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HODINKEEのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを語ってもらう「Watch of the Week」。今週のコラムは、サザビーズ インターナショナルリアリティ フランス - モナコの会長兼CEO、同名のファッションライン(アレキサンダークラフト モンテカルロ)のデザイナー兼CEO、プロヴァンスのブティックホテル兼レストラン「ラ メゾン ブルー(La Maison Bleue)」のオーナー、そしてインスタグラムのフォロワーは28万人以上という著名なインフルエンサーのアレクサンダー・クラフト(Alexander Kraft)氏だ。
私は25年以上前から時計を集めている。時折、強盗に襲われるなどして、一時的にコレクションが減少したこともあったが、私の時計への情熱が衰えることはなかった。
私は幸運にも(現在も)かなりの数の素晴らしい時計を所有している。そのなかにはロレックスのデイトナ、ポール・ニューマン パンダ、ロレックス キリー、珍しいカルティエなど、多くの人が聖杯(holy grails)と呼ぶものもあるが、そうした時計は現在銀行の金庫にしまってある。しかし、今回紹介するのは、ほとんどの時計愛好家の目に留まらない。それは、ラルフ ローレンのオートモーティブ フライング トゥールビヨンだ。
「えっ、ラルフ ローレンの時計?」もう時計通の人たちの叫びが聞こえてきそうだ。それに対して、私は丁寧に、そして根気よくこう答えるだろう。どうか最後まで聞いてくれないか。
ラルフ ローレンは、私の人生において、さまざまなインスピレーションを与えてくれる存在だ。私は1980年代、北ドイツの保守的な環境で育った若きティーンエイジャーだった。ラルフはそんな14歳の私(そして世界中の人々)に、伝統的な服は必ずしも退屈でありきたりなものである必要はないこと、そして、自分の選んだ服を自信を持って着ることを恐れる必要はないと教えてくれた。
当時オープンしたばかりの旗艦店では、服だけでなく、卓越したセンスの世界、現実にはほとんど存在しないがそれゆえに魅力的な、まったく洗練されたライフスタイルが紹介され、驚きをもって迎えられた。ブルース・ウェーバー(Bruce Weber)やアルナルド・アナヤ(Arnaldo Anaya)といった生ける伝説が撮影した写真で、イギリスの邸宅からアフリカのサファリ、アメリカの牧場からCEOのヘリポートまで連れて行ってくれる。彼はまるで映画のようなクオリティのビジュアル表現だった。
その結果、私は30数年間ラルフ ローレンの服を着続け、ブランドだけでなく、幸運にも本人に会うことができ、彼自身にも長年憧れ続けている。人生が芸術を模倣する(そして一周する)典型的な例として、インスタグラムに(部分的に)記録されている私の人生は、ラルフ ローレンの広告に似ていると長年にわたって言われてきた。私はこれを賛辞として受け止めている。
偶然にも、私はこの偉大な人物と芸術以外の情熱を分かち合っている。ヴィンテージカー、ネオクラシック・アンティーク、そしてポロ(膝が壊れるまでやっていたスポーツ)などがそうだ。そして、もちろん、時計も。というわけで、最後に、このラルフ ローレン オートモーティブ フライング トゥールビヨンを紹介しよう。
時計が好きなラルフ・ローレン氏が、腕時計を作ろうと思ったのも無理からぬことだ。しかし、彼はこれを典型的なラルフのスタイルで行ったのだ。他のファッションデザイナーと同じように、クォーツ(またはありふれた自動巻き)ムーブメントを搭載した見栄えのする時計をデザインして自分の名前を付けるのではなく、彼はリシュモングループと50:50の精巧なジョイントベンチャーを立ち上げ、ジャガー・ルクルト、IWC、ピアジェといった時計メーカーの優れたムーブメントと技術を利用することを可能にした。そして、カルティエやブレゲのヴィンテージモデルなど、既存の時計にインスパイアされながらも、常に特別なひねりを加えた独自の個性が際立つ、今日の市場において真にユニークなタイムピースを作り出したのだ。
言うまでもなく、このアプローチは多くの伝統主義者を混乱させる。彼らはRLウォッチを「ファッションウォッチ」と呼び(その背後にある時計学の専門知識からすれば客観的には間違っているが)、あるいは同じ値段でロレックスやパテック フィリップが買えるのに、なぜ数千ドル、いや、数万ドルをこんな時計に使うのかと考える。答えは簡単だ。真の時計愛好家は、すぐに認知されるようなブランド品を買いたい(買わなければならない)とは思わない。真の目利きとは、真に独創的なデザインと、確かな時計製造技術の組み合わせを評価するものだからだ。
ラルフ・ローレンのパーソナルウォッチコレクション
2015年、ベン・クライマー(Benjamin Clymer)は伝説のデザイナーと対談し、彼の時計コレクションについて、また彼が作った時計とその多くにインスピレーションを与えた車について知ることになった。そのインタビューはこちら。
これはある意味で、ラルフ・ローレンがハイファッション界の一部の人々から長いあいだ受けてきた(同様に不当な)スノビズムを反映しているとも言える。彼を真のデザイナーではなく、単なるスタイリストと見なしたのだ。それは、彼が手の届かない、しばしば着ることのできないオートクチュールをデザインするのではなく、既存のものを参考にしながら独自のヴィジュアルによるコミュニケーションを創造していたからにほかならない。
ロンドンのサヴィル・ロウのオーダーメイド・スーツ、アメリカ東海岸のプレッピー・シック、アメリカ西部の頑丈なワークウェアなど、一見すると彼のインスピレーションは明白だったが、否定的な人たちが評価しなかったのは、彼が常にそうしたものを別のレベルにまで高めていたということだ。彼はインスピレーションを自分のものにし、その結果、現在では「ラルフ ローレンのスタイル」として広く認知されるようになった。
そして、彼のウォッチコレクションも同様だ。多くの有名時計メーカーがヴィンテージモデルの復刻に終始する昨今、このようにユニークなデザインはますます珍しくなっている。
私の時計は、正確に言うと、ラルフ ローレン オートモーティブフライングトゥールビヨンだ。デザイナーの私物であるブガッティタイプ57 SC アトランティック クーペにインスパイアされている。ダッシュボードや計器類、そして外観は、バールウッドベゼルやダイヤル、ブラックPVDコーティングのショットブラスト仕上げから想起される。ラルフ・ローレンの素晴らしい車のコレクションをプライベートで見学させてもらったときの思い出がよみがえり、偶然の出会いから自然と購入に至った。
ラルフ ローレンのために特別にカスタマイズされたラ ファブリック デュ タン製の洗練されたムーブメントは、時計づくりにおいて最も難しい機構のひとつである魅力的なトゥールビヨン機構を備え、トゥールビヨンケージの下部のみで支持されているため(従来の側面でのブリッジ支持とは対照的)、まるで“フライング”であるかのように見える。その結果生まれた独自のムーブメントRL167は、(当然)COSC認定を受け、マイクロローター(ジュネーブシール刻印がある)で自動的に巻き上げられ、40時間のパワーリザーブを備えている。
ここでもラルフ ローレンは、トゥールビヨン、PVDケース、印象的なルミノバ文字盤といった既存の要素を、独自の方法で組み合わせている。実生活での効果として、この時計を身につけると、パテック フィリップやロレックス、カルティエの名品を腕にしたときよりも、ずっと興味をそそられるコメントをもらうことが多い。
ラルフ自身と同じように、私もヴィンテージカーを収集している(世界有数のコレクションである彼のものとは比べものにならないが)。1969年式メルセデス280 SLパゴダや1968年式フェラーリ365 GT 2+2などのクラシックカーを運転するときは、RLオートモーティブ フライングトゥールビヨンを身につけるのが何よりも好きだ。
私のように、時代を超えたスタイル、自動車への情熱、時計の精巧さを評価する人間にとって、この時計はまさに完璧な時計だと言えよう。とても私らしく、とてもラルフらしいのだ。
Photos, Ysa Perez
ラルフ ローレンの時計について、詳しくはこちらをご覧ください。