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ブレゲがトゥールビヨンの特許を取得して225周年。この記念すべき節目を祝うにあたり、ブランドのアイコンであるRef.3350を現代に蘇らせたことは、当然とも言える、誰もが歓迎する選択だった。1980年代に誕生したオリジナルのトゥールビヨンにはなんとも言えない魅力があった一方で、いくつか難点があったのも事実だ。新作のRef.7357はそうした弱点を克服して現代的なアップデートを施し、愛好家たちが長年求めてきたものに応えようとする、ブレゲ渾身の作である。ヴィンテージに忠実な35mm径でありながら、8.9mmへと薄型化を果たし(ラグトゥラグは43mm)、3気圧の防水性をも備えている。かつての名作と同じようでいて、実は違う。それも、この上なく素晴らしい意味において、である。
ヴィンテージやネオヴィンテージの分野に明るくない読者のために説明しておくと、ブレゲはかつて、時計史に残る不朽の名作を生み出した。自身のブランドを立ち上げる前のダニエル・ロート氏がブレゲに在籍していた時代に、ヌーベル・レマニア製のエボーシュに手を加え、コンパクトで極めて美しいトゥールビヨンウォッチへと昇華させたのだ。下の写真は、ホワイトゴールド仕様のオリジナルRef.3357(Ref.3350の後継としてほどなく登場したモデル)である。両世代を比べると、トゥールビヨンのブリッジデザインが表裏ともに異なっていることがわかる。
ギヨシェのパターンや仕上げ、さらにはムーブメント側の装飾に至るまでいたるところが違っていて、初期の個体にはいかにもネオヴィンテージらしい手作業によるエングレービングが施されている。この時計こそがブレゲの未来を切り拓くことになり、さらに、当時ブレゲを所有していたショーメの経営破綻後、ダニエル・ロートが独立して自身のブランドを設立し、トゥールビヨンをその中核に据えるきっかけにもなった。
それでは、これらの変更点についてもう少し詳しく見ていこう。まず初めに断っておくが、新たなRef.7357は決して手ごろな価格の時計ではない。ブレゲゴールド仕様が2356万2000円、プラチナ仕様が2591万6000円(ともに税込み)という、非常に高価な少量生産モデルである。後述するように、市場の競合モデルと比較すれば、決して相場から外れた価格設定ではないし、2017年に発表された前作Ref.5357の発売時価格と比べても、極端に高くなったわけではない(たしかに25%ほどアップしてはいるが、それでも時計としての完成度は格段に上がっているのだ)。ブレゲゴールド(ランゲのハニーゴールドやオーデマ ピゲのサンドゴールドに似た、ブランド独自の合金)はケースだけでなく、ブリッジ、地板、トゥールビヨンキャリッジ、ダイヤルリング、ネームプレートにまで採用されている。また、ブレゲゴールド製のダイヤルにはオパーリン仕上げが施されている。プラチナモデルも各部にプラチナを用いるが、仕上げはアンスラサイトカラーとなっている。
ダイヤル装飾に目を移すと、チャプターリングの中央部にはクル・ド・パリのギヨシェ模様が、そしてその外周には、ワンミニッツトゥールビヨンの中心から放射状に広がるバーリーコーン(グレンドルジュ=麦の穂)模様が施されている。時刻表示のためにサーキュラーブラッシュ(円状のヘアライン)仕上げが施されたエリアには、パッド印刷による立体感のある美しいブレゲ数字が配され、まるで手描きされたかのようにも見える。トゥールビヨンの秒表示目盛りが20秒単位となっているのは、キャリッジに3本の針が備わり、1分間で1回転しながら、それぞれが20秒間隔を示す仕組みになっているためだ。全体として見ると、コンパクトでありながら見事なまでに立体的な造形を作り上げている。
ダイヤル側における最大の変更点は、Ref.3350やRef.3357でトゥールビヨンキャリッジを支えていた、上下方向に対称的なブリッジが廃止されたことだ。新作ではブリッジがダイヤルとケースの曲線に沿うように湾曲し、より自然に馴染む形状となっている。正直なところ、これが以前の意匠よりも私の好みであるかどうかは判断が難しい(完全に個人的で、かつノスタルジーの問題だ)。だが、デザインとして非常に理にかなっていることは確かであり、異論を挟む余地はない。
もし時計を裏返してコート・ド・ジュネーブを期待していたのなら、フランス時計の流儀をまだご存じないということだろう(もっとも、製造自体はスイスなのだが)。ムーブメントの裏側に新たに施されたのは、ブレゲの本社があるジュウ渓谷を見下ろす山にちなんで名付けられた“ダン・ド・ヴォリオン(Dent de Vaulion)”と呼ばれる独自のギヨシェ装飾だ。実は数カ月前、私自身もこの“ダン(歯)”と呼ばれる山を少しばかりハイキングしたことがある。この模様は山そのものを直接表現したものではなく、山頂からジュウ湖を見下ろした際に、風によって湖面に描かれるさざ波の模様を表現したものなのだ。実際の景色を見たことがある私からしても、実に見事に再現されていると言える。これはまた、新たなパターンを生み出せるだけの技術力を持つ数少ないブランドとして、ブレゲのギヨシェ技術の高さを物語るものでもある。
裏面のブリッジには水平方向のサテン仕上げが施されている。これは、オリジナルモデルでキャリッジの裏側を支えていた細く小さな地板部分とは対照的だ。そしてムーブメントの外周縁には、“Brevet du 7 Messidor An 9(共和国暦9年メシドール7日の特許)”および“Tourbillon 225e Anniversaire(トゥールビヨン225周年)”の文字が刻まれている。
本作における変化は、美観だけにとどまらない(もっとも、1時間ほど実機に触れただけで気づける変化といえば、基本的にはそれくらいかもしれないが)。ムーブメントのベースには依然としてCal.558.1Tが使用されているものの、パーツの41%が刷新されており、内部には大きな変更が加えられている。とはいえ、アップデートされたCal.187でも、1万8000振動/時という振動数など、基本的なスペックの一部は変わっていない。これは手巻きの時計であり、巻き上げの感触は非常に良好だが、それ自体が最大のセールスポイントというわけでもない。しかしながら、パワーリザーブは60時間へと向上し、ニヴァクロン製ヒゲゼンマイとシリコン製アンクルを備えたことで、耐磁性も大きく改善されている。
私が思うに、Ref.7357における最大の変更点は、新しいラグのプロファイルにある。そしてこれこそ、愛好家たちが最も声高に求めていたものでもある。従来のブレゲに対する大きな批判のひとつが、長く細い直線的なラグのため、時計が手首の上で平坦に乗ってしまい、決して快適な装着感とは言えないということがあった。こうしたラグからの変更は、昨年のGPHG(ジュネーブ時計グランプリ)を受賞したスースクリプションからすでに始まっている。ケースへ向かって傾斜しながら下方へカーブする新しいラグ(製品版ではケースにロウ付けされる予定だが、今回のプロトタイプではまだロウ付けされていない)が採用されたことで、かつての“アンピール(帝国)様式”のラグに不満を抱いていた人々の祈りは、ついに届いたというわけだ。
昨年のスースクリプションからの変更点として挙げられるのは、ブランドを象徴するミドルケースのコインエッジ装飾が本作で復活したことだ。だが、正直に言おう。私がここでは完全にマイノリティであることを承知の上で言うが、昨年のスースクリプション発表時に私が最も気に入らなかったのが、あの大胆なデザイン変更だったのだ。そもそも、あの直線的なラグこそがヴィンテージの“アンピール”ブレゲを感じさせる要素であり、実現していれば最高のオマージュだった。それなのに昨年のモデルではラグの形状を変え、おまけにコインエッジまでなくしてしまったのは、私にとっては明らかにやりすぎに思えたのだ。今回コインエッジが戻ってきたとはいえ、ラグは曲がったままだ。では、この新しいラグになったことで時計の装着感は向上したか? それは疑いようがない。しかしセリーヌ・ディオンの言葉を借りるなら、「私が靴を履きこなすのであって、靴に歩かされるわけではない」のだ。やはり以前の真っ直ぐなラグのほうが、より“ブレゲらしい”時計だったと私は思う。古き良き時代が恋しくてならない。
現代の商業的な時計製造において、これは興味深いケーススタディである。私たち時計メディアの読者が、一種のバブルのなかにいることは明らかだ。かつての名作Ref.3350やRef.3357を憧れの眼差しで見つめ、「ああ…どうして今はこういう時計を作ってくれないのだろう?」と嘆くような愛好家たちのあいだでは、なおさらである。いざブランドがそうした声に応えて復刻しようとしても、大抵はやりすぎてしまう。サイズを大きくしすぎたり、過剰な装飾を施したりして、オリジナルにあったロマンを失わせてしまうのだ。そうすれば過去のモデルとは明確に別物となり、“新製品”であることをわかりやすく打ち出せる。これは顧客というより、むしろブランド側にとってのメリットだ。ヴィンテージのブライトリング“ダトラ”と現行の新作“ダトラ”を天秤にかける人がいないように、両者のターゲット層が重なることはないからだ。では、もしブランドが“本質的にはオリジナルと同じでありながら、より優れたもの”を作ったとしたら、一体どうなるだろうか?
そのひとつの答えとして生まれたのが、この最高に魅力的な時計、Ref.7357である。「ゴールドウォッチなんて自分には絶対に似合わない」と心に固く誓い続けてきた私でさえ、ゴールドの時計を身に着けることに魅了されてしまう。そんな時計なのだ。まるで、ずっと以前からブレゲのコレクションに存在していたかのように自然に感じられる。これがマーケティング的に派手な話題をさらう最善の策かといえば、答えはノーだ。しかし我々には、わざわざ車輪の再発明(ゼロからの作り直し)をしたり、声を大にして自己主張したりせずとも、堂々と構えていられるブランドが必要なのだ。過剰な話題性や熱狂ばかりを追い求める昨今の風潮は(おそらく多くの愛好家も同じように感じているだろうが)いまやブランドの品格を下げるだけの、不毛な競争になりつつある。ブレゲはただ静かに、頂点にひとり座していればいいのだ。
競合モデル
ダニエル・ロート トゥールビヨン
プラチナケースのダニエル・ロート トゥールビヨン。Photo by TanTan Wang.
近年、トゥールビヨンがドレスウォッチよりもスポーツウォッチで頻繁に見られるようになったのは興味深い現象だ。少なくとも、多くの人々が買い求めているのはそうしたスポーツモデルであるように思える。ロイヤル オークやオーヴァーシーズなどがその筆頭だ。一方で、トゥールビヨンを搭載したドレスウォッチはますます減少傾向にある。そんななか、ブレゲ以外で真っ先に思い浮かぶ選択肢がダニエル・ロートの最新モデルである。現在はローズゴールドとプラチナ仕様が展開されている(イエローゴールド仕様はスースクリプション限定での販売だった)。
新作のブレゲも小振りだが、(先述の通りブレゲとルーツを同じくする)ダニエル・ロートのトゥールビヨンも38.6mm×35.5mmとコンパクトで、厚さは8.9mmとさらにスリムに収まっている。しかし、手首に乗せたときの着用感はまったく異なる。ロート特有の長方形と楕円を融合させたケースフォルムは、一般的なラウンドウォッチよりも腕上で小さく感じられるからだ。この2本を直接比較してみるのも非常に面白いだろう。最近リリースされたプラチナ仕様のダニエル・ロートの価格は約23万ドル(日本円で約3630万円)で、ブレゲよりも約1000万円ほど高い設定となっている。私の単なる直感に過ぎないが、ダニエル・ロートのほうが入手ハードルはより高いのではないかと踏んでいる。
ヴァシュロン・コンスタンタン トラディショナル・トゥールビヨン
ヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル・トゥールビヨンをもうひとつの対抗馬として挙げるのには、いくつかの理由がある。41mm径に厚さ10.4mmとコンパクトさという点ではブレゲに譲るものの、ペリフェラルローター式の自動巻きムーブメントを採用していることがそれを補っているのだ。その意味ではより実用的と言えるが、手巻きのドレストゥールビヨンを所有するような愛好家が、着用のたびにゼンマイを巻き上げて時刻合わせをする手間を果たしてどこまで気にするかは疑問だ。なお、このムーブメントはオーヴァーシーズのトゥールビヨンモデルとも共有されているが、あちらのモデルのほうが自動巻きであることに納得がいく。もうひとつの利点は(そのためにムーブメントの大型化を余儀なくされたわけだが)、3日間という長めのパワーリザーブを備えていることだ。ローズゴールドとプラチナ、両モデルの価格は公式には要問い合わせ(Price on Request)となっている。だが実際に確認してみると、価格はローズゴールド仕様が17万3000ドル(日本円で約2750万円)、プラチナ仕様が20万ドル(日本円で約3180万円)であり、価格面では、数千ドルの差ながらヴァシュロンに軍配が上がる。
オリジナルのブレゲ Ref.3350 / 3357
これは比較対象として真っ先に挙がる存在であり、同時に購入者が最も頭を悩ませる選択肢でもある。疑いようのない事実として、オリジナルのRef.3350やRef.3357を選ぶほうがはるかに安上がりであり、なおかつ歴史的なオリジナルピースそのものを手に入れられるからだ。この記事を執筆している時点でも、7万ドル(日本円で約1100万円)以下で販売されているRef.3350BA(イエローゴールド仕様)を3本確認できたし、Ref.3357に至っては約5万ドルで、さらに手ごろな価格で市場に出回っている。
つまり、ダニエル・ロートがヌーベル・レマニアのために手がけたデザイン、1980年代のケース、そして手作業によるエングレービングが施されたムーブメントを備えた時計が、新作の約3分の1の価格で手に入るということだ。しかし、ある人にとってのメリットは、別の人にとってのデメリットにもなる。このケースは、ブランドが近年離れつつある、昔ながらの直線的なラグを備えた伝統的なブレゲデザインである。私はこのデザインが好きなのだが、手首に乗せると非常に平坦に感じられるのは事実だ。対して新作は、多くの人にとってより快適な装着感をもたらすケースを採用し、精度とパワーリザーブが向上し、メンテナンス周期も長くなっている。さらに、構造そのものが現代的になり、防水性もしっかりと備わっている。十万ドル(日本円で約1600万円)以上の価格帯で時計を検討している多くの人々にとって、こうした数々の利点は新作であるRef.7357を選ぶ十分な説得力となるだろう。
最終的な考え
今回のモデルでブレゲが数多くの改善を果たしたことは、紛れもない事実である。だが、それも驚くには当たらない。ここ2年ほどのあいだ、このブランドには確かに新たな活力が満ち溢れているからだ。価格の高さには驚かされるかもしれないが、これはここ数年すべてのブランドが直面している課題であり、米ドルに対するスイスフラン高という、どのブランドにも解決できず誰も歓迎していない問題も拍車をかけている。それでも、自らの原点に立ち返り、コレクターたちが切望してきたアップデートを施しながら、オリジナルのトゥールビヨンに対して極めて知的かつ誠実な復刻を果たしたブレゲの姿勢には、拍手を送るべきだろう。結局のところ、実際に時計を購入するのは彼らコレクターなのだ。多くのブランドが顧客からのフィードバックを拒絶しがちななかで、ブレゲはコレクターたちの声を深く信頼し、少なくとも今回に限って言えば、“買い手は常に正しい”ということを理解しているようだ。
ブレゲ クラシック トゥールビヨン Ref.7357の詳細については、ブランドの公式サイトをチェック。
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