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Interview H.モーザー ベルトラン・メイラン氏が語る“静かなる反逆”の現在地

Watches & Wonders Geneva 2026でメインホールへと歩みを進めたH.モーザー。ベルトラン・メイラン(Bertrand Meylan)氏へのインタビューを通して、メゾンが考える新たなラグジュアリーの輪郭を探る。

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Watches & Wonders Geneva 2026で、H.モーザーは独立系ブランドが集うカレ・デ・オルロジェを離れ、メインホールへと歩みを進めた。約400㎡の新ブース、遊び心に満ちた新作のストリームライナー・ポンプ、そして次世代のマニュファクチュール計画。今回インタビューに答えてくれたベルトラン・メイラン(Bertrand Meylan)氏の言葉から浮かび上がるのは、独立性を保ちながら新たなラグジュアリーを定義しようとする、H.モーザーの現在地だ。

ベルトラン・メイラン(Bertrand Meylan)

H.モーザーの共同オーナーであり、MELB Luxe(アジアおよびアメリカを含む各拠点)を統括するCEO。兄弟のエドゥアルド・メイラン氏とともにブランドを劇的に成長させた人物で、エドゥアルド氏とともにブランドの経営戦略を担当する。

 エドゥアルド・メイラン氏(H.モーザーCEO)とともに、H.モーザーを率いるベルトラン・メイラン氏は、この移転を自然な進化の結果だと語る。H.モーザーがWatches & Wondersの前身となるSIHH(Salon International de la Haute Horlogerie)に初めて参加したのは2016年。出発点はカレ・デ・オルロジェだった。それから10年。売上や生産規模だけでなく、業界内での存在感も高まり、2026年にメインホールへと進出した。

 「より多くの人の目に触れるだけでなく、ブランドとしての信頼も深まる」。H.モーザーが自らの独立性、独自性を持ちながら、時計業界の中心へと加わっていくための重要な一歩となる。それがメインホールへの移転の大きな理由だ。

Watches & Wonders Geneva 2026でお披露目となったH.モーザーの新ブース。Photo courtesy: H.モーザー

 だが、H.モーザーの成長は、単なる拡大路線とは異なる。ベルトラン氏は、現在のブランドを最も象徴する価値として“ミニマリズムと大胆さのバランス”を挙げる。一見すると、同社のタイムピースはきわめて抑制的で、本質的な要素だけに削ぎ落とされているように見える。しかし、そのシンプルさは決して“無難”なものではない。むしろ、不要なものを取り除き、残されたものに自信をもって語らせるための、意図的な、そして時に急進的な選択だ。氏は、こうしたH.モーザーのプロダクトに息づくストーリーを“A Quiet Rebellion(静かなる反逆)”と表現する。過剰な演出やトレンドに寄りかかるのではなく、独立性、引き算の美学、そして時計としての本質を選び取ること。それがブランドの姿勢なのだと語る。

 今回のブースコンセプトにも、その思想は反映されていた。ベルトラン氏は“Very Rare”というブランド哲学に続く、“Elevated Luxury(ワンランク上の贅沢)”という考え方について、気取らずに一歩引く余裕を持つ、決して気取ることのないラグジュアリーの形だと説明する。クラフトマンシップや本質を見失うことなく、軽やかさやユーモアを取り入れること。洗練されているが、堅苦しくないもの。エレガントでありながら、喜びを感じさせるもの。ブランドが目指すのは、権威を振りかざすラグジュアリーではなく、自然体で、そして何より人間味を帯びたラグジュアリーなのだ。メインホールへの進出は、そうしたブランドの成熟と拡張を象徴する舞台装置としての意味合いもあったという。

2026年新作の目玉となった、ストリームライナー・ポンプ。時計の詳細は、こちらから。

 その姿勢を最も鮮やかに示したのが、ストリームライナー・ポンプである。Reebok(リーボック)とのコラボレーションによって誕生したこのモデルは、1990年代に登場したスニーカーに搭載されたザ・ポンプ(1989年に初登場)の象徴的な“押す”動作を、機械式時計の巻き上げという行為へと置き換えたものだ。時計を巻くという日常的な所作を、あえて遊びへと変換する。その発想自体が、H.モーザーの考える新しいラグジュアリーをよく物語っている。また、「真のラグジュアリーは、自らを深刻に捉えすぎない」というブランド哲学を見事に象徴している。

 公式情報によれば、搭載するのは手巻きのマニュファクチュールCal.HMC 103。ケース素材はフォージドクォーツ、直径40mm、ラバーストラップを組み合わせ、各色250本限定で展開される。

スモールセコンドのCal.HMC 500をもとに“手でポンプして巻き上げる”スタイルにモディファイしたCal.HMC 103。なお、通常の機械式腕時計と同様に、リューズを用いて手動でゼンマイを巻き上げることも可能だ。

 ベルトラン氏は、H.モーザーにとって、ストリームライナー・ポンプのような実験的な時計や大胆な取り組みは、ブランドのアイデンティティそのものだと語る。予測可能なブランドになることを避け、他者が躊躇するようなアイデアにこそ惹かれる。実験的な作品のなかには、将来のコレクションの礎となるものもあれば、純粋なメッセージとして完結するものもある。しかし、それらはすべてブランドを停滞させず、問いを投げかけ、進化させ続けるために存在している。加えて、彼はH.モーザーが「現代的な時計製造と伝統的な時計製造の独自のバランス」を探ってきたと語り、例えば、ストリームライナーはブランドに大きな推進力を与えたと振り返る。

ストリームライナー・トゥールビヨン コンセプト セラミック

Watches & Wonders Genevaに先駆けて発表された新作。単なる“セラミック版ストリームライナー”ではなく、モーザーがストリームライナーをよりハイコンプリケーションかつ素材表現の領域へ押し広げたモデルと言える。時計の詳細はこちらから。

ストリームライナー・トゥーハンズ

34mmと28mmの2サイズが発表された。従来のストリームライナーを単に小さくしただけの存在ではなく、34mmにはシルバーフュメ、28mmにはバーガンディフュメのフロステッド仕上げダイヤルを与えることで、サイズにふさわしい静けさと品のよさを備えた新しいストリームライナー像を目指した。時計の詳細はこちらから。

 もちろん、成長には慎重さも必要だ。H.モーザーの年間生産規模は現在約4000本。需要が供給を上回っているというが、ベルトラン氏はそれを急いで解決しようとはしていない。クオリティやムーブメントの誠実さに圧力をかけることなく、責任を持って規模を拡大すること。ウォッチメイキングにおいて、急ぎすぎる成長は、遅すぎる成長よりも危険であるというのが氏の考えだ。2028年には約6000㎡、6フロアの新拠点「Moser Ship」へ移る予定で、同社は管理体制と独立性を維持しながら、段階的な成長を支える基盤を整えていくと話す。彼は独立ブランドを率いるうえで、創造性だけでなく、リスク管理、キャッシュマネジメント、実利的な判断が不可欠だとも語る。

エンデバー・パーペチュアルカレンダー コンセプト タンタル

モデル名にあるようにケース素材にタンタルを用いている。一見するとシンプルなカレンダーウォッチだが、カレンダーを前後どちらの方向にも調整でき、午前・午後を問わず操作可能なパーペチュアルカレンダー(6時位置はスモールセコンド、9時位置はパワーリザーブインジケーター、そしてセンターに月を示す短い指針)。複雑機構を見せびらかすことなく、素材と設計思想だけで語る異例のパーペチュアルカレンダーだ。ケース径42mm、厚さ13.1mm。3気圧防水。手巻き(自社製Cal.HMC 800、約7日間パワーリザーブ)。世界限定50本。1609万3000円(税込)。2026年6月発売予定。

エンデバー・トゥールビヨン スケルトン

H.モーザーらしい“削ぎ落とし”の思想を、通常のロゴレスダイヤルではなく、ムーブメントそのものの開放性で表現した新作。5Nレッドゴールドのケースに、ダイヤル中央を大きく開口し、ブリッジや香箱までスケルトン化したムーブメントを収める。歯車や輪列、香箱、そして6時位置のフライングトゥールビヨンの動きを正面から見せる。ケース径40mm、厚さ10.7mm。3気圧防水。自動巻き(自社製Cal.HMC 814、約72時間パワーリザーブ)。1633万5000円(税込)。

 H.モーザーにおいて、決して妥協しないものとは何か? ベルトラン氏の答えは明快だ。それは“中身の伴ったモノづくり”である。シンプルな2針モデルであれ、複雑機構であれ、その背後には本物の時計製造技術と機械的整合性がなければならない。そうでなければ、すべては装飾にすぎないのだと。だからこそ同社は、一貫性を重視する。それは同じことを繰り返すという意味ではなく、市場のトレンドを追うほうが容易な場面でも、自らの信念に忠実であり続けるということだ。

 メインホールへの移転、遊び心をまとったストリームライナー・ポンプ、そして拡張を見据えた新マニュファクチュール計画。これらは決して別々の出来事ではなく、すべてはH.モーザーというブランドが、次の地平へ進もうとしていることを示す連続したサインではないだろうか。静かで反逆的。ミニマルで大胆。伝統に根ざしながら、予測不能な未来へ踏み出す。Watches & Wonders Geneva 2026におけるH.モーザーの姿は、まさにそうしたブランドの新章の幕開けを告げるものだった。

そのほか、H.モーザーおよび各時計の詳細は公式サイトをご覧ください。

特に表記のない写真はすべて、by Kyosuke Sato.