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Retailer Spotlight ISHIDA新宿がクレドールの取り扱いを開始。顧客に届けたい、ジャパンブランドとしての価値とは

2026年のWatches & Wondersで、本格的なグローバル展開への一歩を強く印象づけたクレドール。その世界観を実際に手に取って体感できる場所が、ISHIDA新宿の4Fに新たに生まれた。スイスの名門ブランドが並ぶフロアで、日本発の高級時計ブランドはどのような存在感を放つのか。クレドールの取り扱いを開始したISHIDA新宿に、同ブランドの魅力、そして顧客へ届けたい価値を聞いた。

クレドールの出展が、今年のWatches & Wondersにおいて大きなトピックスのひとつであったことは間違いない。この出来事は同ブランドによるグランドセイコーに続く本格的なグローバル展開の開始を示し、クレドールが誇る彫金師の手仕事を全面押し出したブースは大きな話題を呼んでいた。また、2025年に初めて登場した単独路面店「クレドールサロン 京都」にも採用されていた内装を同ブースでも踏襲しており、白を基調とした空間のなかに高級感あるゴールドと木目を配置。全体に曲線を取り入れた柔らかかつ風格ある雰囲気は、クレドールの時計が持つ上質さ、そしてその背景にある匠の技を表現するものだった。そしてその洗練された空気感は、ISHIDA新宿に新たに設置された売り場にも反映されている。

階段を4階まで上がると、すぐにクレドールの売り場が見えてくる。壁面には、京都の路面店でも見られたクレストマークの曲線をグラフィック化したものが見られる。

 ISHIDA新宿でのクレドールの取り扱いは、今年の6月20日(土)から始まった。我々が訪れたのは、それからまだ1週間も経たないタイミングだった。売り場が設置されたのは、ブランパンにジラール・ペルゴ、ジャガー・ルクルトなどのスイスブランドが並ぶ4F。このフロアを訪れるのはひととおりメジャーなブランドを経験し、より深く時計にはまった愛好家が多いと、4Fのフロア長を務める荻原ももさんは言う。荻原さんは2010年にISHIDAへ入社し、その後十数年間、表参道の店舗で勤務。名だたる舶来系ブランドを中心に担当し、2024年より現職に就いている。

 「このフロアにいらっしゃるお客様はすでに時計についての造詣が深く、ブランドの世界観や歴史、目には見えないラグジュアリーさを理解し、そのうえで人と違ったものを求める方が多いように思います。雲上と言われるブランドをすでに所有されている方も少なくありません」

 そんな目の肥えた顧客が足繁く通うフロアに、クレドールが並ぶ。しかもISHIDAという時計店の特徴として、フロア内の他ブランドとの垣根が低く、顧客もスタッフも特定の売り場に縛られない、自由な購入体験を提供している。つまりスイスの歴史ある老舗ブランドと、同じトレイの上で比較をされるということだ。そのなかで荻原さんは、クレドールの魅力をどこに見ているのだろうか。

クレドールの売り場がある、4Fのフロア長を務める荻原ももさん。


ISHIDA新宿として考える、クレドールの強み

「クレドールの主軸である叡智IIやゴールドフェザーといったモデルは、洗練された引き算のうえに成り立っています。他のブランドがダイヤルやケースなど目に見える形でこだわりを表現するなかで、叡智IIが強みとするのは究極のシンプリシティの裏に息づく匠の技。近年トレンドとして人気が高まっているポーセリン(陶器)ダイヤルも加工の難しい素材ながら薄く均一に仕上げられていますし、今年発表されたゴールドフェザー 漆芸ダイヤルモデル(GBBY967)ではダイヤルに漆を何層にも塗り重ねたのちに、熟練の匠の指先の感覚によって研ぎ上げることで美しいグラデーションを描き出しています」

 たとえばムーブメントも、派手な仕上げで個性を打ち出すのではなく、繊細かつ手の込んだあしらいと控えめな装飾がクレドールらしさを表している。一見してわかる華美な装飾ではなく、人の手が幾重にも介在しているという贅沢。声高に主張しない美こそがブランドが持つ価値のひとつであり、海外ブランドと差別化できる優れた要素であると、荻原さんは語る。まさにW&W 2026のブースでも強調されていた、アルティザンの芸術性を背景に、繊細な美しさや審美性をひたすらに追求する精神の現れである。

ゴールドフェザー U.T.D. GBBY972

407万円(税込)
直径37.1mm、厚さ7.7mm。18Kイエローゴールド製ケース、クロコダイルストラップ。日常生活防水(3気圧)。Cal.6890搭載、約37時間パワーリザーブ、2万1600振動/時、22石、手巻き。

裏には桔梗の花を模した香箱がのぞく。スイスブランドと比べて控えめなたたずまいの裏に、日本ブランドならではの美意識が息づいている。

クレドールの彫金を担当する兼﨑遼斗氏。W&W 2026ブースでは実演も行っていた。

 また荻原さんは、「時計を手がけた匠の顔が見えるのはクレドールの特徴であり、日本発の高級ブランドであることのメリットでもあります」と語る。

 「寄木細工や彫金、エナメルといった伝統工芸を取り入れたブランドは数多くあります。しかしその多くは、インハウスか外部かを問わず、職人の個人名を公表していませんし、その存在が表に出ることは稀です。そこには、ものづくりを担う個々人ではなく、長く歴史を積み上げてきたブランドそのものに重きを置く流れがあるのでしょう」

 一方、クレドールは、黄綬褒章を受章した照井清氏をはじめとする社内の彫金師や、先に触れたダイヤル表現を手がける名工たちの姿を明らかにしている。刀鍛冶や漆芸、陶芸といった伝統工芸において、“誰が作ったか”という作家性を重視してきた日本に古くからある文化も、その背景にあるのかもしれない。

 「自分が身に着けている時計に携わった人物の顔が見え、声を聞く機会があるというのは、より愛着を掻き立てる要素となるはずです」

マスターピースコレクション 叡智II GBLT997

786万5000円(税込)
直径39mm、厚さ10.3mm。瑠璃青の磁器ダイヤル、プラチナ950製ケース、クロコダイルストラップ。日常生活防水(3気圧)。Cal.7R14搭載、約60時間パワーリザーブ、41石、手巻き式スプリングドライブ。


クレドールを取り扱い始めた理由と、今後の展望

そんなクレドールの姿勢がグローバルの場で強く示されたのが、先にも挙げたW&W 2026。しかし、世界的な展示会への出展そのものがISHIDA新宿での取り扱い開始のきっかけだったのかというと、少し違うようだ。

 「そもそもセイコーとは二十数年にわたる関係性があり、自社ブランドの立ち上げの際にも非常に密な体制で開発を進めてきました。メーカーと小売店という立場で、ともに成長を続けてきた歴史があります。そのなかでクレドールの動向も追い続けてきたのですが、ジェラルド・ジェンタといったアイコンを製品の文脈に取り込むことで若い時計愛好家を呼び込んだり、グランドセイコーとの違いを明確にして独自性を高めたりするなど、近年のリブランディングによって私たちの顧客層との親和性が高まっていると感じていました。その流れを受けて、取り扱いを開始したという経緯があります」

ロコモティブ GCCR997(左)GCCR995(右)

ともに198万円(税込)
直径38.8mm、厚さ8.9mm。ブライトチタン製ケース、ブライトチタン製ブレスレット。日常生活強化防水(10気圧)。Cal.CR01搭載、約45時間パワーリザーブ、2万8800振動/時、26石、自動巻き(手巻き付き)。

 事実、顧客とのコミュニケーションにおいては、ロコモティブが入り口になりやすいという。しかしブランドの幅の広さを知って欲しいという思いから、ISHIDA新宿ではふたつのショーケースにマスターピースコレクション 叡智IIやゴールドフェザー、Kuon(クオン)とクレドールを構成するコレクションを網羅している。

 「グランドセイコーなどと比べると、クレドールというブランドを深く理解している方はまだそう多くない印象です。だからこそ、複数のコレクションを横断的に手に取りながら、現在クレドールが追求している比類なき美を感じ取っていただきたいですね」

マスターピースコレクション 叡智II  

GBLT998(左)654万5000円(税込)

GBLT999(右)786万5000円(税込)
直径39mm、厚さ10.3mm。磁器ダイヤル、18Kピンクゴールド製ケース(GBLT998)、プラチナ950製ケース(GBLT999)、クロコダイルストラップ。日常生活防水(3気圧)。Cal.7R14搭載、約60時間パワーリザーブ、41石、手巻き式スプリングドライブ。

Kuon GCLX995(写真右)

159万5000円(税込)
直径39mm、厚さ10.8mm。SS製ケース、ワンプッシュ三つ折れ方式中留付きSS製ブレス。日常生活防水(3気圧)。Cal.7R31搭載、約72時間パワーリザーブ、30石、手巻き式スプリングドライブ。

 そうしたクレドールの美しさは、時計そのものを手に取ることでまず伝わるものだが、その奥にある作り手の思いや技術に触れることで、さらに輪郭を際立たせていく。なお、ISHIDA新宿ではこれまでもブランドのキーマンと顧客が直接言葉を交わせるイベントを実施してきた。先に荻原さんが語った匠の顔が見えるという価値は、クレドールを理解するうえでも大きな意味を持つはずだ。だからこそ同店では単に時計を並べるだけでなく、ブランドと顧客の距離を近づける場づくりにも取り組んでいきたいという。

 クレドールの新たな販売拠点として、海外からの来訪者が多い新宿という立地に実機を手に取れる場所が生まれたことの意味は大きい。ISHIDA新宿にとっても、日本のブランドがあらためて注目を浴び、国内外で盛り上がっていくことは純粋に喜ばしいという。本格的なグローバル展開へと踏み出したクレドールは、これから世界の時計愛好家にどう受け止められていくのか。その現在地とこれからを確かめられる場所として、ISHIDA新宿の新たな売り場は、静かに、しかし確かな存在感を放っていくはずだ。

【ISHIDA 新宿】

■住所:東京都新宿区新宿3-17-12

■TEL:03-5360-6800

■営業:平日12:00~20:00/土日祝11:00〜20:00 ※無休

詳細は、ISHIDA公式サイトへ。

Photographs by Cedric Diradourian