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Introducing エス・テー・デュポン×フランク ミュラーのライターがフランクに再び火を灯す(編集部撮り下ろし)

まったく異なるふたつのブランドに新たな炎を灯すマスター ライター。

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4月のWatches & Wonders会期中、私はジュネーブ滞在の最終日に秘密のアポイントメントを取った。洗練された青いスーツに黒靴を履いたヨーロッパの紳士たちが集う格式あるショーが終わりを迎えた金曜日、私は早々に会場を抜け出し、メルセデスSクラスのシャトルに乗ってジュネーブ郊外にあるウォッチランドを訪ねた。ウォッチランドは1990年代に開業したフランク ミュラーの広大な本社である。一部の情報によれば、当初この場所は時計愛好家のための“テーマパーク”として構想されており、それはサー・エルトン・ジョン(Sir Elton John)の提案もあったという。パレクスポの無機質な蛍光灯が照らすホールをあとにしてフランク ミュラーに向かうと周囲に告げたとき、返ってきたのはただひとつ。笑い声だった。

franck muller watchland

フランク ミュラーのウォッチランド。

 何らかの理由、いや実際にはいくつもの理由があり、そのなかにはよい理由も悪い理由も含まれるが、フランク ミュラーはスイス時計業界のクレイジーなおじさんのようだ。もし80年代のウォール街や90年代のドットコムブームが生み出した巨大で派手な時計の人気が、そのまま何十年も全速力で突き進み続けたらどうなるのか? 同ブランドの今の時計は、まさにこの問いに対する答えを体現している。

 それはおそらく、今年のトノウ カーベックス™ インペリアル トゥールビヨン バゲットのような時計だろう。

franck muller watches 2024

 ウォッチランドはディズニーランドほどではないが、まるで別の世界のようだ。建物は工業施設というより、むしろ田舎の大邸宅のような佇まいである。とはいえなかにはCNC機械や時計職人のための作業台が並んでおり、現代のスイス時計メーカーにふさわしい設備が整っている。そしてフランク ミュラーはケース、ムーブメント、ダイヤル、その他の部品を自社で製造する真のマニュファクチュールだ。だが最終的な製品は、ラグジュアリーの悪しき衝動、つまり贅沢さを追求するあまり“もっと”という欲求に屈している部分もある。

 しかし、フランク ミュラーはフランク ミュラーであることにまったく後ろめたさを感じていないようだ。ほとんどのブランドは、ジュネーブ空港近くにあるコンベンションセンターの小さな部屋で数本の新作を発表する。しかしフランク ミュラーはジュネーブ郊外のファームハウスの屋根裏全体を使い、30種類ほどの新作時計を並べて展示する。カラーバリエーションまで含めればさらに多くなるだろう。多くのブランドとは異なり、彼らはただ顧客が求める“もっと、より多く”という要求を提供するのみ。トノウ カーベックス トゥールビヨンのグリーンが欲しい? もちろんOK。あ、オレンジがいい? それもある。

 通常、プレスリリースを引用するのは好ましくないが、フランク ミュラーの2024年のリリースから少しだけ紹介させて欲しい。これで同ブランドがどんな雰囲気なのかを感じ取れるだろう。それは完全に派手さを極めたスタイルであり、ダイヤモンドがふんだんに使われている。

 「2024年の新作として、フランク ミュラーは驚異的なスケルトンデザインを持つカーベックス CX ギガ トゥールビヨン スケルトン、新たに3つのジャンピング機能を備えたカーベックス CX マスター ジャンパー、そして壮麗なバゲットダイヤモンドを施したトノウ カーベックス™ インペリアル トゥールビヨン バゲットを発表しました。職人たちはカーボンダマスカス鋼という新しい加工技術を開発し、風防をとおしてなかのメカニズムがしっかりと見えるように設計されたスケルトンデザインと、完全自社製ムーブメントを搭載した新しいコレクションをつくり上げました。さらに、フランク ミュラーはラウンド レディ スケルトン バゲットとヴァンガード™ レディ スリム スケルトンも発表します」

franck muller master lighter

クレイジーなおじさんのクレイジードリーム。

franck muller master lighter

 ただ私はバゲットダイヤモンド付きのスケルトン化されたトリプルジャンピング機能を持つヴァンガードなどについて語りたいのではない。私が興味を持っているのはそんなフランク ミュラーの時計ではなく、ウォッチランドでどうしても見たかったのはまさにフランク ミュラーらしい、滑稽なくらい完璧な1本だったのだ。

 スケルトンムーブメントを内蔵した約7万ドル(日本円で約1030万円)するパラジウムメッキのライター、しかもわずか88本(4色展開)しかつくられない時計を、誰が必要とするのだろうか?

franck muller dupont lighter

 それがエス・テー・デュポン×フランク ミュラーによるマスター ライターだ。誰のためのものかと聞きたくなるが、ウォッチランドを訪れた際そこは顧客であふれていた。皆このライターで遊びたがっていたし、私も遊びたかった。

 デュポンの特徴であるキーンという音が響く瞬間から楽しさが始まる。マスター ライターのリッド(蓋)を開けると、その音が心地よく響く。私は喫煙者ではなく葉巻も苦手だが、このキーンという音を聞いた瞬間、キューバ産の葉巻が欲しくなってしまった。これがどういうことか、ぜひこのそのままの動画で確認して欲しい。

franck muller master lighter

葉巻を1本くれ。

 エス・テー・デュポン×フランク ミュラー マスター ライターは、通常のデュポンライターよりもかなり大きくつくられている(39mm×66mm、iPhone 15 Pro Maxを何台か積み重ねたほどのサイズ)。マスター ライターは4つのバージョンがあり、すべてパラジウムメッキ仕上げにクル・ド・パリ装飾があしらわれ、そのうちのひとつはブラックPVDコーティングが施されている。ダイヤルにはフランク ミュラーのシグネチャーであるエクスプローディングナンバーズがさまざまな色で描かれている。とくにカラー ドリームコレクションは(客観的に見ても)最高の仕上がりで、反対側にあるスケルトナイズしたブリッジは同じカラーで統一されている。それぞれのブリッジは異なる色の陽極酸化処理がされており、その作業はきわめて高度な技術が必要とされるという。ブラックPVDにスーパールミノバの数字が施されたモデルもカラー ドリームに次ぐ人気で、ホワイトとブルーのラッカー仕上げのダイヤルはウォッチランドのなかでは比較的控えめなデザインと言える。

 だがマスター ライターはフランク ミュラーらしく、そこで独自性が止まることはない。針の軸はガスタンクを貫通し、ダイヤル側には時・分針が、反対側には秒針があり、スケルトナイズされたムーブメントの上を回転している。ムーブメントは、脱進機の上にゼンマイが配置されたシンメトリーなレイアウトであり、ブリッジはフランク ミュラーおなじみのモチーフである十字に交差している。

vintage watch lighter

フランク ミュラーが時計をライターに組み込んだ最初のブランドというわけではない。こちらは1920~30年代に製造されたダンヒルのライターである。しかし、フランク ミュラーはその古いアイデアを現代風かつ大胆にアレンジした。

 スケルトンムーブメントを搭載した約7万ドル(日本円で約1030万円)のライター付き時計を“控えめ”と表現するのは奇妙だが、フランク ミュラーにしてはそれなりに控えめだ。この“自制心”こそが、1990年代のフランク ミュラーの初期モデルを魅力的なものにし、伝統的な(何をもって伝統的とするかは別として)ウォッチメイキングに興味を持つコレクターを引き付ける理由となる。初期のラウンド クロノグラフやロングアイランド、そしてカーベックスはどちらかと言えば現代のウブロではなくヴィンテージパテックをほうふつとさせ、フランク・ミュラー(Franck Muller)氏が修復の名人であったことを物語っている。そもそもライターに時計を組み込むということ自体が伝統的なアイデアである。アール・デコ時代のダンヒルやその他のメーカーが製作したライターのボディに、うまく時計が組み込まれているものを時折見かけることがある。このような過去への遊び心あふれるオマージュを完全にアバンギャルドな形で表現することこそ、かつてフランク ミュラーが革新的であった理由のひとつなのだ。

 それでも、フランク ミュラーは真面目なコレクターからあまり敬意を受けることがない。メニューバーにあるブランドの項目にカーソルを合わせ、“F”の欄をざっと見てみると、フランク ミュラーが不当に省かれていることに気付くだろう。現代のフランク ミュラーと今日における時計コレクターはお互いを根本的に理解し合っていないようだが、それで問題はない。

franck muller watches

ブランドのドロップダウンメニューに“フランク ミュラー”を追加するよう請願する。

 しかし、フランク ミュラーというブランドとその人物の全貌は、いつか語られるべきストーリーである。彼は独立時計師という世代の道を切り開き、今なおその影響が業界に波及している(レジェピ氏の前に誰が両面クロノグラフを製造していたと思う?)。おそらく、彼は初めて高級時計の世界にポップカルチャーを持ち込んだ時計師だ。2000年代初頭、フランク ミュラーは時計業界のトップに君臨していた。しかしよくあることだが、彼のアンファン・テリブル(フランス語で無遠慮な振る舞いの人という意)な姿勢は、彼を一気にスターに押し上げた一方で、あまりにも早く燃え尽きさせてしまった。

 「スウォッチグループやリシュモンなどの重要なラグジュアリーウォッチグループが、2002年および2003年上半期の業績低下を発表するなか、フランク ミュラー ウォッチランドは逆に優れた成長を遂げている」と、2003年8月にヨーロッパスター誌が報じ、フランク ミュラーの売上が前年に54%増加したことを伝えた。ただその数カ月後には、ブランドの創設パートナー同士の対立が訴訟と反訴の形で表面化。争いは最終的に解決を見せたものの、フランク・ミュラー氏本人がブランドに完全に戻ることはなかった。少なくとも英語圏のアーカイブには、何が起こったのか詳細な記録は残っていないが、“ドラッグ”、“ニセモノ”、“アルコール”といったワードが古い新聞やこの出来事を知る人々のあいだで語られており、それだけで壮絶なドキュメンタリーになり得るだろうと私は思った。

franck muller master lighter black pvd

ブラックPVDのマスター ライター、エクスプローディングの夜光インデックス付き。

 多くの時計師が今なおフランク ミュラーの足跡を辿っている一方で、デュポン×フランク ミュラー マスター ライターのようなリリースこそが、彼のアンファン・テリブルとしての独自の精神を最もよく体現していると感じる。まったくばかげていて過剰なほど豪華だが、そのつくりは驚くほど考え抜かれているのだ。

詳しくはこちらをご覧ください。

エス・テー・デュポン×フランク ミュラー マスター ライター。4色それぞれ88本限定。すべて39mm×66mm×21.9mmのパラジウムメッキライターケースで、クル・ド・パリ装飾を採用。ムーブメントには手巻きのCal.FM 1740-LI-STDを搭載。約3日間パワーリザーブ、1万8000振動/時。スケルトナイズムーブメントはライターのサファイア側から見ることができる。ガスタンクを貫通したパイプにより、針の軸がライター全体を通過し、ダイヤル側に時・分針、ムーブメント側に秒針が表示される仕組みになっている。価格はホワイトおよびブルーダイヤルバージョンが6万6000ドル(日本円で約965万円)、ブラックPVDが6万8500ドル(日本円で約1000万円)、カラー ドリームは7万6000ドル(日本円で約1110万円)