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Four + One 汎用性は“大いなるロマン”、GMT代表取締役 横瀬 秀明氏の時計コレクション

“新しい時代を自分たちの手で生み出す”という気概を込めて自らの会社を「GMT」と命名し、社員が勤続10年を迎えると機械式時計をプレゼントする――そんなエピソードだけは聞こえていたものの、横瀬氏の時計コレクションはこれまでベールに包まれていた。そしてその全容をうかがううちに、ひとつの本質的な魅力に気づかされる。それは、汎用性という価値に秘められたロマンだ。

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スニーカーのように歩きやすく、ビジネススタイルにもカジュアルにも合わせられて、10年20年と愛用できる普遍性とクオリティも備える……。現在のライフスタイルにおいて理想的なレザーシューズの条件を列挙するなら、こんなところだろう。ひと言で表すなら“コンフォートな本格靴”。そんな足元の提案に人生を捧げてきたのが横瀬秀明氏だ。

 「靴に魅了されたのは、中学生のときに観た映画『サタデー・ナイト・フィーバー』でした。ニューヨークの景色とショーウインドウに飾られた革靴の大写しから始まり、挿入歌の『Stayin' Alive』に合わせて街を歩くトニー(ジョン・トラボルタ)の足元。ペンキ屋での仕事を終えたら、“さあいくぞ”とばかりに鏡の前でお洒落を決めて、色とりどりのライトがフロアを満たすディスコへ繰り出す……、なんて格好いいんだ! と衝撃を受けましたね。そして16歳のときに買ったのが、グッチのホースビットローファーです。当時は金具を飾った革靴がダンディな大人の象徴で、それに憧れていました。よく見ると、『サタデー・ナイト・フィーバー』の劇中でもトラボルタが金具つきの靴を履いていたりしますね」

 一本の映画に導かれて革靴の世界にのめり込んだ青年は、のちにレザーシューズ・セレクトショップの草分けとなる輸入靴商社「ワールド フットウェア ギャラリー」に就職する。そしてアメリカやイタリアなど、世界各国の有名ブランドとコネクションを築いていく。自らの会社であるGMTを立ち上げたのは1994年のことだ。ワールド フットウェア ギャラリーがイタリアのドレスシューズに傾倒していくなかで、見た目も履き心地もよりカジュアルな革靴を主軸にしたいと願ったことがきっかけだった。

 「会社の草創期に柱としたブランドは、カンペールとビルケンシュトックでした。当時はどちらも日本法人ができる前で、GMTが輸入を担当していたんです。エアマックスブームが沈静化し、スニーカー感覚で履ける革靴が人気を高めていくなかで、どちらも大変なヒットとなりました。その後も色々なブランドを日本へ紹介してきましたが、“履きにくい靴は売らない”、“自社工場を構え、自分たちで靴作りを行っているブランドと取引する”ということを一貫してポリシーにしています。セレクトショップのバイヤーさん、ひいてはお客様が求める靴を柔軟に表現してくれるブランドがGMTの支えになっていますね」

 なかでも現在、重要な存在になっているのがパラブーツ。フランス本国と共同で日本総代理店の「RPJ」を運営し、青山や銀座などに直営店を構えている。まさに冒頭で述べた“現在の理想”を体現するシューズブランドであり、横瀬氏の嗜好や美意識ともピタリと一致する存在だ。時計についても「端的にいえば、“パラブーツのような時計”が選びの基準」と話す。

 「スーツからジーンズまで合わせられて、デリケートすぎずタフさも備えているもの。気づけばそんな時計ばかり集めてきました。今日のような服装には本来、ドレスウォッチを合わせるべきというセオリーはもちろん承知しています。でも個人的には、ちょっとアンマッチなくらいでも魅力的なんじゃないかと思うんです。サタデー・ナイト・フィーバーの話に戻りますが、冒頭のトラボルタは黒いパンツに赤っぽいブラウンの靴といういでたち。ドレスのセオリーからすれば黒い靴のほうが合いそうなものですが、その違和感があってこそ足元が際立っていると思います。翻って今のファッションを見ても、スーツにあえてカジュアル靴を合わせるスタイルはもはや珍しくなくなりました。そんな時代が訪れたことは、私にとって大いに喜ばしいですね。神経質にマッチングを気にするより、どんな服でもドンとこい! という懐の深い時計と気楽に付き合うほうが性に合っているんです」


横瀬秀明氏の4本
ロレックス エクスプローラー II Ref.16570

 横瀬氏が初めて購入した本格時計はヴィンテージのロレックス エクスプローラー Ref.1016だった。当時の価格は今とは比べ物にならないほど安かったが、それでもワールド フットウェア ギャラリーに就職したばかりの青年にとっては文字どおり“冒険”だったという。

 「1986年か87年のことだったと記憶していますが、イギリス出張の際にアンティークマーケットで購入しました。当時はふらりと訪れた店頭でもたくさんの選択肢があったのですが、状態のよさや私と同い年の1965年製というところが決め手になってこちらに決断。が、名作を一本手に入れると次が欲しくなってしまい、GMTを創業した1995年ごろにエクスプローラー Ⅱも入手しました。こちらはニューヨークのお店で購入したものですね。ただ購入した喜びのあまり、帰りの飛行機に乗り遅れてしまい……。なかなか高くついてしまったという思い出もあります。“パラブーツのような時計”の理想形といえるもののひとつで、名前のとおりタフですし、ジーンズにTシャツというシンプルな服に合わせるだけで格好いい。それでいて、今日のようにスーツと合わせてもサマになる。初代エクスプローラーとともに、生涯の定番といえる時計です」

セイコー キネティック クロノグラフ スポーチュラ Ref.SBCG001

 時計全体に刻まれた傷を見れば、横瀬氏がこの時計をいかに愛用してきたかがよくわかるだろう。セイコーが2000年に発表したキネティック クロノグラフは、“独立多眼式”という大胆なデザインで話題をさらった意欲作だ。キネティックとはセイコーが開発した独自ムーブメントで、自動巻きムーブメントのようなローターを備えるが、その動きを電気の力に変えてクォーツ回路を動かすという仕組み。機械式とクォーツのハイブリッドという点で、スプリングドライブの前身ともいえる機構である。

 「セイコーから凄い新作が出た! と雑誌で紹介されているのを見てひと目惚れしました。限定1000本とのことだったので早速取扱店に電話したのですが、どこも完売。それでも諦めず問い合わせを続けていたら、自宅の近所にある百貨店でやっと在庫が見つかり、晴れて入手することができました。私はクルマも好きで、特に計器周りのデザインに惹かれます。まさに、そんな魅力が凝縮された一本ですね。海外に着けていくと大変注目されて、“ちょっと見せてくれ”といわれた経験は数えきれません」

IWC インヂュニア オートマティック Ref.IW322701

 こちらは2005年ごろ、パリのサントノレ通りで手に入れた一本。6代目を数えるインヂュニアで、42mmというビッグサイズながら文字盤が比較的小ぶりのため、手首の上の印象としては数値以上に収まりよく見える。横瀬氏にとって購入の決め手になったのは、ドレスとスポーティの絶妙な融合ぶりだったという。

 「もともとインヂュニアはドレスウォッチ寄りのデザインでしたが、1970年代後半からはスポーティにリニューアルされましたよね。なかでもこちらはエクスプローラー的な力強さも備えているところが魅力的に感じました。私のなかで“黒文字盤でステンレススティール製時計”という嗜好が明確に存在していて、今回ピックアップした4本もすべてそれに該当します。いわゆるラグスポウォッチには個人的にあまり惹かれません。ドレス&カジュアルの両方に対応する汎用性がありつつ、あくまで骨太であるというところが私にとって重要なんです」

ジャガー・ルクルト レベルソ グランスポール クロノグラフ Ref.Q295.81.02

 クラシック系統のレベルソではなく、この時計を選ぶあたりがいかにも横瀬氏らしい。ケース両面にダイヤルを備え、片面には3針とデイト、もう片面には60秒計とレトログラード表示の30分計を配置した革新的な機構をもつ。

 「自社工場をもつシューメーカーにこだわってきた私にとって、マニュファクチュールであるジャガー・ルクルトには大きなリスペクトを抱いています。エレガントな時計が多いブランドですけれど、こちらは上品さのなかにクロノグラフならではのヘビーデューティさも感じるところが刺さりました。靴もそうですが、ギアとしての側面があるものに魅力を感じます。とはいえ実用性一辺倒ではなくて、そこにしっかりと美学がある。ジャガー・ルクルトはそこが素晴らしいと思います」


もうひとつ
ポルシェ タイプ997

 靴好きはしばしば時計好きであり、そして同じくらいクルマに情熱を燃やす人が多い。横瀬氏もそのひとりだ。複数のガレージに計5台のクルマを所有する氏だが、その選びにも一貫した美意識が感じられる。

 「街乗りもできるスポーツカーが昔から好きですね。高性能かつエレガンスも感じさせる、そしてスーツでもジーンズでも似合うクルマ。改めて考えると、靴や時計と同じような感覚で選んでいるのかもしれません。こちらは2014年ごろから乗っている997で、前身の996から乗り継ぎました。ボディが大きい最近の911より、ナローポルシェとよばれるコンパクトなサイズ感を継承しているモデルがいいですね。初めて水冷エンジンを採用したことで話題を集めた911でもありますが、古き良きポルシェの顔つきと扱いやすさを兼備しているところも気に入っているポイントです。ちなみにほかには、フェラーリ328やアルファロメオ スパイダー ヴェローチェなどを所有しています」

 靴、時計、クルマ、そのいずれにも共通する横瀬氏の嗜好を端的に言うならば、“汎用性のある上質さ”ということになるだろう。とはいえそれは、実用性が第一というリアリズムゆえではない。むしろ逆に、「汎用性にはロマンがある」と氏は話す。

 「パラブーツやトリッカーズの魅力を伝えるのに、私はしばしば“丸の内から高尾山まで”という説明をします。それは単に便利で使い勝手がいいですよという意味ではなくて、ダイナミクスの大きさを語っているんです。ある時は都心のコンクリートを颯爽と進み、ある時は緑に囲まれた大地を力強く踏みしめる。そんな振り幅のあるライフスタイルに寄り添いつつ、確かなクオリティとさりげない上品さで毎日を支えてくれる靴。それってなんだか、夢があるじゃないですか。だから時計もクルマも、汎用性というダイナミクスを宿した上質なものに惹かれるんです。オン・オフの境界が薄まり、ライフスタイルがシームレスになっている今ならなおのこと、そんな価値が輝きを増してくると思うんです」

Photographs by Keita Takahashi Text by Hiromitsu Kosone