すべてのサブマリーナーが平等に生まれるわけではありません。しかし、2017年の初めに私のデスクにやってきたそれは、とても予期できる代物ではありませんでした。それは、ブルーの文字盤、バーク(木幹風)仕上げのブレスレット、そして部分的にのみ滑り止めが入ったベゼルを持つ、そのホワイトゴールド製プロトタイプ・サブマリーナー。まるでダイブウォッチの悪夢から出てきたようなその時計は、なんと、2017年5月、クリスティーズのオークション記録を塗り替える、62万5000ドルで競り落とされることになるのです。
サイクロプス窓付きのデイト機能を追加するにあたり、ロレックスはこのサブマリーナーに、これまでとは別系統の1680というリファレンスを与えました。最初期の1680は、6時位置の4行テキスト内の“SUBMARINER”に赤色を使用し、このモデルは広く「レッドサブ」(赤サブ)というニックネームで呼ばれることになります。
2000年代中盤の一時期、赤サブは、ヴィンテージ サブマリーナー収集における入門モデル的な役割を果たしていました。よりベーシックなマット文字盤スポーツモデルやデイトジャストからのステップアップに最適なものだったのです。また、このモデルは、サブマリーナー・デイトとしては数少ない、ノンデイト並みの注目を集めるバージョンでもありました。ヴィンテージ収集の世界がより成熟し、ミラーダイヤルも含めるとかなりの数の選択肢が存在する今日においても、赤サブが絶対的なクラシックモデルの一つであることは間違いないでしょう。
さて、多くの人が認識していないのは、赤サブが、多数のサブマリーナー・モデルよりもレアではあるものの、“製造期間一年のみ”というようなリファレンスではないということです。実は、このバージョンは1969年から1973年まで製造されており、その中にはいくつかの“マーク”分けされているバリエーションが存在します。尋ねる人によって、7〜8種類の明らかなバージョンが存在するとされる赤サブ(人によってはマーク2とマーク3を1つのバージョンと数える)、ここに掲載する2つの個体からも、明らかな違いが見て取れます。前者はメーターファーストの防水性表記、後者はフィートファーストになります。
サブマリーナー・デイトには、もちろんデイト機構付きの新しいムーブメントが必要でした。ロレックスは、GMTマスターやデイトジャストにも使用されていた(1965年に登場)、1975の派生バージョンを選択しました。このムーブメントは、初登場時点から2.75Hz(1万9800振動/時)仕様で、一瞬で切り替わるデイトホイールを有していましたが、1972年のアップグレードによって秒針のハック機能が追加された事により、より正確な時間合わせが可能になりました。このムーブメントは少しずつ、さまざまなモデルに搭載されていきましたが、もしあなたの1680がハックするようなら、製造時期は1972年以降のはずです。
リファレンス1680(18Kイエローゴールド):1969−1979年
お待たせしました。金無垢サブマリーナーの登場です。これ以上にクールな時計もなかなかないでしょう。1969年、ロレックスは(やっと?)、このクラシック実用時計に金無垢バージョンを追加する事になります。人によっては、これは真の実用時計としてのサブマリーナーが死んだことを意味し、また別の人にとっては、サブマリーナーが真のラグジュアリー時計ステータスへと昇華した瞬間でした。個人的には、両方の目線で見ることができると思いますが、僕は、実用時計の基本概念を説いて苦言を呈する代わりに、その純粋な格好良さを祝福したいです。もちろん正直な話、ロレックスが僕の意見に耳を傾ける訳でもないですし。
ここに掲載する金無垢1680は、形、寸法、オイスター・ブレスレット仕様まで、スティール製の姉妹モデルと瓜二つですが、もちろん、18Kの黄金で作られています。ベゼルも非常に似ていますが、数字とマーキングは、銀色の代わりに艶消しの金色にすることで、ケースとのコーディネートがされています。同じく、デイトディスクもシャンパン色で、その周りを固める金無垢パーツとの調和を保っています。スティールモデルとの一番の違いは、コレクターが“ニップルダイヤル”や“フジツボダイヤル”と呼ぶ、一段高くなった丸いインデックスの中心に夜光塗料の入ったダイヤルです。このニックネームの由来についてこれ以上の説明は要らないですよね?
ここに見られる個体は、非常にレアなメーターファースト文字盤で、その製造期間は最初期の1〜2年のみです。その後は、より一般的なフィートファーストの個体だけが確認されています。
リファレンス1680(18Kイエローゴールド、ブルーダイヤル):1971−1979年
金無垢のサブマリーナーは大ヒットし、ロレックスはこのモデルを長年進化させてきました(現在もラインナップに含まれています)。その最初のバリエーション展開の一つが、ここに掲載する、鮮やかな青色の文字盤とベゼルを持つモデルです。長い時を経て、これらのベゼルの多くは、さまざまな青や紫へと変色・退色していきましたが、この個体は、まるで新品のような深みと色彩をキープしています。もちろん個人の好みの差はありますが、私はこういうパンチの効いた色が大好きです。
もう一つ特筆すべき点は、そのプレジデント・ブレスレットです。これは、デイデイトからの後付けではありません。当時、もしもあなたが時計の購入時に希望すれば、小売店はこのタイプのブレスレットをスペシャルオーダーすることができました。写真を見ると、エンドリンクも完全にケースとマッチしており、純正仕様であったことがよく分かります。プレジデント・ブレスレット仕様の金無垢サブマリーナー(同じく金無垢GMTマスターも)のほとんどは、メキシコ市場から見つかっています。
リファレンス 1680(COMEX):1970年代中盤
サブノンデイトにおけるミリサブやエクスプローラー・ダイヤルにあたる立ち位置のサブデイト版といえるのが、このCOMEXダイヤルになります。これは、サブのデイト最大最強のバージョンだといえるでしょう。このモデルは、水中エンジニアリングに特化したFrench Compagnie maritime d'expertises社(略してCOMEX)のために作られました。この会社の作業員は、長時間の水中作業や、水中に設置された居住空間で使用する時計を必要としており、ロレックスにとっては願ってもない依頼だったといえるでしょう。
これらの時計は、防水性表記と“SUBMARINER”銘の真上にCOMEXロゴが追加され、それらが文字盤の下半分を埋める形になっています。また、ケースバックにはCOMEX仕様の刻印が深く刻まれており、それには2つのサイズ・バリエーションがありました。ここに掲載する“ビッグナンバーズ”COMEXは、よりレアで人気のあるバージョンです(6200のロゴバリエーションの件との対比も面白い)。
ひとつ書き留めておくべきことは、すべてのCOMEXサブマリーナーが1680ではないということです。ヴィンテージCOMEXサブマリーナーとして、リファレンス5513と5514も存在しており、後者はCOMEX採用モデル専用のリファレンスになっています。これら二つのモデルは性能面では同一で、文字盤のCOMEXロゴがあるものと、一見通常モデルのように見える個体が存在します。これらが通常モデルと一線を画すのは、そのケースの左側面に配置されたヘリウムエスケープバルブ(シードゥエラーに見られる)の存在です。この仕様のバージョンは、ロレックスの有名ダイブウォッチ2種のハイブリッドであるともいえるでしょう。上写真の個体はCOMEX5513であり、写真左下に小さなHEVが確認できます。
リファレンス1680(マットダイヤル、ホワイト・サブマリーナー):1976−1979年
初期型である赤サブ、純金バリエーション、そしてCOMEXモデルを除けば、1680は基本的にはシンプルで分かりやすいサブマリーナー・リファレンスの一つだといえます。このモデルは、ミラーダイヤル、夜光塗料の移行、ブランディングやロゴの改変が繰り返し行われた時期に存在しなかったことから、5512や5513と比べると、そのバリエーションが断然少ないのです。
これが一般的な、赤色“SUBMARINE”銘無しのマット文字盤1680の外観です。6時位置に4行のテキストが所狭しと並べられ、3時位置にはサイクロプス付きデイト窓があります。デイト機能に関する唯一のバリエーションとして、6と9が“オープン”(一筆書きで書いたような形をしており、線が交わるべき所に空間がある)である初期型デイトホイールと、6と9が“クローズド”(同位置に空間がない)である後期型のデイトホイールのものが存在しています。それを除けは、「普通のマット1680は、普通のマット1680である」といえるでしょう。
サブマリーナーを収集する事とは
さて、ここまで、実に数十ものサブマリーナーを見てきましたが、正直なところ、それらはまだまだ氷山の一角にすぎません。今回、サブマリーナーの進化を理解する為に重要なモデル達、それらの主な仕様、そして今日のコレクターが気にする点などに焦点を絞って紹介してきました。先に書いたように、そこには無数の文字盤のバリエーション、同一リファレンス内のニックネーム付きバージョン 、そして歴史上の逸話などが存在しているわけです。サブマリーナーの世界は、文字通りの底なし沼だともいえるでしょう。
とはいったものの、今回紹介した時計たちは、大きく四つのカテゴリーに分けることができます。リューズガード無しのもの、ミラーダイヤルのもの、マット文字盤のもの、そしてミリタリー来歴のあるものです。今回、僕たちはそれぞれのカテゴリーのエキスパートにインタビューし、あなたが次のサブを買い求める時に気をつけるべき点などのアドバイスを仰ぎました。
僕は、各エキスパートに以下の3つの質問をしました。
1)このタイプのサブマリーナーにおいて、一番見落とされている、コレクターがもっと注目すべき側面は何ですか?
2)このタイプのサブマリーナーを探すにあたり、一番大きな間違いは何ですか?
3)このカテゴリー内のサブマリーナーで、あなたの個人的なホーリーグレイル(憧れの一本)は何ですか?
それでは回答を見ていきましょう。
1)リューズガード無しのサブマリーナーにおいて、一番見落とされている、コレクターがもっと注目すべきアスペクトは、その「艶」です。1950年代のビッグ・クラウン、スモール・クラウンにはラジウム夜光塗料が使われており、多くの場合、浸食性の高いラジウムが、文字盤の表面の艶を腐食してしまいました。したがって、ある程度のオリジナルの艶を文字盤に残している、1950年代のリューズガード無しモデルの特別さを見落とすべきではありません。
2)大きな過ちの一つは、後に作られたサービスダイヤルに交換済みのリューズガード無しのサブを、そうとは知らずに購入してしまうことでしょう。浸食性の高いラジウムの代わりにトリチウムが使われているため、結果として、まるで非常に状態が良いように見えることが多いのです。気をつけなければ、あなたが購入していると思っているものが、実はまったく違うものかも知れないのです。
3)赤色の防水性表記付き6538エクスプローラー・ダイヤルは、ビッグ・クラウンで一番レアな文字盤仕様であり、ほとんどのコレクターが手にすることのない、究極の至宝だといえます。この仕様は1960年代のギルト5513によく見るもので、象徴的なジェームス・ボンド・サブマリーナーである6538ビッグ・クラウンに、赤色防水性表記までついたこのバリエーションは、超レア物ケースと文字盤デザインのパーフェクト・ストームだといえるでしょう。非常に少ない数が確認されており、結果として、ほとんどのコレクターにとって、所有不可能なお宝となっています。1956年製造のこのバリエーションは、私にとって、リューズガード無しモデルのホーリーグレイルだと思います。
1)ギルト5512と5513サブマリーナーそのものは、特にレアというわけではありませんが、それらを良好なコンディションで発見することは稀だといえるでしょう。私が目にした、オリジナルオーナーもしくはその家族から持ち込まれた個体の多くは、その50年を超える時間の中でかなりのアクションを経験しており、実用時計として当然の結果として、ロレックスによる整備時に針やベゼルの交換を受けていました。また、ミラーダイヤルの夜光塗料の塗り直しもよく見かけます。私は、ラッカー塗装にダメージを受けやすいミラーダイヤルの状態チェックをまず行い、それからケースのコンディションを見ます。ケースがオリジナルのプロポーションとエッジの面取りを維持していることが望ましいといえます。
2)新しいコレクターが、本来ならば同額程度の投資でより良い状態のマット文字盤の5512や5513を買うべきところを、状態の悪い(時には公表もしくは非公表でレストレーションを受けた)ギルト5512や5513を、お買い得だからと購入するのをよく見かけます。サブマリーナーにおいて、状態の悪い個体と優良な個体の価値の差は非常に大きく、その差は、時間と共にさらに開くでしょう。
3)私は3-6-9エクスプローラー・ダイヤルのサブマリーナーが大好きで、その中でも、小さな分目盛りとエクスクラメーション・ポイント付きのダイヤルを持つリファレンス5512バージョンが好みです。このバージョンの分目盛りはまるで点のようで、ダイヤルのラッカー塗装が良好な状態を保っているものが多いのです。私が手にした最初の個体は、クリスティーズに私が在籍していた頃に、ジュネーブで我々が出展し、落札されたものです。オリジナルオーナーから委託されたその時計は、彼が1962年にナイツブリッジで購入し、ロンドンで警察官として働いていた際に着用していたものでした。その時計は現在、香港の著名なロレックス収集家のコレクションの一部となっています。
1)ギルト・艶ありダイヤルの多くにひび割れ、スパイダーダイヤル、剥がれ、針を引きずった痕などが見られるのに対し、マット文字盤の多くは、良い保存状態を保っているといえるでしょう。そんな中で、唯一ダメージを受ける可能性が高い部分が、ダイヤルの外縁と、他より大きめな5分間隔の分目盛りがケースに接触する部分です。時計が修理・整備を受ける際、ダイヤルとムーブメントはケースに入れられてから、回転して定位置にセットされるため、この大きめの目盛り部分がダメージを受けたり、欠けたりすることは珍しくありません。結果として、特に最初期の1680において、分目盛りが3〜4個欠けているものをよく見かけますのでご注意を。
2)いくつかの例外を除き、コレクターは、時計がすべてオリジナルのパーツで構成されているか、最低でもそれらの年代が合致していることを好みます。そのため、文字盤タイプと、ケースのラグ間に位置するシリアルナンバーから推定できる製造年の一致を確認することが重要です。こう書くと当たり前の事のように見えるかもしれませんが、1966年から1984年の間に9種類のマット文字盤バリエーションが製造され、そのすべてが1520ムーブメントを使用していたため、例えば70年代後半の文字盤が、60年代中盤の時計に入っていることも珍しくありません。購入を決める前に、各パーツの年代が合致しているかどうかを確認しましょう。
3)1965/66より前に作られたギルト・艶ありのロレックス・サブマリーナーが長年脚光を浴びていますが、その後に作られたマット文字盤のバージョンの一部も、グレイルに値するステータスを得つつあります。1680は最初からマット文字盤のサブマリーナーとして生を受け、兄弟モデルである5512にデイト機能を追加することで、その差別化を図りました。例えば、初年度製のいじられていないマーク1、メーターファーストのレッドサブなどは、マット文字盤サブマリーナーにおけるグレイルとなる資格が十分にあるでしょう。メーターファーストの18金1680/8もまた然りです。
1)実際にイギリス軍に支給されたミリタリー・サブマリーナーはたった1200個以下であり、真のミリサブを見つける術は限られています。しかし、それ以外にも、当時の現役軍人によって、NAAFI(基地購買部)から個人的な使用目的で購入されたサブマリーナーが存在します。また、イギリスM.O.D.(国防省)がチューダー・サブマリーナーを支給したことはありませんが、兵士や水兵が購入し、彼らの配属などを彫り込み、兵役中に使用したチューダー、ロレックスの両サブマリーナーを見つけることは可能です。興味深い証拠資料などを伴った“個人購入”サブマリーナーを見つけることは、非常に嬉しい発見だといえるでしょう。
2)入門レベルといえるイギリス軍ミリサブは、おそらく“低スペック”5513でしょう。ソード針を失い(代わりにメルセデス針がつけられている)、15分位置までのみにハッシュマークの入ったベゼルに付け替えられていたり、ブレスレット付きになっていたり、ケースバックが他のモデルのものと交換もしくはミリタリー刻印が磨き消されている個体などがそれにあたります。そういった個体の価格は2万ドルを下回ることもあります。しかし、それらの時計をアップグレード目的で安く購入するというのは、全く割に合いません。例えば、ロレックス純正のソード針の価値は3万ドル、60分目盛りベゼルも3万ドル超、そして、“後付けパーツ”として現在市場に出回っているもの大半は(仮にすべてでなければ)偽物やサードパーティによる複製品です。
3)世の中には、A/6538(1950年代)、少数の5512(1950年代後期から1960年代初頭まで)、複数回支給された5513、“ダブル・リファレンス”こと5513/5517、そして5517(すべて1970年代)と、幾つものミリサブが存在しています。私にとって、フルスペック5517(ケースバックの刻印が陸軍用“W-10”もしくは海軍用“0552”の支給品)がミリタリー・サブマリーナーのホーリーグレイルです。これは、ロレックスが、イギリス軍支給専用に用意したリファレンスを冠したモデルであり(COMEX5514のような専用リファレンス )、製造総数はたった150個前後です。
クイックガイド
編集後記:今回のプロジェクトを実現するにあたり、エリック・ウィンド氏の協力は不可欠でした。心より感謝します。そして、大切な時計を提供してくれた、以下の協力者の皆さんに感謝したいと思います。ポール・アルティエリ(Paul Altieri)、ジェフリー・ビンストック(Jeffrey Binstock)、ジャック・フェルドマン(Jack Feldman)、アダム・ゴールデン(Adam Golden)、 エルウィン・グロース(Erwin Grose)、ノーマン・ハリス(Norman Harris)、 ジェフ・ヘス、ジェイ・ リュウ(Jay Liu)、デイビッド・マーシネック(David Marcinek)、ステファン・ムーア(Stephen Moore)、グラディ・シール(Grady Seale)、ラヴィ・ルドニック(Lavi Rudnick)、レオン・ショイケトブロド(Leon Shoykhetbrod)、ジョン・ユウ(Jon Yu)、そして匿名のコレクター(インスタグラムID @watch.me_watch.you) (敬称略)また、エリック・ウィンド氏は、6204および6205モデルに関する素晴らしい知識を提供してくれた、グレン・マリコンダ氏(Glenn Mariconda)に感謝の意を表します。もしもあなたが、ロレックスコレクターコミュニティの素晴らしさに疑問を持っていたならば、この記事がその証明になったでしょう!