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ブルックリンのベッドスタイにある閑散とした通りに、工事用の足場に囲まれた古いエレベーターのないビルがある。入口のドアを開けると、日の当たらない玄関が現れ、そこは時間が止まったように感じる。3階の階段には、黒いパーカーに自分の名前入りの帽子をかぶったガーディ・セント・フルールが立っていた。彼はこのスペースで、カイリー・アービングやカリス・ルバートなどのNBAスターを対象としたアートアドバイザリー、セント・フルール(Saint Fleur)を経営している。
窓は染色され、壁中に飾られている作品(額装されたものも、されていないものも)を傷めないようにしている。開いている壁には本棚があり、本や、彼の生まれ故郷であるハイチの旅の思い出の品や、派手な装飾が施されたボバ・フェットの置物など、あらゆる種類の収集品が置かれている。 シナモンではないが、明らかにスパイシーな香りのするキャンドルの煙が空間を満たし、紛れもなくボヘミアンな環境の中で本物の“バイブ”を作り出している。外からは街の音(サイレンや工事の音など)が聞こえてくる。
セント・フルールはファインアート・アドバイザーとして、顧客に美術品についての知識を提供すると共に、アート作品の調達も手掛ける。「私がしていることは、教育、アートに関わる一連の作業、購入の3つです」と彼は言う。「私のコレクションが、さまざまな場所のコミュニティとより幅広い対話をすること、つまり、作品が家族内や公的機関へ伝わったり、一般の人々と共有することを望んでいます」
セント・フルールは、包括的な方法でアドバイスをしている。「クライアントに対しては、自分の慣れた場所から連れ出すことが大切です。プレーヤーは、バスケットボールの絵を求めて私のところに来るわけではありません。私のサービスはそういうものではありません。それよりも、歴史的なコレクションを作ること、社会の中でアートが果たす役割を理解することに興味があります。私はクライアントに本やポッドキャストを送り、アートについて学んでもらっています」
その過程で、彼はロレックスを中心とした重厚な時計コレクションを成してきた。その中には、彼のパーソナルに関係するものもあれば、時計を手に入れる際のランダムな性質を示すものもあり、それぞれにユニークなストーリーがある。「この4つを選んだのは、それぞれが私の成功に貢献しているからです」
彼の4本
パネライ ルミノール マリーナ
最初の1本は誰でも覚えているものだ。セント・フルールにとって、それは44mmのパネライ、ルミノール マリーナだった。アートに携わる前、彼はeBayの黎明期にレアなスニーカーを販売するeコマースの起業家だった。
彼はスニーカービジネスがきっかけで、コレクションに興味をもつようになった。「この時計の購入はビジネスの1年めを象徴するもので、その年に利益が出ました。私はそれを祝ったのです。時計を買ったのが2007年だったので、しばらくの間、ちょうど10年くらいパネライだけを愛用していました」
ロレックス ミルガウス
これは彼にとって初めてのロレックスではない。その時計は現在、元ガールフレンドが所有していて、彼女は彼のステンレススティール製の36mmのデイトジャストを気に入っていた。しかし、その時計の話はもうよそう。それに代わって、ロレックスのミルガウスがある。
「この時計が発売されたとき、誰もが欲しがりましたが、私には手が出ませんでした」と、彼は時計を手に取り、光に当てて称賛するように見つめた。「私はいつもこの時計を夢見ていました。これが私の夢の時計だと言っても、皆さんには分からないでしょう。説明する言葉は見当たりません。これまでの人生で見た中で最も美しい時計の一つです。グリーンのクリスタルにオレンジのポップさ。芸術を愛する者として、私がこの時計を愛する理由がお分かりいただけると思います」
ロレックス デイトジャスト
時計の収集、というか購入とは、追い求めるスリルだとよく聞く。サン・フルールの場合、1つの時計を追いかけている間に、別の時計がどこからともなく現れたのだ。
「この時計は私のレーダーに掛かってはいませんでした。私はホワイトゴールドのフルーテッドベゼルを備えた、スティックダイヤルでブルーのモデルを待っていたのです。ブルーが大好きなので。そして“ガーディ、青のデイトジャストを待っているのは分かっているけど、この時計が入荷したよ”という電話がありました。その日友人に会ったら、“今すぐ手に入れるべきだと思うよ”と言われたのです。その時はこの時計について何も知らなかったのですが、今では私のコレクションの中で最も身に着けています。派手だけど、派手すぎない、クラシックなロレックスですね。これは、ネッツやキックスの試合を見る時、コートサイドで着ける時計なんです」
ロレックス GMTマスターⅡ
セント・フルールの3本めのロレックスは、想定外の暗い時期を思い起こさせる品だ。「この時計は2020年3月14日、つまりニューヨーク市が閉鎖された日にやってきました。これは私が待ち望んでいた時計でした。でも考えてみてください、世界はおかしくなっていて、街は空っぽで、私は時計を買ったのです。こう言ってみると何か変な感じがします」
「ショップから時計が入荷したと連絡がありましたが、寝ていました。次の日に行ってみると、店には誰もいません。誰もいなくて、私だけでした。パンデミックが起きているのに、時計に大金をつぎ込むなんて......と、とても嫌な気持ちになり、恥ずかしくなったのを覚えています。しかし、友人に電話してアドバイスを聞いたところ、“買うべきだ”と言われたのです。“その時計については何も考えずただ買えばいいんだ”と言われ、その通りにしました」
一番のもの
ローラン・シュヴァリエによるモノクロ写真
「これは3年前に発売されたものです」とセント・フルールは言う。「私はこの写真を見て、絶対に手に入れなければならないと思いました。この全てが好きですが、特にニューヨークの歩道で2人の男の子と一緒にいる母親に、太陽の光が降り注いでいるところが気に入っています。この写真を見ると、私と弟の姿が目に浮かぶのです」
詳細はsaintfleur.comをご覧ください。
All photos: Kasia Milton
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