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Auctions フィリップス 香港ウォッチオークションⅩⅢに登場する2つのカルティエ タンク サントレ

カルティエの時計史に残る名作が突如出現した。しかも、2本も同時にだ。

今週開催されるフィリップス 香港ウォッチオークション。今回も数多の希少なタイムピースたちが出品されるが、なかから非常に素晴らしい2本のカルティエ サントレをご紹介したいと思う。

 これらは、1930年代と2004年にそれぞれ製造されたものだが、特に前社は全貌が明かされていないころ(現在もそうだが、輪をかけて)のカルティエを象徴するかのように、新たに見つかった18Kホワイトゴールド製のサントレだ。

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 見た目からすればこの時計が90年も昔に作られたものであるとは想像もつかないが、それもそのはずこの文字盤はカルティエによって当時の技術を使って修復されたものなのだ(正直、オークションや時計の価値の定説からいくと、いかに傷んでいてもオリジナルであった方が、、、と悔やまれるが)。しかしながら、時計としては現在でも悪目立ちしないようなキレイな状態ではあり、おそらくメゾンの本社にまで伝わっているであろう、この時計のメンテナンス記録とホワイトゴールドケースの希少性を持ってすれば、十分以上に価値のあるオークションピースであると思う。文字盤は、アラビア数字にシェマンドフェール(レイルウェイのミニッツトラック)を配したもので、初期のサントレとしては珍しいタイプの個体だ。当時のものは、基本的にローマ数字にシェマンドフェールの有無でバリエーションが確認されることが多い。

 この個体のように、1920代後半〜30年代前半にかけて存在したとされる、夜光性ラジウムとカテドラル針を備えたサントレはこれまでも確認されている。ただし、基本的にはブラックのペイントで施されたアラビア数字の個体しか確認されていなかった。最も有名な例としては、1929年に製造され、フレッド・アステアに販売されたイエローゴールドのサントレがあり、これは現在"カルティエ・コレクション"(メゾンが管理するジュエリーやウォッチのアーカイブで、約3500点にのぼる)に収蔵されている。

 この時計の出自にも注目だ。内部にはヨーロピアンウォッチ&クロックカンパニー(通称EWC)製の角型手巻きムーブメント(もちろんジャガー・ルクルト製だ)を搭載。ケースバックには「N.L.-1933」の刻印があり、おそらく1933年にパリで販売されその後日本にわたってきたと考えられている。このころのカルティエウォッチは受注生産をメインとしていたため、ホワイトゴールドやプラチナの個体が製造されたののは年間数本程度とされる。そのうちの1本が2015年、日本人カルティエコレクターのもとにたどりつき、そして現在にいたるというのだ。

 エスティメートは4万1000〜8万2100ドル(約472万〜945万3000円)とのことだが、市場に出回っている初期のサントレで唯一のホワイトゴールドと目される本機は、それ以上の評価を得ても不思議はないだろう。

 さて、もう1本は同じくアラビア数字とレイルウェイを文字盤に備えたサントレだが、時代は2004年へと大きく進む。CPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ、1998年にローンチ後10年間展開された)に内包されるこのサントレは、プラチナ製で当時50本限定で製造されたうち、21のシリアルを持つ個体である。

 この時計のユニークな点はダイヤル上で確認できる。文字盤のどこにも「Paris」の文字がなく、CPCPのなかでも唯一の例であるため非常に希少性が高いと言える。このコレクション最大の特徴のひとつがカルティエ パリのプライベートコレクションであることで、ダイヤル中央に配されたCartier Parisなのだが、サントレだけがその例外となったのだ。1920年代当初のサントレは、ローマ数字に白文字盤というのがお決まりのスタイルだったが、このプラチナモデルのようなアラビア数字とブレゲ針はより希少な仕様である。

 この復刻モデルはオリジナル・サントレにほぼ忠実なサイズで作られており、ケースは46×23mmだ(すでに紹介した1930年代のサントレは46.5×22mm)。内部に搭載されるのは、同じくジャガー・ルクルト製のムーブメントをベースとした手巻きCal.9770MCで、両社が時代を超えて再び協業していることを感じ取れる1本でもある。

 エスティメートは3万800〜5万1300ドル(約354万5000〜590万5000円)となっているが、昨今のCPCPの過熱ぶりからするとこの価格は文字通り概算でしかないと思う。

 今回紹介した2本は同じサントレでありながら、オリジナルと復刻それぞれの長所が濃厚ににじみ出る時計だ。一方は初めてその存在が確認されたホワイトゴールド製、もう一方はカルティエ肝いりのCPCPにおいても特別感ある仕様とされたプラチナ製。甲乙つけ難いとはまさにこのことだが、僕の個人的な好みとしてはまだまだこれから一緒に時を刻んでくれそうな、CPCPのプラチナ・サントレに傾いている。ただし、この2本の装着感はまさにサントレといったもので大きな差はない(完全なコレクション用であれば話は別だが)。すでに90年の時間を経た熟練の時計とまだまだ青年期といった時計のどちらのストーリーがより人を魅了するのか、オークションの結果を楽しみに待ちたいと思う。

 11月25、26日に開催される、フィリップス 香港ウォッチオークション ⅩⅢにて、1930年代のカルティエ タンク サントレはロット829CPCPのタンク サントレはロット1082で登場する。

Photos, Masaharu Wada