本稿は2024年3月に執筆された本国版の翻訳です。
モーターレース、特に耐久レースが好きなら、ハーレイ・ヘイウッド(Hurley Haywood)氏についてくどくど紹介する必要はないだろう。シカゴ生まれのこのレーシングドライバーは、デイトナ24時間レースで5勝、セブリング12時間レースで総合優勝2回、ル・マン24時間レースで3勝を挙げるなど、レーサー志望なら誰もが憧れるようなキャリアを歩んできた。つまり、“耐久レースの三冠”のうちふたつを制したことになる。しかもこれは彼のキャリアのほんのハイライトに過ぎない。ヘイウッドはロードレース界のレジェンドであり、耐久レースの世界で重要なふたつのブランド、ポルシェとロレックスとのパートナーシップを50年にわたり享受してきた。
フロリダ州ジャクソンビルにあるブルーモスコレクションの本拠地で、ハーレイ・ヘイウッド氏に話を聞いた。緑豊かな低地の森にひっそりと佇むブルーモスコレクションは、約3万5000平方フィート(約3252㎡)の博物館で、実際に稼働する施設でもある。1959年にポルシェの輸入を開始したブランデージ・モーターズの歴史を紹介する施設だ。1960年代半ば、レーシングドライバーのピーター・グレッグ(Peter Gregg)がブルーモスの事業とブルーモス・レーシングチームを引き継いだ。60年代後半、グレッグはオートクロスイベントでヘイウッド氏と出会い、そこでヘイウッドが勝利を収めた。その走りに感銘を受けたグレッグは、ヘイウッド氏に次のレースへの出場枠を提供し、これがヘイウッド氏のレーシングキャリアの始まりとなった。ふたりは1973年、きわめて過酷なデイトナ24時間レースでブルーモスチーム初の勝利を手にする。
ブルーモス・レーシングのポルシェ911 カレラRSRを駆り、ピーター・グレッグとともに1973年のデイトナ24時間レースを制したヘイウッド氏。Photo: Porsche
ハーレイ氏は2012年にプロレースから引退し、トランスAMとSuperCarのタイトル、3度のノレルコ・カップ・チャンピオンシップ、インディカーでの18戦出走など、上記のような輝かしい勝利とともにキャリアを閉じた。ベトナム戦争への従軍やLGBTQコミュニティの支援活動など、彼の驚くべき人生についてさらに詳しく知りたい方は、パトリック・デンプシー(Patrick Dempsey)がプロデュースしたハーレイの人生を紹介する2019年の映画『Hurley』をぜひご覧いただきたい。
予想どおり、ハーレイ氏のレース時代は時計の世界と深く結びついていた。彼は長年にわたり、とても魅力的なコレクションを築き上げてきたが、その多くはロレックスとの長年の関係から生まれたものだ。彼はいまもロレックスのアンバサダーを務めており、モータースポーツの世界におけるロレックスの存在感を示し続けている。ハーレイ氏が披露した時計はレースでの素晴らしい成功の証しであり、また彼のキャリアと私生活における思い出深い瞬間と結びついた証しでもある。
この動画を楽しんでもらえたらうれしい。ハーレイ氏、ポルシェの友人たち、そしてこの動画の制作に協力してくれたブルーモスコレクションの素晴らしい人々に、僕自身とHODINKEEのスタッフ全員から心からの感謝を伝えたい。もしあなたも僕と同じようにクルマと時計、そしてこのふたつの世界の交わるところに魅力を感じるなら、ハーレイ氏と話し、彼のレースや時計、そしてミュージアムのクルマについて聞くのは、言葉では言い表せないほど楽しい時間だったことを想像してもらえるだろう。
1991年デイトナ24時間レース優勝を記念して贈呈されたコンビのロレックス デイトナ Ref.16523
デイトナ(という時計)は数あれど、これは別格だ。ハーレイ氏は1991年のデイトナ24時間レースで優勝し、このコンビのロレックス Ref.16523を手に入れた。これ以上にクールなトロフィーはないし、こんなにも実用的なトロフィーもそうそうない。
ホワイトダイヤルに赤い文字がアクセントとして添えられたこのデイトナ Ref.16523は、ゼニス時代のモデルだ。ハーレイ氏はフランク・ジェリンスキー(Frank Jelinski)、アンリ・ペスカロロ(Henri Pescarolo)氏、ボブ・ウォレック(Bob Wollek)、ジョン・ウィンター(John Winter)とともにヨースト・レーシングのポルシェ962Cを駆り優勝を果たし、その功績を称えてこの時計が贈られた。
Photo: George Tiedemann/Sports Illustrated via Getty Images
ハーレイ氏がデイトナで総合優勝を果たしたのは1991年で5回目(すごい)だったが、ロレックスのデイトナが優勝賞品として贈られたのはこれが初めてだった。当時、優勝者に贈られる時計は通常スティール製だったが、ハーレイの輝かしい経歴を考慮してロレックスは特別にコンビモデルを用意した。
使い込まれたケースバックには “Rolex 1991 24 Hours of Daytona Award(ロレックス 1991、デイトナ24時間レース賞)”と記されている。これ以上の栄誉はないだろう。
ロレックス デイトジャスト Ref.16220
Talking Watchesの撮影で彼が手首にしていたのがこの時計だ。ホワイトダイヤル、ローマンインデックス、SS製エンジンターンドベゼルを備えた、上品で洗練された36mmのロレックス デイトジャスト Ref.16220。最近ハーレイ氏はこの時計をおそろいのオイスターブレスレットで愛用しているが、もともとの仕様とは違う。
その全容はぜひ動画で確かめて欲しい。レースで着用したタイメックス、当時ロレックスUSA会長だったローランド・プートン(Roland Puton)氏からの電話、そして意外なストラップの組み合わせなど、興味深いエピソードが詰まっている。
金無垢のロレックス デイトジャスト
この素敵なヴィンテージのゴールドデイトジャストは、結婚のお祝いに夫からハーレイ氏に贈られたものだ。Ref.1611のケースとベゼルにはフィレンツェ仕上げが施され、裏蓋には特別な日を記念するエングレービングが刻まれている。
ロレックス チェリーニ Ref.6633
成功したレーシングドライバーであればあるほど、時折ドレスアップする必要がある。この珍しいロレックス チェリーニ Ref.6633は、ハーレイ氏がもう少しドレッシーな時計が欲しいと要望を伝えたところ、ロレックスから贈られたものだ。
18K無垢のケースに、ブラックのレザーストラップとの接続を助けるヒンジとフードの付いたラグを備えたこのチェリーニはクォーツ式で、秒表示とデイト表示が省略されている。オーナーの経歴やこの時計のエピソードを考えれば、裏蓋に刻印が施されているのも当然だ。裏返すと“To Hurley Haywood from Rolex”と刻まれている。
ロレックス デイトナ Ref.116515 ゴールド
この比較的新しいデイトナはRef.116515で、2013年のデイトナ24時間レースでグランドマーシャルを務めたハーレイ氏に贈られたものだ。本作はモータースポーツイベントにおいて同氏の手首でよく見かけるもので、チョコレート色のダイヤルと18Kエバーローズ製ケースという、スポーティかつエレガントな組み合わせだ。
こちらも裏には素敵なエングレービングが施されており(ここまで読んでお気づきだろうか?)、Ref.116515は彼のキャリアとデイトナでの勝利、そしてロレックスとの長年の関係を称えるトロフィーである。
ロレックス ヨットマスター Ref.16622
こちらの時計、ロレックス ヨットマスター Ref.16622は、ハーレイ氏がロレックスとの30年にわたる関係の節目として贈られた時計であるだけでなく、数年前、モントレー・カー・ウィークの期間中にカリフォルニア州カーメルのホテルのロビーで、彼がさりげなく私に手渡した時計でもある。僕はハーレイ氏と2分ほど話をし、この時計の写真を撮ったが、その写真はいまでも当時のフォトレポートで見ることができる。
このリファレンスは、そのモノクロームの魅力と、広く普及しているサブマリーナーに代わるやや珍しい存在である点が気に入っている。成功を収めたレーシングドライバーがYM(ヨットマスター)を身につけるのは、実にふさわしい。赤い秒針のアクセントが理由かもしれないし、その時代のカタログのなかから特別な1本を選んだことが理由かもしれない。いずれにせよ、私にとってRef.16622はいつまでも“ハーレイ氏のヨットマスター”なのだ。
ロレックス GMTマスターII Ref.126710BLRO
ハーレイのコレクションに最近加わった、モダンなGMTマスター“ペプシ” Ref.126710BLROである。このTalking Watchesのエピソードを収録したとき、彼がこの時計を所有してから2日ほど経ったばかりであった。
この時計は完全なサプライズで、ハーレイ氏が2023年に達成したロレックスとのパートナーシップ50周年を記念したものだ。
例に漏れず、ハーレイ氏の新しいGMTマスターにもロレックスからの特別なメッセージが刻印されている。
ポルシェデザイン クロノグラフ1
(レースと時計の両面で)デイトナから話を移すと、ハーレイ氏のコレクションにポルシェデザイン クロノグラフ1があるのは驚くことではない。このモデルはポルシェデザインのエテルナ時代のもので、彼が1973年のデイトナ24時間レースで優勝したことを称えて2013年にポルシェから贈られたものだ。
ピーター・グレッグとともに参戦したハーレイは、ブルーモス・レーシングのポルシェ911 カレラRSR(59号車)のステアリングを握り、総合優勝とスポーツ3000クラスでの優勝を果たした。
ロレックス エアキング Ref.116900
ハーレイはカリブ海で休暇を過ごしているときに、自分のためにこのモダンなエアキングを購入した。動画内で彼が言及しているように、このモデルはシンプルで視認性が高く、つけやすい。
ユリス・ナルダン デュアルタイム
彼がもう少し複雑なものを探しているとき、このユリス・ナルダン デュアルタイムは、高い視認性や時計としての魅力を保ちつつ、アウトサイズドデイト表示やセカンドタイムゾーンのプッシュ式デジタル表示などの複雑機構を備えている。
確かに、ハーレイ氏のコレクションで目立つほかのロレックスほど王道ではないが、このUN(ユリス・ナルダン)、そしてエアキングは、同氏が根っからの時計愛好家であることを証明している。僕にとってはロレックスとの50年の歴史がさらに特別なものに感じられる。
オメガ コンステレーション
ハーレイ氏の家族の歴史に結びついた時計のひとつが、この美しいイエローゴールドのオメガ コンステレーションだ。もともとは彼の祖母が父に贈ったものである。
ヒップ&コバーン社製の懐中時計
最後に、彼の祖父が愛用していた懐中時計を見てみよう。この時計には小さな金属製のフォトブックが付属している。時計自体はヒップ&コバーン社製で、薄型だが実際に手に取るとかなり堅牢な印象を受ける。
小さな金属製のフォトブックについては、これまで見たことがない。本の小さな金属製のページは、ペンダントのロケットのように開閉する仕組みになっており、ティンタイプ風の写真が収められている(正確な印刷方法はわからない)。ハーレイの母、祖母、そして曽祖母の肖像が収められている。
Video Editor: Joe Wyatt
Photos: 注記のあるもの以外はジョナサン・マクウォーターが撮影