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Hands-On ダニエル・ロート トゥールビヨン プラチナをハンズオン

LVMHのラ・ファブリック・デュ・タンによって復活した同ブランドが、モノクロームのトゥールビヨンウォッチでハットトリックを達成する。

Photos by TanTan Wang

2023年のダニエル・ロート トゥールビヨン・スースクリプション イエローゴールド(YG)、あるいはそのフォローアップであるトゥールビヨン ローズゴールド(RG)に心躍らなかったなら、ブランドの第3弾、今回はほぼ完全にモノクロームで仕上げられたプラチナモデルはどうだろうか? 過去2作から変更点はごくわずかに見えるにもかかわらず、私にとっては間違いなく心引かれるものだ。色合いがすべてを変えており、これをこれまでのデザインのなかで最も若々しく、それでいて控えめな解釈だと私は思う。

Previous Roth Tourbillons

以前のモダンなダニエル・ロート トゥールビヨン ローズゴールドと、トゥールビヨン・スースクリプション。Photo by Mark Kauzlarich

 まずこのことを明確にしておこう。ほとんどの要素は過去のモデルと同じであり、それ自体がロートのオリジナル、トゥールビヨン C187へのオマージュである。トゥールビヨン C187は、オリジナルブランドの初期に大きな影響を与えたことからオークションで人気を博した。ミドルケースを通る目立つゴドロン(半円状の装飾)とロウ付けされたラグが特徴で、ダニエル・ロートだと即座に識別できる独特なダブルエリプスケースは、今回はプラチナという冷たいトーンで仕上げられており、RGやYGの温かさとの際立ったコントラストを見せている。その直径38.6mm×厚さ35.5mmという寸法は、特に短いラグのデザインと9.2mmという薄い厚さにより、この時計をきわめて着用しやすいものにしている。

 YGのオリジナルのスースクリプションモデルがソリッドケースバックを特徴としていたのに対し、この新しいプラチナモデルはRGの前モデルに倣い、サファイアクリスタル製のシースルーバックを備えており、手巻きのCal.DR001の印象的な仕上げと80時間のパワーリザーブを披露している。確かにその構造は劇的でも革新的でもないが、ブリッジの軽いコート・ド・ジュネーブ仕上げ、輪列のゴールドシャトン、独特な水平方向のクリックバー(実際に巻くのが楽しい)、そしてその真ん中にある美しくブラックポリッシュが施されたブリッジなど、実際に見たときにきわめて魅力的なムーブメントを構成するすべての要素を備えている。

Daniel Roth Tourbillon PT Side shot
Daniel Roth Tourbillon PT Dial Macro
Daniel Roth Tourbillon PT on leather background

 18万5000スイスフラン(日本円で約3600万円)という価格では、このレベルの仕上げは期待されるものだ。しかし同様の価格設定を、しばしば圧倒的な数の内角やブラックポリッシュ仕上げによって正当化する多くの独立系ブランドと比較すると、少し控えめに感じるかもしれない。ケースバックにユニークな視覚的魅力を求めるコレクターであれば、このキャリバーは向いていないかもしれない。だが繊細さも美徳であり、DR001は手に取ってみると信じられないほど見事に作り込まれていると感じる。それはまた、復活したブランドとして、歴史をどのように適切に基盤として構築すべきかの優れた例でもある。

 ロートのオリジナルC187モデルがレマニア 387エボーシュ(ロート自身がブレゲ時代に大部分を開発したものだが)を使用していたのに対し、これらのモダンなトゥールビヨンモデルはラ・ファブリック・デュ・タンのミシェル・ナバス(Michel Navas)氏とエンリコ・バルバシーニ(Enrico Barbasini)氏の知恵を活用し、この現代的な自社製キャリバーをイチから構想し、シェイプされたブリッジまですべてを手がけている。キャリバーの観点から見るとこれらは大幅に改善されており、あえて言えば、シングルフェイスのスリムなケース(オリジナルのダブルフェイスとは対照的)と再設計されたラグのおかげでデザインもよりエレガントになっている。

Daniel Roth Tourbillon PT Lower movement macro
Daniel Roth Tourbillon PT Barrel shot
Daniel Roth Tourbillon PT Caseback shot

 ここで主役となるのは間違いなくダイヤルであり、そのクールなグレーのトーンに私はかなり興奮している。プラチナケースに合わせて、上部ダイヤルのベースはホワイトゴールド製で、ピンストライプのギヨシェが手作業で施され、その後アンスラサイトで仕上げられている。上部ダイヤルのスターリングシルバーの部分(チャプターリング、秒目盛り、ダニエル・ロートの“口ひげ”)は、その輪郭とエッジに装飾的な縁取り、フィレ・ソテ(filet sauté)のギヨシェが手作業で施されており、ダークな垂直ストライプと見事に対比するテクスチャーを加えている。ダイヤルタイプと針もそのダークグレーの処理を受けており、特に大きなポリッシュ仕上げのトゥールビヨンブリッジに挟まれた3本スポークの秒針が目立つ。おそらく、私がこのプラチナモデルを気に入っている理由は、トゥールビヨンのテンプと下部のギアの温かい色合いが、グレーのトーンから本当に魅惑的な方法で際立っているからだろう。RGモデルでは少し衝突しているように見えたかもしれないが、オリジナルのスースクリプションのほかのダイヤル部分と調和するためには反対の働きをしていた。ここでは、劇的に感じられる。

Daniel Roth Tourbillon PT Laying side shot
Daniel Roth Tourbillon PT Dial Closeup
Daniel Roth Tourbillon PT Tourbillon Macro

 また、かなり重要な隠れた変更点もある。過去のダイヤルがカリ・ヴティライネンのダイヤル工房、コンブレマイン社(Comblémine SA)によって製造されていたのに対し、ダイヤルのすべての部品が現在、ラ・ファブリック・デュ・タン ルイ・ヴィトンで自社生産されているのだ。これはラ・ファブリック・デュ・タンが現在、50年前から2世紀前のものまで多岐にわたるアンティークマシンを備えた完全なギヨシェ工房を自社内に持っているおかげであり、これは同社が取り組むブランド全体での今後の多くのプロジェクトにとってよい兆しとなるに違いない。ナバス氏とバルバシーニ氏が世に出る作品の品質に関するすべてを今も監督しているため、より多くのプロセスを“自社で”管理することは決して悪いことではない。特にダニエル・ロートの復活は、私にとってラ・ファブリック・デュ・タンの自社ブランドとしての能力を示す方法を代表しているからだ。宣伝させてもらうと、同僚のマライカが我々のプリントマガジンの最新号でラ・ファブリック・デュ・タンに関する素晴らしい記事を書いたばかりであり、これはこの工房が職人的な技術を強化しつつ、どのように進化しているかをよく知ることができる。ちなみに、数年前のローガン・ベイカー(Logan Baker)による訪問、そしてそれについての記事はこちらから。

 身に着けた感触として、この新しいプラチナの仕上げを私が存分に楽しめたのは当然のことだろう。手首にコンパクトに収まり、安心感のある重厚さがあり、そのカラーパレットにはこれを可能な限りもっとも壮大なデイリーユースの時計として本当に使いこなせるだろうと思わせるだけのひねりが少しだけ加えられている。だが同時に、もしあなたがこの時計に約25万ドル(日本円で約3930万円)近くを投じようとしているなら、そのお金で代わりに買わないものを検討することになるだろう。

 トゥールビヨンを比較検討することは確かに人生における崇高な目標である。頭に浮かぶほかのふたつのドレッシーな手巻きの時刻表示のみのトゥールビヨンは、A.ランゲ&ゾーネの1815 トゥールビヨン(今年のモデルはブラックのグラン・フー エナメルダイヤル)とブレゲの最近のクラシック トゥールビヨン シデラル 7255だ。この3つを比較することは、ウォッチメイキングの豊富な遺産とスキルを持つ3つのブランドを比較することになるが、結果は3つとも異なる。技術的な観点から見ると、ランゲの1815 トゥールビヨンはハック機能とゼロリセット機能のおかげで、間違いなくもっとも印象的だと感じられる。これはほかの多くの時計メーカーではまだ達成されていない偉業だ。典型的なランゲの流儀で、これは3針時計としてはより厚いプロポーションを意味する。また、ブレゲの今年の新作は浮遊するミステリーデザインで実行されたフライングトゥールビヨンという目新しさに傾倒しているが、ここにあるほかのふたつタイムレスな魅力には欠ける。

1815 Tourbillon Enamel Black
Breguet 7255
Daniel Roth Tourbillon PT Wristshot

 そのためダニエル・ロートを見ると、フライングトゥールビヨンではない標準的なワンミニッツトゥールビヨンは実に平凡に聞こえるかもしれない。しかし復活したブランドとしては、皮肉にもロートが提供するのはきわめて着用しやすいコンパクトなパッケージで、時代を超越していながらも魅力的な、はるかにクラシックな高級時計製造(オートオルロジュリー)の仕上げだ。巨大なコングロマリットから出ている時計に対して、これは必ずしも容易に与えられる褒め言葉ではない。もちろん生産量もきわめて少なく、今年のプラチナモデルは10本が生産され、来年からは約50本に増える予定だ。ダニエル・ロートの背後にいる人々は確かにゆっくりと着実に進めているが、私にとってこの製品は、このブランドの現代的な解釈が将来どのようなものになるかについて確かな期待を抱かせる。

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